四月に入ってからの更新となります。
新しい携帯に買い替えなどで投稿が遅くなって
しまいました。本当に遅くなってすみません‼︎
今回はリクエストが多かったので出来るだけ早く
『転生したらスライムだった件 ■■の魔王』の
『最新話』を更新させてもらいました‼︎
今回は大量に『25313文字』を大判版振る舞いに
打ち込みました。
上手く楽しいお話に仕上がっているか豆腐のような
とても脆くて繊細なメンタルの自分としてはとても
不安です……
【お気に入り】や【投票】、【しおり】そして
【感想】などの『応援』していただけると本当に
ありがたいです‼︎
最後に『報告』がありますので是非とも楽しみ
にしてください。
最後まで読んでもらえたらとても嬉しいです‼︎
ジュラの大森林に接する最後の村で食糧などを
補給してから一週間後。
二ドル伯爵子飼い魔法使い──ロンメルは、
ヨウムを前にして萎縮してしまった。
凶暴な人食い虎の前に立たされた気分になり、
膝が笑いそうになる。
「で、俺達は何の調査に向かっているんだ?」
「それは機密事項であり、お答え出来ません」
「ああん? テメー、おかしな事を言うじゃねーか。
俺が優しく聞いてる内に答えた方が身の為だぜ?」
「本当なのです! 私も詳しい事は聞かされて
いないのです、信じて欲しい」
「ほほう、なるほどなるほど。俺達は契約魔法で、
お前さんに従わなければならない。だが、この任務
が完了したら、自由の身になっていいと約束して
もらった。そうだな?」
「その通りです。我が雇い主である二ドル伯爵との
契約は、その内容で間違いありません」
「それがおかしいって言ってるんだよ、ボケが‼︎
任務内容も不明で、どうやってそれが達成された
かどうかを判断するんだ? 任務内容も知らずに
この魔の森の最深部に向かうとか、お前の頭は
大丈夫なのか?」
ロンメルはヨウムの怒りを正面から受け、気が遠く
なりそうな程の恐怖を覚える。
実際、自分の説明がおかしいのは十分に理解して
いるし、かと言って本当の事を言えるはずもない。
本当のことを言おうものなら、その場で殺されても
文句は言えないだろうから。
「で、ですから、森に異変が起きていると自由組合
から報告があったのです。それで、何が起きている
のかをこの映像魔道具にて撮影し、それを持ち帰る
のが任務だと──」
「そうか、死にたいのか。よおく分かったぜ。
それとも
勝てるとでも思っているのか? 契約があるから
自分に逆らえないとでも思って調子に乗っている
んじゃないだろうな?」
この男は本気だという思いが、ロンメルの心臓を
鷲掴みにする。
契約魔法によりロンメルの命令に服従するはず
だが、この男にはそれが通じないのではないか、
そう思えたのだ。
「ひ、ひぃ⁉︎」
恐怖で後ずさったロンメルの首に冷たい感触が
当てられた。
「頭、こいつを殺してしまった方が早くない
ですかい?」
闇から滲み出たかのような黒装束の男が、静かな
口調でヨウムに聞いた。その手には黒塗りのナイフ
が握られており、それがロンメルの首に添えられて
いたのだ。
「まあ待て。ソイツが自分から口を開いてくれた
なら、殺すつもりはなかったんだが──」
「待て、待ってくれ! 言う、全部言うから
殺さないで……」
「おお、そうかよ。オークロードが出たから調査
に向かうと、ようやく教えてくれる気になった
んだな?」
「な⁉︎ なんでアンタがそれを知っているんだ⁉︎」
「ハッ! 馬鹿にしてんのか、テメー? 三十人
もいりゃあ、組合紛れ込ませてた部下と入れ替わる
くらい、簡単な話だろうが。お前を生かしてやって
いたのは、契約魔法を解除させる為だよ。
さて……。後はお前次第だが、どうする?」
ロンメルは迷うことなく、契約魔法を解除する事を
選んだ。このままでは殺されるのは明白であったし、
ヨウムという男からは逆らいがたい空気が漂っていた
からだ。
恐怖により縛られて、ロンメルはヨウムの言いなり
になってしまったのである。
「コイツがお利口なヤツで助かったぜ、兄貴。
このまま飼い殺しも真っ平だし、ようやく本物の
自由を手に入れる事が出来たってもんだぜ」
「で、コイツをどうするんで?」
魔法が解けた手下共が、好き勝手に騒ぎ始めた。
「助けて下さい。命だけは、どうか‼︎」
涙で顔を歪めつつ命乞いをするロンメルに、
ヨウムの手下が近寄った。
「まあ待てよ。ソイツもあの強欲な狸に雇われただけ
の人間だ。殺すまでもねーさ。それに、ソイツには
せっかくの魔法使いが、調査結果を報告せずに死んで
しまいましたじゃ話にならんからな」
「では、どうするんで? 常に見張りを付ける
くらいなら、殺っちまった方が無難ですぜ?」
ロンメルは、ヨウムと手下達の遣り取りを生きた
心地もせずに聞いていた。
「まあ待て。コイツはこれでも
と俺達の為に働いてくれるかも知れねーだろ?」
「働きます! 何でも言って下さい‼︎」
「ほら、コイツもこう言ってるし、さ。
それに、俺達の契約を解除してくれた恩人でもある。
殺すのはどうかと思うんだが、どうだ?」
「しかしですね……」
「裏切りませんから! 絶対に裏切らないから、
信じて下さい‼︎」
魔法学院を出て直ぐに貴族に召し抱えられた
ロンメルは、言ってみれば世間知らずだった。
ヨウムは最初からロンメルを殺すつもりなどなく、
自分の為に働かせようとしていたのだ。それを
見抜く事などロンメルに出来るはずもなく、
ただ助かりたい一心でヨウムに助けを求めるのみ。
「なあ頭、こういうのはどうですかい?
ジャギが
させてしまうってのは?」
「いや、自分程度の
抵抗されちゃいますよ」
「しません!
お願いします!」
「よし、それじゃあそれで皆は納得してくれるか?
出来れば俺としては、今後ともコイツには相談役に
なってもらいたいと思ってるんだ」
「俺達は頭に従いまあ!」
「兄貴がそれでいいなら、文句はねーよ」
ヨウムと事前に示し合わせていた通りに、
手下達は口々に叫ぶ。
ロンメルは素直にそれを信じ、ヨウムを信じて
もらおうと自ら契約の邪法をその身を受けた。
その後、大爆笑とともにネタバレされたのだが、
もはや後の祭りである。
ヨウムという小悪党の、言葉では何とも言い表せない
悪の魅力に魅せられてしまっていたのだ。世間慣れ
していない若造が、容易く道を踏み外してしまう
ように……。
こうして、ロンメルは心からヨウムに従うように
なり、辺境調査団は二ドル伯爵の首輪から活動を
開始したのである。
リムルがまだ
頃──フューズは三人の冒険者達を前に溜め息を
吐いていた。
ジュラの大森林で何が起きているのか調査に
向かわせたのだが、帰ってくるなり突拍子もない
事を言い始めたからだ。
三人の冒険者とは、カバル、エレン、ギドである。
それなりに腕の確かな、フューズが信頼している
者達だ。Bランクの冒険者だが、その実力は本当に
フューズも認める所である。
そんな三人から最初に聞かされたのは、フューズに
とっても恩人であった
だった。
「──という感じに、
に飲まれちまったんだよ」
「多分、そうなる予感がしてたから、町を離れた
んだと思いますよぅ……。自分に残された時間が
少ないって、あの人にはわかっていたんだと
思います」
「そうでやすねえ。あのまま意識が回復するか
どうか……。ひょっとすると、そのまま眠るように
逝く方が、あの人にとっては幸せなのかもしれや
せんね──」
そう口々に説明する三人。
父であるハインツから内密に頼まれていた。
シズさんはフューズからしても英雄であり、一緒に
魔物と戦った事もある仲間でもある。恩人の為と
あれば、フューズとしても文句などない。それどころ
か、最後に役に立てるとあって嬉しかった程だ。
現地調査が終われば、シズさんは魔王が治める領土
へと向かうのだと聞いた。思い残しがあるらしく、
シズさんの意思は固い。ならば、フューズが何を
言っても無断である。だからせめて、陰ながら
手助けしようと森の調査に向かわせる予定だった
三人に接触させたのだが……。
三人はシズさんの生死を最後まで看届ける事なく、
報告に戻ってきた。
この判断については、フューズに文句を言う資格は
ない。何故なら優先すべきは任務であり、シズさん
の事を三人に秘密にしていたのはフューズ自身なの
だから。
(だからと言って、魔物に任せて帰って来るか⁉︎)
文句を言う筋合いではないのかも知れないが、
釈然としないものを感じるフューズ。
それだけではなく、三人の説明には納得出来ない
内容が多かった。
シズさんの件は置いておくとして、報告を受けた
のだが……
前提になる話として、魔物が町を作っていたそうだ。
一匹のスライムを頂点とし、
いたそうだ。しかも人間の町のように、しっかりと
した造りになっていたという。
知恵ある魔物の中には集落を作る種族もいる。
下等な魔物である
建てる程だ。だから家や集落を作っていただけでは、
そこまで驚くべき話ではない。
しかし今回の三人の説明では、森を開拓して更地を
広げ伐採した木で家を建てていたという。しかも、
区画整理まで行い、建造予定の細かい分類化まで
行っていたというから驚きだ。
聞けば聞く程本格的な町造りだと思えるが、それを
魔物が行うとはにわかには信じ難い話であった。
そして気になるのがそのスライムである。
スライム──名をリムルというそうだが、単なる
そもそも、その町の魔物には全員に名前がある
らしく、今まで常識を覆すような状況であるらしい。
そうした状況になったのは、全てリムルという名の
スライムが出現したからなのだそうで……。
どう考えても放置出来ない案件である。
「で、魔物たちし案内されたのが、その町なんだよ」
「単体でCランクの、数百名規模の魔物の集団
ですよぅ? 正直言って、私達にどうこうなんて
生きた心地もしなかったんですが、なんと焼き肉を
ご馳走になっちゃいまして!」
「あれは美味かったなあ。丸三日、何も食って
やせんから」
放置出来ない案件であるはずなのだが、三人の能天気
な発見を聞いていると危機感が薄れるような気分に
なるフューズ。
その後、シズさんが暴走し、そのリムルが魔人化した
シズさんを倒した、と。
どう考えても信じ難い話だった。
イフリートは特にA級の上位精霊。万が一でもそんな
存在が悪意を持って暴れ出したなら、”
危険度判定となるだろう。
ブルムンド王国規模の小国なら、国家転覆規模の
危険度なのだ。
(それを──最下級の魔物であるスライムが倒した、
だと⁉︎)
冗談も大概にしろと怒鳴りつけたいが、三人は
いたって真面目に報告しているようだ。
その上、ドワーフの職人がいただの、大怪我を
負ったが回復薬を貰って治癒しただのと、夢でも
見たのかと問いたくなるような事を話し出す始末。
幻覚魔法を疑いもしたが、エレンさえも欺く幻覚魔法
となるとそれもまた特A級の危険度だろう。それに、
目の前の三人が着ている装備それ自体が、物的証拠
となる。
ウンザリする程であるガルム師の作品まである。
フューズの目利きでも、それは本物だったのだ。
それらの証拠がある以上、幻覚魔法は考えられない。
突拍子もない話だか、全て真実であると判断するしか
なさそうである。
フューズはどう判断すべきなのか悩む報告内容に、
頭を抱える事になるのだった。
やはり別の者にも調査に向かわせるべきだ、
とフューズは判断した。
一週間悩み抜いた末の結論である。
カバル達三人の報告では、魔物の町に危険は
感じないとの事だった。
装備や回復薬を貰って帰って来る程だし、そう思う
のも無理はない。また、三人の持ち帰った装備や
回復薬を調査した結果だが、装備に呪いの類は
かけられていなかったし回復薬は見た事もない
ような高性能なものだった。
三人が煩く文句を言うので、装備品は返却している。
というか、自分達の装備は壊れてしまったようで、
その装備品がなければ依頼も受けられない状態だと
泣きつかれたのだ。
その代わり、回復薬は残っていたものを微収させて
もらっていた。それを実際に使用して、三人の話の
裏付けを行ったのだ。
火傷の話が嘘か本当か確かめる為に、酷い火傷を
負って運ばれてきた者使用してみた。すると一瞬
にして、傷跡も残らぬ完璧な状態に治癒したの
である。
これは病院にいた魔法医師達達も驚愕していた。
神聖魔法にある神の奇跡に匹敵するとお墨付きまで
出来る始末。やはり三人の話が嘘ではないと証明する
結果となったのだった。
魔物の町だが、リムルというスライムの命令に従う
秩序がある集団であるらしい。
しかもそいつは、何を思っているのか知らないが
今度町に遊びに行きたいと言っていたらしい。
カバル達歓迎すると言ったそうで、フューズにも
リムルが来たら取りはからって欲しいと頼んできた。
フューズとしては、そんな正体不明の魔物を
ブルムンド王国に引き入れるなど言語道断なのだが、
かと言って単体でイフリートを倒すような魔物と敵対
するのは愚策であった。
(だが、そんな魔物を町に入れた時点で、国家転覆罪
が適応されてもおかしくねーよな……)
フューズの悩みは尽きない。
自腹で調査費用を捻出してでも、より詳しい調査が
必要であると判断したのである。
そしてフューズが派遣する人選について悩んでいた
時、新しい問題を抱えてカバル達駆け込んで来た。
ギルドの建物に、フューズを呼ぶカバルの声が響く。
本来は約束もなく会う訳にはいかないのだが、
その慌てた様子に只事ではない何かを感じたフューズ
は、カバル達を秘密を応接室へと通したのだった。
「で、今度は何だ、何か起きたんだろ?
そちらの方が関係しているのか?」
フード被った人物を指差し、フューズが問う。
「フューズさん、大変だぜ! この人が言うには、
オークロードが出現したそうだ!」
「オークロードだとっ⁉︎」
飲んでおいたお茶を噴出しそうになるフューズ。
ヴェルドラの消失から始まり、謎のスライムの出現、
そしてオークロード。
このブルムンド王国では比較的影響は少ないが、
近隣国家では魔物の出没頻度が高まっていると聞く。
これら一連の問題は、全て繋がっているのではないか
とフューズはうんざりしてしまう。
ともかく、オークロードである。
「失礼だが、そちらの方はどなたかな?」
冷静さを取り戻し、フューズが再び問うた。
その言葉を待っていたかのように、フードの下の素顔
を晒しながらその人物が解釈した。そして、フューズ
に向いて口上を述べる。
「失礼しやした。アッシはゴブタの部下で、ゴブトと
申しやす。今回は、オークロードの出現の一報を、
そこのカバル旦那に伝えに参りやした。我等が主、
リムル様よりの申しつけでありやす」
そう言うなり再びフードを深めに被り、椅子に座り
なおすゴブトと名乗る人物。
フューズはその顔をしかと見た。紛れもなく魔物──
ホブゴブリンである。人に似た外見ではあったが、
特徴的な緑がかった肌色は見間違えようもない。
(
言っていたのか──)
深く納得すると同時に、全てを信じる事にした
フューズ。だとすれば、今回のオークロードの出現
という情報も、嘘や偽りではないのだろう。
「私はフューズと申す者。この町──ブルムンド王国
と仰いましたな。一つお聞きしても?」
「なんでやんしょう?」
「貴方方の主リムル殿は、何故この情報を我々に?」
「アッシら下っ端には詳しい話はわかりやせん。
ですが、『最悪の場合は、人間達にオークロードを
倒してもらわないと駄目かもされない』そう仰って
おいででした」
「なるほど……」
「そう言い残し、リムル様方はオークロードの討伐に
向かいやした。なのでアッシとしては、オークロード
は既に倒されているだろうと思っている次第ですが
ね。アッシもゴブタの兄ィについて行きたかったん
ですが、リムル様からの勅命で仕方なくコチラに
来たんでやんすよ」
と、聞いてもない事まで口にするゴブト。余程不満
だったのか、その表情は面白くなさそうに不貞腐れ
たものだった。
そんなゴブトに構う余裕もなくなる程、フューズは
今言われた内容に慌てふためいていた。
(な、なんだと⁉︎ スライムがオークロードの討伐?
なんの冗談だ? いや、待て。我々は保険なのか?
そこまで先を見通して作戦立てる? 魔物が?
ありえんだろう‼︎)
激しく混乱しつつ、言われた内容を噛み締める
フューズ。
カバル達はというと、フューズに全て任せるつもり
なのか気楽そうな様子だった。その事にも腹が立つ
が、今はそれどころではないと心を落ち着かせる
フューズ。
「まあ、リムルの旦那ならオークロードなんて
敵じゃなさそうだわな」
「ですよぅ! だって、イフリートだって倒しちゃう
んですもん。オークロードって、育ってしまったら
厄介だけど、生まれたてならそこまで危険じゃない
ですもんね!」
「まあ、あっしらには関係なさそうでやすね」
という会話を聞いているだけでフューズの頭の血管が
切れそうになるが、気力を振り絞って冷静に状況を
整理してみた。
どうも三人といいゴブトといい、リムルという
スライムの勝利を疑っていないようだ。それはいい。
問題はそこではなく、リムルという魔物の思考で
ある。
どうもリムルとやらは、魔物らしくない行動が
目立つ。町を作り魔物を従え、それでいて人間とも
協力関係を築きたいと考えている節がある。
今回の件がその良い例だった。
自分達が敗北あるいは勝てないと判断した場合、
即座に撤退する予定なのだろう。人間側がその時に
なってからこの事態に気付いたのでは、後手に回り
過ぎる事になりなりオークロードの軍勢を止める事
など出来ないと予想して予想しているのだ。
(そうならないように、事前に伝えてくれたのだと
したら……)
リムルという魔物は、なにやら特殊なのではない
だろうか? フューズにはそう思えたのだ。
「わかった。情報を伝えてくれて感謝する。万が一
の場合はコチラでも対処するので、その時は協力を
要請するかもしれないとお伝え願えるだろうか?」
「了解しやした。それでは、アッシはこれにて」
そう言うなり、ゴブトは席を立ち部屋から退室して
行った。魔物らしからぬ堂々とした振る舞いである。
「では、俺達も行きますね」
と告げて、カバル達も部屋から出て行った。
「やれやれ、とんでもない事になったもんだ──」
そう呟き、カバル達が退室するのを見やるフューズ。
(こいつは、俺の手には負えんかもしれん。
まずはアイツに相談だな──)
フューズは親友であるベルヤード男爵の顔を浮かべ、
国を巻き込む覚悟を決めた。
その後、フューズの調査計画は大きく修正され、
三ヶ月に及ぶ調査が実施される事になったの
である。
そして、三ヶ月間が経過し、報告がもたらされた。
リムル達が、魔王ミリムの来襲を受けた頃の事
である。
いつもの場所にて、フューズとベルヤード男爵は
密会を行なっていた。
「これが今回の調査結果、か? 進軍からの推測で、
総数十万越えは確実だった、と。では、オークロード
が出現したのは間違いなかったのだな?」
「その通りだよベルヤード男爵。王にお願いし、
情報局を動かしてもらう許可を得るのにどれだけ
苦労したか……。だが、その成果は確かなものだ」
苦々しげな顔で、フューズは愚痴る。王に願い出た
際の交換条件は、フューズにとっては面白くない
ものだったのだ。
「ははは、聞いたとも。なんでも今回の件で、
情報局にも君の席が用意されたらしいね。
君のお父上も、早く息子に情報局統括の地位を
譲りたいと思っているのではないかな?」
「よせよ。俺はこの町のギルドマスターだけで
十分なんだ」
「よく言うものだ。だが、今は置いておこう。
この情報の価値は重い。魔物の町と、そこに住む
オークロードを凌ぐスライム。しかも、十万規模、
最大予想では二十万もの大軍支配する程に成長した
オークロードを。恐るべき点は、残された軍勢が
暴徒とならずに、各地に散った事だろうね。
これは本当なのか? いや、本当なのはわかるが、
信じられん」
親友のベルヤード男爵の気持ちは良く理解できる。
なにせ、フューズも同じ感想を抱いたのだから。
カバル達の情報と、ゴブトというボブゴブリン
からの伝言。
それらが真実であると仮定し、王へ願い出て情報局を
動かしてもらった。そして得た報告はフューズの想像
を超えるものであり、ブルムンド王国が未曾有の危機
に晒されていたのだと知る事になったのである。
十万から二十万もの軍勢を擁するオークロード。
そんなものを討伐可能な冒険者などいる訳がない。
オークロードを狙い撃ちして襲撃をかけ、それが
仮に成功したとしても──残された軍勢は暴徒と
化して、周辺の町や村を襲う。そうなっては対処
不能。国軍もってしても焼け石に水。数の暴力の
前に、小国の騎士団では飲み込まれるだけだった
だろう。
「確かに、信じられんよな。魔物がそこまで配慮
するものなのか? いや、それ以前にどうやって
暴走化させずに納得をさせた? それだけの数の
「満たせたのだろうね。本当に信じられない話
だけど、信じるしかないな。我々は、そのリムル
という名のスライムに救われたのだ、と」
「──そう、だな」
フューズはベルヤード男爵の言葉に同意すると、
そこで一旦言葉を切った。
そしてゆっくりと、自分の考えを纏めるように
口を開く。
「ここブルムンド王国から二週間程度の距離に、
魔物の町が出来ている。これもまた確認済みだ。
驚く程に機能美に溢れた造りとなっているそうだが、
遠目でしか観察出来なかったそうだ。広大な土地を
整地しているが、その全てを網羅するだけの警戒網
が敷かれていたそうだよ。情報局員ですら、侵入は
困難と報告してきた程だから、この町の魔物のレベル
の高さが窺えるというものだろう? 問題は──我々
と彼等の関係を、今後どのようにすべきなのか?
という事だな。
見なして接するか、脅威として排除を試みて
みるか──」
「待ちたまえ。排除と簡単に言うが、それは
そもそも可能なのかね?」
「正直に答えていいのか?」
「構わないとも。まあ、答えを聞くまでも
ないがね」
「フン。答えは不可能、だよ。お前さんの予想通り
に、な」
ベルヤード男爵はフューズの答えを聞いても眉一つ
動かさない。フューズもまたそれを当然の事だと
受け止めている。
それこそ、西方聖教会に依頼して聖騎士を派遣でも
してもらわぬ限り、ブルムンド王国のみでは勝機が
ないというのが結論だったのだ。
その魔物の国の住人は、最低でもCランクの魔物
なのだという。全魔物が
それは当然の話だ。
中にはBランクやAランクオーバーと思われる者も
いるとの事なので、総戦力となると計り知れない
ものがあった。
「一度、会いに行ってみるか……」
「お前が行く気か、フューズ?」
「ああ。俺がこの目で、リムルとやらを見極めて
みるさ」
ふむ、とベルヤード男爵フューズに頷いた。
敵対は好ましくないが、さりとて無視も出来ない
相手である。フューズとしては、他人ではなく
自分の目で見て判断する必要性を感じたのだ。
ベルヤード男爵としてもフューズを信頼してくれて
いるからこそ、それが一番良いと判断をしたの
だろう。
それに──
先日起きた出来事を思い出し、フューズはこれが
最善だと決意を新たにする。
先日、カバル達に魔物達に魔物の町への案内を
依頼した。その時、カバル達の前に突然見知らぬ
人物が出現した。
そして一方的にカバルに向けて話しかけてきた。
「お前がカバルだな? リムル様からの御言葉を
伝える。『オークロードの件は解決した。悪い悪い、
言うの忘れてたわ!』だ。確かに伝えたぞ」
突然の事に驚く一同だったが、一番驚いたのは
フューズだった。
その場所は自由組合内部の応接室で、防諜設備も
万全の部屋だったのだから。案内されて入室した
ならともかく、部屋の外から侵入を果たすとは
信じ難い能力であった。
「待て! お前は何者だ?」
問うフューズに、その蒼い髪の侵入者は冷たい
視線を向けてきた。
「俺の名は、ソウエイ。リムル様より”隠密”の役目
を与えられし者だ」
元とはいえA-ランクだったフューズが発する
『威圧』に動ずることもなく、ソウエイと名乗った
人物は平然と答えたのである。
圧倒的な格の違いを感じたものの、そこは海千山千
の情報局を使いこなすフューズだ。
「リムル……魔物の町の主だったな。魔物が何故、
俺達の心配をするんだ?」
ソウエイから、集められるだけ情報を集めようと
試みる。
「フッ、既にお前の仲間から聞いているのでは
ないのか? リムル様は、人間とも共存共栄を
模索しておられるのだ。何を警戒しているのか
知らぬが、拒絶より融和を選ぶ方が賢い選択だと
忠告しておこう」
それを聞き、フューズは驚きを隠せない。
その言葉の意味は、情報局員の諜報活動が露呈
していたという事実なのだから。
(参ったなこりゃあ。これは一度、こんな魔物を
従えるリムルとやらに会っておかねばなるまい……)
フューズはソウエイの正体が魔物だと見抜いていた。
その額の角を見るまでもなく、隠すつもりも
ないのか、
その
思えない。それなのに、フューズの勘が警鐘を
鳴らし続けていた。
フューズは己の勘を信じ行動する。
「なるほど、俺達が調査している事も把握済みって
訳か。と、その前に一つ聞きたいのだが……お前程
の魔人が、どうやってこの町に潜入が出来た?
この町はAランク以上の魔物の侵入を阻害する結界
に覆われていたはず。それなのに、お前さんのような
上位魔人が入れる訳がない」
ギルドマスターとして、フューズにはどうしても
見過ごせなかったのだ。
短い期間で確信にまで至ったのだが、目の前の
ソウエイという魔物は上位魔人で間違いない、と。
だとすれば、王国の防衛機構をどうやって擦り抜け
たのか、それを明確にしておく必要があった。
「ふむ、なるほど。結界の存在には気付いていたが、
そういう仕組みだったのだな。リムル様やシュナ様
であれば見抜けただろうが、俺には仕組みまでは
わからなかった。勉強になった代わりに、その問い
に答えよう。俺の身体は『分身体』であり、本体の
十分の一も
言うところのランク分けでは、Bランク程度の
でしかないという事になる。これで理解出来たか?
この王国の防衛機構は確かに優れているが、低級の
魔物を甘く見ているようでは、まだまだ甘いと言える
だろう」
冷たい視線を向けられるままに、ソウエイの説明
を呆然と聞くフューズ。
その内容は虚偽とは思えず、指摘は正確であった。
に力を入れる余り、基本的な事を見落としている
と指摘を受けた。それも、警戒対象である魔物から
の指摘である。
フューズが呆然となるのも、無理はない話だった。
「さて、俺はこれで──」
「待ってくれ!」
ソウエイが去ろうとする気配を感じ、フューズは
慌てて引きとめた。
そして、魔物の町の主であるリムルに会いたいと
申し出たのだ。
「──ならば、俺からリムル様へ伝えておこう」
というソウエイの言葉を最後に、その日の出来事は
終わったのだ。
そうした事情もあり、フューズ自身も出向く事
になった。
自分が国を巻き込んだのに、このままでは逆に
国に仕える事になりそうだと自嘲する。
(チッ。俺としては、国に仕えるつもりはなかった
んだがあ……)
そうフューズはそう嘆くものの、ブルムンド王国
には愛着もあり、見捨てて逃げる事など出来ない。
結局、カバル達三人組を案内人として雇い、
フューズも魔物の町──ジュラ・テンペスト連邦国
首都リムルへと向けて旅立つ事になったのである。
ヨウム一行は森を進んでいた。
ロンメルを従えてから数日が経過している。
二ドル伯爵の命令を聞く必要がなくなった後も、
ヨウムは町へと戻らずに森の奥へと進み続いて
いた。
ヨウムは二ドル伯爵領へ戻るつもりなどなく、
別の目的地へと向かっていたのだ。
「頭、なんで町へ戻らねえんですかい?」
「たまには女でも抱いて、スッキリしたい
んですがね……」
「黙れ、アホ共。二ドルの狸は気にくわねーが、
あれでも一応は貴族様だ。正面切って喧嘩を売っても
勝てる訳がねえ。あの狸を殺すだけなら簡単なんだ
が、それをしちまうとファルムス王国でお尋ね者に
なっちまう。王宮騎士が出張って来たら俺達も皆殺し
にされちまうだけだろうが!」
「そりゃあ、そうですが……」
「じゃあ、俺達は何処へ向かっているんで?」
「今頃聞くかよ? お前等も、ちっとは頭を使え。
いいか、俺達は──」
ヨウムはそう言うつつも、頭の悪い手下共へと
丁寧に説明を行っていく。
そもそもヨウム達が二ドル伯爵領へ戻っても、
まともな仕事にありつける事はない。
犯罪者として囚われ、再び強制労働をさせられる
のがオチである。なので、ヨウムとしては他国へ
流れるのが妥当だと考えていた。
「俺達は一度森の中央付近まで出向き、
オークロードの動向を調べる。それから安全だと
思える方向を探り、その先にある国に身を寄せる」
「だが頭、わざわざ危険な場所に出向かなくても
いいんじゃ……」
「なんだテメー、臆したのか? オークロード
は既に軍勢を率いるまでに成長しているそうだ。
そんな化物が向かう町に万が一でも居合わせて
みろ、確実に俺達もお陀仏となるだろうぜ。
危険だが、安全確保の為には情報を掴む必要が
あるんだよ」
「なるほど、流石は兄貴だ」
「わかりやしたぜ、頭!」
納得し、口々にヨウムに賛同する手下達。
そして、ヨウムの説明をするようにロンメルが
口を開く。
「それにヨウムさんは、戦闘行為をするつもり
なのではありません。一度私にオークロードの軍勢
を確認させ、それを二ドル伯爵に伝えるのも目的に
あるのです」
「おいロンメル、そりゃあどういう意味だ?」
ヨウムの副官であるカジルが聞き返した。
いまやロンメルはヨウムの参謀としての地位を
固めつつあり、一味の者達もロンメルの知恵を
求めているのだ。
「つまり、一度私の本来の仕事を全うさせた後、
我々がオークロードの餌になったのだと思わせる
のですよ」
「それってーと、つまり……」
「二ドルの狸に、俺達が死んだんだと思わせる
んだよ。そうすりゃあ追っ手がかかる心配もないし、
オークロードが二ドル領を目指していたら対策も
出来るだろうさ。まあ、故郷を見捨てるのも寝覚め
が悪いし、警告ぐらいはしてやろうと思ってな」
理解の遅いカジルに、ヨウムが補足した。
「ということなので、一度オークロードの軍勢付近
に近寄り魔法で探知します。軍勢の動向を確認出来
次第、私だけ転移魔法で二ドル伯爵に報告しに
戻ってきます。その際に、皆さんは皆殺しにされた
と報告しますのでご安心を。せっかくなので依頼料
を貰わないと、ね。その後は上手く理由をつけて
戻って来ますので、宜しくお願いします」
ヨウムの言葉を受けてロンメルが説明すると、
ようやく皆の瞳に理解の色が灯る。
「なるほど、俺達は安全と思われる国に逃げ延び、
新たな生活を手に入れる訳ですな」
「ああ。その通りだ」
ヨウムは皆で自由組合にでも所属し、身分を保障
してもらうつもりである。
自由組合の身分証は魔法による登録なので、
どこの国でも通用する。他国での犯罪歴は考慮
されないので、ヨウム達にとっては打ってつけ
なのだ。ただし、自由組合員となってからの
犯罪行為は全て記録されるとの事なので、
そこは十分に注意する必要があるのだが。
「ま、後は新天地に着いてから考えればいいさ。
俺達の規模ならそれなりの討伐依頼でもこなして
りゃあ、食っていけるだろうしな。だが、その前に
キッチリ生き延びなきゃならねえ。わかってるな?
オーク共に先に発見されちまえば、俺達の命も
危ないんだ。テメー等、気合い入れて周囲を警戒
するんだぜ?」
そう言って、ヨウムは話を締め括った。
先ずはオークロードの軍勢の発見、そして無事に
逃亡するのが肝心なのだ。無駄口を叩くのは
いいが、気を抜くのは御法度なのである。
そして数時間後──
交互に人員を交代しつつ、警戒しながら進む
ヨウム一行。
そんなヨウム達の進む前方から、戦闘音が
聞こえ始めた。
「頭──」
「シッ!」
全員を黙らせ、集合させるヨウム。
そして無言のまま合図し、陣形を整えさせる。
準備が出来ると同時に軽く前方へ手を振り、
静かに進み始める一行。全員が武器を手にし、
戦闘態勢となっていた。
そして全員の耳に、前方で戦う者達の声が
聞こえ始める。
「ちょ、ヤバイですって! そっち行ったら
ヤツの思う壺ですって!」
「でもでもぉ、このままここで戦っても勝てない
と思うわよぅ!」
「おいお前等、俺が持ち堪えていられるのも
時間のって、うぉ! 危ねえ!」
ギィン! ギャリィーーーン‼︎ という硬質なもの
同士がぶつかる音に加え、騒がしく文句を言い合う
人の声が聞こえている。
「貴様等、毎回毎回……こんな危険行動ばかり
取っておったのか⁉︎ なんでこんな出鱈目な行動
ばかり取っていて生き延びていたんだ? どうやら
俺は、貴様等を買い被り過ぎておったようだな──
チィ、エレン! 気をつけろ、そっちへと向かって
行ったぞ!」
音が大きくなり、会話までハッキリと聞き取れる
ようになった。
どうやら、魔物と遭遇した人間がいるようだ。
戦闘音が途切れずに聞こえる事からも、恐らくは
複数名の冒険者だろうと予想するヨウム。
「兄貴、どうしやす?」
ヨウムは迷った。
小声で問い掛けくるカジルに答えず、鋭い視線で
前方を睨みつける。
ヨウムの手下は総勢で三十名いる。しかし、冒険者
が基準とするランクで考えるなら、精々がCランク
程度の強さでしかないのだ。副官であるカジルが
Bランクに相当するかどうか。
ヨウム本人でさえ、強さには自信があったが
魔物との戦闘経験はそれ程多くはなかった。
冷静に考えるなら、この場はやり過ごすのが
正解だろう。
(チッ、面倒な……。そこの冒険者共には悪いが、
ここは撤退を──って、あの女⁉︎)
撤退を告げようとしたヨウムの目が、前方から
走ってくる女の姿を捉えた。先程から聞こえる声
に女性がいたので、戦闘中だった冒険者の一人に
違いない。
「チィ! お前等、戦闘準備だ。あのクソ女の
せいで、気付かれたぞ!」
ヨウムは『遠視』の
状況を視通していた。
大男の戦士が盾で蜘蛛の衝撃を捌いていたのだが、
衝撃を流し損ねたようで吹き飛ばされていた。
蜘蛛は戦士を追撃せず、そのまま後衛の女に狙い
を定めたのである。
硬くて厄介な相手を後回しにする、その程度の知能
は持っているという事だろう。
しかし、女の判断は素早く、そして迷いが一切
なかった。蜘蛛の狙いが自分に移った瞬間には、
既に逃走に入っていたのである。
正に冒険者である証明だ。
ヨウムは少し感心しつつ、『遠視』にて逃げる
女の後ろに迫った蜘蛛の化物へと向けた。その時、
蜘蛛の眼の一つが真っ直ぐにヨウム達を捉えた事を
知覚したのである。
女を追う蜘蛛は、正に化物でだった。
鋼よりも硬質なそうな外骨格で身を守り、関節部分
以外には攻撃が通りそうもない堅固な体躯。だが、
多数の関節を自由自在に動かし、その動きは人の
それより格段に速い。
脚の一本一本が研ぎ澄まされた刃のように鋭く、
木でも人でも簡単に貫きそうであった。それは
剣というよりは、凝縮自在の槍の如しである。
ここら一帯を支配していると思しき、
なのだろう。その異様な強さは、ヨウム達が倒して
きた魔物とは一線を画すものだった。
(あの冒険者達はかなりの凄腕だな。だからなんとか
持ち堪えているんだが、このままじゃあジリ貧に
なるだろうぜ……今はなんとか、あの剣士の
オッサンがいるお陰でどうにか均衡を保っては
いるようだが……)
正直な話、ヨウムにも勝てる相手だとは思えない。
「あれは──あれは、
A-ランクに相当する化物です‼︎ アレは不味い。
ヨウムさん、我々に勝てる相手ではありません。
逃げましょう──あれは相手が悪すぎます‼︎」
元素魔法:
青褪めた顔でヨウムに進言した。しかし、ヨウムは
その意見を却下する。
「駄目だ。あの化物の動きを見てみろ。木を足場
にして縦横無尽に移動してやがる。あの戦っている
奴等がやられちまったら、次は俺達だ。あっという
間に追いつかれて、俺達も全滅するだろうぜ。
今から全力で逃げたとしても無駄だろう?」
冷静に考えて、ヨウムはそう判断した。
ヨウムにナイトスパイダーの知識はなかったが、
一目見た直感で魔物の本質を見抜いていた。
その直感が、逃亡不可能だと告げている。
だからこそ、ヨウムは迷わず迎撃を選択した。
木々が生い茂る森の中。ナイトスパイダーは地上
を歩行するよりも素速く、木々を伝い獲物に迫る。
一度補足されてしまったら、最早逃亡は絶望的
である。
この森はナイトスパイダーの狩場であり、
ヨウム達は哀れな獲物でしかないのだ。
生き延びる為には、敵を倒すしかない。
それが唯一、生き残れる可能性がある回答だった。
「クソったれが、俺達を巻き込んだ代償は後で
キッチリと頂くからな‼︎ ロンメル、俺に強化魔法
をよこせ! カジルは指揮を執れ! 円陣を組み、
負傷したらすぐに交代させろ。さてと命令だ、
全員生き残れ!」
ヨウムの号令に合わせ、全員が円陣を組んだ。
中央部に、戦闘に不向きな回復役と偵察役、
そしてロンメルが入る。中の者達を守るように、
前衛は盾を構える。防御に徹し、決して攻撃を
仕掛けないようにと厳命されていた。中央の安全
な場所から、弓矢や魔法による攻撃でダメージを
与える作戦なのだ。
偵察役は弓を構え、ナイトスパイダーの接近に
備える。
ロンメルは魔法の詠唱を開始した。普段はならば
使わない〈刻印魔法〉を重ね掛けして、ヨウムの
強化を行なっていく。付与魔法〈
〈
〈
念の入れようだった。これにより、ヨウムは大幅
に身体能力が強化がされている。だが、しかし
ナイトスパイダーを相手取るには未だ心もとない。
それでも心を平静に保ち、ナイトスパイダーを
見据えるヨウム。
そして、戦いは始まった。
図々しくもその女は、迷う素振りも見せずに
ヨウム達の集団に飛び込んできた。
「お邪魔しますぅ!」
と叫びつつ、許可も得ずに円陣を組んでいる真ん中
に潜り込んだのだ。そうして自身の安全を確保する
なり、一息吐き呼吸を整えている。
大した肝っ玉だ、ヨウムはそう感心した。
「ちょ、姐さん! 一人だけずるいでやすよ⁉︎」
騒ぎながら一緒に逃げて来た盗賊風の男までも、
いつの間にか円陣の中にいた。
油断も隙もないとはこの事かと呆れるヨウム
だったが、今はそれ所ではないのだ。
「あんたねぇ……。私に文句を言えないと
思うんですけどぉ……」
「そんな事を言われても。あんなの相手にしたら、
あっしの出番なんてありやせんぜ。短剣じゃあ、
致命傷を与えるなんて無理ってものです」
緊張感のない会話を続ける二人を放置する。
「チィ。テメー等、後でキッチリと落とし前
つけてもらうからな」
ヨウムはそう一言だけ声をかけると、迫りくる
ナイトスパイダーへと向けて
かざした。
ヨウムの戦闘スタイルは、盾を持たない
での斬り合いである。刃渡り二メートルを超える
両刃の大剣は、その重量を威力へと変えて敵を
断ち切る恐るべき武器だった。その代わり、
扱いが非常に難しい武器である。だが、ヨウムは、
魔法の補助がなくても軽々と
だけの膂力て技量を持っていた。そんなヨウムが
魔法の補助を受け、鉄の塊と呼べる大剣を
振り回す。
その場に鳴り響くのは、硬質な異音。
ギャリィーーーン‼︎ という耳障りな音が、
ヨウムの神経を逆撫でした。ヨウムが振り回した
大剣が、ナイトスパイダーの脚を叩いた音である。
本来なら切り飛ばされるはずの脚だったが、硬質の
外骨格がヨウムの
(チィ、なんて硬さだよ。さっきの音の正体は
これか!)
ヨウムは舌打ちすると、円陣を組む
ナイトスパイダーを遠ざけるように立ち位置を
変えた。
与え易しとみたのか、ナイトスパイダーがヨウム
を追撃する。そして、獲物を串刺しにしようと、
複数の脚を連続で動かしヨウムへと迫った。
ヨウムは慌てずに、流すようにその攻撃を捌いて
いく。先程まで大男の戦士が盾で捌いていた攻撃だ。
盾を持たないヨウムは、技量により受け流しを選択
したのである。
永遠とも思えるようなそんな時間、ヨウムは
ナイトスパイダーの連続刺突を裁き続けた。
それはヨウムにとっての永遠であり、現実では
一瞬の出来事でしかない。脚の幾つかが頬を掠め
脇腹を抉り足を穿ったが、戦闘に影響が出るような
傷を負う事なく捌ききったのだ。
ヨウムがナイトスパイダーを引き付けている間に、
盾の男と軽装の剣士が戦線に復帰した。各種魔法
補助を受けなおし、仕切り直しとなる。
「すまねえ、巻き込んじまった。俺の名前は
カバル、文句は後で受け付けるよ」
「自己紹介している暇はない。俺の事はフューズ
と呼んでくれ」
「ヨウムだ。俺の仲間は足手まといにしかなら
ねえな。俺達だけでアレを片付けるぞ」
「わかったぜ」
「了解した」
短い会話にて話を纏めると、再びナイトスパイダー
へと攻撃を仕掛ける三人。
三方から囲むように取り囲み、ナイトスパイダー
の動きを制限する。三人が持ち回りで注意を引き
付け、その隙に残りの者が攻撃を仕掛ける作戦
だった。
硬質な外骨格を前にして、生半可な攻撃では通用
しない。ヨウムの手下達にもそれは理解出来ており、
下手な手出しを行う者は誰もいなかった。失敗して
ヨウム達に矢が刺さりでもしたら、それこそ目を当て
られない結果となってしまうだろうから。
彼等は己の役割が、足手まといにならぬ事だと
把握している。だからこそヨウム達の勝利を信じて、
守りを固めるのだった。
魔法使いであるエレンとロンメルは、それぞれ
得意の魔法を準備する。
エレンは
攻撃系魔法を多数使いこなせる
今は場所が悪かった。樹木が生い茂る森の中では、
最大火力を出せる火炎系魔法は使えない。魔法とは
イメージであり、ある程度は術者の意にそって改変
出来るのだが……高火力の火炎を抑える事は難しい。
そして今──
「私の最強魔法の一つを受けるがいいのよぅ!
魔法により、地面に落ちている石を弾丸と化す
土石弾。エレンはこれに更なる魔力を注ぎ込み、
無数の石を同時に弾丸と化してナイトスパイダー
へ向けて放った。
魔法により強化された石の弾丸は、一つ一つが
人の拳大にも相当するサイズである。速度と質量
から威力を算出するならば、一つの石でさえ
数トンの衝撃を与える凶悪無比な魔法の散弾だ。
ヨウムは大剣で受け流し、フューズは巧みに剣で
捌き、カバルは盾で攻撃を弾く。そうして三人が
交互に
に向けて全方位から襲い掛かる魔法の弾丸。
だがしかし、それらはナイトスパイダーの外骨格
を傷つける事もなく、簡単に弾かれてしまった。
一瞬グラつかせる事には成功したものの、それだけ
である。
「うそーんっ……。私のとっておきだった
のにぃ……」
残った魔力の大半を用いて練り上げたとっておき
が通用しなかった事に、エレンは愕然となる。
既に
その結果は惨憺たるものだった。
事実上、残っている切り札は最強魔法の
「驚く事もないでしょう。ナイトスパイダーは
A-ランクの
いても不思議ではありません。ここら一帯を支配
する森の捕食者である以上、この程度は当然かと。
我々レベルの魔法では、決定的なダメージを与える
事は難しいでしょうね……」
「じゃあ、どうするのよぅ?」
ロンメルはエレンの問いに肩を竦めて答える。
「支援魔法で援護するしかないでしょう」
その簡潔な返事に、エレンは言い返そうとした。
しかし、自分の魔法が全く通用しない現実を前に、
その反論を飲み込む。試していないが、
さえも通用しないのではという思いがあった
からだ。
「わかったわよぅ。地味だから、私はそういうの
苦手なんですけどぉ……
エレンの返事に、ロンメルは頷く。
ロンメルも
使用出来た。ヨウムに使用したのがそれであり、
他の二人も既に強化済みであった。
「敵の攻撃威力が高すぎて、魔法の効果が直ぐに
剥がれているようです。武器が破損したら終わり
ですので、こちらは〈
です。貴女は貴女で、
気を配ってもらえると助かります」
「わかったわよぅ!」
ロンメルの忠言にエレンも意識を切り替えた。
自分の魔法でダメージを与える事を考えず、補助に
徹する事にしたのだ。そうなればエレンも一流の
魔法使いである。残った魔力と回復を計算し、
適切な配分で魔法を行使していく。
そして、ロンメルも。
地味だが確実な魔法の行使で、ヨウム、フューズ、
カバルの三人の補助魔法が途切れないよう常に気を
配っていた。〈
が、その他の魔法も途切れる前に掛け直していく。
それは見事な、一流の魔法使いの仕事であった。
ここ数日ヨウムと行動を供にしてる内に、ロンメル
の中の気弱さが薄れて本来の才能が芽吹いた結果で
ある。
(やるわねぇ。これは私も負けていられない
のよぅ!)
そうしたロンメルの姿勢は、エレンの闘志に
再び火をつけた。
こうして二人は、地味ながらも重要な役割を
淡々とこなしていくのだった。
一方ナイトスパイダーと対峙する三人は、
命が磨り減るような緊張の中、ほんの少しも
油断出来ない刹那の駆け引きを繰り広げていた。
だがそんな極限の状況の中であっても、三人の顔
には不敵な笑みが浮かんでいた。
「よう、カバルっつったか? テメーの鎧、
俺の安物と違ってえらく頑丈じゃねーか」
「へへ、そうだろ? この鎧はあの有名なガルム師
の作品なんだぜ? だからこれはただの
じゃねーんだよ!」
「へえ、ガルム師つったら、あのドワーフの防具
職人かよ。道理で、直撃を受けたように見えたよう
に見えたのに無事だった訳だ」
「見られてたのかよ、恥ずかしいじゃねーか。
まあ、俺はこう見えて──」
「お前等、真面目にやれ! 俺が受け持ってる時に、
暢気に会話してるんじゃないぞ⁉︎」
まるで酒場自慢話するような気安さで会話する
二人に、フューズの怒声が飛んだ。二人は教師
に怒られた生徒のような顔で、同時に苦笑いを
浮かべる。
「代わるぜ、おっさん」
ヨウムが一際強く斬り付けて、フューズと交代
する。直前まで弱まっていた魔法の光が輝きを
取り戻し、準備が整ったのだ。
三人の連携に加え魔法支援のローテーションは、
昔からの知り合いであるかの如く絶妙であった。
これが即席であると信じる者はいないだろう。
「頼む」
その声を残し、フューズは攻撃の手を休めヨウム
と交代する。ナイトスパイダーの連続の攻撃を捌き
きり、神経が磨耗しきってしまいそうな程にくたびれ
ていた。しかし弱音を吐く事はない。何故ならば、
この三人の中でもっとも年長で経験豊富なのが、
このフューズだからだ。
フューズは元とは言え、A-ランクの冒険者で
あった。ブルムンド王国で自由組合支部長に就任
してからはなかったが、鍛錬を怠った事はない。
だからこそ今でもなんとかナイトスパイダーの
動きに対処出来ているのである。
(だが、俺も鈍ったもんだぜ。昔ならともかく、
今では
どころか、ほんの僅かな時間稼ぎしか出来ない
とは、な……)
そう嘆いているが、それでも三人の中で一番腕が
確かなのがフューズなのだ。
そんなフューズだからこそ、この先の展開も
予想出来てしまう。
(しかし、まずいな……)
このままではジリ貧なのだ。
格上の魔物が相手でも魔法があれば、通常は
なんとか勝負になるのだ。しかし、今回は勝手が
違う。
魔法に対する高い耐性を持つナイトスパイダー
には、武器による物理ダメージしか通じない。
身体能力から判断するに、ナイトスパイダーの
相手が出来るのは自分を含めた三人だけだと
フューズも理解している。ヨウムの手下は戦力と
ならないので、このまま三人で押し切るしかない
のだ。
しかし──
ここ十数分の戦闘を経て、ナイトスパイダーに
与えたダメージは僅かであった。
それに対し、三人に大きな負傷こそないものの、
蓄積された疲労は隠し様もない。
ヨウム一人が増え、魔法による援護が追加された
事で、なんとか拮抗したに過ぎないのだ。
「まずいな……」
「チィ、泣き言を言ってるんじゃねーよ!
テメー等が俺達を巻き込んだんじゃねーか。
コイツを倒さないと、皆殺しにされるだけなんだ、
文句や泣き言を言う暇があったらさっさと手を
動かしやがれ!」
カバルの呟きに、ヨウムが激を飛ばした。
三人とも痛い程に理解しているのだ。魔法という
大きな力が通用しない今、人の力だけでこの化物
を倒す事がどれだけ至難であるのか、を。
だが、諦める事は死に直結する。
三人は勇気を振り絞り、ナイトスパイダーへ
絶望的な戦いを挑み続け──
そんな時だった。
「あれ? カバルさんじゃないすか。
お久しぶりっす! ところで、毎回毎回魔物と
戦ってるようっすけど、そんなに戦うのが好き
なんすか?」
という、間の抜けた声が聞こえたのは。
そこに現れたのは、狼の魔物を駆る五名の魔物──
だったのである。
いつものパトロールを終えて、町に戻ろうとした
その時。
遠方にて戦闘音が聞こえた。
「ゴブタさん、どこかで戦っている音が
聞こえやすね」
片目に眼帯をした副官のゴブチが、ゴブタに報告
する。帰ってノンビリしたいと思っていたのだが、
どうやらそれは甘かったようだ。
「そうっすね。行った方がいいっすかね?」
「そりゃあ、自分は向かうべきだと思いますがね。
後で怒られるのは御免ですぜ?」
「わかったっすよ。じゃあ、さっさと行って
確認だけするっすかね」
そして今。
ゴブタは
「おう、ゴブタ君じゃないか! そこで暢気に
見てねーで、早く助けてくれよ! 早くしないと、
間に合わんぞ!」
ゴブタの軽い声と対照的に、カバルが必死に叫ぶ。
ナイトスパイダーの鋭い連続攻撃を捌きながらの
会話であり、カバルは半ばヤケクソになっている
ようである。
多脚攻撃の内の幾つかは防御しきれておらず、
カバルの鎧に弾かれているようだ。
確かに早くしないと、鎧が壊れてカバルの命も
危なそうであった。
「おや、そこにいるのはフューズさんでやすね。
アッシですゴブトでやすよ」
「おお、ゴブトさんも来てくれたのか!
早く、早く交代を‼︎」
ゴブトがフューズを見かけて話しかけた声に反応
したのは、今まさに
ようだった。どうやら本当に危険になってしまった
ようである。
「しょうーがないっすね、オイラがカバルさんと
交代するっす。ゴブチは皆を率いて、蜘蛛を翻弄
するっすよ!」
ゴブタの命令で、皆が一斉に動き出した。
ゴブタは素早く
に入る。同時に、ゴブチ率いる
人狼一体の動きでナイトスパイダーを翻弄し始めた
のだ。
それらは全て異常に硬い外骨格に弾かれてしまう。
しかし、
上回り、ヒットアンドウェーにて常に安全圏を
維持していた。
Bランクの
通用しない。しかし、動きだけならば互角である。
早々に牙と爪での攻撃を諦め、乗り手である
シフトさせたのだ。これにより、ゴブチ以下ゴブタ
の部下達による攻撃が、少しずつナイトスパイダー
に手傷を負わせていた。
「凄えな、なんて鋭い槍だ。どうも長さが伸縮
しているように見えるな」
「伸縮してるぜ。俺の両手大剣より明らかに切れ味
も上だ。あの武器さえあれば、俺だってもう少し
マシな戦いができただろうぜ」
戦線を離脱し、回復に努めるカバル感嘆して
呟いた。それに答えたのはヨウムであり、
いつの間にかカバルの隣で休んでいる。
「未だに信じられん。なんなんだ、あの狼は?
ブラックウルフやグレーウルフとは違う変異種?
それにしても……ボブゴブリンが、なんであんなに
良い装備を持っている? しかも、あの異常な強さ
はなんなんだ⁉︎」
フューズも肩で息をしながら合流し、呆れたように
呟いた。フューズの放った疑問に答える者はなく、
三人揃って仲良く観戦するのみ。今までの苦戦を
思い出せば、目の前の戦闘が俄かには信じられない
のだ。
狼鬼兵部隊達は果敢に攻めているように見えるが、
それはかなりの安全マージンを取った上での行動
のようだ。誰一人として怪我一つ負っていない
のである。
そして、唯一人ナイトスパイダーと対峙する事に
なったゴブタは飄々とした感じてナイトスパイダー
の意識を引き付けている。そう正論には毛負などは
なく、ナイトスパイダーの動きを完全に把握して
いるようであった。
「おい……あのボブゴブリン──ゴブタっつったか?
何者だ一体? いや、それ以前に──」
ヨウムは言葉を飲み込む。聞きたい事は山程あるが、
今はその時ではないと我慢した。そして一瞬たりとも
見逃さないように、戦いを食い入るように眺めるの
だった。
ゴブタはヒョイヒョイとナイトスパイダーの
攻撃をかわしていく。
(うーん、
比べると、こんな攻撃は屁でもないっすね)
ナイトスパイダーの動きをよく見ていると、
連続攻撃を仕掛ける前には一度動きを止める癖が
あると見抜いていた。そしてランダムに放たれる
多脚攻撃だが、リズムに合わせて脚が動くので、
次にどの場所を貫くのか予想が簡単だったのだ。
「んじゃあ、さっさと終わらせるっすよ!」
ゴブタは気合一閃、腰に差した小太刀を抜き
放った。そして寸分狂わずに、ナイトスパイダー
に
のである。
空を舞う、槍のような脚が一本。
ゴブタの斬撃により切断されたのだ。
「マジかよ!」
「ゴブタちゃん、凄い!」
「その小太刀、流石でやすね。惚れ惚れするような
切れ味でやす」
ゴブタと親しいカバル達が褒める言葉に、
気を良くするゴブタ。
この小太刀はリムルがゴブタとの約束を守り、
クロベエに依頼して打ってもらった一品である。
そこらの町の武器屋で売っているような安物とは
違う、切れ味に特化した名刀なのだ。
更にこの小太刀には、リムルのユニークスキル
『変質者』にて、とある魔法効果が付与されていた。
リムルが実験の一環で作った
ある。
ゴブタが念じると、刀身を氷が覆い氷槍となる。
更にはそれを
だった。
だが、ゴブタは魔法を発動させてはいない。
何故なら魔法の使用にはゴブタの魔力を大量に
用意いるので、勝手気侭に使用する事は出来ない
からだ。ハクロウからも常々、切り札はタイミング
を見極めてから使えと言い含められてもいる。
ゴブタは素直に言い付けを守り、無駄な行動を
取る事はないのだ。
そして今は、
あった。
「こっちの方が凄いっすよ!」
自慢したくなったのか、左手で握り締めたまま
だった鞘を掲げて見せた。
「鞘……?」
ギドの疑問に答えるより早く、ゴブタは次の行動
に移っている。
鞘の口を、ナイトスパイダーに向けて構えた。
次の瞬間、鞘が鈍く黒赤色に光る。
鞘の内面は全面”魔鋼”で覆われており、
ソレノイド状に絶縁電線が密巻きにされていた。
そこに、ユニークスキル『変質者』にて封じられた
『黒雷』が迸る時、強力な磁場が発生する。これを
利用して、鞘の底仕込まれた弾丸を射出するのだ。
所謂コイルガンの原理である。
名付けて”
リムルが遊びで作ったものだが、ゴブタはこれを
非常に気に入っていた
打ち出されたのは、直径二センチ程度の鉄の塊。
音はしなかった。しかし効果は劇的である。
ナイトスパイダーが苦悶に蠢く。その口が小刻みに
震えて掠れる事で、まるで泣き叫ぶように不気味な
音が漏れ出した。
それもそのはず。
その眼幾つかが無残に抉れて潰され、青色の液体が
噴出しているのだ。
「ヒュー! ゴブタさん、凄いっすね!」
ゴブタの部下達が喝采する。しかし、カバル一行
は唖然とするしかなかった。
フューズでさえも、今目の前で起きた事が出来ず
にいるのだ。
「──おい、今のはなんだ⁉︎」
フューズが戸惑いの声を上げた。
しかし、ゴブタはそれに答える事なく──
「さあ、今日はご馳走っすよ! この蜘蛛、
滅茶苦茶美味しそうじゃないっすか!」
目の前のナイトスパイダーに夢中になっていた。
脅威としてではなく、美味しそうな獲物として。
「おいおい、そいつはA-ランクの
なんだぞ⁉︎ それを美味しそうって……」
無視された形になるフューズだったが、文句を
言う声には力がなかった。目の前の現実に、
頭が追いつかないのだ。まるで放心したように、
ただ呆然と成り行きを見守るのみ。
ヨウム達一行も同様で、命をかけた遣り取りを
していたはずの脅威が、何も出来ずに倒されて
いく様を眺める。
ヨウムはそれはそれが面白くないのだが、
自分でも何が気に食わないのかわからない。
自然と憮然とした表情となっていく……
ゴブタ達五名は、そんな一同を置いてけぼりに
して、目の前のナイトスパイダーを解体しようと
近づくと
ピクッ……
「ッ‼︎ ゴブタさん! 離れたほうがいいっすよ‼︎」
「えっ? どうしてっスか?」
ゴブタの部下の一人が何かに気が付いたのか急いで
目の前のナイトスパイダーから離れるようにゴブタ
に言うがゴブタは意味がわからないといった表情
を浮かべていると
シャァアアアアアア‼︎
ゴブタからの攻撃であれ程のダメージ受けたはず
のナイトスパイダーがいきなり奇声を出し始めて
残っている槍のような脚がギギギッ…とゆっくり
動き出して目の前にいるゴブタに狙いを定めながら
最後の悪あがきなのか先程よりも早いスピードで
襲い掛かってきたのだ。
(ま、マジっすか……‼︎ これは油断してたっす‼︎)
ゴブタがそんなナイトスパイダーを見ながら
どうすればいいかと考えていると
「危ない‼︎ 伏せて‼︎」
何処からか声が聞こえてきてゴブタは驚いたが
今はそれしかないと思ってその声に従って伏せると
「はぁぁああああああ‼︎」
上から声が聞こえてきたのでゴブタ以外、
フューズ達が上を見上げると一人の女性が空中で
掛け声を出しながら剣身さえも『真っ赤な剣』を
握りしめていて
そして
バシュッ!
とナイトスパイダーの首を斬り付けてあの硬い外骨格
を持っていたナイトスパイダーの首をまるで豆腐でも
斬るが如く軽々と斬り落としてしまった。
「マジかよ……」
「す、凄すぎるわよぅ……」
「あのゴブタさんが持っていたあの小太刀よりも
恐ろし過ぎるぐらいの切れ味の剣でやしたね……」
カバル、エレン、ギドの三人はそんな一瞬の出来事
を見て驚きを隠せなかった。
「あの外骨格が硬いA-ランクの
あんなにも軽々と斬り落としてしまうなんてな……」
「うっそだろ……」
更にフューズやヨウムも驚きを隠せず無意識に
声に出していた。
「大丈夫? 怪我をしている人とかいない?」
そんなカバル達一行を心配して声を掛ける女性。
その人物の正体は仮面を付けたかつての”英雄”、
シズが驚いているカバル達一行やゴブタの部下達、
「いやー‼︎ 本当に助かったっすよ‼︎
それにしても……」
ゴブタはシズに笑顔で感謝を言った後、ゴブタは
なぜかチラリと視線を下に向けて
「一体、どうやったらそんなにも大きなおっぱいが育つっすかね?」
ゴブタがお気楽にシズにそういったデリカシーのない
セクハラのようなその内容を聞いた瞬間、一瞬にして
その場の空気が凍りついた。
「女性にそういう事を聞いちゃダメなんだよ? ね? 分かるよね?」
「は、はいっす………………」
シズが「ふふっ…」と笑みを浮かべながらゴブタに
そう言うとゴブタは額に一筋の汗が流れ落ちて更に
引き攣った表情を浮かべて背筋に寒気を感じながら
シズに返事する。
「ご、ゴブタさん……」
「まったく……」
「困りやしたね……」
副官のゴブチを含めた
ゴブタの姿に呆れた表情を向けて呟いていた。
「じ、自分は今の状況を報告してくるっす‼︎」
ゴブタは話を誤魔化すかのようにその場にいた
カバル達やフューズ、ヨウム、そしてシズに
そう言って急いでその場から少し離れた場所で
すぐに『思念伝達』で会話を始める。
そして、
「ちょっとしたら、回収班が来てくれるそうっす。
ゴブチ、三人残って周囲をきちんと警戒をする
っすよ。オイラはカバルさん達を先に案内して
おくっすよ‼︎」
「了解しやした。お気をつけて」
会話を終えて副官ゴブチと短い遣り取りを
した後、
「それじゃあ、行くっすよ‼︎」
ゴブタはそう言った後、カバル達に出発を促した。
フューズは、放心して。
カバル達は、嬉々として。
シズは安心して。
ヨウムは憮然としたまま。
リーダー格が反応しないので、ヨウムの手下達は
困惑しながらも同意する。
こうして一同は、何がなんだか理解出来ぬままに、
目的地である魔物の国──
なるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます‼︎
今回ゴブタはシズに対して何も考えずにデリカシーの
ない言葉をはっきりと言っていましたね。
ゴブタ、本当に恐れ知らずな奴ですね……(呆れ)
これからも『応援』などをしていただけたら
更に投稿する頻度が早くなるかもしれません。
それと『他にも投稿作品』もありますのでそちらも
見ていただければとてもありがたいです‼︎
【報告】
近いうちに『デート・ア・ライブ ■■■の精霊』と
『ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師』を更新を
する可能性があるので皆さんどうか温かい目で期待を
して楽しみにいただけたら本当にありがたいです‼︎