「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」
「…………え、なんです今の?」
「あッはははは!」
遠ざかっていく悲鳴、樽を担いで走り去っていくガタイの良い海賊たち。
つい今の今まで目の前で談笑していた秋津茜が、唐突に現れたNPCによって樽に詰められて誘拐されていった現場に立ち会ったアンバーは、思わずそんな困惑の声を漏らした。
誘拐された人物を連れてきたアクマリーが膝から崩れ落ちて爆笑しているのを無視して、おそらくはシャンフロにおいても珍しい輸送手段で連れ去っていった男たちが消えていった方角をアンバーは見つめる。
「赤鯨名物、って言ってましたよね」
「げほっ、そう言って、たかな…………ふっクク…」
「いつまで笑ってんですか」
先ほどの海賊たちの素性がわかったことで一先ず安心できたアンバーは、いまだ笑いの中から帰ってこれないアクマリーを叩いて戻す。
拉致直前で秋津茜が急にクエストが出てきたと慌てていたので、そのクエスト関連で連れていかれたのだろう。赤鯨ということは、話に聞いていた最近ログインしていない二人組と知り合いだったのかもしれない。
そう考えると、もしかしたらその二人組は遅れてくる秋津茜を待っていたのだろうか。どちらにしろ仲が良いのだろうなと思いながら、しばらくアクマリーを叩き続けていると、ようやく落ち着いたのか咽つつではあるがアクマリーは立ち上がった。
「いやー、出会った時から面白い子だったけど。まさかここまですごいとは」
「アイテム
「え゛、あ、あのホラ!大通りで売ってたの見たから!行ったけどいなかったから!ここかなーって思ったんだよね!!そういうことだよ!!」
「そうですか……?」
大げさなジェスチャーを交えた理由に、たしかにそういうものかとアンバーが納得するのをみて、アクマリーは内心で安堵する。
さすがに「フィフティシアに来た時から知ってるからです」とは言えない。なんで知ってるのかを深掘りされると大変面倒なことになるからである。
「と、ところで。最近見なかったけど、どこ行ってたの?」
「サードレマまで行ってきまし―――あ、そういえばフレンドが増えましたよ!」
「…………ちなみに、誰かのフレンドだったりする?」
「ペンシルゴンのフレンドでオイカッツォという人で―――どうしました?」
「いや、なんでもないよ。うん。成長したね」
思わず頭を抱えそうになったのを気合で堪えながら、アクマリーは気にするなと手を振る。
名前はもちろん知っている。シャンフロの未確認ユニークモンスターであった「墓守のウェザエモン」を倒した三人のうちの一人で、公式アナウンスで紹介されていたから間違いはないだろう。
同時にペンシルゴンの名前も挙がっていたので、名前被りの別人という事もなさそうだ。
話題性抜群、実力も十分な相手との繋がりを得て帰ってきたのが、誘蛾灯の如く問題事に巻き込まれるアンバーでなかったらどれほど手放しで喜べただろうか。
再び出そうになるため息をグッと飲み込み、話題を変える。後であの
「そういえばGGCで何やるんだっけ、完全新作?」
「えーっと、二日で二本あって、一日目のは完全新作のSFレースですよ。二日目のは例のやつですけど」
「あ、WCRの新作?ようやく本式でやれるんだアレ」
「ですねぇ……」
しみじみと呟くアンバー。
『ワールドカー・レーシング』通称WCRは、フルダイブレーシングゲームの金字塔といえるレースゲーのことである。
去年のGGCにて発表され、その作りこみの深さから多くの期待を集めたこの新作ゲームは、半年後のリリースを前にして、とある重大なバグが見つかってしまい、それ以来正式発売日が延びに延びてしまっていることで悪い意味で有名だ。
だがその後、バグが関係ない部分を先にβ版としてリリースしたことによってなんとか延命に成功し、そのβ版の完成度の高さから今も期待が高い、やらかしたが期待されている稀有なゲームでもあるためレースゲーが好きでそこを主戦場とするようなアンバーにとっては、まさに待ちわびていた一作ともいえる。
「車買えないバグってどうなったんだろうね」
「なんでも、技術共有かなにかで解決したって聞きましたよ。シャンフロエンジンに載せ替えする、って噂もありますけど」
「へぇー!GH:Cもシャンフロエンジンだっていうし、アンバーには有利なんじゃない?」
「それで勝てるんなら楽なもんですけどね」
「そりゃそうか」
二人そろって溜息を吐く。アンバーとアクマリーは得意分野こそ違うが、同じプロゲーマーとして働く身であるが故に上位連中の強さという物がその程度で覆せるものでないのは身に染みてわかっている。
特にアクマリーは格闘ゲーム部門であるため、とんでもなく壁が厚い。国内勝率8割を落とさない化け物とそんな化け物含めた全挑戦者に一回も負けていない全一チャンプが居座る魔境である。
そんな上澄み連中の強さをアドバンテージで覆したいなら、そもそもそいつらと素で張り合えるだけ強くならないといけないわけである。
「ま、でも今回は配信しろってお達しだから、同時実況しながら見てるよ。」
「
「へーきへーき、配信しろって命令は守ってるし。」
そう言って笑うアクマリーからは隠しきれない憎しみが垣間見えていたが、アンバーはそっと見てないことにした。
人手不足になった格闘ゲーム部門の助っ人に呼ばれたが、上からのお達しで配信せざるをえなかった恨みは、いまだ消えていなかったようだ。
「ふっ、フフ……せっかく「StarRain」とやりあえたのに……なにが悲しくてわざわざ断らなきゃいけないんですかねバカスポンサーどもが」
「どうどう、お土産買ってくるんで落ち着いてください先輩」
壊れたラジオの如く恨みを吐き出すアクマリーを宥めながら、できたら全一チャンプ―――シルヴィア・ゴールドバーグのサインでも貰ってきてあげようと誓うアンバーであった。
ここからどうなるんだろう()