「じゃあ伐採用の上級斧と、あと加工用の水をダースでください」
「はーい、毎度。」
港街フィフティシア。ついこの前のアップデートにて追加された新大陸行きのために、いま多くのユーザーが押しかけようとしている大陸最後の街に、その
数日前にこの街に辿り着いたアンバーは、そこから今に至るまでの商売にて、大量に買い込んできた生産職用の商品たちと、材料確保用の
ありがとうキョージュ、ありがとう新大陸。おかげで私は儲かりました。
心の中でそんな感謝を思いながら、彼女は広げていた露天売り用のシートを片付けていく。
すっかり容量が空いたインベントリと、それを埋めるように増えた
傍から見れば変な奴に違いないのは自覚しているので、必死に堪えようとはしているものの、やはり耐えきれなくてしばしば漏れ出てしまいながら片付けていく。
時折、目の前で不自然に立ち止まったりするプレイヤーたちに気づくこともなく、売り切れた商品を販売欄から取り下げていたアンバーの視界の端に、ふと見覚えのある鳥頭が街に入ってくるのが見えた。
初期装備である凝視の鳥面を愛用し、しかしそれ以外の部分に装備をつけず、代わりと言わんばかりに胴と足に刻まれた――なぜだか一層禍々しくなっている――
珍しく変装もなにもしていないので道行く他プレイヤーの注目も集めつつあるが、ネットでの捜索への熱量に対して彼に話しかけに行こうとしている者はいない。
まだ早朝も早朝、ほとんど人がいないのも関係しているだろうが、それでも一人二人は突撃しそうなものだが―――なるほど、そのパーティーメンバーを見れば話しかける人がいないのも当然だとアンバーは納得した
先ほどから何か飲み続けている女の子は、たしかサードレマでも居たのでサンラクの仲間で間違いない。その隣で箱のようなものを背負っている忍者のような姿のお面少女は知らないが、親しく話しかけられているところを見れば野良ではなくメンバーの一人なのだろう。
とはいえ、おそらくこの二人がいるだけならば、いまごろ多くのプレイヤーに質問責めにされていることだろう。
そうなっていないのは、おそらくわざと最後尾を歩くことで威圧感を出し、周囲を牽制している重装甲の人物、「サイガー0」のおかげだろう。鎧が多少錆びついているような感じになってはいるが、背中のマントに刻まれた黒狼のエンブレムが、その人が【
どうやったらトップクランの堂々たるエースといえるような人物がいるパーティーをソロプレイヤーが組めるのか、少し興味はあるものの、アンバーはその場を静かに離れた。
フレンドといる時に知らない奴が入ってくるほど困ることはないのだ。
まぁ
サンラクたちが路地裏に消えていくのを見つつ、あえてその真逆に向かう。
目指す先は、このシャンフロにおいて珍しいNPCの荒くれ者たちが集まるスラム街。そこを根城にするとあるNPC、父親のような大海賊を目指す、微笑ましくも立派なちびっこ船長率いる海賊たちのいる海賊船である。
はたして、彼のいう怖気づいた開拓者二人組はいつシャンフロに戻ってくるのだろうか。ちょっとした楽しみになっている気のいい海賊―――赤鯨海賊団との商売に向けて、アンバーはスラムへと踏み込むのだった。
時は少しだけ流れて、場所は同じくフィフティシア。
「さて、どうしましょうか、シークルゥさん」
「とにかく、なによりもまずは準備。それが良いと思うでござるよ」
ラビッツに戻るサンラクと別れ、サイガー0との情報交換も終えたことで手持無沙汰になった秋津茜は、背中で箱に擬態するシークルゥにそう話しかけた。
周りに人がいると決して反応がないシークルゥではあるが、いまは路地裏で人の気配が無いということもあって喋るようだ。一度決めたら特急列車もビックリなほどの突撃をかます秋津茜に連れられて、
しかしシークルゥの言ってること自体は至極まともなので、秋津茜もなるほど、と頷き―――
「……どこにいけばいいんでしょうか?」
「……わからぬでござるなぁ……」
―――頷いた首がそのまま横にカクン、と曲がった。
だが、それもしょうがないことだろう。秋津茜はプレイ時間的に言えば、決してフィフティシアにいるべきプレイヤーではないのだ。
そしてここまでの街で、ある程度街の構造を把握していること前提で作られたフィフティシアに、そこまでの街をすべて全力ダッシュで文字通り駆け抜けてきた初心者、という存在を想定したような優しさはなかった。そんなことを想定しろというのも可笑しいが、とにかくその結果として、彼女が迷子になるのは致し方ないところがあるのだった。
しかし、迷子になったからといって止まるようなプレイヤーだというのならば、秋津茜がいまここにいるわけはなく
「とりあえず、行ってみましょう!」
「待つでござる、せめて逆に―――」
なんとかなります!とシークルゥの返事を待たずに駆け出す秋津茜。迷路のように入り組んでいるフィフティシアの裏路地に臆することなく入っていく。
道中見かけたお店に躊躇なく突撃したり、路地裏にたむろするガラの悪そうな連中にも恐れず挨拶する秋津茜と、そんな人物の背中で箱のフリをし続けるシークルゥが何度目かのアブナイお店から飛び出していた時
「んぉ」
「わぁ!ごめんなさい!」
ついに二人は、道を知ってそうなプレイヤーと出くわしたのだった。ただし、あまりに小柄だったので気づかずに衝突してしまうアクシデント付きだったが。
思いっきり押しつぶしてしまった相手から即座に退いた秋津茜の下から出てきたのは、あまりに小柄といっても過言ではない低身長の女プレイヤー。名を「アクマリー」といった。
「大丈夫ですか?」
「へーきへーき、体力がちょっとくらい減っただけ」
「なら良かったです!」
「おっとまさかのそういう手合いだったか」
シャンフロにはめずらしく声と性別が一致しているアクマリーが、助け起こされながらもなにか呟いているが、それは秋津茜には理解できなかったようである。
言葉は言葉通りにしか捉えられていなかった。
「ま、いいや。
「……すみません、私まだ道がよくわかってなくて……この先になにがあるんでしょう……?」
「むしろ迷子でよく来れたね君」
てっきり客かと思ったのに。そういいながらため息をつくアクマリーにどことなく申し訳なさを感じる秋津茜。よく分からないが、どうやらぬか喜びさせてしまったらしいことは察せられた。
「とりあえず、帰り道は――あー、言葉でわかる?」
「わかりません!」
「だよね。いいよ、送ってく」
そんなこんなで、いままで秋津茜が通ってきた道を今度は二人で歩き始める。
迷いなく先導していくアクマリーの後ろを秋津茜が行く。自分より小さな後ろ姿があっちこっちと進んでいく姿は、彼女の中にある最近抑圧されている欲望をひしひしと刺激している。
時折、付いてきているか確認のために振り返るアクマリーを撫でたくなる右手をグッと堪える秋津茜。そんな姿を何も知らないアクマリーは不思議そうに見つめる。
「で、なんであんなとこまで来たの?あの先なーんにもないけど」
「道具屋を探してたらいつの間にか着いてまして……」
「おぉう、まさかの初手
実際には、最悪シークルゥに頼んでラビッツに帰還すればいい、という保険を抱えていたための突撃ではあったのだが、それは言わない。
「じゃあさ、お礼替わりに私のとこの子のお店で買い物したげてよ」
「はい!むしろ私からお願いしたいくらいです!」
「……あの、言っとくけど普通こういう時は、ちょっとくらい悩むもんだよ」
即断即決、といわんばかりに特に迷うことなく了承する秋津茜に、思わずそう溢すアクマリー。
なんだかんだ道案内してたり、そういう忠告をしてしまうところから、根は真面目な性格なのをなんとなく察されているからこその秋津茜の了承だったのだが、それにアクマリーが気づくことはないだろう。
本人のなかでのアクマリーというキャラは、身内以外には厳しい幼女キャラなのだから。傍から見るとただのちょっと口の悪い保護者になっているのだが、本人的には厳しく言ってるのである。
そうして少女二人は路地裏を行く。目指す先はフィフティシア有数の
秋津茜が樽運送される、ちょっと前の出来事であった。
ここからのルルイアス編を)どうすればいいと思うハム太郎