はじめまして。
私は調査員の優里と申します。
性別は女性、髪色は……最近茶色に染めてみました。エクステにも挑戦してみましたが、長い髪はやっぱり鬱陶しいです。
調査員というのは、”モンスター”を調査する名前の通りの職業です。
”モンスター”は特別な資格を持った人間でない限り、大変危険で手の施しようのない野生生物。故に、世界中で年中”モンスター”による被害を被る人がいます。
私のお仕事は、そんな”モンスター”に襲われた人たちの記録を見たり、聞いたりして、そこから情報をできる限り抜き取る……下っ端のお仕事です。
今回の記録は被害者様のスマートフォン内に残されていたビデオ。
映像。つまりは、結構グロテスク。
だけれど、サボるわけにもいきません。
どうか、皆様もお付き合いください。
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ビデオ詳細
撮影場所:日本 福岡県 博多市
撮影日時:AM:1:00
付記事項
『撮影者は当時、博多市の森林にて自身のYouTubeチャンネルにアップロードするための動画を撮影していた模様』
再生開始
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一切の汚れなきレンズが、鬱蒼とした森林の隅々までを映している。
忙しく左右へ移動する視点は、撮影者の高揚を意味しているのか、留まることを知らなかった。
「どーも皆さん。今回はですね。こんな感じの、森に足を運んでいます」
周辺の暗さにも関わらず、撮影者の声音ははつらつとしていて、見る側の感覚を麻痺させてくる。
「こんな深夜に、って思う方もおられると思うんですが……今じゃないと出ない珍しい昆虫がいてですね、今回のターゲットがそれなんですよ!」
台本の存在を感じさせない、されど整合性のとれた台詞を吐きながら、撮影者はどこまでも生い茂る草囃子を掻き分け進んでいく。
遠くから発せられた狼の遠吠えのような音と、雷鳴にも似た轟音をカメラが捉えた。
当時、博多市には”モンスター”警戒情報が発令されていたらしい。
市内では『リオレウス』が目撃され、大規模な火災が発生。多くの死者を出す結果となったようだ。
とはいえ、ハンターを中心に都市は防衛されているためか、その包囲網を抜け人里に現れる”モンスター”は稀だ。
裏を返せば、”モンスター”は普段、人に訪れない地に姿を潜めているということ。
「どこにいますかねぇ……流石に、そいつは食えないんですが、見ることができるのも希少なので是非とも、見たいところです」
足場の悪い立地で、言葉が途切れ途切れになる撮影者。声だけで年を想像すると、これだけ歩いても息切れしないのは相応の体力を持っていると推測できた。
「夜は光って見えやすい、蛍みたいな虫なんですよ。今回の獲物は。調理は難しくても、捕獲だけはいける……かも!」
今になって、撮影者の片手には虫取り網が握られていることが判明した。網目が丈夫そうな、値の張りそうな虫網だった。
撮影者が暫く歩いていると、唐突に足を止めた。
嫌な静けさが訪れる間もなく、
「キツネ……とかですかね? いや、ここにはいないか」
語尾に笑いを混じえて言う撮影者。その声色には、確かな動揺が見えた。
また、同じような雑談をしながら叢を進む撮影者。鬱蒼とした木々は、街の光さえも覆い隠して、完全な自然の空間へ撮影者を孤立させてしまっていた。
再び、足を止める撮影者。
叢を揺るがす音が響く度に、映像がそれに応じて小刻みに揺れる。
”モンスター”は何も、『リオレウス』のような大型のものだけではない。
『ランポス』や『ジャギィ』といった小型のものも、多く存在している。
呼吸に乱れが見える撮影者。
そんな事はお構いなし、という風に蠢いては音を掻き立てる草囃子。
撮影者は、我慢ならなくなって走り出してしまった。
初めは陸上部顔負けの疾走を見せてはいたものの、足場の悪さと、極限の状況下というのが相まって、次第に足取りはおぼつかなくなっていった。
撮影者の足音に混じり、叢が蠢く音は次第に勢いと大きさを増していく。
撮影者はいよいよ泣き出しそうになり、荒々しい呼吸音がカメラの至近距離で捉えられていた。
暫く、そういった物音だけで映像は成り立っていた。
やがては静かになり、雑木林を歩いていた筈の撮影者の足音は、木目の板を踏むものへと変化した。
小さな小屋か何かを見つけたのか、そこに身を潜めた撮影者。
カメラの機能によって、そこがドラム缶が大量に置かれてある放棄された農家の小屋であると分かったが、実際には暗黒に包まれていたことだろう。
呼吸の音だけが静かに鳴る中、薄っすらと見える視点の中で何かが蠢いていた。
当然、それは人ではない。
「巻いたかな……? はは……あー、焦った」
撮影者は安堵の声を漏らす。
暗闇で蠢く何かは、その数を増した。
黄色の鱗。恐ろしく鋭い目。
トカゲが巨大化したような生物たちは、虎視眈々とカメラを睨みつつ、こちらに忍び寄ってきている。
男はそれに気づかず、視聴者に向けて声明を出す。
「いやぁ……”モンスター”……でしたかね? だったら、俺やばかったぁ……結構怖かったっす。人生で指折りに」
生物たちがカメラから少し離れた位置で静止した。
「今ですね、”モンスター”警戒情報出てるんですよ。でもどうしても我慢しきれなくって、出てきちゃったんですよね。今度からこんな事しないほうが身の為ですね」
カメラが動いた瞬間、生物たちは一斉に飛びかかった。
悲鳴が鳴り響き、カメラは天井を映すも、数頭の生物――『ジャグラス』達に生きたまま貪り食われて、次第に絶叫の声量を弱らせていく撮影者の様子は、しっかりと映っていた。
一頭の『ジャグラス』がカメラに赤く染まった鼻先を覗かせる。
先程からあちらをとらえていた物が、気になっていたのだろうか。数刻の間匂いを嗅いだりした後、興味を失くして何処かへと去っていった。
バッテリーが切れるまでの数時間、カメラは淡々と薄暗闇を映すだけで、何の変化もありはしなかった。
ただ一瞬、ホタルのような光が横切っただけだったが、恐らくはカメラの不調だろう。
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再生終了
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生きたまま貪り食う。
”モンスター”に限らず、虎やライオンだってすることです。
今夜の晩ごはんはそうめんですね。
特段、ここから得られるような情報は少なそうに思えますが、色々ありましたよ。これ。
『ジャグラス』は基本、群れで行動する小型モンスターです。
黄色い鱗と髪のような毛。”賊”に似ているという学者さんも多いようです。
『ジャグラス』には『ドスジャグラス』という親玉的存在がいます。『ドスジャグラス』は大食漢でありながら、その大きなお腹に獲物を丸呑みしてから、他の『ジャグラス』にお裾分けするいいヤツなんです。
基本的には……『ジャグラス』はその親玉から食事を供給してもらうので、積極的に狩りをするなんていうのは珍しいんです。
とはいえ、撮影者様が『ジャグラス』の縄張りに踏み入ってしまった可能性は大ですし、彼らにとっては単に獲物の排除だったのかもしれません。
ですが、撮影者様のおっしゃっていた
それに加え、『ジャグラス』という生物は縄張りに侵入者がいたとしても、一旦木の上に登って警戒するほどの臆病者。
この子達の行動は単なる侵入者の排除に過ぎないのでしょうかね。
っと……適当にそれっぽいこと書いとけば、上の人達はお給料をくれるので、下っ端とは言えいい仕事です。