はいじょくんのBGMが頭から離れません。
その日、商い琥珀店の本拠地の空気は、重かった。
それはもう、鉛どころかオスミウムにでも匹敵するんじゃないのかと言いたくなるほどに。
発生源は、女プレイヤー2人。
片や、
片や、曰く「虎穴に住み着いているキメラ」と聞かされている
なぜここまで空気が地獄なのか。それはペンシルゴンに突きつけられた、巨大な大剣が原因だった。
「ねぇ、私“話し合い”って言わなかったっけ?」
「言ったね。――で?」
「その大剣の意味はわかってるってことだよねぇ!」
「待て待て待て待て!ストップストーップ!」
武器を構えた2人の間に割り込んだのは、念のためにと連れてこられたオイカッツォだ。
彼自身この流れを理解できてはいないが、理由もわからず急に戦闘が始まるのは勘弁願いたかった。
「始めるのは勝手なんだけどさぁ!事情くらい聞かせてよね!」
「「いっぺん上下関係を教えてやりたい」」
「理由じゃなくて事情を聞かせてくんない!?どっちも一回落ち着いてほしいんだけど!」
オイカッツォの必死な説得が功を奏したのか。ため息を1つ吐いて武器をしまう両者に、力なく彼も腕を下す。
どちらともなく舌打ちしそうな険悪な雰囲気のままではある――というか実際聞こえてきているが、とにかく危機は去ったとオイカッツォは内心胸を撫で下ろした。
「……なに、説明してないの?なんで?馬鹿なの?」
「できるわけないでしょさっき連絡来たんだから。あ、もしかして恋愛脳でついに茹で上がっちゃった?」
「残念ながら借金踏み倒せると夢見てる間抜けよりはハッキリしてるよ」
「「………ハッハッハッハ!!」」
「ちょー帰りてぇ」
なんでこんな時に限って道連れが居ないんだ。心の中でとある半裸に呪詛を吐きながら、もうどうにでもなれとオイカッツォは天を仰ぐ。
シーリングファンがくるくると回る天井を見つめていると、お互いひとしきり罵倒し合って満足したのか、バツが悪そうにペンシルゴンが咳ばらいを一つした。
「とりあえずここに来た理由なんだけど――案の定サンラク君がやらかしました。そのケジメです」
「よっしとりあえずあいつシバこう。最低3回くらいはリスさせときますアクマリーさん」
「躊躇ないねアンタら?」
「あーココロイタイナー」
「ホントホントー」
奴は有罪、故に正義は我らにあり。
そんな言葉と共に気炎を吐いている二人に気が削がれたのか、アクマリーは肩を竦めながら椅子に座り直した。
どうやら、今度こそ一触即発ではなくなったようだ。
「ま、いいか。それで?どんな商談?」
「その前に、俺からひとつ確認いい?サンラクってなにしたの」
「あー、強盗罪?あと名誉棄損にもなりかけたね」
「マジで何やったのアイツ」
アクマリーの回答に予想以上にちゃんとした問題だったと、オイカッツォは隣のペンシルゴンを見れば、そこには、おそらく自分がしているであろう顔と同じ顔をしながらため息を吐くペンシルゴンが居た。
「アンちゃんに貰った紹介状の説明したの、覚えてる?」
「もちろん」
「じゃあアレ使うと一回取引するまでは、紹介状書いた人の好感度を参照するのも?」
「覚えてるよ。それがなんでもん、だ、い……そういうこと?」
「そういうこと」
オイカッツォはアンバーと天秤商会の好感度は知らないものの、紹介状一つで
そんな人の名前を借りて取引。もちろん、普通に取引したのなら問題などなかったのだろう。
実際、オイカッツォはあの後何度か天秤商会は利用しているが、今回のようなことはなかったのだから。
が、
それは、インベントリアに入っていたから知っている。あまりに多くて邪魔すぎる中に混じっていたそれを、この二人は知っていた。
「アイツ、人の名前で
「そうなんだよねー、アハハハ……はぁぁ」
「おかげさまで今、アンバーは首都だの何だのに呼ばれて大忙しだよ」
天を仰ぐペンシルゴン、手で顔を覆うオイカッツォ。
乾いた笑いしか出てこないとはこういうことなのだろう。本人はなんにも知らずにやったのだろう。
いや、実際他のゲームでは気にしない要素なので、仕方ないところではある。しかしそれは、シャンフロにおいては違うのだ。
彼は、財宝を
「3回と言わずに10回くらいシバこう」
「異議なし」
上と下、お互い顔を見合わせることはなく、ただ拳同士を打ち付ける音が響いた。
ちなみにペンシルゴンが初手喧嘩ふっかけてカッツォが止めること自体はこの二人打ち合わせ済みです。抜け目ないねペンシルゴン。