TS転生者は顔が良ければ適当に生きてもいいと思っている 作:キッテー
世の中、誰にも憚らず適当に生きていくには色々と必要なものが多い。
金、才能、そして容姿。
正直言って、前世では金以外ろくなものを俺は持っていなかった。
その金にしたって、独身で趣味に金を使っていると言うだけで、別にいつだって財布に余裕があるわけじゃなかったな。
ハッキリ言って、退屈な生活だ。
それでも、別にそれが悪いというわけではない。
趣味を楽しむためにしたくもない労働をして、休日は趣味を存分に楽しもうとして。
気がついたらスマホを見ているだけで時間が浪費されていく。
そんな時間も、今思い返せば悪いものではなかったのだろう。
なにせ、なんやかや食事は美味しいし、娯楽も充実していたのだから。
適当極まりない生活だが、それがよかった。
だが、異世界は違う。
中世風ファンタジー世界に転生してしまってわかったことだが。
異世界には、前世以上に必要なものが多い。
金とか、才能とか。
ただ、幸いにも俺には――いや、私にはあった。
そう、私は誰もが目を見張るほどの美少女に転生したのだ。
加えて才能も、そこそこ以上のものを持っていた。
だから思うのだ。
誰にも憚らず適当に生きていけるなら。
適当で、いいんじゃね?
と。
ただし、
前世では、結局適当に生きているといっても、労働には縛られてたし自由も少なかった。
でも今は違う、この才能と容姿があれば、私は真の意味で適当に生きていける。
食べたい時に食べ、寝たい時にねて。
それが今の私の――リフィル・イフリシアの誰にも譲れない信条だった。
===
――一ヶ月ぶりに、拠点としているギルドに帰ってきた。
懐かしのホームになんとなく感慨を抱きつつ、扉を開けて中に入る。
そこには思い思いの装備をまとった冒険者と、その相手するギルド職員でごった返している。
視線のいくつかがこちらに向けられた。
半数は驚いた様子で、もう半数は親しげだ。
少し、見慣れない相手を観察する視線も混じっているかな。
一ヶ月離れていたから、その間にここへやってきた冒険者もいることだろう。
まぁ、わざわざ話をする必要はないから、私は適当に知り合いへ挨拶をしてからカウンターへ向かう。
顔見知りのギルド職員が、私に気付いて声をかけてくれた。
「リフィルさん、お久しぶりです。ご無事だったんですね」
「久しぶりミシェル。無事もなにも、気ままにふらっと出かけてただけだからね。一ヶ月も帰ってこれないとは私も思わなかったけど」
黒髪メガネのギルド職員、名前はミシェル。
年齢は19、彼氏募集中。
対する私はリフィルさん、冒険者だ。
年齢は18、彼氏は特に募集してない。
「いきなりいなくなっちゃったから、少し心配してたんですよ?」
「ほんとかー? ほんとに心配してたかー?」
「いえ、社交辞令ですけど。それで、どこに行ってたんですか?」
社交辞令かい。
全く心配していない様子のミシェルに苦笑しつつ。
私はこの一ヶ月の出来事を語って聞かせる。
「実は西の山脈にドラゴンが出たっていう噂があってさ」
「ああ、ありましたねぇ。そのすぐ後に聞かなくなりましたけど」
「それを聞いて不意にドラゴン肉が食べたくなって、狩りに行ったの」
「本当に衝動的ですね……」
うむ、衝動のままに行動したのだ。
具体的には話を聞いて、その日の冒険を終えて、夕飯何食べるか考えてる時にふと思い立って。
そのまま夕飯も食べずに出発した。
もう完全に夕飯がドラゴン肉のつもりでしたね。
まぁ、一日で西の山脈までたどり着けなかったので、途中の村で食べたけど。
「話を聞かなくなったのはそのすぐ後に、私が討伐したからだね」
「討伐したんですか? リフィルさんのことですから、現地についたときにはもう食べる気なくなってて、そのまま放置して別のこと初めてそうですけど」
「人を気まますぎる猫か何かと思ってる? いやさ、実は西の山脈に、ひっそりと隠れて暮らしてる人たちがいたんだよね」
「ええ、それってもしかして伝説にある西のハイエルフの集落ですか!?」
まぁそんなとこ。
いやぁ、噂には聞いてたけど、本当にいるとは思わなかったね。
とはいえ、別に連中隠れてるつもりとか全然なくて、単に集落が僻地すぎて周囲との交流がなかっただけみたい。
まぁ、そこら辺の話は置いといて。
「で、そのハイエルフ達が、ドラゴンに襲われてたのよ。こりゃ不味いと思って助太刀したわけ」
「リフィルさんが……助太刀!?」
「眼の前で死にそうな命くらい助けるって! 見捨てたらこっちの寝覚めが悪いんだからさ!」
というわけでドラゴンを倒して、ハイエルフを助けたのだ。
これに関しては、特に言うこともない。
ドラゴンって行ったって、特に特徴のない、普通のBランクドラゴンだったからね。
「そ、それにしたって、普通なら軍隊かAランク冒険者パーティが動くレベルなんですけど」
「私に不可能はない。んで、それを討伐してお礼にハイエルフの集落でドラゴン肉を調理してもらったの。ついでに宴会とかしてね、そこまではよかったの」
いやー盛り上がったね。
前世では陰のものだった私だけど、今の人生は結構陽な生活を楽しんでいるのだ。
だって……他に娯楽がないから……!
カムバックスマホ! カムバックソシャゲ!
こほん。
「まぁ、聞いてる限りだとそこまでは数日もかかってませんしね。そこからトラブルが発生したんですか?」
「うん、その時にハイエルフの里で作られてる秘蔵のお酒を呑ませてもらったんだけど――」
すさすさと、お腹を擦りつつ。
「……私、そのお酒でお腹を壊す特異体質だったみたいで」
いやぁ、酷かった。
もうちょっと、色々言葉にできないあれやこれやが起きて。
尊厳を失いかけたりもして。
「そ、それでずっと倒れてたんですか?」
「んや? それ自体は3日で治ったよ。とはいえ解毒魔術が効かなかったのは焦ったけど。まさか毒じゃなくて呪いだったとはねぇ」
「それでも3日はやられてたんですね……」
「うん……」
まぁ、最終的にハイエルフさんたちが過去の文献を引っ張り出してきて。
呪いと判明したため、解呪魔術で何とかなったんだけど。
ただまぁ、ここで別の問題が発生した。
「で、無事に快復したんだけど、実はその文献にはこうかかれててね?」
「ふむふむ?」
「”この酒でお腹を壊す人間は、神に選ばれた存在である”とかなんとか」
「判別方法がお腹を壊すことなんですか!?」
びっくりだよね。
いやまぁ、おそらく理屈としては合っているのだ。
私は転生者だから、神に選ばれているといわれればそうなのだろう。
実際に会ったことはないけど。
何よりこの容姿も才能も、神から与えられたものであると言われたら否定できない。
まぁ、与えられたなら遠慮なく使わせてもらうけどね。
でも、お腹を壊すのはなんかこう、神様の趣味か何かじゃない?
曇らせ趣味なの?
私も作品に曇らせタグつけてもいい?
ダメ?
そう……。
「で、どうなったんですか?」
「崇め奉られた。神になったんだよ、私は」
「はぁ」
めちゃくちゃ気のないミシェルの返事。
神に対して何だその態度は。
「でも、リフィルさんってそういうの普通に嫌いそうなイメージありますけど。束縛されるとか絶対いやですよね?」
「んまぁー、束縛じゃなかったからね。むしろめっちゃお世話してくれて楽でした……」
「じゃあつまり、一ヶ月行方不明になってたのは……」
「ハイエルフの里でめっちゃお世話になってたからっす。いやー楽しかった」
だってさぁ、温泉があるんだぜ? 温泉。
それも水魔術を火で沸かしたような簡易風呂じゃなくて天然温泉。
硫黄の匂いが最高なんだぁ。
エメラルドグリーンのお湯も最高でした……!
「おかげで、お肌がすべすべになってしまったぜ。知ってるミシェル、硫黄のお風呂には美肌効果があるんだよ」
「貴方に美肌効果は必要ないと思うんですけど……あと、一ヶ月ぐーたらしてたのに全然太ってないの何!?」
「そこはほら……私、顔がいいから」
「自分で言った!?」
いやだってほら……食べても太らない体質だから……。
逆に言うと、どれだけ食べても成長しないということなんだけど。
私の身長は、149になってから少しも成長していない。
あと1あれば……あと1あれば……!
んで、話としてはそれで終わりだ。
里を離れる時に、いつでも遊びに来てくださいねと渡されたお土産を、私はさっきから聞き耳を立てているギルドの連中にかざして見せる。
「まぁ、それは置いといて。ほーら皆の衆、聞いての通りハイエルフの里からもらってきた秘蔵の酒じゃあ! 特別に奢ってやろう! 飲むが良い!」
「あ、ずるい。私にも後でくださいね?」
「仕事終わったらね?」
あがる歓声、冒険者は酒を飲んでなんぼだ。
私が酒の話をしてから、目の色が変わった知り合いを何人か補足してるんだからな、こっちは。
というわけで、そこからは再び酒盛り。
私はもらったお酒を飲めないので、ギルドで酒を注文しつつ。
適当にそれを飲むのだった。
===
リフィル・イフリシア。
炎の名門魔術師、イフリシア家の長女。
神童と呼ばれあらゆる魔術、剣術、武術に才能を発揮した。
しかし肝心の炎の魔術に関する才能だけは妹のシェアラに劣っており。
それを理由に、家督をシェアラにまかせて出奔。
以来、冒険者としての生活を送っている。
美しい赤い髪と、整った顔立ち。
背丈は小柄ながらも、胸はそこそこに大きめ。
衣服は魔法剣士であるため女性らしい可愛らしさを残したスカートと、軽装鎧が特徴的。
性格は、一言で言えば適当。
飽き性で、少し魔術の勉強を始めたかと思えば、気がついたら剣術に傾倒していたりする。
逆に、やたらと集中力を発揮して一つのことに長い時間のめり込むこともあった。
ムラがある、とも言えるだろう。
他者に対する対応も適当の一言だが、決して悪辣というわけではない。
眼の前で困っている人間がいたら助ける程度の善良さはあり、なにより彼女は適当に楽しく生きることを是としている。
その姿が、多くの人々を惹きつけるわけだが。
中には、信奉のレベルまで至っている者も入る。
妹のシェアラとか。
これはそんなリフィルが、適当に適当を重ねつつ。
魔物を倒したり、倒さなかったり。
魔術を極めたり、極めなかったり。
巨悪を倒したり、倒さなかったりする物語だ。
というわけで、ゆるーくTS転生者が生きていく感じの話です。
無双したり、周りの脳を焼いたりします、しなかったりもします。