タフ外伝 Devils×Devil『宮沢鬼龍、スーサイド・スクワッドに入る』 作:スローダンサー
ペイバックタワー 最上階
首を絞められ上へ上へと登っていくオノマトピア。首にかかった紐を外そうともがくが、指がかからず全く外れない
ギリギリと首を引っ掻くオノマトピアはいつのまにか自分の身体が動かなくなっていることに気づいた。酸素が脳に行き渡らないのを感じる。自分の皮膚の如く世界が暗くなっていく。オノマトピアは苦しみながら、自分の首にある糸を辿るとそこには赤髪の女がいた
武器を出そうとする。しかしオノマトピアは声が出せなかった。音の出ない悲鳴を身体であげる。ジタバタともがくが、次第に動きはなくなり、オノマトピアは物言わぬ人形となる
5分後、オノマトピアの死体を寄せる女がいた。赤髪のショートボブ。胸元の空いた黒のエージェントスーツを着ている。足元には狙撃ライフルが置いてあった。『レッド・ドラゴン』。それが彼女のコードネームである
⦅ふん、たわいもない⦆
もの言わぬオノマトピアを3度レッド・ドラゴンは蹴った。恨みである。彼女は国に混乱をもたらしたカスに何度だって攻撃を加えたいのだ
⦅念の為に…………⦆
レッド・ドラゴンはオノマトピアの死体に胸元から取り出した拳銃を突きつける。その銃口は3度光り、オノマトピアの死体へ三つ穴を開けた
起き上がる気配はない。レッド・ドラゴンはオノマトピアの首へ手を当てる。動きはない。間違いなく死んでいる
レッド・ドラゴンはオノマトピアの死体に背を向け、後ろに下がっていった。
レッド・ドラゴンの首筋に冷たい雨が垂れる。
後ろを見る。
変化はない。
何か嫌な予感がする。
その予感を抱いたまま、紫色の雨を受ける。
足が重くなる。
身体が動かない。
周りに死体がいる。
身体に飛びついている。
腐臭が鼻を突き抜ける。
今まで倒してきた(殺してきた)奴らだ。
しがみつく死体の爪が身体に食い込む。
目をつぶそうとしてくる
⦅これは?! ⦆
レッド・ドラゴンはこの幻覚に心当たりがあった。さっき死んだ同胞の力だ。しがみつく死体によって固定された身体を無理やり曲げ、後ろを見る。そこには死んだはずのパープル・レインがいた。全身は黒でその目は白く意思はない。彼女を操っているのは一体誰か?
オノマトピアである。その右手、中指には黒く光るリングがはめられている。そしてオノマトピアの胸には逆三角形のマークが光っていた。まるでグリーン・ランタンの力のように
⦅貴様、まさか?! ⦆
「Shhh」
オノマトピアは自分の口に人差し指を立てた。オノマトピアの指輪が光ると1人の男が現れる。メガネをかけた中年だ。その手にはドラムマシンガンの模型を持った人形が鎮座している
⦅お前は?! ⦆
現れた男、ベントリロクエストは何も喋ることなくドラムマシンガンのトリガーを引いた
ヴィィィィィィィィィィィィィ
黒々とした弾丸はレッド・ドラゴンの全身を容易に貫いていく。血を穴から流し、レッド・ドラゴンは倒れた。レッド・ドラゴンに対して歩いていくオノマトピア。その左手には黒いリボルバーが握られている
⦅た、たすけ⦆
パンッ
パンッ
パンッ
レッド・ドラゴンは永久に口を閉じた。手にあるリボルバーを取り落とす。オノマトピアの左手は親指と人差し指を除いた部位が黒い砂となって消えた
オノマトピアは特に気にすることもなく、少しずつ歩き始めた
◇◇◇◇◇
レブーマ バルベルデ最大の繁華街
流星が昼なのに見える。高度10mの流星は建物を何棟も破壊して、やがて消えた。流星の着地点、瓦礫の山とかした建物にぐったりしている女がいる
『HELP』と書かれたマスクはもはや破れ、妖艶な美貌の下にある醜悪な口が出ている。ミャウミャウだ。彼女は空を飛ぶ女に吹き飛ばされたのだ。その血に宿る怪物性がミャウミャウの命を生かしたが、ダメージは大きい
よろよろと立ち上がるミャウミャウを空から見下す女がいる。赤、黒、白のヒーロースーツに身を包み、目元を隠すマスクをつけた者だ
⦅まだ生きているとはな怪物め! ⦆
『メジャー・マックス』。スーパーマンのように空を飛び、手から怪エネルギーを発射できる強力な女だ。彼女の右腕が光る
ミャウミャウは動かない身体に鞭を打って、瓦礫の山から這い出す。その直後、彼女がいた地点は消し炭と化した
⦅逃げるな! 死ねぃ! ⦆
ヴィーン
ヴィーン
ヴィーン
⦅うわあああああ⦆
エネルギー光弾を連続で撃ちまくるメジャー・マックス。その度に地面は捲り上がり、人々は吹き飛び、被害が拡大していく
だがミャウミャウは奇跡的にだが、避け続けていた。彼女の怪物的勘による偶発的なものだが、ともかく彼女はまだ死んでいない
⦅ちょこまかと! ⦆
ヴィーン
ヴィーン
ヴィーン
「んぎぃ?!」
だが、もう逃げられない。メジャー・マックスの光弾がついにヒットし、ミャウミャウは地面を這いつくばった。ゆっくりと空から落下してくるメジャー・マックスを見ていることしかできない
⦅よく生きたな化け物…………だがこれで終わりよ! ⦆
両手を上げるメジャー・マックス。彼女の上には先ほどの比ではないほどの大きい光弾が浮いている。ミャウミャウにトドメを刺すつもりだ
(逃げないと〜…………)
立ち上がるミャウミャウだったが、その時何かの視線を感じ、後ろを向く。そこには小さな女の子がいた。ガタガタ震えており、地面を濡らしている。腰が抜けて動けないようだ
⦅しねぇーっ! ⦆
ヴィーン
迫る光弾。ミャウミャウはそれを避けることをせず両手を広げて受け止める。その時、大きなフラッシュが発生して周囲の人間たちの目をつぶした
⦅くっ…………一体どうなった? ⦆
メジャー・マックスの目が見え始める。そこには完全にボロボロのミャウミャウがいた。だが死んでいない。完全に光弾を受け切ったのだ
「大丈夫〜?」
ミャウミャウは後ろの女の子に近づき、身体を起こさせた。彼女の顔を見て女の子は恐怖の表情を見せるものの、素直にうなづいた
「ほら行きな〜」
ミャウミャウのジェスチャーを見て女の子は一瞬だけ、後ろを向いてミャウミャウにお辞儀をすると、足早にその場を去った
⦅この化け物め! まだ生きてるのか⦆
「何言ってるかはわからないけど、あなたヒーローじゃないね〜」
ミャウミャウは口から大量の触手を放つと、メジャー・マックスの四肢を拘束した。メジャー・マックスは怪力でもがくが、一切動かない
その触手はミャウミャウの口へと戻っていく。メジャー・マックスは恐怖の声を上げようとしたが、口に触手を詰められ、出すことはできなかった
⦅うわあああああ⦆
数分後、腹が丸く膨らむミャウミャウが足を引き攣りながら歩いていた
「うっぷっ」
ゲップと共に赤い布を吐き出す。その布の粘液をミャウミャウは軽く拭き取り、自分の口を隠すためのマスクとした
「うふふ〜」
ミャウミャウは自分の手で女の子を助けたのが嬉しかった。怪物のような自分でもヒーローのようなことができる。ジェイソンの事を思い出しながら大きく笑った
◇◇◇◇◇
ペイバックタワー 客室エリア 廊下
⦅しゃあっ⦆
「はうっ」
ジェイソンは、ハエのような敵に殴られていた。青いスーツを着た羽根の生えた男である。『ブルージェイ』。空を飛べ、自身を小さくできる厄介な能力を持った者だ
⦅はははーっ! 私の動きに翻弄されて可哀想だなぁっ! ⦆
「こいつ何言ってるんだよっ」
先ほどからジェイソンを煽っているブルージェイだが、その声はジェイソンに届くことはない。単純に声が小さいのだ
青い軌道を描いて、蝿のように飛び回り、チクチクとジェイソンを殴っていくブルージェイ。1発1発は大した威力ではない。しかしながら絶え間なく食らい続けジェイソンは意識が朦朧としてきた
(くうっ、まずい。銃で撃とうとしても的が小さい。しかもすばしっこく動き回ってやがるから狙いがつかねぇっ)
ジェイソンの思考はブルージェイの全身を向かったアッパーカットによって中断される。気絶こそしないがそのまま倒れ伏した
くるくると回る星が見えるジェイソン。世界がぐにゃりと歪み、はっきりとしない。青い豆粒が迫る。一直線に向かってくるブルージェイを見て、ジェイソンは逆転の一手を思いついた
だがまずは身体を動かさねばならない。ジェイソンは腰のホルダーからバットマン印の煙幕爆弾を取り出して起動した。あっという間に廊下を煙で包み込む
⦅げほーっげほーっ、あのガキっ⦆
ブルージェイは身体を元の大きさに戻し、煙を振り払う。白い煙はあっという間に霧散していき、周りが見えるようになる。ブルージェイはジェイソンが客室の扉を閉める姿を目撃した
⦅待てや、クソカスーッ⦆
扉に飛びつくブルージェイだが、開かない。鍵がかかっていた。だが、ブルージェイは知っている。この扉は覗き穴がついている。そこのガラスを割れば容易に侵入可能だ
⦅あまちゃんめっ⦆
ブルージェイはその身長を蝿の如く身体を縮め、覗き穴のガラスを破壊する。中の部屋へ侵入に成功した。明かりはなく、カーテンも閉まっていたため辺りは暗い
⦅どこにいきやがったんだ⦆
その時ブルージェイは身体を空中に固定された。動かない訳はすぐにわかった。ブルージェイの小さな身体をジェイソンが手で掴んでいたのだ
ジェイソンの策。それは現れる場所を固定すること。窓が動き回るのであれば、手に取れる方向に誘導すれば良いのだ
⦅くぅ…………っ!? はなせっ⦆
ブルージェイは能力を解こうともがく。だがジェイソンは痛めつけることを愉しむような余裕のある性格ではない。ブルージェイを掴んだ手に気を込める。塊貫拳の応用を用いてブルージェイに気を打ち込みつづけ、拳を握り締めた
グシャァ
勢いの良い水の音が響く。ジェイソンはその手を広げてブルージェイの末路を確認すると、客室のベッドにそっとおいた
(急がねばっ!)
ジェイソンは痛みが響く身体を尻目に部屋を飛び出す。他のメンバーと合流するために
◇◇◇◇◇
ペイバックタワー 一階
アメリカン・クルセイダーは唾を飲み込む。相対する敵の迫力に呑まれかけていた。破れかぶれにアメリカンクルセイダーは肩を前に出し、突撃する
⦅ファイナルジャスティスーッ! ⦆
パーンッ
⦅かーっ、羽虫に刺された程度だな! ⦆
⦅なにっ⦆
鬼龍はアメリカン・クルセイダーのタックルをガッチリ掴んでいた。アメリカン・クルセイダーは引こうにも動けない。焦るアメリカン・クルセイダーを横に鬼龍は拳を振り上げた
ブアッ
ゴッ
アメリカン・クルセイダーの顎は砕け、歯と骨が混じった血反吐が飛び散る。鬼龍の強烈な一撃はアメリカン・クルセイダーを1発でノックアウトしたのだ
⦅ふん、コスプレして強くなったら世話ないな⦆
失禁して伸びているアメリカン・クルセイダーを見下す鬼龍。もはや彼に興味をなくし、その場を去る
「鬼龍のおっさん!」
移動した先のエレベーター前。着くのを待つ鬼龍の後ろ姿を見たジェイソンが声をかけた
「中々苦戦したようだな」
「おっさんは全く傷がないね」
「ただのコスプレイヤーに傷つけられる道理はない」
「そうすか…………」
エレベーターが来るまで時間がかかっている。止まった空気に我慢できずジェイソンは鬼龍に質問を投げかけた
「ジェットって誰だ?」
鬼龍は訝しげにジェイソンを見る。目を彼から離すと平坦に口を開いた
「俺の息子だ」
「今何歳?」
「死んだ」
「…………わりぃ」
「何を謝る?」
鬼龍の抑揚のない質問にジェイソンは声を詰まらせる。下手に謝らなきゃよかったと後悔した。だが覆水盆に返らず、ジェイソンは説明をしなければならない
「いやまさか死んだとは思ってなかったから」
「気遣いは無用。あいつは俺のために死んでいった。…………親のために死ぬことを喜びとさえ感じていたはずだ」
笑みが張り付いている鬼龍にジェイソンは何も言えなかった。地獄のような空気が漂う中、今度は鬼龍がジェイソンに話を切り出す
「“ジェイソン”、お前は死から蘇ったそうだが、一足早く審判の日を迎えた気分はどうだ?」
ジェイソンは鬼龍の質問に、真摯に答えた
「『最悪』だな」
「最悪とはな」
「覚えているのは死の微睡くらいか。まあ死んでいるのも悪くはなかったんだよつまり。…………俺は死んでいるから意味がある男だったんだよなぁ。『死んだロビン』、それが俺の唯一のアイデンティティ」
赤い仮面に隠れたジェイソンの顔を伺うことはできない
「…………」
「…………」
会話が尽きた2人は静かに開いたエレベーターに乗り込んだ
◇◇◇◇◇
ペイバックタワー ラボ
大量のテレビ画面が壁に埋め込まれた部屋だ。バルベルデの街を鮮明に映し出している
鬼龍とジェイソンはその部屋の中心に2人いるのを見る。1人はサンダーボルト。もう1人は今回のミッションのターゲット、『ミスター・ブルーム』だ。サンダーボルトは首筋からちをながしている。ミスター・ブルームは口から血を流し倒れており、誰が見ても死んでいた
「遅かったね鬼龍君、ジェイソン君」
「お前の仕事が早いんだサンダーボルト。で? 花畑の場所は聞けたか?」
「うむ、この塔の中にあるそうだよ」
超人生成薬『コンパウンドV』の材料になる花の位置を聞き出していたサンダーボルト。その手際の良さに少しばかり感心するジェイソン。それをよそに鬼龍はサンダーボルトに尋ねる
「サンダーボルト。大統領の娘はどうだった?」
「鬼龍君、君の愛人も身体は無事だったよ」
「そうか」
ボボパン
「一体なんの真似だい、鬼龍君?」
「皮被りは無駄だ、タヌキめ」
ジェイソンは展開についていけなかった。とりあえずサンダーボルトに組みついている鬼龍を引き剥がそうとする。だが、鬼龍の組みを簡単に抜け出したサンダーボルトはラボのメスを2本掴むとジェイソンに投げつけた
ヒューッ、カカッ
「ぐわぁっ」
太ももにメスを撃ち込まれ、悶絶するジェイソンにサンダーボルトはさらに手に持った椅子で頭を殴りつける。13mほど吹っ飛び、壁に激突する
「なぜ…………」
「『なぜ』? まあ…………急すぎるから君にはわからないよねジェイソン君」
サンダーボルトはやれやれと言わんばかりに首を振った。そしてサンダーボルトはポケットから何かを取り出す。そしてそれを地面に落として踏み砕いた
「ふん、やはり爆弾を取り出してたな。下手うったなアマンダ」
「私だからこそできたんだよ? あまりアマンダ君を責めてやるな」
埋め込まれた自分たちを監視する爆弾を取り出した。ジェイソンはサンダーボルトが自分たちを裏切ったことにようやく気づく
「貴様のことだ。妄想妄言の果て、子供が考えたような幼稚な救済をしたいのだろ?」
「ニューヨークにはお悔やみ申し上げるが、あれは必要なことさ。冷たい戦争が熱くなる前に、これ以上核の脅威、それによる大戦争を防ぐのに必要なためさ」
サンダーボルトの言っていることは支離滅裂である。冷戦は当に過ぎ去り、何十年。彼がテロを起こしたのはメトロポリス。ジェイソンはサンダーボルトが今を生きている人間には思えなかった
「ともかく『コンパウンドV』は私が利用させてもらう。あと彼もね」
サンダーボルトがラボに埋め込まれていたテレビの画面を切り替える。そこには青いトカゲ人間のような化け物が写っていた。具体的な大きさはわからない。しかし、見る限り50mは超えていそうである
「ゴジラか何かかよ…………」
「んー、ジェイソン君、惜しいねぇ。彼の名は『ベヒーモス』さ」
『ベヒーモス』。特殊な放射線を浴びた影響で巨大な赤ん坊になる、と設定されたスコードロン・ペイバックのメンバー。だが、その設定からあまりにも乖離した姿である
「どこが赤ん坊なのかわからないって思うだろ君たち? これはねぇ…………大統領の娘の胎児を使っていてね。鬼龍君、君の息子なのさ」
地獄の釜が開いた音がした。発信源は鬼龍である。無表情の顔からは殺意が漏れていた
「ふーん? 育児放棄している君がここまで怒るとはね」
「俺の遺伝子がいいように利用されている。その無様さに腹が立つだけだ」
「まあそういうことにしておこう」
パンッ
ジェイソンはサンダーボルトに拳銃を撃った。ベラベラ喋るサンダーボルトは隙として見えたからだ。サンダーボルトは弾丸を手で受け止めた
「なっ」
「私もできるとは思わなかった」
弾丸を捨てたサンダーボルトはラボのデスクにあるボタンの淵を触っていた。そこには『eject(脱出)』の文字が書いてある。ジェイソンはそのボタンがベヒーモスを発進させるボタンだと思った
「ベヒーモス。彼はすごいよ。ウランなどの元素も食べる、放射線をエネルギーにするんだ! まさしくゴジラだねぇ。彼を放てば、世界中の核を破壊するのも可能だよ」
サンダーボルトは『eject』のボタンを押そうと拳を振り上げる。その手は鬼龍によって止められた
「やはり、君は許さないか!」
「許すも何も俺は貴様に共感したことはない」
サンダーボルトは前蹴り。鬼龍はそれを腕でガードする。サンダーボルトはその腕に乗り、飛び上がる。空中にいるサンダーボルトは稲妻の如き5段蹴りを放った
パパパパパ
だがこの蹴りを鬼龍はギリギリ見切ってサンダーボルトの懐に飛び込む。降りて地面についたサンダーボルト。そのガラ空きの胸に両手を突き出した
「灘神影流・塊蒐拳!!」
別名鬼の五年殺し。胸部への打撃により『鬼』の気を注入、相手の気の流れを滞らせ時間差で五年後に死に至らしめる恐るべき暗殺拳である
「しゃあっ 弾丸滑り」
だがサンダーボルトは己がうちに入ってくる気を外へ逸らした。『鬼』の気はサンダーボルトの身体を滑り、ラボのモニターを一部破壊する
「ちぃ、貴様いつのまに灘神影流を会得した?!」
「君のことはつぶさに観察できたからね!!」
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
ボボパン
鬼龍とサンダーボルトは激しく走りながら攻撃を撃ち合う。もはや身体の輪郭は消え失せ、二つの突風がぶつかっているようにしか見えない
だが、始まりがあれば終わりも必ずある。二つの突風は唐突に止み、鬼龍とサンダーボルトの身体を表した。両者血を流し、あざができている。ジェイソンは次の一撃が最後になるだろうと思った
2人の気が混ざる。サンダーボルトは全てを破壊する黒のオーラ、鬼龍は殺意を示す白のオーラ。白と黒が混ざり、灰色のオーラがラボを満たし切ったとき、先に動いたのはサンダーボルトだ
サンダーボルトは稲妻の様に走る。床にヒビが入るほどに踏み込み、右の拳を鬼龍の顔へ放った。人間の潜在能力、100%を引き出した人類最上のストレートパンチである
サンダーボルトの目は鬼龍の顔が徐々に凹んでいくのをみる。完全に決まれば首が吹き飛ぶほどの一撃だ。…………だがこのストレートパンチが決まることはなかった
鬼龍はストレートパンチの威力に逆らわない。むしろ身体を滑らしている。灘神影流・弾丸滑りだ! 顔に伝わる威力を回転へと変え、鬼龍はコマの様にくるくる回転していく。720度、回転した時、鬼龍はサンダーボルトの右肩へ己の脚をぶつけた。柳の様にしなやかに駆動する事で岩をも砕く鋼へと変わる脚、ドラゴン・フットから繰り出されるのは…………!
「龍腿蹴(ドラゴン・シュート)!!」
ビキッ
《font:13》「ぎゃああああああああ」
「囀るな蛆虫がっ!」
パァン
右肩の骨が完全に折れ、叫ぶサンダーボルトに鬼龍はその顔を踏みつけ、生殺与奪の権利を握った
「おおっ、鬼龍のおっさんの勝ちだ! これであのベヒーモスも出てこない!」
ビービービービー
「なっ、なんだぁ」
「…………クククク」
「蛆虫、貴様まさか」
「そうさ、鬼龍君! これはベヒーモスの発信音だよ!」
「なっ、いつのまにボタンを押してたんだサンダーボルト?!」
「違うんだなぁ…………君たちが発進ボタンだと思ってた者はただの脱出口を開くものだよ。…………私はコミックスの悪役じゃあないんだ。ベヒーモスの起動は6分前に済ませていたのさ。あとはベヒーモスが動き出すまで私は待っていればいいだけだからねぇ!」
「もう黙れ蛆虫」
サンダーボルトの笑いを鬼龍は強制的に止める
「殺したのか鬼龍のおっさん?」
「いや、この男のことだ。他に策を立てていたかもしれん。こいつはアマンダに引き渡して尋問だな」
『よく我々のことがわかっているな鬼龍』
アマンダの通信によるインターラプトがようやく入った
『彼はこちらで回収します。あなた方の任務はあのベヒーモスを殺すことです』
「…………待てよアマンダ。あんた鬼龍のおっさんにベヒーモス殺しをやらせるのか?!」
ベヒーモスを殺すこと。それは自分の息子を自分の手で殺すことに他ならない。それは悪人といえども見逃せない大罪である
『レッドフード。貴方随分と感傷的なのね』
レッドフードと鬼龍の頭に機械による耳鳴り音が響く。爆弾の音だ! アマンダは口外に逆らうなら起動すると言っている
「俺は悪だ。ジェイソン。俺は羅睺星の元、悪として定義されている」
「おっさん?」
「子殺し? 俺の悪にもまた箔がつくものだ!」
笑い、身体を震わせる鬼龍。その姿にジェイソンは何も言えなかった
「いくぞ、ジェイソン。他の連中にもこのミッションは伝わってるはずだからな」
「…………ああっ」
鬼龍とジェイソンはペイバックタワーを飛び出した
◇◇◇◇◇
レブーマ バルベルデ最大の繁華街
鬼龍とジェイソンがタワーから出るとそこには地獄が広がっていた
ベヒーモスは直立する青いトカゲの怪物だ。高いビルを蹴飛ばし、車群を尻尾で宙にあげ、ただの叫びで街に炎をもたらす。モビーディック、キングコング、ゴジラのような空想に出てくる怪物がそこにいる
「あれをヒーローとして売り出そうとしたこの国は愚かだな」
鬼龍の言い草にジェイソンはすこし頷いた
「しかし鬼龍のおっさん。あれどうすれば?」
「俺の遺伝子は優秀だからな。かなり強いし、欠点もない様に見える」
「…………その言い方だと心当たりがあるな?」
「もちろんだ」
鬼龍は自らの心臓を刺した
「俺の心臓にはバースト・ハートっていう持病がある。心臓が脆く突然止まりかねないものだ。そしてこの病気は非常に遺伝しやすいんだ」
「だいぶ傍迷惑な病だな。忌憚のない意見だよなこれ?」
「フン、まあジェイソン。つまり、奴の心臓も弱い可能性がある。心臓に強い衝撃を伝える事で殺すことは可能だろう。ああいう奴にはわざと弱点を残すものだと相場は決まっているからなぁ」
「…………なるほどね。じゃあ俺たちはあいつの心臓に強く衝撃を加えればええんだな」
「ああ、そうだ。いくぞジェイソン!」
鬼龍とジェイソンは走り出す。暴れ回る、ベヒーモスの元へ!
◇◇◇◇◇
「つまりわたしたちは奴の動きを止めればいいんだね〜」
鬼龍との連絡を聞き、作戦を理解するミャウミャウ。暴れ回るベヒーモスを止めることはできるのか? そんな疑問を彼女は今更抱かない。己の怪物の血を覚醒させる
ベリベリベリ バッ
2メートル以上大きくなるミャウミャウ。その背中には多量の触手が飛び出し、爪と牙が鋭く生える。そして彼女の瞳に十字の目が現れた
「ここは地の国 この世は地獄
汚濁の血の池で生まれ 呪詛と怨嗟も気持ちよく 骸の上で育った この妾の字は 八尺若王(はっしゃくにゃおう)
怪物の姫 降臨!!」
ベヒーモスに飛び掛かるミャウミャウ。怪物と怪物のぶつかり合うのだ!
◇◇◇◇◇
同時刻
鬼龍とジェイソンの作戦を聞いたオノマトピア。彼はベヒーモスに持たされた死の味を舌で感じていた
不味い。戦う覚悟も何もできてないただの一般人の死ほど不味い物はない。不味いものを食わせたベヒーモスには落とし前をつけなければならない。それが自分が消滅することになったとしてもだ
オノマトピアはパワー・リングを掲げた。パワー・リング。それはグリーン・ランタンの力の元と同質のものである。あらゆる物質を創造する万能の指輪だ。色によってその性質は異なるが、オノマトピアのパワー・リングは黒。死を司る悍ましい指輪である
黒いパワー・リングは光り輝き、地面をアスファルトより黒く染める。そして、地面から現れたのは死人である
ウルトラマン
チーター
ドクター・ポラリス
ピラニアマン
キラー・フロスト
キング・スネーク
ブラック・スパイダー
キャバリエ
マキシーゼウス
TNTEEN
スケール
アングルマン
ブルターレ
キャッツアイ
デュラン
ヘルブス
フィッシャーマン
ミュート
ベントリロクエスト
今回のミッションで死んだスーサイド・スクワッド達
ワンダジン
パープル・レイン
レッドドラゴン
パープルレイン
ブルージェイ
メジャーマックス
その他、殺されたスコードロン・ペイバック達
そして、ベヒーモスの破壊により巻き込まれた被害者達
死の軍団は束になって、ベヒーモスに襲いかかる。オノマトピアはその光景を見て何も言わない
ただ天高く中指を立て、ベヒーモスへの反逆を示した
◇◇◇◇◇
「すごいな…………映画のクライマックスだな」
ジェイソンはポツリと呟いた。ベヒーモスは黒の軍団にめちゃめちゃに痛めつけられ、化け物の様な女が出す触手で縛られていた
「チャンスは少しだな。ジェイソンいくぞ」
鬼龍はベヒーモスにグングン近づいていく。そのあとを追うのはジェイソンだ。鬼龍の後ろ姿を見て少しばかり悲しくなる。なぜそんな感情を抱くか、ジェイソンはわからなかった
「オノマトピア! 俺たちを空へ連れてけ」
鬼龍はオノマトピアに命令した。オノマトピアは中指を立てたままサムズアップする。鬼龍とジェイソンの前に操られたウルトラマンが現れた。オノマトピアはジェスチャーで乗れと伝える
「オノマトピア…………ありがとな」
ジェイソンはウルトラマンに乗る直前、オノマトピアに感謝を示す。それへの返事は、サムズアップだった
ウルトラマンの背に乗り、飛び立つ鬼龍とジェイソンを見るオノマトピア。彼は、豆粒大になった彼らにサムズアップしながらも徐々に黒い砂と化していき、最後は砂山になった。その上に乗っかったのは光のない黒い指輪だけである
◇◇◇◇◇
鬼龍とジェイソンはウルトラマンの様子がおかしいことに気づく。ウルトラマンは背中に乗った彼らを最後の力を振り絞ってベヒーモスへ投げた
その直後ウルトラマンは姿が消える。ジェイソンはオノマトピアが死んだことを理解した
「ジェイソン。このまま心臓に飛びついて俺が殴る!」
鬼龍とジェイソンはベヒーモスに飛びついた。オノマトピアの死の軍団は徐々に消え失せ、ベヒーモスの動きは激しくなる
「みんな〜! わたしが抑えられるのもちょっと〜! しっかり決めて〜!」
触手で縛り付けているミャウミャウ。だが彼女の顔は青ざめており、限界を表していた
「ここに響きがあるな…………」
鬼龍はベヒーモスの心臓を発見した。心臓付近の皮膚に拳を添える鬼龍。息を吐き、拳を振り上げ、落ちた
「なにっ」
鬼龍を落としたのはジェイソンである。鬼龍が拳を撃とうとした位置に自分が拳を振り上げ、撃ち込んだ
「灘神影流・塊貫拳!!」
ジェイソンの気が、ベヒーモスの肌を通り、その心臓まで到達。荒々しい殺意の気が心臓を刺激して、破壊した
悲鳴を上げるまでもなく、ベヒーモスは倒れた。舌を出し、明らかに死んでいる。ベヒーモスをジェイソンは殺したのだ
「ジェイソン…………貴様…………」
鬼龍は彼を睨んだ。だがジェイソンは今にも殺されそうな気迫を押し除け彼の目線に立つ
「ダメだ、鬼龍。あんたがいくら悪の象徴を自称しようともな、これはダメだ」
ジェイソンの力強い目線を鬼龍は少しばかり見たのち、背中を向けた
「余計なお世話だ」
いつもならはためくコートは、突風の中一切動くことはなかった
◇◇◇◇◇
2日後 ベル・レーヴ刑務所
「今回のミッションで生還者は20名中4名。鬼龍、ミャウミャウ、レッドフード、ハーレイ・クイン。上々といったところかしらね」
アマンダと鬼龍は向き合っていた
「これはあなたが欲していたものよ」
アマンダは薄い紙の束を渡した。鬼龍はそれを一瞥することなく、破り捨てた
「俺には必要ないものだ」
鬼龍は外へ出ていく。アマンダは無表情のまま引き裂かれた紙を集め、ゴミ箱に捨てた。その紙には『死人の蘇り方』と表題があった
◇◇◇◇◇
墓地
鬼龍は一つの墓を見ていた。『MARCIO ‘JET’ NITO』と記されている
何も持たずただ見つめていると後ろからその墓へ花が置かれた。振り返るとそこにはジェイソンがいた
「出ていたのか」
「…………まあね。前回のミッションで俺の刑期はゼロになった」
そのまま沈黙する2人。切り出したのはジェイソンである
「なぜ俺を選んだんだ? 経験はサンダーボルトに、利便性はオノマトピアに、純粋なパワーはミャウミャウに、特異性はベントリロクエストに、俺は誰にも勝ってない」
「いや違う。まずはお前が最初にいたんだ」
「えっ」
「この世で最初に蘇った人間に俺は話がしたかったんだ」
「…………そうだったのか」
目の前の墓。自分の存在。鬼龍が何をしたかったのか。ジェイソンはようやく理解した
「あんたの息子、殺して悪かったな」
「フン…………余計なお世話だったよ全く」
鬼龍は足早に墓をさる。そしてジェイソンはジェットの墓の隣に小さな墓があるのを発見した
『Kiryu’s sun』
名前のない墓にジェイソンは哀悼を示すのだった
タフ外伝 Devils×Devil『宮沢鬼龍、スーサイド・スクワッドに入る』 完
◇◇◇◇◇
レブーマ 戦闘跡地
「この指輪が欲してだものが?」
水面から這い出した男がいた。彼の名はミラー・マスター。鏡の支配者である。黒い砂山の上に置かれた指輪を取り出しその場にいた老人に渡した
「これこそ…………私が求めていたもの。死を超越する力を持つもの!」
その老人は眼鏡をかけていた。道着を着たその男は指輪を掲げ大きく笑う
「日下部丈一郎。おめの目的はなんだ?」
ミラー・マスターの質問に丈一郎は邪悪な笑みを浮かべるだけだった
◇◇◇◇◇
アメリカ ナバホ族のテント
壮年の男がネイティブ・アメリカンに囲まれている。ナバホ族だけではない。他の部族のネイティブ・アメリカン、エスキモー、南米の先住民族もいる
「誇り高き鷹、尊鷹よ! よくぞ来てくれた!」
| 宮沢尊鷹 宮沢一族の長兄にして鬼龍と静虎の兄。高潔なる鷹と呼ばれる聖人にして最上位の格闘家 |
宮沢尊鷹の目の前に、ネイティブ・アメリカンのリーダーが目の前に立つ
「今このアメリカ大陸に危機が迫っている! これを阻止できるのは一握りの子供だ!」
ネイティブ・アメリカンのリーダーはタバコの煙にその対象を映し出した
「ビリー・バットソン。またの名をシャザム! ギリシャの神々の力を受け継いだ清き子供だ!」
ビリー・バットソンはその姿を成人のヒーローに変え、人々を救っていた
「だが、彼の力はこの危機に尽きるであろう! 尊鷹よ! 彼に我らグレート・スピリットの力を託したまえ!」
6つの魂の様な何かが尊鷹の身体に入っていく
「S シント・ホローの剛力!
H ハオカーの雷!
A アスドニャナドレヘの叡智!
Z ザラの勇気!
A アデカガグワのスタミナ!
M ミクトランテクトリの神速!
さあ叫べ、彼らの名を!」
「Shazam!!」
尊鷹の叫びはナバホ族のテントを貫く雷を呼ぶ。電熱による煙が治るとそこには20代の肉体になった尊鷹が立っていた。その胸には稲妻のマークが走っている
「今のこの瞬間 『誇り高き鷹』は『シャザム』となったのだ!」
ネイティブ・アメリカンのリーダーの宣誓はアメリカ大陸を揺るがし、三日三晩雷を降らせるのだった
タフ外伝 Proudhearted Hawk 『宮沢尊鷹 ティーン・タイタンズの師匠になる』に続く