小説 ミノタウロスの皿   作:市民エックス

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第1話

 僕が、あの星で経験した出来事を語ってほしい。そうでしたね、記者さん。 

 今ではあの星は、地球で最も有名な太陽系外惑星の一つとして、誰もが名前を知る存在になっています。あのとき僕が偶然不時着し、生涯忘れられない体験を経て地球に帰還した結果、結果的に僕が発見者ということになった。あれからずいぶん長い時間が流れたものです。まさかあの頃、あの星の存在が義務教育の教科書にまで載るようになるとは、夢にも思いませんでした。 

 それでも、未だにあの星がこの宇宙に存在し続けているという事実には、今でも信じがたい思いを抱かずにはいられません。 ご存じの通り、僕は地球に帰還した後、あの星への軍事介入を強く主張しました。あの星の「ズン類」に虐げられている哀れな「ウス」たちを救うための、解放戦争を。

 当時、私が体験したことはメディアによって大きく報じられ、世論を大きく揺るがしました。私の主張に賛同する人々も現れ、社会運動が起き、署名が集まり、議会への請願も行われ、選挙の公約に掲げる議員まで出てきました。しかし結局、私の願いが実現することはありませんでした。「多様性の尊重」

「平和主義」 そんな言葉が、私の主張に反対する人々の口から次々と飛び出しました。いずれも、地球人が自らの悲しい歴史からようやく学んだはずの教訓でした。それが、皮肉にも私の前に立ちはだかったのです。

結局、地球はあの星に対して、圧倒的な科学力を背景に穏やかな条約を結ばせることしかできませんでした。もし「あの星のウス」が地球文明圏への亡命と移住を希望するなら、ズン類の政府は無条件でそれを認めなければならない——という内容です。

 しかし、地球市民権という大きな特典があるにもかかわらず、条約が結ばれて以来、亡命を希望したウスはまだ一人もいないそうです。 ……僕は今となっては、彼らを憐れむ気持ちも、逆に蔑む気持ちも、もう湧いてきません。

 世間には大抵、二種類の言説しかありません。一つは「洗脳された哀れな存在、昔の地球の権威主義国家の国民のようなものだ」という憐憫の声。もう一つは「誇りを持たない劣等人種で、ズン類に餌を与えられる安逸さに甘んじ、精神を堕落させたのだ。我々地球人は決してあのような存在になってはならない」という冷たい蔑視。学校の教科書には、たいてい後者の言葉が書かれています。 でも僕は、もうどちらの言葉にも頷けない。

なぜなら、結局のところ、彼らに救ってもらえなければ、僕は死んでいたからです。彼らを憐れむ資格も、蔑む資格も、私にはない。それに……、ミノアの考えが、決して間違っているとは、今の私には思えないのです。あの考えは、私や多くの地球人のそれとは確かに違っています。でも、違うということは、間違いだということではない。 そんなことがわかるほどに、私は年を取ってしまいました。 こんなことを、ほかならぬ僕が言うなんて、驚かれたでしょう?

 これまで数多くの書籍や記事で、私は「正義感に溢れた好青年」「野蛮な宇宙人に説得できなかった悲劇の若者」という、単純で都合の良いイメージで語られてきました。私自身も、そのイメージを活かして「解放戦争」運動を主導してきたのですから。 しかし今にして思えば、あの頃——あの星に不時着し、ミノアを助けようと必死になっていた頃の私は、ただの世間知らずで、考えが狭く、他者の視点に立つことなど到底できなかった、ただのガキだったと思います。 

 もともと私は、夢見がちなガキでした。実家は「つずれや」という、古びた旅館です。東京の日本橋で二百年以上続いている、ぼろぼろのおんぼろ旅館の跡取りとして生まれながら、私は宇宙に憧れました。親父から勘当されるのも意に介さず、跡取りの地位を捨てて宇宙船の乗組員になったのです。

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