ストライクウィッチーズ 黒き槍騎兵   作:ブンブク

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待ちに待ったサーニャ回です。


第10話 夜間哨戒任務

 

 

 

 

 

1944年 8月 ブリタニア上空

 

 

 

 

 

「……………………。」

 

カールスラントの輸送機Ju52の機内にて坂本美緒は眉間に皺を寄せ、不機嫌さを露わにして座っていた。

 

「不機嫌さが顔に出てるわよ坂本少佐」

 

坂本の向かい側に座るミーナが笑顔を浮かべて言った。

 

「…………わざわざ呼び出しといて何かと思えば、予算の削減と聞かされたんだ。嫌でも顔に出るさ」

 

坂本とミーナは、ブリタニアにある司令部に呼び出されていた。内容は501部隊の予算削減であった。

ネウロイに唯一、正面から対抗出来る戦力としてウィッチは重宝されている。

その有効性は各国も認めており、ネウロイとの戦争が始まってから今日に至るまで多くのネウロイを倒し戦果を上げている。戦場に立つ兵士や一般市民にとってウィッチはまさに人類の希望そのものである。

しかし、その一方でウィッチが活躍するのを快く思ってない者も一定数存在する。自分よりも多大な戦果を上げていることに対する“嫉妬”やウィッチが持つ魔法力に対する“畏怖”と……理由は様々である。

 

「彼等も焦ってるのよ。いつも私達に戦果を上げられてはね」

 

「連中が見てるのは自分たちの足元だけだ!」

 

腹の虫が治まらない坂本は声を荒げる。

 

「戦争屋なんてあんなものよ。……もしネウロイが現れなかったらあの人達、今頃人間同士で戦い合っているでしょうね。」

 

「さながら世界大戦だな…………。」

 

ミーナの発言に坂本はそう言った。

今でこそ人類は“ネウロイ”という人類共通の敵が居るからこそ協力し合っているが、ネウロイが居なかったら人類は己の私利私欲のために不毛な殺し合いをしていただろう。そう考えたら坂本の言う世界大戦も決して他人事ではない。

 

「……悪かったな、宮藤。せっかくだからブリタニアの街を見せてやろうと思ったのに」

 

「いえ、私は軍にも色んな人が居るんだなって……」

 

坂本は隣に座っている宮藤に詫びる。

本来なら同行してくれた宮藤にブリタニアの街を案内するはずだったが、下らない予算会議のせいで時間を取られてしまい、街を回る事は出来なくなってしまったのだ。

 

 

 

 

 

『〜♪〜♫〜』

 

 

 

 

 

「……あの、何か聞こえませんか?」

 

どこからか聞こえる歌声に宮藤は、坂本達に質問した。

 

「ん……?ああ、これはサーニャの唄だ。基地に近づいたな」

 

「私達を迎えに来てくれたのよ」

 

宮藤の質問に坂本とミーナが答える。それを聞いた宮藤は輸送機の外で同行しているサーニャに向かって手を振った。

 

「ありがとう」

 

サーニャは恥ずかしくなったのか、輸送機から離れて雲の中へ入っていった。

 

「サーニャちゃんって、なんか照れ屋さんですよね。」

 

「でもとってもいい子よ。歌も上手でしょう?」

 

会話している間にも機内ではサーニャの歌声が流れるが、その歌声が突然ピタリと止んだ。

 

「あら?」

 

「どうした?サーニャ」

 

『誰かこっちを見ています…………。』

 

「報告は明瞭に。後大きな声でな」

 

『すみません……。』

 

坂本に注意されてサーニャは謝る。

 

『シリウスの方角に所属不明の飛行体。高速で接近しています。』

 

「ネウロイかしら?」

 

『間違いありません。通常の航空機の速度ではありません。』

 

「私には見えないが……?」

 

サーニャからの報告を聞いて坂本が魔眼で確認するが、彼女の目にはネウロイの姿は見えなかった。

 

『雲の中です。目標を肉眼で確認出来ません。』

 

「そういうことか」

 

それを聞いて坂本は納得して眼帯を元に戻した。

 

「ネウロイ……?ど、どうすればいいんですか!?」

 

「どうしようもないなあ」

 

「悔しいけど、今はストライカーが無いから仕方がないわ」

 

慌てふためく宮藤に対し、坂本とミーナは冷静に答える。いくら魔法力があるウィッチとはいえ、ストライカーが無ければただの10代の少女に過ぎない。

 

「……! まさか、それを狙って?」

 

「ネウロイがそんな回りくどい事しないさ」

 

ミーナが推測するも坂本がすぐさま否定をする。

 

「サーニャさん、援護が来るまで時間を稼げれば良いわ。交戦は出来る限り避けて」

 

『はい』

 

ミーナの命令を受けてサーニャは返事をしてフリーガーハマーのセーフティを解除。上昇してネウロイがいるであろう空域に転換した。

 

「―――サーニャちゃんにはネウロイがどこに居るか分かるんですか?」

 

「ああ、あいつには地平線の向こう側にあるものも見えているはずだ。」

 

「それでいつも夜間の哨戒任務に就いてもらっているのよ」

 

「お前の治癒魔法みたいなものだ。さっき唄を聞いただろ?あれもその魔法の1つだ。」

 

「唄声でこの輸送機を誘導していたのよ」

 

ミーナと坂本が説明している間、サーニャが戦闘を開始していた。魔導針でネウロイを捉えたサーニャは、フリーガーハマーを構えてロケット弾を2発撃ち込む。ロケット弾は真っ直ぐに飛翔して着弾。雲に大穴を開ける。

 

「反撃してこない…………?」

 

ネウロイが反撃してこない事に違和感を感じながらもサーニャはフリーガーハマーを撃ち続ける。

 

「流石ね。見えない敵相手に良くやっているわ。」

 

「私にはネウロイなんて全然…………」

 

「サーニャの言う事に間違いはない。―――サーニャもういい。戻ってくれ」

 

フリーガーハマーの残弾数を鑑みて、坂本はサーニャに戻るよう伝える。

 

『でも、まだ……』

 

インカム越しからでもサーニャの息が上がっているのが分かる。

見えない敵を相手に輸送機を近付けさせないよう常に神経を尖らせいたのだ。

魔法力の消費と相まって精神的にも消耗していた。

 

「ありがとう、1人でよく守ってくれたわ。」

 

ミーナ達を乗せた輸送機は既に501部隊の防空圏内に入っていた。これ以上の深追いは危険、そう判断したミーナはサーニャに後退の指示を出す。ミーナの言葉を受けてサーニャは戦闘を終了させて輸送機と合流する。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、ネウロイ出現の報を受けて基地から出撃した結城たち5人は輸送機に向けて飛んでいた。雲の下は激しい雨が降っており、5人とも雨でずぶ濡れになっていた。

 

「ひどい雨だな、何も見えない。」

 

とハルトマンが言葉を漏らす。

 

「あそこだ」

 

バルクホルンが輸送機の機影を捉える。横ではサーニャが輸送機と並走して飛んでいる。

 

「サーニャ!!」

 

「ちょっとエイラさん!勝手な事を……!」

 

「いや……戦闘は終わったみたいだ。」

 

結城が輸送機の様子を見て戦闘が終わった事を確認する。輸送機を護衛して基地に帰投するが、サーニャの表情は終始暗いままであった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見てないのか」

 

バルクホルンが濡れた髪を拭きながら言った。

その後、雨天で出撃した結城以外のウィッチ達は冷えた体を温める為にシャワーを浴びてからミーティングルームに集まって今回のネウロイについて話し合っていた。

 

「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな」

 

と坂本が答える。

 

「けど何も反撃してこなかったって言うけど、そんな事あるのかな?それ本当にネウロイだったの?」

 

ソファーの肘掛けにもたれ掛かりながらハルトマンは疑問を口にする。

今までのネウロイはこちらからの攻撃に対して反撃の行動を見せていた。しかし、今回のネウロイはサーニャの攻撃を受けても一切の反撃をしてこなかったのだ。

 

「恥ずかしがり屋のネウロイ!…………なんて訳ないですよね。ごめんなさい…………。」

 

場の空気を和ませようと冗談を言ったリーネであったが、盛大にスベってしまった事で恥ずかしくなり身を縮こませる。

 

「だとしたら、ちょうど似た者同士。気が合ったんじゃなくて?」

 

紅茶のカップを手にしたペリーヌが辛辣な発言をする。その言葉を聞いたサーニャは肩を落とし、隣にいたエイラはペリーヌに向けて舌を出す。

 

「“ネウロイとは何か?”それが明確になっていない以上、この先どんなネウロイが現れても不思議じゃないわ。」

 

ミーナが手に持ったマグカップを回しながら言った。

 

「どちらにせよ、仕損じたネウロイがまた現れる可能性は高い。」

 

「そうね」

 

自身の経験を元に語るバルクホルンにミーナが頷く。

 

「そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを敷こうと思っているの。サーニャさん、宮藤さん」

 

「はい」

 

「は、はいっ!」

 

ミーナに指名された2人は順に返事する。

 

「当面の間、貴方たちには夜間専従班に任命します。」

 

「えっ!?私もですか!?」

 

宮藤は自分が夜間専従班に任命された事に驚く。

 

「今回の戦闘の経験者だからな。」

 

坂本が任命された理由を言うが、それに関しては宮藤は納得していなかった。

 

「私はただ見てただけで……うわっ!」

 

「はいはいはいはい!私もやる!!」

 

後ろにいたエイラが宮藤の頭の上に手を置いて伸し掛かり手を上げる。

 

「良いわ。ならエイラさんも入れて3人ね」

 

「となると、もう1人必要だな……。」

 

501部隊では2人1組のロッテ戦術を使うのが基本であり、3人1組のケッテ戦術は使用しない。その為、もう1人入れる必要があったのだ。

しばし考えた後、坂本は結城を指名する。

 

「結城、お前もサーニャ達とともに夜間専従班に任命する。行けるか?」

 

「ハッ 了解しま―――――」

 

「ちょっと待テッ!!」

 

「なんだエイラ?」

 

結城が了承しようとするのをエイラが割って入る。

 

「何でコイツも夜間専従班に任命するんダ!?納得出来ナイ!」

 

エイラは、結城が夜間専従班に任命する事に不満を感じ坂本に抗議する。

 

「結城は、前の部隊で夜間戦闘任務についていた事もあるし、経験は豊富だから任命した。他に異論はあるか?」

 

「ぐぬぬ……ナ、ナイ…………。」

 

坂本に理由を述べられて、エイラは押し黙った。

実際、坂本の言う通りで結城が前の部隊である『レッド9』に配属されていた時に夜間戦闘任務についていた時期がある。夜間戦闘における経験値ならサーニャに次ぐくらいだろう。最も本人である結城はそういう事を口に出していなかったのでミーナや坂本以外のウィッチ達は知る由もないが。

 

「なら決まりだな。暫くはお前達4人で夜間哨戒任務についてもらう。結城、この中ではお前が階級では上だ。3人のこと頼んだぞ。」

 

「了解しました。」

 

こうして結城達4人には件のネウロイを倒すまでの間、夜間哨戒任務についてもらう事でブリーフィングは終了しメンバーは皆各々の部屋に戻っていった。

 

「すみません。私がネウロイを取り逃したから…………。」

 

「え?ううん、そんな事言ったんじゃないから」

 

「そうだ。気にするナ」

 

落ち込むサーニャに宮藤とエイラはフォローして励ますが、サーニャの表情は暗いままであった。

 

「過ぎた失敗をいつまで悔やんでも何も始まらない。これからの事を考えるんだ。」

 

ソファーに座る3人に結城が話しかける。結城の言葉にエイラは明らかに不機嫌な表情を浮かべる。

 

「結城・ヴェルナーだ。初めまして……というべきか?」

 

「…………サーニャ・V・リトヴャクです。よろしくお願いします……結城大尉。」

 

「そう畏まらなくていい。普通に呼んでくれ。」

 

「分かりました。結城さん……。」

 

お互いに軽く自己紹介を済んだところで結城たちはそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あら、ブルーベリー。でもどうしてこんなに?」

 

翌朝、食堂に来たペリーヌが籠いっぱいに詰め込まれたブルーベリーを見つける。

 

「私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ。」

 

とリーネがブルーベリーの入ったもう一つの籠を持ちながら答える。彼女の実家は裕福な大商人であり、送られてきたブルーベリーも最高の物である。テーブルでは他の隊員たちが朝食後のデザートとしてブルーベリーを食べていた。

 

「確かに、ブリタニアでは夜間飛行のパイロットがよく食べると聞くな。」

 

リーネの話しにバルクホルンが補足して言った。

 

「芳佳、シャーリー!べーしてべー!」

 

一足先に朝食を食べ終えたルッキーニが食事中の宮藤とシャーリーに舌を出すようせがむ。

 

「? こう?」

 

「んべ」

 

『きゃははははははっ!!』

 

お互い紫色になった舌を見て3人は笑い合う。その様子をペリーヌが口元を拭きながら呆れ気味に見ていた。

 

「全く、ありがちなことを…………。」

 

「お前はどうなんダ?」

 

後ろからそろりとエイラが近付いて、ペリーヌの口を開かせる。ブルーベリーによって紫色に染まった歯が露わになる。そこへタイミング悪く、ペリーヌの前を坂本が通りかかった。

 

「…………何事もほどほどにな」

 

そう言って坂本は立ち去っていく。敬愛する上官に醜態をさらしてしまったペリーヌは半泣きでエイラに詰め寄っていく。

 

「な……なんてことなさいまして!エイラさん!!」

 

「ナンテコトナイって〜」

 

してやったりの笑みを浮かべてエイラは早歩きで逃げる。

 

「さて、朝食も済んだところで…………」

 

食事が終了し、坂本が夜間専従班の4人に向き直った。

 

「お前達は、夜に備えて寝ろ!」

 

 

 

 

 

サーニャの部屋

兼・501臨時夜間専従班詰め所

 

その後、結城を除く宮藤、サーニャ、エイラの3人は臨時夜間専従班詰め所であるサーニャの部屋に集まっていた。

部屋は、暗幕のカーテンで光を遮られており、部屋の中は真っ暗になっている。

 

「さっき起きたばかりなのに……何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね」

 

「暗いのに慣れろって事ダロ」

 

愚痴をこぼす宮藤にエイラが理由を説明する。

 

「ごめんね、サーニャちゃんの部屋なのにこんなにしちゃって……」

 

「別に……いつもと変わらないけど」

 

「そうなんだ。でも……何かこれお札みたい」

 

宮藤は、カーテンに貼ってある紙の1枚を取り出しながら呟く。

 

「オフダ?」

 

宮藤の言葉に反応してエイラが聞く。

 

「お化けとか幽霊とかが入ってきませんようにっておまじない」

 

仰向けで天井を見つめて静かに聞いていたサーニャが口を開く。

 

「私、よく幽霊と間違われる…………。」

 

「へぇー、夜飛んでるとありそうだよね」

 

「ううん、飛んでなくても言われる。いるのかいないのか分からないって……」

 

「ツンツンメガネの言う事なんか気にすんな。暇だったらタロットでもやろう」

 

「タロット?」

 

「占いダヨ、私は未来予知の魔法が使えるンダ。ま、ほんのちょっと先の未来だけどナ」

 

そう言って、エイラがベッドの上にタロットカードを並べる。そして、その中の1枚を宮藤は引いた。

 

「どれどれ……ふーん。良かったナ。今一番会いたい人ともうすぐ会えるって」

 

「えっ、そうなの!?」

 

エイラの言葉に宮藤はパァッと表情を明るくするが、すぐに暗くなる。

 

「でも、それは無理だよ。だって私が会いたい人はもう…………」

 

「んーそうか……そう言われてもナ〜」

 

そう言ってエイラはベッドに寝っ転がる。宮藤が会いたい人―――それは父親である宮藤一郎博士であった。彼は、ウィッチ達が駆るストライカーユニットの基礎理論を確立させた第一人者である。彼の功績が無かったら人類はネウロイによって蹂躙されていただろう。

しかしそんな博士も、数年前に不慮の事故で帰らぬ人となってしまった。

 

「ねぇ……宮藤さん」

 

「なに?サーニャちゃん?」

 

サーニャに呼び掛けられて、宮藤は聞き返す。

 

「結城さんってどんな人?」

 

とサーニャが宮藤に質問する。

ナイトウィッチであるサーニャは、夜間哨戒を主任務とする為にこれまで結城と関わることがほとんど無かった。

 

「え?どうって…………悪い人ではないと思うけど?」

 

少し考えた後に宮藤はそう答えた。最初はとても怖い人で訓練でも新人である宮藤とリーネには情け無用に怒鳴りつける事もあるが、それも2人を思っての事で根は悪い人ではないというのが宮藤の印象である。

 

「サーニャ、何でアイツの事を……?」

 

「結城さんの事、何も知らないから」

 

「私も結城さんの事は少ししか知らないけど―――」

 

宮藤は、自身が知ってる事をサーニャ達に話した。

 

「そう……結城さんのご両親、4年前のカールスラント撤退戦の時に…………。」

 

「アイツにそんな過去が…………。」

 

結城の過去を知ったサーニャとエイラは、何とも言えない悲しい表情をする。

暫く雑談を続けた後、宮藤達は夜に備えて再び眠りに付くことにした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、自室で眠っていた結城は夢を見ていた。業火に包まれたカールスラントの街。その上空を飛び回る1人の少年がいた。

 

『ハァ……ハァ……ッ!』

 

眼前に立ちはだかるネウロイの大群。彼の後ろには避難民を乗せたトラックの車列が走っていた。

長時間の戦いで彼は、肩で息するほどに疲弊していた。ネウロイがトラックの車列に向かって赤いビームを発射させる。

 

『くっ……!』

 

彼は、シールドを展開させてネウロイのビームを弾く。ネウロイの容赦ないビーム攻撃に少年は怯むことなく持っているMG42でネウロイに反撃する。

眼前に広がるネウロイを次々と撃墜していくが、彼1人に対してネウロイ多数……多勢に無勢である。

最後の一体となったネウロイが撃墜される直前にビームを数発乱射する。

 

『―――あっ!』

 

最後の悪足掻きともいえるネウロイの攻撃に少年は対応出来ずビームがシールドをすり抜けていく。シールドをすり抜けたビームが避難民を乗せたトラックの車列に着弾、爆発する。

 

『父さーーーん!!母さーーーん!!』

 

少年は、火の海と化したトラックの車列に降り立つ。そこで彼が目にしたのは爆発四散したトラックの残骸と火だるまになって焼け死んだ死体、身体の一部が吹き飛んだ死体、千切れ飛んだ腕や足、そして肉片が辺り一面に散らばっていた。

 

『―――っ!?』

 

目の前に広がる凄惨な光景に少年はその場で嘔吐する。胃の中にある内容物を吐き終えて、少年は燃えさかる炎の中を歩いて両親を探す。両親が無事な事を祈って辺りを探し回り、そして見つけた。両親の亡骸を…………。

 

『うわああああああああああっ!!』

 

ショックのあまり、少年はその場に膝を落とす。深い悲しみと絶望に打ちひしがれた少年の叫び声が戦場に響き渡った。

 

 

 

 

 

そこで結城はハッと目を覚ました。

 

「…………ゆ……夢……。」

 

両親が死んだ夢を見るなんて…………。

久しぶりに嫌な夢を見た。

 

「夕方だぞー!おっきろー!!」

 

ルッキーニの声が聞こえる。時刻は夕方、今日から暫くは夜間哨戒任務だ。ベッドから起き上がり、着替えをすませて結城は食堂に向かった。

食堂に到着すると、部屋の照明がいつもより暗い事に気付く。

 

「暗い環境に目を合わせる訓練だって坂本少佐が」

 

結城の疑問にリーネがそう答えた。

テーブルの上には、リーネが淹れた紅茶が置かれていた。

 

「マリーゴールドのハーブティーですわ。これも目の働きを良くすると言われてますわ!」

 

「あれ?でもそれって民間療法じゃ―――」

 

髪をかきあげて自信満々に話すペリーヌにリーネが迷信なのではと呟いた。

 

「失敬な!これはお祖母様のお祖母様のそのまたお祖母様から伝わるものでしてよ!!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

ペリーヌの気迫に押されてリーネは謝罪の言葉を口にする。

 

「……なんか山椒みたいな匂いだね」

 

美味しくもなければ不味くもない、それが宮藤の率直な感想であった。

 

「芳佳、リーネ!もっかいべーして!」

 

宮藤とリーネのそばに来たルッキーニが舌を出すよう再びせがむ。言われた通り宮藤とリーネは舌を出すが、ブルーベリーの時のように舌は変色していない。

ルッキーニは、面白くない表情を見せて「つまんない〜!」と癇癪を起こして叫び出す。

 

「……………………。」

 

「どっちらけ」

 

そこへエイラがペリーヌの横でボソッと呟く。

 

「……っ!! べ、別にウケを狙った訳ではなくってよ!」

 

そんな賑やかな光景を結城はハーブティーを飲みながら見つめていた。

 

(相変わらず騒がしい食事………。だが、なぜか悪い気がしないな。)

 

普段なら静かにしろと咎めていたが、こういう賑やかな食事も悪いものではないとそう感じる結城であった。

 

 

 

 

 

夕食を済ませた頃には日が落ちており、空は暗闇に包まれていた。夜間専従班であるサーニャたち4名はストライカーユニットを履いて、夜の滑走路の端に並んで立っていた。この日は雲に覆われており月や星空が全く見えず、滑走路の誘導灯のみが明かりを灯していた。

 

「ふ……震えが止まんないよ…………。」

 

「何で?」

 

宮藤の言葉にエイラが尋ねる。

 

「だ、だって……夜の空がこんなに暗いなんて思わなかったから……。」

 

これが初めての夜間哨戒である宮藤は、眼前に広がる暗闇を前に身体を震わせていた。

 

「何だオマエ夜間飛行初めてナノカ?」

 

「無理ならやめる?」

 

「もし止めるなら今のうちだぞ。」

 

結城たちが飛ぶのを止めるか提案する。夜間飛行は地平線の見えない真っ暗な夜空を飛ぶため平衡感覚を失いやすい。夜間飛行に慣れてない人間が無理に空を飛べば空間識失調に陥り墜落する事も少なくない。

 

「て、手を繋いでもいい?サーニャちゃんが手を繋いでくれたら……きっと大丈夫だから」

 

震える右手を出して宮藤は言った。それを聞いたサーニャの魔導針が緑色からピンク色に変わる。心なしか使い魔の尻尾も嬉しそうに揺れている。

サーニャが宮藤の右手を繋いだ。それを見てムッと面白くない表情をしたエイラが反対側に行き、宮藤の左手を繋いだ。

 

「さっさと行くゾ!」

 

その光景を見ていた結城が3人の前に出る。

 

「まず先に俺が離陸する。宮藤は後についてきてくれ」

 

そう言って、主武装のMG151/20を背負った結城が魔導エンジンを始動させ離陸していく。その後を付いていくように3人も離陸していく。

 

「えっ?ちょ、ちょっと!?まだ心の準備が…………!!」

 

心の準備が整っていなかった宮藤を無視して3人はそのまま夜の空へと離陸していく。高度を上げていき視界の悪い雲の中を飛び始める。

 

「手を離さないでよ!絶対だよ!?」

 

「宮藤、少し落ち着け」

 

「もう少し我慢して、雲の上に出るから」

 

宮藤がパニックになりながら何度も念を押す。宮藤の狼狽えように結城は呆れ顔を見せる。雲の中を抜けると空一面に星空と月が顔を出した。宮藤は目の前に広がる景色に目を輝かせていた。

 

「わぁ!凄いなぁ!私一人じゃここまで来れなかったよ!ありがとうサーニャちゃん、エイラさん!」

 

宮藤は、上空で8の字に飛行して体全体で喜びを表現する。サーニャは「いいえ、任務だから……。」と無表情のまま答えるが、どこか嬉しそうであった。

 

「オマエ、大尉に礼は無しカヨ」

 

「え……?あ、ごめんなさい結城さん」

 

エイラに指摘されて宮藤は慌てて結城にも礼を言う。

この日はネウロイが現れる事はなく、1日目の夜間哨戒は何事もなく終了するのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日、食堂に座っているウィッチーズ達の目の前には透明の液体が入ったお猪口が置かれていた。

 

「何だこれ?」

 

結城がお猪口に入っている液体がなにか尋ねる。

 

「肝油です。ヤツメウナギの。ビタミンたっぷりで目に良いんですよ〜」

 

扶桑の漢字で肝油と書かれた一斗缶を抱えた宮藤が答える。

 

「……なんか生臭いぞ?」

 

肝油の生臭い匂いにハルトマンが顔を引きつらせる。

 

「魚の油だからな。栄養が良ければ味など関係ない。」

 

とバルクホルンは澄ました顔で言った。

 

「おーっほほほほほ!いかにも宮藤さんらしい野暮ったいチョイスですこと!」

 

ペリーヌが嫌味も込めて盛大に高笑いする。

 

「いや、持ってきたのは私だが……。」

 

どうやら肝油を持ってきたのは坂本だったようだ。坂本の言葉を聞いてペリーヌは一瞬固まる。

 

「あ、ありがたくいただきますわ!!」

 

慌ててお猪口に入ってる肝油を一気に飲み干すペリーヌ。次の瞬間、顔から血の気が失せて顔面蒼白になる。

 

「うえ〜!何これ〜!?」

 

「エンジンオイルにこんなのあったような……。」

 

ルッキーニは舌を出して不快感を露わにする。シャーリーは肝油の味に心当たりがあるようだった。

 

「ぺっ!ぺっ!」

 

「……………………。」

 

エイラは肝油の味に拒絶反応を起こし、飲んですぐに吐き出す。隣に座るサーニャはあまりの不味さに硬直していた。

 

「新米の頃は無理矢理飲まされて往生したもんだ。」

 

と坂本が新人時代の事を思い出しながら言った。

 

「お気持ち…………お察しします………。」

 

肝油を一気飲みしてしまったせいかペリーヌは机に突っ伏してしまい、そう答えるのがやっとであった。

 

「もう一杯♪」

 

とミーナが笑顔でおかわりを宣言する。その隣でハルトマンが素でドン引きをしていた。

 

「「ま……不味い……。」」

 

肝油の想像以上の不味さに結城とバルクホルンは完全に撃沈していた。後に結城はこう語った。「後にも先にもあんな不味い飲み物は他にはない」と―――その後、肝油の味を気に入ったミーナがさらに2杯、3杯と肝油を飲んでいく。

 

(アンタの味覚はどうなってんだ……?)

 

こんな不味い飲み物を顔色一つ変えずに飲むミーナに“中佐は味覚障害なのでは?”と疑う結城なのであった。

 




“ブルーベリーが目に良い”というのはWW2時代から知られていたみたいですね。
ブルーベリージャムを毎日パンにどっさり乗せて食べていたイギリス空軍のパイロットが夜間飛行でも「物がはっきり見えた」と証言したことから、それを聞いた学者が研究を進めてブルーベリーに含まれる色素 アントシアニンが目の疲れを改善するというのを発見したみたいです。
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