ファインダー越しのイジツ 〜荒野のコトブキ飛行隊〜 作:redcapshadow
「すまんかったなぁ」
謝る必要もないのにオッサン…バルベさんが自分に頭を下げる。
気難しくぶっきらぼうな印象だったが案外律儀な人なのかもしれない。
ここはアレシマの病院。話を聞くにあの空賊襲撃事件から既に2日が経っているらしい。
「メイツの野郎は左足が折れたのと顔をしたたかに打ち付けていて鼻血がスゴくてな、助けが来るまで涙と血にまみれたツラでビービー言ってたぜ」
電信員席のメイツさんも無事なようで安心したが、そう言うバルベさんの右腕には添え木がされ三角巾で吊っているし、顔も擦り傷だらけだ。
「心配したのはボウズだよ、呼び掛けても返事がないし機外に引っ張り出してもカメラを抱えたまま動かないときた」
くだんのカメラは現在ベッドの横にある棚に水差しと並んで置かれてあった。
見たところ特に破損はない、カメラが無事で良かったと胸を撫で下ろす。
「くたばって固くなっちまったのかと思ってよ、あのおしゃべり野郎も流石に黙っちまってたな、その時は」
「ご心配お掛けしてすみません」と頭を下げる
「いや、無事でよかったよ。意識が戻らないから入院になっちまったが、結局は軽い全身打撲とカメラが食い込んだ時の痣ぐらいの怪我で済んでるしな」
お前さんが一番軽傷だよとバルベさんが笑う。
「メイツさんは今どうされているんですか?」
「アイツは今、松葉杖だし鼻も包帯でグルグル巻きでよ、カッコ悪くて宿の部屋から出たくないとよ」
「アハハ…それはそれは」
調子の良いこと言ってはどやされ続けて、ソレでも懲りずに騒がしい人だと思ったけどちょっと堪えてるみたいだ。
「それはそれとして今後の事なんだが、ちょっくら面倒なことになってな」
何だろう?
死にはしなかったものの、現状でも取材班は全員負傷。乗ってた飛行機も撃墜され十分面倒な目にあってると思うのだけど。
「実はな無事な機材や荷物を九七式艦攻から運び出したんだが、それがアレシマの警備隊に差し押さえられちまってな」
「…はい?」
思わず間の抜けた声がでた。
「あちらさんの言い分だと、今回俺達ゃ取材班として登録していただろ。元々あの日にアレシマの空域で飛行ができたやつらは、護衛の用心棒と俺達のようなマスコミが大半だ。」
確かに今回の…「アレシマ会談」を取材するに当たって色々手続きを踏んだ記憶がある。メイツさんが書類書くのメンドクセエ〜とかぼやいていたな。
「誰か空賊どもを手引きした奴等がいるかも知れねぇし、写真とか取材メモとかが今回の事件の捜査に必要だと抜かしてきてな」
まぁ、分からなくもない。
実際、警備状況の取材もあったし、会談後に記者会見もあったはずで、タイムスケジュールも決まっていた。
ただ納得いかないのは…
「自分達は空賊に撃墜されてるんですけど」
と当然の主張をしてみる
「警備隊にも面子があるからな、まんまと空賊の襲撃を許したなんて思われちゃ、なりふり構っていられんのだろう。口封じって奴かも知れないし、実は知らない間に犯罪の片棒を担がされたのかもしれない」
よくあることさとバルベさんが溢す。
「だから今残ってるのはお前さんが抱えてたソレだけ……でだ話はまだ終わらない」
と一旦カメラに目を向けた視線を此方に戻すとこう切り出してきた。
「良い知らせと悪い知らせどっちから聞きたい?」
「……はい?」
先ほどと同じ言葉が漏れる、一回目より間が長くなった。
さっきまでバルベさんは面倒だとは言ったが悪いとまでは言い切らなかったはず。それなのに明確に悪いと前置きするなんて何事だ?
「良い知らせから聞いても良いですか?」
とてもじゃないが今の精神状態で、悪い話から聞く勇気がでなかったので先延ばしにする選択をとる。
「事件捜査に協力すれば今回の事件に関して補償をしてくれるらしい。医療費、滞在費、飛行機の損害諸々な」
「それは凄い、随分太っ腹な話しですね」
確かにコレは文句無しで良い知らせだ
「なんでも会談の片割れのブユウ商事の会長が提案したらしい」
支払いはウチが持つとさ。景気の良い話だこったと、バルベさんが腕を組みながら鼻を鳴らす。
十中八九イケスカのイサオ氏のことだろう。
今回の取材対象で重要人物だから勿論知っている。
「おまけに事件の時に流星に乗り込んで大立ち回りを演じたらしい」
「なんですって!?」
警護対象が矢面に立ってどうするんだ。
「ボウズも耳にしたことくらいあるだろ[リノウチの英雄]、[天空の奇術師]とまぁ、あの男だって二つ名持ちのパイロットだってことさ」
俺だってあの時……と何やら物憂げに呟いているが、良い知らせを聞いた以上もう一方も聞かねばならないので話の続きを促すことにする。
「それで…悪い知らせと言うのは?」
バルベさんが真顔になり、何やら懐から取りだそうと…利き手が使えなくて苦戦して……床に紙片を落とした。
拾い直しウオッホンと誤魔化すように咳払いをしてから、二つに折られた紙が自分に差し出された。
「これは…」渡された紙を広げてみると
《ダイシキュウ ゲンコウ オクレ バブス》
とだけ印字されている一通の電報だった。
その差出人は今回の取材の依頼主……ワナカ新聞社バブス編集長に他ならない。
その事実を理解した時、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
「バルベさん…アレから2日経ったと言いましたね?」
喉か急にひりつき唇が若干震えながらもどうにか言葉を絞り出す。
「そうだ」
当初の予定通りなら取材を終え、翌日にはある程度記事をまとめて次の朝イチでアレシマを後にしていたはずだ…つまりはちょうど今日の話だ。
「機材や資料は取り上げられたと言いましたね」
ついさっき聞かされたばかりの話だがそれでも聞いてしまった。
「そうだ」
「編集長にはこちらの事情は伝えたんですよね?」
「…そうだ」
同じ言葉を繰り返すバルベさんが締めくくるかのように、その返事がコレだよと溜め息をつきながら溢す。
機材や資料は取り上げられ、残ってるのはカメラ一つと満身創痍の取材班、それでも仕事の催促は来るときたもんだ。
暫しの沈黙ののち
「どうしてこんなことに」
今度は紛れもなく自分の声でその言葉を発し、天井を仰ぎ見たのだった。
一話と二話は本編とエスコン5のアバンタイトルから作ってみました
今後もこんな感じになるかと思います(…続けば)