転生主人公、ガンプラバトルネクサスオンラインを遊び倒す 作:くずもちXXX
「むー……」
俺は店番をしながら、キット一覧を見て頭を悩ませていた。
するとベルが鳴って、店にお客がやって来た。
「いらっしゃいませー」
「お邪魔します」
おや、聞き覚えのある声だ。
俺は顔を上げると学生さんの男女が入ってきたところだった。
「おや、ヒロトじゃないか。どうしたの?」
「ちょっと欲しいデカールがあって、ひょっとしたらここにならあるかなって」
「はいはい、どんなの?」
「ファーストのキットに使えそうな、コーションデカール多めのやつ」
「あるね。ばっちりだ」
「あ……これいいな。他にもたくさんある……少し見てもいいかな?」
「もちろんもちろん、ゆっくり見て行って」
目を輝かせたヒロトはじっくりとデカールをチェックし始めた。
こうなると、まぁ長くなるのは目に見えている。
しかし問題は一緒に来た女の子だろう。
初めて来たお店でソワソワしている女の子をこのまま放置しては、イケてる模型屋店員とは言えないのではないだろうか?
友人の連れともなればなおさらである。
「何かお探しですか?」
「え! いえ、私はヒロトの付き添いで……」
「ヒロト君のお友達ですか。どうです? この店でもいろいろガンプラも取り扱っていますけど、よろしかったら何か作ってみませんか?」
「えっと……私ガンプラの事はあんまりわからなくて」
「いやいや、あまり考えすぎないでも大丈夫ですよ。ガンプラは初心者の方でも組みやすいですから、立体パズルみたいなものですよ。説明書も付いてるから安心です」
「立体パズルですか?」
「そんな感じです。何ならヒロト君に聞けば工作道具一式込みで貸し出した上に教えてくれますよ」
その点で言うのなら間違いない。
初心者でも怪我しないくらいに、作業をスムーズにしてくれるツールの数々をヒロトが所持しているのは、作品を見れば明らかだった。
「そ、そうですかね?」
「もちろん。趣味を共有できるのって嬉しいものですからね」
これもまた間違いない。
まぁ興味が無かったらなかったで、まぁそっかくらいのものではあるから、怯える必要もない。
模型とは突き詰めれば己の理想との対話であるからして。
好きな作品の立体物を部屋に飾ると、日々が潤うのが最も大切なことなのだ。
しかし完成品を誰かに見せてみたいなっていう願望もまた、模型の宿命ではあるから、塩梅の難しいところではあるが。
「……ちなみに。ヒロトが作ってるガンプラって、どんなアニメのやつなんですか?」
「…………アレは、全部手作りですね」
「手作り!? そ、それって難しいですよね?」
「初心者にはお勧めできない……かなぁ。ああ、でも、ところどころ最初のガンダムリスペクトを感じますね」
「じゃ、じゃあ、その、ヒロトが好きそうなので、おすすめってありますか?」
「そうですね……」
話の流れではあるが、中々ガンダム力を試される質問だった。
リクエストしたのは女の子。ヒロトと仲がいいならガンプラは作ったことあると思うが、どうせならガンプラ自体を楽しんでもらいたいところでもあった。
ええい、くそ。公式もいっそ、ぬいぐるみ型ロボに乗って戦う女児向けアニメガンダムでも作っておけばいいものを。SDガンダムだってやっぱり男の子のおもちゃなんよ。
ベアッガイⅢがいけるならどうにかなるだろう?
一般人の棚に飾って違和感なく、女性の理解が高まりそうな可愛いデザインでお願いしたい。女子に布教するから。
しかしやはりリクエストに応えるのなら、ファーストってことになるだろう。
作りやすく、それでいてヒロトもつい興味を引かれてしまうキット……と、なれば?
「ではこんなのはどうです? HGUCシャア専用ズゴック!」
「…………」
これはどういう反応? 正直かなり博打を打ったが!
女の子に水泳部って、丸っこいくらいしか気に入られる要素がないかな?
いやしかし、色だってマスコット寄りだし、パーツが大きいので作りやすい部類のキットではあると思う。
判定は?
「なんかかわいいですね! こんなのもあるんだ」
そうでしょー? 丸っこい感じいいですよね!
めっちゃホッとした。そんな気持ちはおくびにも出さずにビジネススマイルに徹した俺はイケてる店員さんだと思う。
「ええ。初めてでも作りやすいと思いますよ? 何ならここで作っても大丈夫です。ばっちり工具も貸し出しますので」
「これって……作りやすいんですか?」
ポソリとそう口にした女の子の視線が一瞬だけヒロトに向かったことを、このイケてる店員さんは見逃さなかった。
なるほど、簡単すぎると困るわけだね? 教えてもらえなくなるものな。
そう言うことなら難易度をぐっと上げましょう。これなら質問しても無理はないなと思えるくらいに。
「ああでも、作りやすすぎるかもー。ヒロト君くらいになるとHGは塗装前提って感じがするかもなぁ……そんなあなたにコレ。組み立てるだけで素晴らしい完成度、RGシリーズ……少々お値段しますが、難易度高いですよ? 玄人のヒロト君もてこずるはず。質問すれば手取り足取り教えてくれても不思議じゃない難易度です」
「買います」
「……毎度あり」
ふぅ、いい商売をしてしまった。
いい感じに高額キットが売れた頃、ヒロトもデカールを見終わったようだった。
「これとこれください……あ、ごめん、待たせちゃったな。ヒナタも何か買ったのか?」
「うん……えっと、これ店員さんにおすすめされて」
そんな説明と共にお出しされるRGシャア専用ズゴックである。
ヒロトの困ったような表情と、非難めいた視線が俺に突き刺さる。
いやいや、いいキットですやんズゴック。
「それは、少し大変じゃないか? せめてHGくらいにした方が……」
「え、えっと! 店員さんが作るだけでかっこよくなるって! どうせならかっこいい方がいいかなって!」
「それは……そうかな。塗装するよりは……それでも、時間かかると思うぞ?」
「じゃあ、わからないところがあったらヒロトに聞いてもいいかな?」
「それは構わないけど……いちいち家に来るの大変じゃないか?」
「大変じゃないよ。お隣じゃない」
「そうか? うん、わかった。じゃあ、工具も家にあるから貸すよ。ニッパーがあれば大丈夫だと思うから」
「うん!」
ミッションコンプリート。
素敵な店員さんはお高い商品をあえて売りつけた罪を甘んじて受けるぜ。
友人からの信頼をわずかばかり失った気がするが、俺はいい仕事をしたよ。
しかしこのヒロト、そう言えばお隣に同い年のかわいい幼馴染が住んでいたんだったね。
「……」
モテるなぁ、いやしかし主人公レベルのイケメンなら仕方がない。
いい商売が出来たので、俺も自分の作業に戻ろうとすると、ヒロトは気になったのか俺に訊ねた。
「ところで、何かタカマルはこれから作るのか?」
テーブルの上に置かれた様々な量産機の説明書を見れば、それは無理からぬことだった。
「ああ、俺の機体ってわけじゃないけど、GBNの機体をね」
今俺が取り掛かっているのは、とあるオーダーの下準備である。
しかしまったりしている暇もなく、急ぎの仕事だとも言える。
適当になんてできないから、少々頭を悩ませているのだ。
「実はオリジナルカラーの量産機を作りたいと思ってて、どうしようかなって」
「……量産機か」
おっと? ヒロト君の琴線に触れてしまった、そんな気配を感じた。
流石ファースト好きだ、面構えが違う。
ザクやドムを沢山買って並べるのは誰もが一度は通るロマンの形だと知る物だけが知っている。
「候補は?」
「今のところは……鉄血縛りでグレイズ。チームメイトつながりでハロ。コンセプトはブレるけど00系でサポート特化のGNアーチャー」
アーチャーはELダイバーの女性的なイメージと、例の粒子が強いからという若干メタ的な判断だ。
「へぇ。バックアップ目的の機体選びなんだな。量産テーマなら量産機メインの方がいいと思う。俺はグレイズがいいかなと思うけど……」
「なるほど……確かにコンセプトは大事か。じゃあグレイズにしようかな」
「量産型ってことは沢山作るんだよな?」
「え、ああ。最低でも5機以上?」
「ならよかったら手伝うよ。同じキット作るの大変じゃないか?」
「え? ホントに? それなら……」
と誘いに乗りかけたところで、店員さんは見てしまった。
幼馴染さんの顔が一瞬だけ曇りかけていることに。
是非手伝ってくれ!という言葉をぐっと堪えた俺は完ぺきな店員さんスマイルを張り付けた。
「いや! それはさすがに甘えすぎかな? こいつはうちのフォースの切り札だから。GBN用に考えた強力なギミックも内緒にしておきたい。今度戦う時の楽しみにしておいてくれ」
「ああ、そうか。そう言うことなら見ちゃまずいかな。わかった。頑張ってくれ」
「もちろんだとも。そっちも貴重な新戦力になるかもしれないお友達の機体、綺麗に作れるようにお手伝いしてあげてよ」
「うん。じゃあ、今日はこれで」
揃って帰る二人を見送って、俺は胸をなでおろす。
店員さんは頑張ったよ。ヒナタちゃんの楽しい時間は守られたのだ。
誰かの楽しい一時を全力で応援する、それがホビーショップ店員の心意気である。