ジョブ説明に一話使う情けなさ
「おかえり~。どうだった?天秤商会ご紹介ツアーは」
「なに聞いても『内緒』の一言で済まされてた理由がよくわかったよ」
「つかれた……」
天秤商会の一室に案内されたサンラクとオイカッツォは、部屋の中で優雅に紅茶を嗜んでいたペンシルゴンにそう返した。
職業柄、ああいった雰囲気の場も多いオイカッツォのほうは多少の気疲れ、といった程度で済んでいるようだが、サンラクのほうは目に見えて疲れ切っている。
さすがにゲームとはいえいきなり堅苦しいRPをさせられるのはキツかったのか、席に着くと同時に背もたれに体重を預けて放心しているサンラクの姿にやっぱり内緒にしといてよかったと内心で喜ぶペンシルゴン。もっともそれを面にだすような真似はしていないが。
なんだか一段と美味しく感じる紅茶を一口味わい、さて。と気を取り直す意味も込めて彼女は手をたたいた。
「言ってた意味は分かったと思うけど、聞きたいこととかあるなら答えるよ。はいオイカッツォくん!」
「アンバーさんどこいったの?」
「さっき
ピギャッ!となかなか聞かないような悲鳴を上げてログアウトしていった姿が脳裏をよぎり、おもわず笑いそうになるのを気合でこらえながら質問に返す。
本人に聞きたかったんだけど、といった具合のオイカッツォに続いて手を挙げたのはサンラクである。
「素人質問で恐縮なのですが、――あの神
「まさかその前置きでほんとに素人質問だとは思わなかったよ」
「お前……もうちょっとwikiとか見ろよ……」
「え゛」
どうやら、まさかの前提条件みたいな部分を質問してしまったらしい。
オイカッツォにまで呆れた目で見られるとは思っていなかったサンラクは慌てて記憶を思い返すも、読み飛ばしまくったwikiの記憶から答えが出てくることはなかったらしく生産職系の欄なんて見てねーよ……と呟いていた。
「まぁそこの情弱くんの質問に答えると、あの職業の名前は『商人』――の上位職業『大商人』ってやつだね。ちなみに全く神ジョブじゃないからね、むしろ産廃より」
「あーそれ、俺も知ってる。めちゃくちゃ不遇だって」
「え、そうなのか?けっこう便利そうだったけど」
先ほど体験した一連の流れで、きっと強ジョブに類するものなのだろうと考えていたサンラクにとって、二人が言った言葉は信じにくいものであった。
つい先日手に入れたインベントリアにも似た能力、おそらく個人で決めれる商品の値段、さらにはNPCとの深い繋がりを得られるジョブがまさか不遇・産廃と言われているとは
「うーん、まぁアンちゃん並にやりこむと産廃じゃないけど……カッツォくん、どのくらい知ってる?」
「表面上だけ。なんか商人で金稼ぐより他のジョブで物売った方が効率いいんじゃないっけ」
「じゃあとりあえず、そこらへんから説明しよっか」
咳ばらいをひとつ挟み、ペンシルゴンは机の上に大きな紙を広げながら説明を始める。
「商人ジョブって、まずは仕入れから始まって、なにをするにもアイテム集めが最初に来るの。けどここでまず一つの問題があるんだよね」
「どうやって仕入れるかってこと?」
「そのとおりだよカッツォくん。けどまぁ、ここら辺は自前で持ってるサブジョブなんかで代用する人が多いね」
問題点その1と書かれた部分に〇をつけるペンシルゴン。書き込まれていく文字列を見ながらサンラクとオイカッツォは説明に耳を傾ける。
「けど素材ってあくまで素材だから、使うには当然加工しなきゃだよね。となると、次の問題はなにかなサンラクくん」
「加工を自前で補えるかどうかが問題ってことか……」
「そ、NPCに持ち込んでも加工はしてくれるけど、大抵はジョブを変えて何とかしようとする。すると外されるのは当然、商人のジョブってわけ」
そのまま戻ってこないのが大半だと言いながらペンシルゴンは問題その2と書いて〇で囲む。後々戻る気があるかないかはともかく、現状で使えないのなら商人は外されるだろう。そしてそのまま人が戻ってこないのなら、確かに不遇ジョブといわれるのも頷ける。
「そこを乗り越えて、いざ商人を始めるワケ。でもってここでようやく商人の良い点があってね」
「おぉ!ついに良いところが!」
「商人だとそこらへんのNPCとも商品の売買ができるんだよねぇ。売値はその町の商店の二倍までが上限になるって言ってたかな」
「おぉー!けっこういいんじゃな「ところが残念、これにも問題があるんだな」えぇー……」
「カッツォくん知ってるの?」
「wikiで見た」
どうやらようやく出てきた良いところにすら
ガッツポーズしそうになったサンラクの手が力なく降りる。どれだけ問題あるんだ商人……!これもはやジョブとして機能してないんじゃないか……?
「このゲームさ、NPCにも好感度があるわけじゃんか。実はNPC同士でも連動して上下するっぽくてさ」
「おい嘘だろ」
「お察しのとおり、だ。調子に乗ってボったくると、その町で悪評が立つわけ」
「『
コンマ秒でフラグ管理しなければいけない
そうなんだよね、と事前に知っていた二人が肩をすくめ合っているのも仕方ないだろう。そんなところまで現実的じゃなくていいんだよ!という叫びは、商人というジョブを一度でも試みたことがある者が叫ぶ台詞No.1である。
「ついでに言うと、NPCの道具屋の好感度超えるまではほとんどNPCも来てくれないし、好感度超えたかったら安値で売るしかないんだけどさ」
「それならふつーにNPCにアイテム売った方が稼げるんだよね」
「バランス調整どうなってんだ運営!」
ぜーぜーと肩で息をするほどにツッコんだサンラクを見て、まぁそうなるよねぇという目になるペンシルゴン。
控えめに言ってクソといっていい調整させられているのは間違いないジョブだが、いちおうプレイヤーの金銭に対するインフレを抑えるためという名目のバランス調整ではあるのだ。
……あるのだが、それにしたって鬼畜すぎる。というのはおそらく全プレイヤーの総意だろう。
「他にも安値すぎると偽物疑われたり、そもそも道具屋と天秤商会が別の扱いだから個別の好感度調整がいったり、変に片方の好感度上げすぎると派閥争いに巻き込まれるだとかもあるねぇ……あとアンちゃん何言ってたっけ……」
「いや、もういいです……」
「なんだそのクソゲー……」
「アンちゃんいわく「これでもけっこう緩和された方」らしいよ」
聞くんじゃなかったとサンラクとオイカッツォがうんざりしているので、これくらいでいいかとペンシルゴンも
一の利益を得るために五の悪い部分が出てくる悲惨なジョブ内容を聞いて、確かにこれは産廃扱いされますわと納得するサンラク。しかも偶然とかでなく、明らかに意図的な調整なのですぐに緩和されたりすることもない。なおさらジョブ人口も増えないだろうと考えると大商人というジョブの希少性も見えてくるというものである。
「つまりペンシルゴンは保護者に口添えしてもらって、対価の天秤を借り受けたわけだ。信用なさすぎじゃないですかぁ?」
「PKプレイヤーのペンシルゴンがどうやって借りたのかと思ったら、まさかの保護者同伴とはねぇ」
「その保護者すら見つけられないボッチどもの遠吠えは心地いいねぇ」
ぐぬぬといわんばかりに歯噛みする男二人。とはいえペンシルゴンはアンバーの口添えに加えてメイン武器であった聖槍を担保にしないと借り受けられなかったので、他のプレイヤーでもそれなりの物を担保に要求されるだろう。まぁペンシルゴンはロンダリングのためにわざと聖槍を担保にした面もあるので、それが借り受けるのに適切な対価だったかは判断できないのだが。
「他にはなにかある?」
「あ、じゃあついでに聞きたかったんだけど、どうやって口添えしてもらったわけ?」
「つかそんな人とどうやって知り合ったんだ。PKするようなやつと関わりそうな人じゃなさそうだったが」
「ちょっとした借りがあってね、そこを盾にちょっと
そこでうーん、と口ごもるペンシルゴンにサンラクとオイカッツォは首をかしげる。
「実は五人がかりでけっこうガチPKしにいって勝てなかったんだよねぇ」
その後黄金の天秤商会に、男二人の爆笑と悲鳴が響き渡った。
(負けたとはいってない)