転生主人公、ガンプラバトルネクサスオンラインを遊び倒す 作:くずもちXXX
「こんにちわー。近所でおいしいケーキ屋さんが出来て買ってみたんですよー。おいしいですよね甘い物―」
我がフォースネスト月庭園にて、もはや友達の家に訊ねてくる感覚の常連さんがオサカベ模型店からログインしていた。
それは別に良い。
近頃ゲームの腕もメキメキ上がり、シバ君の指南もあって個人戦に出場しても、いいところまで行くんじゃないかというレベルである。
だがしかし……俺は店員としてマイナスだし、何なら売り上げが減る危険性があるとしても聞かねばならないことがあった。
「ヒナタちゃん? 君……ガンダムベースはどうした? ヒロトの贔屓にしている店はあそこだろう?」
「……」
にこやかに話していたヒナタちゃんはピタリと動きを止める。
そして、消え入りそうな声でポツリと何か言った。
「…………です」
「え? なんだって?」
「ヒロトが全然私だって気が付いてくれないんです……おかしいですよね! 名前はそのままだし、アバターだって私に寄せてるし、声はそのままのはずなのに!」
「そうだねー……。お茶でも入れる?」
追い詰められた乙女の主張に、俺は新作を披露することにした。
「え? お茶? ……お願いします」
どうやら順調は順調だが、この子はまたいらぬストレスを抱えているようだった。
俺は紅茶のアイテムを用意して、そっと差し出す。
こいつはELダイバーのデータ整理の過程で生み出された特殊アイテム。味のする飲料である。
一口飲むと、広がる甘い香りにヒナタちゃんも多少落ち着きを取り戻したようだった。
「すみましぇん……というかちゃんと味がするアイテムなんてあったんですね」
「……嗜好品だよ。まぁそれはいいんだ。いっそ自分からばらしてみては?」
「……それは」
というか、そもそも隠すつもりなんてなさそうなさらしっぷりなのだが、本人は大層不本意そうな顔をしていた。
「最初は……すぐばれると思ってたんです。でもここまで気が付かないと……逆に私から言うのは、負けた気がするなって」
「負ければいいじゃない」
「で、でも! ……なんか悔しくないですか?」
言わんとすることはわからないではないが、張り合うところはそこではなくない? と思うのは俺だけだろうか?
ヒロトだって気が付いているけど、オンラインだから黙っている可能性だってある。
ネット上では表記がすべてだ。リアルは極力持ちだすべきではない。
ネットマナーとは、中々に奇怪な専用ルールで動いている場合だってあるのだから。
「なるほど……難しいものだね」
「はい……何か切っ掛けがあればいいんですが」
そして今の今までズルズルと来てしまったから、変化の切っ掛けがほしいと?
中々困ったことを言うヒナタちゃんだった。
「では? 貴女も大会に出場してみますか?」
しかしそう彼女に声をかけたのは俺ではなく、いつものメイド姿のリリネットだった。
「リリネットさん……大会ですか?」
すでに面識のあるヒナタが聞き返すと、リリネットはミヨンと送られてきたメッセージを開いて俺達に見せた。
「シード権、当たっちゃいました。モルガーナは第一回GBNガンプラフォーストーナメントでシード枠です」
「「え?」」
つい声が揃ってしまったが、俺が驚いたのも本当である。
「アレ! 当たったのか!」
思わずリリネットに詰め寄ると、リリネットは渾身のドヤ顔で肯定した。
「ええ。当たりました。すごいですか?」
「すごいすごい! よくやったよリリネットさん!」
こういう懸賞って当たったことはなかったんだが、そう言うこともあるんだなって軽く衝撃だった。
リリネットはご満悦のようだったが、すぐにいつも通りに戻るとヒナタに言った。
「そう言うわけで、どうです? 今度の大会、モルガーナとして出てみますか?」
「えっと……それはどういう?」
「何か現状を変える切っ掛けが欲しいのですよね? 味方でダメなら敵にということです。ヒロトさんもフォース戦には出てくるでしょう? その間、貴女とも接点は減るでしょうし、個人ランクの高いクジョウ キョウヤのフォースは人気です。突然行ってハイ入団とはいかないでしょう」
「な、なるほど……」
「それに入ったフォースがいいところに食い込めば……もはやGBN素人は卒業。初々しい初心者ではなく、対等な関係を結べるわけです。いい切っ掛けだと思いますが?」
「……いいんですか?」
「もちろん。他ならぬヒナタさんのためならば、選手枠の一つや二つ……」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げるヒナタちゃんを見て俺は思った。
うちのリリネットがまた、幼気な子供をだまくらかしているなって。
「ええもちろん。モルガーナは貴女を歓迎いたします」
「はい! じゃあちょっと特訓して来ますね!」
巧みに誘導されて、やる気をみなぎらせたヒナタはさっそく練習しにミッションカウンターに向かったようである。
頃合いを見計らって、俺はリリネットに訊ねた。
「……で? なんで急に勧誘なんて?」
するとリリネットは俺の顔をじっと見てから、理由を語り始めた。
「そうですね。彼女の希望を後押ししたいなと思ったところもありますが……ELダイバーは身近な人間の影響を強く受けるようなのです」
「なるほど?」
「しかしモルガーナの接点が多い人間というと……」
そう言われて、俺は渋面を作った。
「まぁ俺かシバ君だよね……情操教育には向いているとはいいがたいなぁ」
口も悪ければ、行動も廃人のそれである。
少なくてもリクや、ヒロトのような爽やかさはほとんどないと言わざるを得ない。
「その点でいえばヒナタさんは理想的です。フォース内でよい影響があるのではと期待しています」
「ぐぐぐ……否定できないのが悔しいな」
「まぁ……私はマスターから悪影響を受けたとは思っていませんけどね?」
「……マスターは止めときなさい?」
「なぜですマスター」
こういうやり取りも悪影響って言うのかななんて思いつつ、俺はちょっと予想していなかった流れに、高揚とそしてちょっぴりの不安を感じるのだった。