転生主人公、ガンプラバトルネクサスオンラインを遊び倒す 作:くずもちXXX
「大丈夫ですか?」
女性が落ち着くのを待って、話しかけてみる。
しばし放心していた彼女だったが、だんだんと目の焦点があって来ると、背筋を伸ばして頭を下げてきた。
「取り乱しました……危ないところをありがとうございます。それでここはどこでしょうか?」
「ここはGBNの初心者用ディメンションですよ」
ジロリとこちらを見てくる女性はずいぶん目力があった。
では質問。
「何かトラブルですか?」
「……いえ。森を歩いていたら先ほどのロボットに襲われたのです」
「貴女のロボットで応戦しても構わなかったと思いますよ? ほら、こういうの出せるでしょ?」
「……いえ。私は持っていません」
「操作が分からないのでしたら、教えましょうか? 調子が悪いんでしたら一度ログアウトしてみるのもいいと思います」
「ログアウト? ……いえそれも。必要ありません」
「なるほど……」
これやっぱり当たりじゃね? だとしたら大金星なんだけれども。
俺は興奮するのをどうにか抑えて、努めて冷静を装って言った。
「あなたのお名前は?」
「私……ですか? 私は……リリネット だと思います」
「ではリリネットさん。おかしなことを言うようですが……貴女がプレイヤーでもなく、ログアウト出来ない、この世界でしか生きられない存在だとしたら。私にご協力願えませんか?」
単刀直入に、ズバッと切り出してみた。
正直めちゃくちゃドキドキする。
どういう反応してくるかなー。ひょっとしてやべぇ奴かと思われるかなーなんて考えていると、心底戸惑った風のリリネットは、警戒心を出してきた。
「貴方は……何者ですか?」
「それこっちが聞きたいくらいなんですけど?」
でもね? 胡散臭いムーブはお互い様だと思うのですよ。
しかし初対面なら仕方がない。
情報交換はゆっくりやるとして、ひとまず作戦実行である。
「とりあえず、これあげます」
俺はストレージから、自作したアイテムを呼び出した。
こんなこともあろうかと! 用意していたアイテムは浮遊する立方体の形をした、非公式アイテムだった。
「これは?」
「貴女を調べるためのアイテムですよ」
「……それは大丈夫なものなんでしょうか?」
「……たぶん?」
「たぶんって」
「現状大丈夫ではなさそうなので、大丈夫にしようってアイテムですよ?」
ひとまずリリネットは、ELダイバー(仮)としておこう。
リリネットは眉間に皺を寄せて俺の渡したアイテムを覗き込んでいた。
他の子達はもっと素直な感じでしたよリリネットさん?
しかし協力してくれるのなら、ひとまずGBN内からサルベージする方向で手を打とうと思う。
用意したアイテムでELダイバーのデータ量を読み取り、大容量個人用サーバーを増設したGPD筐体に移す算段だ。
ELダイバーと言えど、データはデータ。情報を出来る限り集めて、GBNに限りなく近い環境を再現している。
これが今考える俺の箱庭計画第一段階である。
これでバグ認定されて消されそうになっても、スキャンやメンテナンスやらからいったん避難できる場所になるはず。
データを壊さないように移動できるかが問題だが、出来れば壊れたデータを修復できるまでに理解を深められればもうしぶんない。
俺のいきなりの申し出にアイテムをじっと見ていたリリネットは今度は無表情で俺の顔を見つめて、一つ小さく頷いた。
「わかりました……よくわかりませんが。そもそも何もわからないので、貴方の指示に従います」
「ありがとう。それじゃあ……さっそくやってみますよ?」
「そうですね。ではお世話になるあいだアナタの事はマスターと呼ぶことにしましょう」
「なぜに? マスターは止めときな? 俺の名前はオサカベ タカマルです」
「……残念です」
アイテムを譲渡し、スキャンは始まる。
結論を言えば、俺の改造は無駄にはならなかった。
我が家のGPDの筐体の上では、現在一件の家が建っている。
そこにはただ一人ELダイバーのリリネットのために用意された場所だった。
「どんな感じです? 体に不具合はないですか?」
外からひらひらとリリネットに手を振ってみた。
すると向こうも驚き顔で手を振って来て、なんとも不思議な気分になった。
現状外を出歩けるような素体までは用意できなかったが、立体映像でGPDの中で過ごすことなら可能なように作っていたが、実際目にすると感動が先に当たった。
「外の様子は見れている……維持も問題なさそう」
「体に違和感はありませんが、外に巨人が見えますね。それが不調といえば不調でしょうか?」
「そいつはリアルのタカマル君ですよ? さっき会った人の大本。貴女がいた世界がデジタルなんですよ?」
「……やっぱりよくわかりませんが、つまり私はどのようなものなのでしょうか?」
「そうですね……GBNの特殊な環境で新しく生まれたデータ生命体? はっきりしたところは定かじゃないですね」
「そうですか……ならこれからどのようにすればいいのでしょうか?」
若干不安そうなリリネットだが、俺としてはもう少し時間が欲しい。
現状完璧だと胸を張れるわけもなく。経過を見て調整したいところだった。
「そうですね……基本はここかGBN内で過ごして様子を見ましょう。経験を積んで記憶もあって、感情までどんどん蓄積していくのなら、データ量が増えれば増えるほど負荷もかなりあるかも」
「……それは、つまり、私が重いと?」
「……言い方よ」
何だろスゴイ圧を感じるね。否定せねば俺が破壊されそうである。
ただ、かなり雑多としたデータの集合体であることは間違いなく、その中核をなす部分を見極めないとうっかり弄って余計なデータを消してしまったら大変なことになりそうだった。
「ともかく現状安定してますよ。今GBN内ではあなたはログアウト状態になってるみたいですね。向こうでデータが破壊されるようなことがあれば危険だから気を付けて」
リリネットはリアルとGBNの区別はあまりついていないようだったが、しかしこれはサルベージが成功した……そう言ってしまっても構わない気はする。
長年、アニメでの描写を基に準備を進めていた成果が出たのは素直にうれしい。
ひとまず自分がここにやって来た役目は果たせた気がしてホッとした気持ちがあったのかもしれないと面白い感想が脳裏をよぎった。
「では元の世界にはいつ戻れるのでしょうか?」
「戻るのは今すぐにでも。でも戻るなら最低限壊れてもいい体を用意してからの方がいいかも?」
つまりはガンプラである。
しかしそんなこと言ってもリリネットには理解できるわけもなかった。
「壊れてもいい体ですか?」
「そう。まぁガンプラは登録できますから。貴女のアカウントも用意されてるんでガンプラがあればプレイヤーは守られるでしょうとも」
そうすればおそらくエネミーやプレイヤーに襲われても対抗することができる。
そこはやはりGBNもガンプラを戦わせる空間だった。
不意打ちで爆散なんてこともあるのだから気を付けてもらおう。
ゆくゆくはきちんとこちらの世界で活動できる体が開発されるはずだが、そこのところは俺に出来るかわからない。
GPDのシステムを利用したらしいのでどうにかしたいのだが、今の俺にはこれで精一杯といったところである。
「一応、美プラでも作ってみるかな? いや、それもどうかなぁ。先にリリネットを調べなきゃだし。ランクを上げてフォースも作りたい……やることが多すぎる」
「フォースというのは何でしょう?」
だが、今後について悩んでいると、リリネットから思わぬところに興味を持たれて、俺は驚いたが一応説明しておいた。
「フォースって言うのは……GBNでのチームかな? フォースを作ると大会に参加できるから作っときたいんですよね」
ミッションをある程度クリアし対人戦もこなす必要があるが、まだまだ始めたばかりで初心者の域を出ないからがんばらねばなるまい。
「ということは、もうメンバーに心当たりがあるのですか?」
「……いや。まだないですね。一人でもできるんだフォース」
「チームなのに?」
「そうだよ?」
そこは突っ込んでおくれでないよ。
リア友もあんまりいないし、ネットの中でもコンタクトがとれているのはヒロトくらいである。
まだ先は長いなと気分が重くなっているとリリネットははっきりと提案した。
「わかりました。では―――私があなたのフォースに入りましょう」
「へ?」
「機体を用意してくれると言っていたではありませんか。ならば私も入れるはずです」
まさかの申し出である。
実際可能か不可能かで言えば、もう可能となっているはずだった。
「そりゃあ、アカウントは存在するんだし、ランクを上げればフォースにも入れると思うけど……なんでそんなことをしてくれるんです?」
こんな胡散臭い男に身をゆだねていることもそうだが、思わず俺は尋ねるとリリネットは言った。
「敵意は感じませんでしたので、それに私もガンプラは好きなのです」
「あ、そうなの?」
そこはELダイバーの共通の感情だったりするのだろうか?
でも大丈夫かな? 消えちゃったらどうしよう?
理屈の上ではログイン、ログアウトができる今、普通のプレイヤーと同じだと思うが、試してみてうっかりもあり得るだけに、不安がないわけではない。
「おまかせください。タカマル。必ずやお役に立って見せましょう」
我が仕事だからこそ困惑する俺とは対照的に、なぜかリリネットはすこぶるやる気に満ち溢れた不敵な笑みを浮かべていた。
たぶん生まれたばっかりだろうになんでこんなに面白いことになってるんだろうと俺はちょっとその危なっかしさが不安になった。
しかし、ガンプラで一緒に遊んでくれると言うのなら嬉しいことだ。
幸い、Gレクス強化のためと考えていたプランがないわけではないが……。
「うーむ……大変だが。思いついちゃったし、乗ってくれるって言うなら」
ならば出来る限り急いでやろう。
大仕事だけに、俺はさっそくそっちの作業に取り掛かることにした。