勢いに任せて書いていたら、なんだか大変なことになったゾ
今頃、あの二人は天秤商会の案内をされていることだろうなと、目の前の光景から目を背けながらそんなことを考える。
おそらく二人とも商会にとって一見の客になるはずだが、結構奮発して一番いい紹介状を渡しておいたのでかなりの上客として扱ってくれるはずである。
こういう時にこのジョブ取っておいてよかったと思うんですねェ。まぁ、こういう時くらいしか役に立たないともいうのだが。
唯一、サンラクさんの恰好が受け入れられるのかという心配点があるのだが、たぶん大丈夫なはずだ。シャンフロのAIは優秀なのできっと普通の対応をしてくれるはずである。
……シャンフロのAIが半裸に対してどういう対応するのか調べておいた方がよかったかもしれない。
「聞いてるのかなアンバーちゃん?」
「モチロンデス、ハイ」
メイン武器である聖槍をこれ見よがしに取り出したペンシルゴンに無理やり意識を引き戻される。あと数秒返事が遅れていたら、私の紙耐久はその名の通りの速さで聖槍に貫かれていたことだろう。魔王相手に思考放棄が如何に危険なのかを肌身で実感することになるとは……!
などと勝手に脳内で盛り上がっている私を余所に、ペンシルゴンはため息をひとつ吐いて槍をしまう。どうやら当面の命は保証されたらしい
「ちなみにアンちゃん、まだ怒ってる?」
「――ただ働きの恨み、ここで晴らさでおくべきか……!」
「おおっと思った以上に根深かったみたいだね」
当たり前である。こちとら報酬目当てに必死にいろんなクランにそれとなーく情報を流したり、参加するクランの集結場所の下見だの各クランリーダーの密会場所を提供したり、最終的には集合時間まで考えたりしたというのに、いざ蓋を開けてみれば「完全に忘れてて
「いやぁ、報酬の件はほんとゴメン。ちょっとテンション上がってたというか、勢いに身を任せすぎてたというか」
「…………」
「こんどケーキ奢ってあげるから」
「許そう」
過去のいざこざをいつまでも引っ張るもんじゃないよね!断じてケーキに釣られたわけではないが、ここは一歩進んだ余裕を見せるべきだろう。そう、私は大人なのだから!
こいつマジかといわんばかりのペンシルゴンの視線は無視である。人間、下手なプライドは持つべきじゃないのだ。
「ま、いいや。それで本題なんだけどさ。アンちゃん、『
「…………それ、なんの裏があるわけ……?」
さらっと言われた同盟のお誘いに、思わず素でそう返してしまう。いや、確かに魅力的なお誘いではある。
ユニークモンスターを攻略するほどの腕を持った初心者二人との繋がりができるし、ペンシルゴンは今は一文無しに近いとはいえ、トッププレイヤーと渡り合っていたほどの実力者だ。そもそもペンシルゴンもユニークモンスターを討伐しているので、その点だけみれば確実にお近づきになっていた方がいいクランからのお誘いであるといえる。いえるのだが、それを言ったのがペンシルゴンというだけで私の警戒レーダーは瞬時に跳ね上がるのだ。
「え~?やだなぁ裏なんてないよぉ」
「タダより怖いものはないっていうよね」
「貰えるものは貰っとけって言葉もあるよねぇ」
これである。もう明らかになにかありますよといわんばかりであるが、実際向こうのメリットなんてものはないはずだ。正直、私があの二人に招待状を渡した時点でペンシルゴンは帰っても良かったはず。私のジョブである「大商人」のほとんどは、あの招待状に詰まっているといっても過言ではない。
それは彼女も承知のはずなのだから、求めているのは、
余計にこんがらがってくる脳みそに甘いものの一つでも放り込みたくなるのをこらえ、必死に頭を回す。相手の思惑がみえないまま利益を追求するのは悪手にも程があるので、せめて考えの一つだけでも暴いてやろうと思い必死に脳を回すものの、向こう側のメリットがなにも見えてこない。
釈迦の掌であがく斉天大聖ってこんな気持ちだったのだろうか。あまり知りたくなかった気持ちである。
「アイテムの買い占めさせるとか……」
「残念、ほんとに裏なんてないんだよぉアンちゃ~ん」
「嘘つけぇ!」
こうなったら意地でも思惑を見抜いてやる!ホームズばりの名推理をみせてやるぜぃ!
――――――
(本当に“裏”なんてないんだけどなぁ)
目の前で必死に頭を回しているのだろう
さきほどから数々の迷推理を披露し続けているこの友人は、ペンシルゴンからすれば非常に制御しやすいタイプの性格であり、そしてなんだかんだいっても甘さを捨てきれない、好ましい性格の持ち主である。
アンバーという少女は、『納得』を優先するタイプの性格である。いま行っている迷推理も、こちら側がなんの理由も提示してこないので彼女自身が納得するためにやっているものである。
たぶんそれらしい理由をつければ、きっと彼女は「ほらやっぱり」とでも言わんばかりに笑顔になって、そして喜んで同盟を組むだろう。アンバーという人間はそういう人間である。
しかしそれは、
格上殺しを達成し“廃人狩り”なんて名前がつくよりもずっと前、ただのPKだったペンシルゴンが取り逃しつづけた小さな獲物。お遊びでPKできたことはある。油断した首を撥ねるのは簡単だったが、達成感はなかったのを覚えている。
いつからか姿を探すようになっていた。フレンド登録できれば楽でいいのにと思い、ダメもとで送った申請があっさりと受理されて、おもわず心配になったのを覚えている。
変わらない姿を覚えている。ウェザエモンという強大な相手に挑むことすらしなくなった阿修羅会に辟易とし始めていた彼女の前に、あの頃と変わらぬ姿勢で走る少女に安心したのを覚えている。
ペンシルゴンがアンバーに同盟を持ちかけたのは、本当にそれだけのことなのだ。余計な奴が手を組もうとする前に、こっちで組んでおこう。それ以外の理由はなく、だから裏なんてものはありはしない。
いつだって、どんなときだって。アーサー・ペンシルゴンの胸の内には、あの日腕からすり抜けていった小さな獲物への小さな小さな“
「――――この店ごとトラップに使うとか!?」
「ちがうねぇ」
この小説に恋愛要素は)ないです。
ぶっちゃけるとペンシルゴンが抱いてるのは「いつか絶対その首取ってやる」です。