主人公のストライカーユニットも少し紹介します。
翌朝。
501基地 食堂
いつもなら賑やかな場である食堂のはずなのに今日に至っては異様な雰囲気に包まれていた。食事をする無機質な音しかせず、全員が黙って食事をしている。まるでお通夜のような重い空気感だ。
というのも末席に座る結城が食堂に現れてからこの有様だ。普段騒がしいルッキーニも彼の前では大人しくなっている。
宮藤の治癒魔法により、頬の腫れは無くなっているが、結城に殴られてトラウマを植え付けられた事ですっかりと萎縮してしまっている。
そんな事を知ってか知らずか結城は、周りの重い空気感なんか気にせず食事を進める。
「―――宮藤、リーネ。この食事が終わった後、お前たちは基礎訓練だ。」
「はい。」
「声が小さいっ!」
『ハイッ!』
宮藤とリーネに今日の訓練を伝える坂本。掛け声が小さかった為か坂本から激が飛ぶ。
「結城、お前もこの後に模擬訓練で飛んでもらう。相手は、バルクホルンだ。お前の腕前とくと見せてもらうぞ。」
「―――ハッ、了解しました。」
食事を終えた結城は、食器を洗い場に持って行って食堂を後にする。その道中で扶桑の少女 宮藤芳佳がこちらの顔色を伺う仕草を見せているのに結城が気付いた。
「…………もしかして、今日の朝食を作ったのは君か?」
「あっはい。あの、お口に合いませんでしたか……?」
「……いや、実に美味かった。扶桑の料理を食べたのは実に久しぶりなものでな。」
結城に自分の料理を褒めてもらって宮藤は笑みを浮かべる。昨日のシャーリーとの諍いもあってか宮藤は、彼をとても怖い人という印象を抱いていたが、実のところ根は良い人なのだろう。
少し話した程度だが、結城・ヴェルナーという人間の印象を改める宮藤であった。
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501基地 格納庫
この後の模擬訓練に備えて、結城は格納庫にやってきた。
さすがは世界中のエースウィッチを集った部隊なだけあり、多種多様なストライカーユニットが鎮座している。その中の端に整備と調整を終えた結城のストライカーユニットも発進台に鎮座されている。
彼の愛機メッサーシャルフ Bf109G-2改“ブラック・スペシャル”。カールスラント空軍の代表する主力戦闘脚である。結城が履くBf109G-2改“ブラック・スペシャル”は、ユニットの各部をカスタマイズしており、結城好みに仕上げた専用機である。外観はつや消し黒の真っ黒な塗装に両翼を赤黒い血塗りの赤が塗装されているのが特徴だ。
「おい、ウィザード。」
誰かに呼ばれたので振り返ると、バルクホルンが腰に手を当てて立っていた。
「……………………。」
「初めに言っておくが、私はお前を信用していない。どれだけ経験あるベテランといえど、それに見合う腕前がなければ、同じ仲間としてカールスラント軍人として認めないからな。」
バルクホルンの言葉に結城はフンッと小さく鼻で笑う。
「……何とでも言いな。俺もアンタたちを最初から信用していないし、ましてや俺は故郷の為とか民の為とかそんなものどうでも良いと思ってる。」
「何だと……?」
「御託はこのくらいにして、さっさと始めようか。」
そう言うと結城は、ストライカーユニットに足を通して魔力を流す。彼の頭と腰に使い魔の羽と尻尾が出てくる。彼の使い魔“ワタリガラス”である。
(あれは、鳥の使い魔か……!)
航空ウィッチの間では、鳥の使い魔は優秀な者が多いと聞く。
(…………もしかしたら、このウィザードはかなりの手練れかもしれない。)
バルクホルンは、気を引き締めて自身のユニットに足を通した。
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501基地 上空
結城とバルクホルンは、それぞれ愛機のストライカーユニットを履いて、空に上がった。
結城の右手には、模擬戦用にオレンジ色に塗装したMG151/20 20ミリ機関砲を主武装とし、左右の腰には自身の愛銃 モーゼルシュネルフォイヤーがホルスターに収めてある。
同様にバルクホルンもオレンジ色に塗装したMG42を2挺持っている。上空で待機しているとインカムから坂本の通信が入ってきた。
『2人とも聞こえるか?模擬戦のルールだが、2人が直線上ですれ違ったと同時に模擬戦を開始する。どちらかが弾切れまたは被弾をしたら模擬戦は終了だ。』
「了解だ。少佐」
「了解した。」
模擬戦の説明を皮切りに2人は同時に加速を始める。直線上で2人がすれ違って模擬戦が始まる。
「始まったな……。」
2つの機影が重なった直後、複雑な軌跡を描く様子を坂本は基地の滑走路で見ていた。その隣では基礎訓練を終えたばかりの宮藤とリーネも模擬戦を観察していた。
「結城大尉とバルクホルン大尉の模擬戦だ。」
「2人とも凄い……。」
「2人ともよく見ておけ。カールスラントのベテラン同士の空戦はなかなかお目にかかれないからな。」
新人2人の後学の為にも今回の模擬戦はいい参考になる。坂本は複雑な軌跡を描く上空を再び見上げるのであった。
―――501基地 上空
「……くっ!コイツ、なかなか上手い。」
バルクホルンは、結城の背後を取ろうと格闘戦に持ち込むも中々、背後に付けれずにいた。背後を取っても急降下と急上昇で射程外へと逃げられ、射撃をしても横滑りで巧みに避けられている。バルクホルンが使用するストライカーユニット フラックウルフ Fw190D-6は、カタログスペックではBf109に勝る性能を持っている。しかし、結城のBf109に関しては何故か性能差を感じてしまう。掴めそうで掴めないもどかしさ……まるで掌の上に転がされているような気持ちだ。
(流石は、生え抜きのベテランだ。認めざる得ない。)
バルクホルンは、改めて結城の実力を認める。今、目の前を飛んでいるウィザードは501に見合う腕前を持ったベテランだと。―――だからと言って、負けるつもりはない!
「へ〜結城、なかなかやるじゃん。」
「ええ。トゥルーデ相手に互角の戦いを持ち込んでいる辺り、かなりの腕前ね。」
模擬戦の全容をエーリカ・ハルトマンとミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは基地のベランダで見ていた。
ハルトマンとミーナは、バルクホルン相手に互角の戦いを演じる結城を称賛する。幾多の戦場を戦い抜いてきただけあって場数を踏んだ戦い方を見せる。
「それにしても、結城のユニットってうちらのBf109と全く違うね〜」
ハルトマンは、結城が履いているストライカーユニットに興味を示した。2人が履いているBf109の塗装はカールスラント空軍の迷彩塗装に対して結城のBf109はつや消し黒の塗装に主翼は赤黒い血塗りの赤と青い空に一際目立っている。
「……なんでも、結城さんが自分の戦い方に合うようにユニット各部をカスタマイズして自分好みに仕上げたみたいよ。」
「ふ〜ん。あっ、結城が勝負に出るよ!」
「……この俺に付いて来れるとは、大したもんだ。なら、コイツはどうだ?」
膠着状態が続く中、結城が勝負を仕掛ける。身体を真上に向けて身体全体でブレーキをかけて急減速する。
「なにっ!?」
突然の急減速にバルクホルンは対処出来ず、入れ替わる形で結城は背後を取る。射程に捉えて射撃するもバルクホルンは寸前で旋回して回避する。
速度が落ちたので結城は下降に転じ、速度を稼いでから上昇に転じる。バルクホルンは上昇する結城を追撃するも太陽に気付いた彼女は追撃を止める。追撃してこないバルクホルンに気付いて、結城は最小限の反転して下降に転じる。
追撃を止めたバルクホルンに目掛けて急降下する結城。右手に持つMG151のトリガーを引いて射撃するが、バルクホルンはそれをヒラリと躱す。そのまま降下していく結城を追う形でバルクホルンも降下していく。
(このまま続けば、ジリ貧だな……。次で決めるか……。)
(ヤツの武器の残弾は残り少ないはず。次で決める……!)
降下から体を引き起こして海面を低空で飛翔する2人。どこで勝負を仕掛けようか決めあぐねていたバルクホルンだが、ここで結城が上昇に転じる。
バルクホルンも続いて上昇していきお互い高度が上がっていく。2つの銃口が結城に照準を合わせた瞬間、バルクホルンの視界から結城が消えた。
「き、消えた……!?」
突然、視界から結城の姿が消えて混乱するバルクホルン。その直後、バルクホルンが履いているFw190 D-6にペイント弾が着弾し彼女のユニットはオレンジ色に染まった。
「なっ……!?」
あまりにも一瞬の出来事と自身が撃墜された事に信じられない表情をするバルクホルン。
『そこまで!模擬戦は終了だ。2人とも降りてこい。』
坂本の通信を受けて結城とバルクホルンは、滑走路へと降りていった。
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「トゥルーデが負けちゃった!?」
「まさかここまでの実力とはね……。」
基地のベランダで模擬戦の全容を見たハルトマンとミーナは驚きを隠せないでいた。カールスラントのスーパーエースでハルトマンに次ぐ実力を持つバルクホルンを打ち負かす程のウィザードが居る事に衝撃を隠せないでいた。
「ねぇ、ミーナ。結城が最後にしたあの技って坂本少佐が得意としているあの技だよね?」
「そうね……美緒ほどではないにしろあの機動は左捻り込みに近い動きだったわ。」
2人の関心は模擬戦終盤に見せた結城の最後の動きについて帰結した。
最後に結城が見せた機動。あれは坂本をはじめとする扶桑のウィッチが得意とする左捻り込みという高等技術であった。
厳密には結城の左捻り込みは擬似的な動きであるが、それをBf109でやってのけたのだから驚きである。
模擬戦を終えた結城とバルクホルンが滑走路に降りてきたのでミーナとハルトマンは滑走路の方へ向かう。
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「最後は見事だった。結城大尉。それと……先ほどの無礼な発言、すまなかった。」
バルクホルンは、先の模擬戦で見せた結城の最後の機動を称賛して模擬戦前での自身の発言に謝罪した。
「いや、気にしなくて良い。それに今回は、たまたま勝てたくらいで正直ギリギリだった。」
「だが結果的に私の負けだ。それに今回の模擬戦で大尉の腕前も把握出来た。流石は生え抜きのベテランともあって良い腕だ。」
「恐縮です。」
今回の模擬戦で結城の腕前はバルクホルンが認めるほどであった。彼女の表情は相変わらず無表情ではあるが、話し方は、模擬戦前よりも角が取れている感じである。
「ひとつ聞きたい事があるが、良いだろうか?」
「構わない。」
「そうだな……まず大尉のメッサーシャルフについて聞きたいのだが。」
バルクホルンは、結城が履いているBf109に視線を移す。模擬空戦でストライカーユニットの性能差を感じていたバルクホルンは結城の履いているユニットに何か秘密があると思い、質問してみた。
「……このBf109は、前の部隊から使ってるやつで量産型のストライカーユニットより強化された専用機なのです。自分のはG型をベースに各部をカスタマイズして自分好みに仕上げたものなので性能は既存のBf109より格段に上です。」
「そうか……道理で性能差を感じたわけだ。」
ミーナやハルトマンが使用する量産機とは違う専用機。結城の説明を聞いてバルクホルンは納得するのであった。
「2人ともご苦労。実に見事な戦技であったぞ!」
そこへ坂本が2人に労いの言葉をかける。後ろには宮藤とリーネがいる。
「とてもすごかったです!」
「結城大尉スゴイです。バルクホルン大尉に勝つなんて……!」
宮藤とリーネも結城とバルクホルンの空戦を称賛する。リーネに至っては、興奮した様子である。そこへ基地のベランダから移動してきたミーナとハルトマンが滑走路に到着した。
「2人ともお疲れ様。ひとまず結城大尉、あなたに聞きたい事があります。バルクホルン大尉に背後を取った時にした最後の技についてです。」
「うむ、私もそれを聞きたかった。あの技は、扶桑のウィッチたちが得意としている“左捻り込み”だった。結城、お前はあの技をどこで覚えたんだ?」
ミーナの言葉に坂本も同調する。坂本に関しては、この目の前にいるウィザードがどこでこの技を覚えたのか気になるところであった。
「別に大した事では無いですよ。いつかの戦場で扶桑のウィッチがやっていたのを見様見真似でやってみただけですよ。まあ、俺のはそれに似た真似事ですから本当の左捻り込みとは言えないですが……。」
この言葉に坂本は驚愕する。左捻り込みは扶桑のベテランで一部のウィッチが使う高等技術。それを見様見真似でそれもBf109でやってのけたのだ。
「これからの予定は?中佐」
「今日はこれで終わりです。明日は午前中から編隊訓練や模擬戦をしてもらう予定なので休んでもらって結構よ。お疲れ様でした。」
「了解しました。」
結城は、ミーナに敬礼して格納庫に向かっていった。
(それにしても、あれだけの腕前を持っておきながら、なんで今まで知られてなかったんだ?それにあのユニットの塗装どこかで見たような…………。)
バルクホルンは、結城の存在が何故今の今まで知られなかったのかを疑問に思う。古参クラスの航空歩兵なら何かしら知られてもおかしくないはず。そして、結城が使用している黒塗りのBf109……バルクホルンはユニットの塗装に既視感を覚えるも思い出せずにいた。
―――という事で主人公のストライカーユニットはメッサーシャルフBf109です。使用機材選びとしては扶桑のユニットも考えましたが、舞台が欧州で比較的手に入れやすいユニットと考えるとメッサーシャルフになりました。武器に関しては、作者の好みです(笑)
空戦シーンを文章で表現するのって実に難しいですね。