前回の終わりをちょっとだけ変えてます……(小声)
「おっ」「あっ」
クラン
「こんにちは、オイカッツォさん」
「こんにちはー、珍しいとこで会いましたね」
余所行きモード全開で話すオイカッツォ.しかし内心、ここで出会ったことにガッツポーズしたいくらいに喜んでいた。
実はこの男、たった今この先にある隠しエリアにてレアエネミーである巨大ザリガニとの死闘に勝利し、帰路につこうとしていたところだったのである。
サンラクからの前情報どおり、やたらと強いザリガニに手持ちの回復アイテムの大半を使い切ってしまったオイカッツォにとって、ここでアイテム屋であるアンバーを逃す手はなく、それゆえに変な地雷を踏んで機嫌を損ねないように余所行きモードで話しているのだ。
「実はこの先で採れるサーモンに用事がありまして」
「あ!それなら俺持ってますよ。譲りましょうか?」
「ほんとですか!?」
「その代わりといったらあれなんですけど、なにかと交換してもらえません?いま俺結構ギリギリで」
先ほどまでのレベリングの
瞬間、両者の間にあった空気が変わったのを感じる。ここから如何にしてこのサーモンをより多くのアイテムと交換するかの戦いが始まるのを予感し、内心で背筋を正しつつも、それを顔に出すことはない。
「それが、いまあんまり手持ちが無いんですよねぇ……」
「回復アイテムとの物々交換とかどうです?」
「回復アイテムですか……うーん、ちなみにどのくらいを……?」
ここだ。オイカッツォは自身の本能ともいうべきなにかがそう囁いたのを感じ、そして格闘ゲームで鍛えられた読み合いの経験がそれを後押ししてくれる。
つまり、いまここで
「サーモン一匹につきポーション四個で」
「四個、です、か……」
――かましすぎたかもしれない。
なんとなくやらかした雰囲気がオイカッツォの心を蝕みだすが、彼はそれを必死に振り払う。
例えるなら
「うーん、二個くらいでしたらお渡しもできるんですけど……」
「いやいや、この先でサーモンを
「それなら二匹で三個、ということでどうですか?」
どうする。オイカッツォの心が揺れる。
実際、サーモンの価値は手間があるとはいえ、回復量などを含めてもよくてポーション一個と釣り合うかというところだ。それが二匹で三個……まさしく破格だ。しかし頑張ればもう一個くらいいけそうではないかとオイカッツォの中で
引くべきか、押すべきか。狭間で揺れるオイカッツォの心に、唐突に
「もう一声」
「お断りします」
この
心の中でゲラゲラ笑っているペンシルゴンを無理やりただき出して、オイカッツォは頭を回す。
はたしてここから挽回する方法はあるのか?暗雲立ち込めまくっている気がするが、まだなんとか立て直せるはずだと足掻く彼の心にもう一人の
――――なんだサンラクかよ。チェンジで
おい!と叫ぶ変態をたたき出し、再び頭を回そうとしたオイカッツォ。しかし、そういえば相手が何も言ってこないなとふと思い、いつの間にか下がっていた視線を上にあげると、そこには必死に笑いをこらえている商人の姿が。
おや、これはいけるのでは?
「ふ、ふふっ……。ごめんなさい、嘘です。四個でいいですよ」
「マジで!?いいの!?」
「はい。ただ、替わりにちょっとお願いがありまして」
そこでアンバーはコホン、と咳払いを一つ。サーモン一匹がポーション二個になるお願いというものに身構えたオイカッツォは、
――――フレンドになってもらってもいいですか?
そんな言葉に、おもわず呆けそうになったという。
鐵遺跡にて予想外の出会いと商談を果たしたアンバーは、意気揚々といった言葉が似合うほど上機嫌でサーモンの納品場所であるエイドルトまでの道を歩いていた。
そんなに彼女が嬉しがっている理由は、そうただ一つ、
(ようやくフレンドが
ようやく両手を使わなければいけない数になったフレンドの数に、である。
誤解が生まれそうなので説明をすると、別に彼女は
それはなぜか?簡単である。
(オイカッツォさん良い人で良かったぁ!変にふっかけたりとかもなかったし)
彼女は、致命的に
一時期のシャンフロ内において彼女との値段交渉に失敗した輩の逆恨みで狙われることなどはザラであり、変な言いがかりでPKプレイヤーの集団をけしかけられたこともある。
クエストでNPCと会話していただけなのになぜか襲われたこともあったし、
そんな惨状だったので、自然と数少ないフレンド以外とは交流を持たなくなっていったし、そのフレンドからも「お前だけ別ゲーになってる」「真面目にお祓いに行った方がいい」「普段はこうじゃないけど君といるとこうなる」等など、悲惨な言われようであるのだ。
そうした様々な要因が重なった結果生まれたのがこのアンバーというプレイヤーなのであった。
「サーモン一匹にハイポーション二個は痛かったけど……まぁいいでしょう!」
そんな彼女にとって、数少ないまともに話ができるプレイヤー、しかも強いプレイヤーとフレンドになれたというのは、サーモンにたいして軽くなりすぎた懐を加味してもなお、お釣りを払ってもいいくらいの上々の結果だと言えた。
そうして、鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌でエイドルトを目指すアンバー。道中のフォスフォシエにて細々としたクエストや商品の補充を済ませたりなどしながら進んでいた彼女が目的地へとついたのは、数日経ってからのことだった。
ちなみにフレンドから言われたセリフの部分は作者の実体験です。