「あー、ちょっと待って?もう一回聞いていい?」
人って、キャパを超えるとこうなるんだなぁ。なんて、どこか他人事のように思いながら、ジョゼットは心なしか痛み出したこめかみを揉みしだきながら、もう何度目かも分からないストップをかけた。
ちらりと周りをみると、同じようにこめかみを押さえるカローシスUQ、上を向いて手で顔を覆ったまま微動だにしないペンシルゴン。
唯一元気にはしゃいでいるキョージュは、その知識欲が刺激されすぎて変なテンションに突入しているのでストッパーにはなりそうもなく。
「その、アクセサリーの片方が?イリスっていう子に貰ったものであってる?」
「はい。この服とアクセサリーがそのクエスト報酬で、普段はこういう回復アイテムとかをくれる人なんですけど。ああ、そういえばこの前街中で会ったときにはこの頭装備もら「まってまってまってまって」はい?」
「それは!三神教司祭以上のNPCしか身に付けていない非売品の装備ではないかね!?そんなモノも持っているのかキミは!」
「大聖堂に入るためのパスみたいなものって言ってましたけど……非売品なんですかこれ?」
「そうとも!よく似た店売りの装備と違って、目隠しのための布と教会の刺繍が付いているのが特徴で――」
言葉だけでなく両手まで使ってかけた待ったがキョージュによって綺麗に流されているカローシスに心から同情しつつ、ジョゼットもペンシルゴンに倣って天を仰ぐ。
熱く希少性を語っているキョージュは簡単そうに流していたが、その前の聖女のお古っぽい装備がポロっと出てきた時点で、ジョゼットの心中は、主に物欲で混乱しっぱなしだった。
(いやいやいや、確かに最近着なくなったなーとは思ってたけど!ってことは私も貰えるんじゃないかしらお古。問題はロールプレイを崩さずにどうやって貰えば……ダメだわ、どうやっても変態になる。あー!お古装備いいなぁ。というか、街中で貰ったってつまりそれってデートよね。お古装備貰える上にデート……!?やっぱどうにかして貰えないかしら)
サンラクがポロっとこぼしていたインベントリアなどの情報も中々に凄まじいものだったが、ジョゼット的にはこちらの方が魅力的だった分、手に入らないという事実を受け入れるのに時間がかかっていた。
お古の装備が貰えるというところあたりで特に。
しかし自身の積み上げたイメージと、それを一瞬で無に帰しそうな欲求の狭間で苦悩しているジョゼットを横目に話は進む。
意気揚々と質問を繰り返すキョージュに、頼むからこれ以上余計な爆弾を出さないでくれ、と願ったのは果たして誰だったのか。
余計な情報を引き出して狂信者たちの相手をする羽目になるのは、トップクランのリーダーやPKプレイヤーだとしてもお断りしたいところなのだが、残念ながらその願いは知識欲に駆られたキョージュには届かなかった。
「ところで、他にもそういったアイテムはあるのかね?」
「うーん、あるにはありますけど……このドレスとかもそうですし、どういったのが見たいとかあります?」
「ふむ、そうだね。特定のNPCから貰える…普段目にしない物が見れると助かるが」
「となると、極上人参とかスペシャル・アップルパイとか超良薬ポーションとかもそういうのかな………。超良薬ポーションって言っちゃダメなんだっけ……?」
「ほう……!」
「キョージュが好きそうなのだと、蛇についての生態本だとかそういうのもありますし」
「おぉぉ……!」
おお、じゃないが。
気軽に藪蛇を突っついて出てきたメドゥーサみたいな情報に目を輝かせるキョージュと、ボソッと言われた言葉で目が死んでいくペンシルゴン。
カローシスはあまりに出てくる情報が多すぎて脳の処理が追い付ききれず、ジョゼットはいまだ、
仕方なく止めに入ったペンシルゴンによって、少し、いやかなり名残惜しそうにするキョージュをなんとか宥め、そうして、迂闊に踏み込んだ虎穴から虎児が防犯ブザー鳴らしながら笑顔で出てきたような情報交換会は幕を閉じ――
『サンラクとかいうバカはどこだ』
「……あの
――数日後に送り付けられてきたそんなメールに、ペンシルゴンは頭を抱える羽目になった。
ペンシルゴンが情報を得て嫌な顔をしたのは、アクマリーとかいうガチ勢が絡んでくるとメンドクサイことになった経験があるからです。
カローシスは単純にメンドクサイことを知ってしまったことと次々くるそんな情報でパンクしていたって感じです。
ジョゼットはぶっちゃけ後半は聞いてません。あきらかに聖女と仲のいいアンバーから、どうにか聖女の私物を譲ってもらえないかとか、なんなら本人を引き抜けないかとかしか考えてませんでした。
キョージュ?あの人は厄介事を認識しつつ知識欲に走っただけというか……