あと感想や意見などもどんどん欲しいです。
その日、京都競馬場で一人の馬娘とテキが走っていた。
「よーし、戻ってこい!」
窪田が声をかけると、カイソウは練習をしていた芝の馬場を走るとそこで彼はカイソウの脚を見て違和感を感じた。
「……おい、カイソウ」
「はい?何でしょうテキさん?」
「ちょっと足見せてみろ」
「は?」
いきなり言われた事実に困惑していると、思わず怪訝な目をしてしまう。確かに、
「ちげぇよ馬鹿。俺にそういう趣味はねぇよ」
「だとしてもいきなり脚を出せというのはどうかと……」
「ちょっと確認したいことがあんだよ」
そう言うと彼は渋々脚を出したカイソウの腿の上に濡れた手拭いをカイソウの脚に乗せるとトモを軽く触る。
「ふむ…八.三と八.五と言ったところか……」
基本的に馬娘の体温は人よりもやや高く、大体七度五分から八度ほどと言われている。だから言われている意味があまり理解できなかったが、窪田は脚の確認をした後にカイソウに言った。
「カイソウ、今日から暫く走り終わったら按摩してやる」
「はぁっ!?」
人の足を触った後に按摩をさせろと言う目の前の人物に色々と考えてしまった。するとそれを察したのか慌てて窪田は釈明をする。
「馬鹿馬鹿!お前さんは本格化の兆候があるんだよ!」
「え……?」
握った拳はそのままに窪田に聞き返すと、彼も少し驚いた様子でカイソウを見返した。
「カイソウ、これまでに本格化の予兆はなかったか?」
本格化とは馬娘に現れるいわば成長期である。主な変化は成長期とほぼ変わらないが、人と違うのは本格化を終えると馬娘は特に走ることに特化した筋肉を持つ事となり、より走ることに対する欲望が高まるのだ。
そしてある一定期間を超えると走りたい要望というのは消え、肉体の老化が始まるのだ。それが競走馬としての終わりの合図だった。
「いえ…よく分からないです」
彼女は窪田の問いにそう答えると彼はやや渋い表情を浮かべて彼女に言った。
「カイソウ、お前の本格化はおそらく
「え?そうなんですか?」
今は六月初旬。梅雨に本格的に入る前であり、重馬場に京都競馬場もがなる前だからか、他の馬娘も走っていた。だからこそ、今年は多めに練習がしたいと窪田は考えていたが……。
「ああ、走り方を見て少し違和感があったからな。今日はもう上がろう」
「え?しかし……」
「無茶して脚を壊すわけにはいかん。故障して医者にかかると面倒だからな」
基本的に故障して医者にかかると、学園の生徒とはいえ金が掛かる。競争中ならまだしも、練習で挫いたともなれば自分で直せの一言で湿布を渡されてつっかえされてしまう。特に、医療物資がどんどん戦場に流れている今では尚更だ。まともに治療させてもらえるだけでもありがたく思うしかない。
「しかし、この時期に本格化が始まるとはな……」
芝を後にしながら窪田は少々長い表情をカイソウに見えないように浮かべていた。
緊急で練習を辞めさせられ、少々不完全燃焼気味に寮に戻ったカイソウはそこで同室のヤマイワイと鉢合わせた。
「あっ、ヤマちゃん」
「おっ、カイちゃんお帰りなさい。結構早かったね」
そう答える彼女は陽気にカイソウに答える。しかしそれは正面だけのものである事は彼女は分かっていた。その理由は明白だった。
「お疲れさま」
「……うん、ありがとう」
彼女にまはだ、テキが居ない。この前の選抜競走での結果は八人中六番目。決して良い結果とは言えなかった。
「……ウチのテキ。紹介しようか?」
「ううん、大丈夫。ごめんねカイちゃん」
直後にカイソウは対応を間違えたと後悔した。下手に情けをかけてしまったと思っていると、ヤマイワイはそんなカイソウに言った。
「でも、こんな私でも気にかけてくれる人がいるんだよ?」
「そうなんだ」
「このまま行ったら、もしかしたら……ね?」
何処か一途の望みを託すような声色で溢す彼女にカイソウは本当に可能性があるんだなと実感していた。
「もし良かったら、一緒に併走またやろうよ」
「うん、その時は一緒にね」
そんな口約束を交わしながらカイソウは体操服を脱ぐと、そのままセーラー服に着替える。
戦時下の今、基本的に女学生はモンペ服を着ていることが大半だが。自分の居る競馬学校に関しては未だにセーラー服を着用している。
理由としては初の三冠馬であるセントライト生徒会長がわがままを言ったからとか言われていた。流石の軍人さんも初の三冠馬相手に強気に出るのは難しいのかもしれない。特に馬券で戦費を掻っ攫った訳だし……。
元々生徒会長は良いところのお嬢様……と言うより、宮家の血を引いた歴とした華族様だ。普通なら顔を合わせる事すらないほどのやんごとなきご身分なのだ。あっ、もしかするとそっちが理由?
「と言うより、今日の練習はどうしたの?」
「ちょっと熱が溜まったから早めに上がれって言われたのよ」
「ほぇ〜、大変だねぇ」
一応同期ということもあり、好敵手という事であまり情報を流さないようにしているカイソウは誤魔化しを入れながら答えるとヤマイワイに聞いた。
「ヤマちゃんはテキがついた後の進路って考えているの?」
あくまでも彼女に調教師がついたらの話だが、それでも何となくだが彼女にはテキが付くと思っていた。人のどうこうを言う訳ではないが、それでも彼女の足には光るものがあると思っていた。
「え?あー、特に考えてなかったなぁ……」
そう言いながらヤマイワイは腕を組んで考える仕草をしていると、二人の部屋の扉がノックされた。
「「?」」
滅多にノックされることのない扉にカイソウ達は首を傾げると彼女が答えた。
「はーい?」
そして扉を開けるとそこには初老のモンペを着ている寮母さんが立っており、着替えたばかりのカイソウを見て言った。
「カイソウちゃん、生徒会の人が呼んでいるとさ」
「え……?」
言われた事実を処理するのに少し時間がかかってしまったカイソウは困惑していると寮母さんはさらに言った。
「言ってきな。どうも大事な話らしいさ」
「わ、わかりました!!」
大事な話と言われ、生徒会室への呼び出しから咄嗟にカイソウは色々と考えてしまった。
「(私、何か悪いことしたのかな?)」
生徒会室に呼ばれる時は大体
「きっと大丈夫だよカイちゃん」
「そうかなぁ……そうだと良いけど」
ヤマイワイに軽く背中を押された彼女は良い事である事を願いながら部屋を後にした。
そして久保田寮を後にし、校舎へと向かう。比較的後に開校した京都競馬学校では体育館や校舎、久保田寮と寂しい設備しか整っておらず。今度閉鎖される阪神競馬場の生徒の受け入れ作業も着々と進めていた。
そしてまだ比較的新しい校舎の最奥にある生徒会室に到着するとそこでカイソウは一度息を整えた後に扉をノックしながら声を上げた。
「カイソウです!生徒会に呼ばれました!」
『おう、入ってくれ』
部屋の中から返事が来るとカイソウは扉を開けた。
そこでは一人の女生徒が座っており、書類片手に作業をしていた。
「ヤァ、この前山で会った以来だな」
「お、覚えてくださって幸いです」
その馬娘に言われ、カイソウは咄嗟に頭を下げてしまう。何せ目の前にいるのは……
「セントライト生徒会長」
史上初の日本のクラシック三冠馬であるセントライト、その人なのだから。そんな人を目の前にして緊張しないはずがなく、
カイソウの緊張した様子にセントライトはやれやれと言った様子で書類を机の上に置いた。
「まぁ、かけてくれ」
「は、はい!!」
そしてセントライトの誘導でカイソウはセントライトがソファに座った後に反対のソファに座るとそこで彼女は早速カイソウに話しかける。
「カイソウくん。早速で悪いんだが、生徒会に入ってくれないか?」
「……え?」
突然の告白に再び処理に時間を要してしまうカイソウ。今、目の前の御仁は何と言った?
するとセントライトは今の厳しい状況を説明する。
「ぶっちゃけていってしまうと、今の京都競馬学校の生徒会は新設されたばかりで明らかな人手不足だ」
「はい……」
「そこで、優秀そうな君を生徒会に勧誘したい」
「なるほど……」
何で?どうして?私編入したばかりの新入生やぞ?
そんな困惑ばかりが頭に浮かんでいると、セントライトはさらに続けて話した。
「あと、君に着いたテキの所属がここだからと言うのもある」
「はぁ……」
新米の窪田調教師は今年先輩の調教師から独立したばかりの新米で、所属は京都だ。それまでは東京の方にいたとか何とか……。
「まだ編入したばかりの君だとわからない事が多いかもしれないがね。基本的に私達にテキが付いた時はそのテキが所属している學園に行かなければならないんだ」
「な、なるほど……」
つまり私は京都に所属している調教師だから、移動する心配もないから勧誘されたと言うわけか。なるほど納得できた。
「そしてここの京都競馬学校は今非常に忙しいんだ。阪神の件でな」
「はい、噂は聞いております」
家を出てから一切連絡がない姉とも会える良い機会だと思っている阪神競馬場の移転工事。その作業には生徒会も駆り出されていると言うのも聞いていた。
「とにかく人手が欲しいんだ。引き受けてくれると私としても非常に助かる」
「……」
その目は切実なものであり、何としても私を生徒会に引き入れたいと言う強い願望が瞳に映っていた。
三冠馬娘に懇願され、おまけに逃げられないと感じたカイソウはその場でサッと少し緊張気味に答えた。
「……分かりました」
「おぉ!」
「そのお話、受けたいと思います」
その返事をもらった瞬間、セントライトの目が輝かしいものとなった。
「ありがとう、助かった」
するとその瞬間、何処からともなく声がした。
「とりあえず良かったです」
「ひゃあっ?!」
思わず耳や尻尾がピンとなって驚いてしまうと、後ろには自分と同じ栗毛の馬娘が立っていた。
「初めましてカイソウさん。ここの副生徒会長をしているクリフジと言います」
「は、初めまして……」
その圧に負ける形でカイソウは大人しく返答をすると、少々お堅い雰囲気を醸し出している彼女にセントライトが言った。
「君、もう少し優しくなれないのかい?」
「優しくなるとあなたが甘えだしますので」
「酷いなぁ。私だって真面目に仕事はしているのだぞ?」
セントライトとクリフジはそう言い合っていると、クリフジはカイソウを見て早速その両手を取ると、掌にどさっと大量の紙書類を置いた。
「へ?」
「これの処理、初めの方は手伝いますのでよろしく頼みます」
「……」
自分はとんでもないものを引き受けてしまったと後悔するのに時間は掛からなかった。
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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)
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