許せサスケ……これが限界だ……
「えっ、その人が犯人じゃなかったんですか!?」
「ああいえ犯人で間違いはないんですが、ええっと、その、なんといいますか……」
(わかる、わかるぞ秋津茜。俺も普通にいまのがしょっ引かれて終わりだと思ってた。)
犯人も捕まり、これにて一件落着。となりそうなところで、急に真犯人っぽいやつの影が出てきたことで急展開を見せた事件に、思わず秋津茜が声を出して反応しているのを聞きながら、サンラクは心の中でそう思う。
いや、そもそも話し始めからして卑怯だろう。なんだ「聖女ちゃんストーカー被害事件」って、そう思い耳を傾けてみれば、思った以上に手の込んだ事件だったのだからそりゃ聞き入ってしまうのも仕方ないことなのだ。そう己に言い聞かせる。
そもそもサンラクがこの話題をサイガー0に振ったのには、とある理由がある。このシャンフロ内で起きた出来事の中から、ペンシルゴンが五人がかりでしくじったという事件について聞くためであったのだ。
あのペンシルゴンが言いよどんだことから、結構知れ渡っているのではないか。それこそ廃人と呼べるようなプレイヤーならばwiki以上に詳しく聞けるのではないか?
そんな思いからこの話題を振ったのだが、残念ながら出てきた話題はペンシルゴンとは関係ないものであった――がしかし、その話題のインパクトに耳を傾けた結果、気づけばすっかり聞き入ってしまっていたのである。
「にしても、懺悔室ってのは思いつかなかったな。NPCに変装でもしてたのかと」
「そうです、ね。たしか聖盾輝士団の人も、そう考えてたそうです」
「私はうまく忍び込んでたのかと思ってました」
「世の中いろんな者がいるでござるなぁ」
そう、シークルゥがいう通り、自由度の高いこの世界のキャラクターには、NPCも含めるとそれこそ星の数ほど差異がある。
てっきりそういった部分を利用して監視の目をかいくぐったのだろうとサンラクは考えていたのだが、なるほど。種明かしをされてみれば、たしかに懺悔室は最適解といえるだろう。
いちいち変装なんかしなくていいから足もつかないし、行きも帰りも堂々としてれば怪しまれることもない。懺悔内容は聞かれないように保護されるのだから、焦って本命を引き当てるために変な小細工をしていなければ、きっと大本のやつにたどり着くことはなかっただろうにとサンラクは思う。
しかしこの話はここで一旦区切りでもいいだろう。目的はペンシルゴンの事件なのだから、ここは上手くその話に持っていけるように話を切りだすべきだろうと、サンラクは口を開いた。
「それで、その他にもいるってところからどうなるんだレイ氏?」
「あ、はい、ええっとですね……」
エムルが起きていればこう言っただろう。好奇心に勝てないって顔してますわ。と
「俺以外のやつがやってたのを真似した」
その言葉を聞いた時の心境をジョゼットはこう語る。
なによりもまず、不甲斐ない自分に腹が立ったのだと。
この懺悔室を用いたこの世の何よりも唾棄すべき悪行が、目の前で行われ続けていたのにも関わらず、自分は何をしていたのだろうか。何もしていない、どころか気づくことすらできなかった。
そんなざまでなにが親衛隊、なにが聖盾輝士団だ。あの笑顔の裏にどんな気持ちを抱いていたのか、気づくべきは自分の役目であっただろうに!
そんな気持ちで心中一杯になったジョゼットは、しかしそれでも自分を頼ってくれた聖女の気持ちを汲むべく、聖盾輝士団にこう告げた。
「その不埒者を探し出せぇ!」
その言葉に、聖盾輝士団は雷に打たれでもしたかのように走りだしたと聞く。全員がその目から涙を流し、般若のような顔で走る姿は、何も知らないプレイヤーたちにとっては新種のモンスター軍団かと勘違いされるほど恐ろしい光景だったという。
そしてその熱量は、下手人の逮捕劇を見守っていたプレイヤーたちにも伝わっていく。ここまで乗りかかった船ならば、そんな思いで皆が走り出した。
全ては、聖女イリステラの笑顔を守るために――
果たしてその結果は。騒動の最初に行われた調査よりも人が減っているのにも関わらず、なんと二日でその下手人の容疑者たちが見つけ出され、その容疑者達への聞き取り調査が実行されることになった。
プレイヤー、NPC問わず洗い出された容疑者リストのなかには、PKクランの者や商人もいたという。そういった者たちと時に衝突し、時に大捕り物を繰り広げることになりながらも、ジョゼットたちは可能性のひとつひとつを潰していく。
「阿修羅会」を含むPKクランとの激突、路地裏や脇道、時には獣道すら使って逃げていたという神出鬼没の商人との追い駆けっこ。ライブラリとの高度な情報戦による腹の探り合い――――そうして残ったのは、一人のNPC。エインヴィル王国大臣補佐の肩書を持つ男「ギルーノ」であったという。
そう、なんと懺悔室での悪逆非道を行っていたのはプレイヤーではなく、最近頭角を現しているという一人のNPCだったのだ。
この結果には、多くのプレイヤーが驚きを隠せなかったものの、ライブラリから提供された聖女イリステラが懺悔室に現れる条件とこのNPCが懺悔室を利用する条件が一致していたこと。そしてなにより聖盾輝士団の精密な調査によって、彼が聖女イリステラに対して何かしらの薬品を用いて、いわゆる催眠のようなものを刷り込み、意のままに操ろうとしていたという揺るがぬ証拠が、彼の執務室から出てきたのだ。
この結果をうけて、ジョゼットは急遽クラン連盟を結成。「in虎団」に「午後十時軍」そして「聖盾輝士団」という有名クランによって結成された連盟は、かの大臣が懺悔室を利用する場面に襲撃した―――
「―――そしてギルーノ率いる私兵団との激突の末、多くのプレイヤーが倒れたそうです。なんでも、私兵団全員が呪術か毒属性の武器をもっていたとかで――」
「……なんの話してるですわ?」
「あっ、おはようございますエムルさん!いま良いところですよ!」
「おう起きたかエムル。ちょっと待て、いまギルーノにようやく届きそうなとこなんだ」
「すまぬエムル。いま兄はこの話から耳を背けれないでござるよ……!」
「ほんとになんの話ですわ!?教えるですわー!」
「――――そうして追い詰めたギルーノでしたが、なんと
「話のオチだけ知るのはイヤですわぁぁぁ!」
空に太陽が昇り始めた頃、フィフティシアにつながる道に、そんな兎の絶叫が木霊したという。
話のオチを作れない)だらしない作者ですまない……