「―――本日は、ストライカーユニットを履いての飛行訓練だ。なお今回は、特別顧問として結城にも訓練に参加してもらう事になった。」
「よろしく。」
発砲事件から数日後、宮藤とリーネは坂本の訓練に参加していた。今日は、ストライカーユニットを履いての飛行訓練という事もあり、特別顧問という形で結城も訓練に参加する事になった。
「よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします。」
宮藤のはっきりとした受け答えに対し、リーネはどこか緊張した面持ちであった。生まれてこの方ウィザードという異性の存在に出会った事が無い為か緊張で声が上擦ている。
「さて……早速だが2人ともユニットを履いて飛行訓練と行くとしよう。俺が先に飛ぶからその後に続いてくれ。」
「「はいっ!」」
その後、それぞれのユニットを履いて結城が先に空に上がった後、宮藤とリーネもユニットを履いて空に上がる。
上昇、下降、旋回をしながら基地上空を飛行する。安定して飛んでいるリーネの横で、宮藤はフラフラといまだ不安定な状態で飛んでいる。
「宮藤っ!もっと自分の魔法力をコントロールしろ!戦場でそんな飛び方してたら死ぬぞ!」
「は、はいっ!」
「リネットっ!遅れているぞ!ちゃんと1番機に合わせて飛べ!」
「す、すみませんっ!」
「…………なかなか上達しないわね」
「魔法力は高いんだが、コントロールが出来てないんだ。あいつは」
「宮藤さんは、魔力運用からの指導からかしらね。」
ミーナと坂本が宮藤の飛行する姿を見て今後の課題について言う。
「リーネさんは、訓練では上手くやれているわね。」
「後は、それを実戦で生かせれば良いのだが……。」
対してリーネは、配属当初から訓練では安定して実力は申し分ないのだが、いざ実戦となるとその実力を生かされていないのが現状である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「次は、実戦を想定しての模擬訓練だ。」
基本的な飛行訓練を終えて、次は実戦を想定した模擬訓練に入る。模擬訓練という事でリーネはボーイズ対装甲ライフル、宮藤は13ミリ機関銃を手に持っている。どちらもオレンジ色に塗装された訓練用であり、ペイント弾が装填されている。一方の結城は、自身の愛銃のモーゼル シュネルファイヤーを使用している。弾倉には実弾ではなくペイント弾が装填されている。
「俺が前に飛ぶからお前たちは俺を墜とすつもりでかかって来い。」
「「はいっ!」」
「……分かっていると思うが、訓練だからといって手を抜く様な事はするなよ?」
結城の言葉に新人ウィッチの2人は無言で頷く。まず最初にリーネから訓練を始める。しかし、対装甲ライフルという性質上、取り回しが悪く思うように当たらない。
「もっと敵の動きを予測しろ!構えてから撃ってじゃあ間に合わないぞ!」
「は、はいっ!」
「リネット、お前の武器は取り回しが悪い。相手の動きを先読みして撃ってみろ。」
「はいっ!」
こうして数十分ほど模擬訓練をした後、リーネから宮藤に交代する。
元々、勘が良い方なのだろうわずか半日で宮藤の飛行技術は実戦に出しても問題ないくらい成長していた。
ただ1つを除いて…………
「何してる宮藤っ!なぜ撃たない!?」
「すみませんっ!」
宮藤は銃を撃つことに躊躇いがあった。戦争嫌いの彼女にとって人に向けて銃を撃つことに抵抗があったのだ。例えそれが訓練用の銃だとしてもだ。
「もう一度いくぞ。次はしっかりやれ」
「は、はい……。」
結城が前を飛び、宮藤が後ろを飛ぶ。宮藤が持つ13ミリ機関銃の銃口が結城に向けられる。射程圏内で必中の距離、後は引き金を引くだけ。しかし、トリガーに指をかける直前で指が止まる。
「今だ宮藤!撃て!」
「くっ…………!」
トリガーを引けば、確実に命中出来る距離だが、彼女の本能が引き金を引くのを拒んでいた。
「…………チッ!」
いつまでたっても躊躇っている宮藤に痺れを切らした結城はバレルロールして一瞬で宮藤の後ろについてモーゼルの銃口を宮藤に向けて引き金を引く。タタンと2、3発放ったペイント弾が宮藤の零式をオレンジ色に染める。
「今日の訓練は終わりだ。……宮藤、降りたら俺の所に来い!」
訓練の終わりを告げて、宮藤と結城は滑走路に降り立った。
「なぜ撃たなかった!」
訓練を終えて開口一番に結城は宮藤を怒鳴りつける。理由はつい先程の訓練内容であった。実のところ宮藤が撃てるタイミングは何度もあった。これが一度や二度の失敗ならまだ許せるが、こうも何度も同じ失敗をやらされてはさすがの結城も怒りを抑えきれない。
「撃てなかったんです……。」
「撃てなかっただと……!?宮藤!お前が撃たなければ自分だけじゃなく仲間まで死ぬ事になるんだぞ!それでも良いのか!」
「そんなの嫌です!」
「だったら撃て!!」
激昂するウィザードに宮藤は萎縮してしまい項垂れている。そこへ隣に立っているリーネが結城に言い返す。
「結城大尉!宮藤さんも私も一生懸命頑張ってます!」
「頑張るだけなら誰でも出来る!いいかお前等!ここは学校じゃない“戦場”だ!お前等には1日でも早く一人前のウィッチになってもらわないといけないんだ!生き残りたければ躊躇するな!!やられる前に撃て!!そして殺せ!!」
捲し立てるように結城は2人に怒鳴りつける。感情が昂ぶっていて後半からはカールスラント語になっていたが本人は気付いていない。
「結城、その辺にしておけ。宮藤はついこの間まで民間人だったんだ。それに戦う前に潰れてしまったら元も子もない。」
「む……良いか、お前たちのために言ってるんだ。それだけは忘れるな」
見かねた坂本が結城を宥めるよう止めに入る。結城もさすがに言い過ぎたと思ったか口調を弱めて言った。何せウィッチは敵(ネウロイ)に対抗出来る貴重な人材なのだ。ここで潰して戦力として使えなくなってしまうのは避けたい。
「明日も同じ訓練をやる。次からはちゃんとやれよ!」
そう言って結城は坂本とともにその場を後にする。残された2人の心中は複雑な感情が渦巻いていた。特に宮藤においては、自身の戦いを否定された気分であった。“自分の力が誰かの役に立てば……”と501に入隊したが、その考えが甘かった事を思い知らされた。そんな2人の元に1人の人物が近付いてくる。
「バルクホルンさん……。」
宮藤がその人物の名前を言う。バルクホルンは腰に手を当てて宮藤を見る。
「―――新人、ここは最前線だ。即戦力が必要とされている。死にたくなければ帰れ。」
「わ、私は、皆の役に立ちたいと……。」
「ネウロイはお前の成長を待ちはしない……後悔したくなければ、ただ強くなることだ。」
そう言って、バルクホルンは宮藤達から離れて基地へと歩いていく。宮藤は何も言い返す事が出来なかった。
「……宮藤さん?」
「リネットさん」
夜、宮藤は滑走路の先でそこから見える景色を眺めていた。そんな宮藤に誰かが声を掛けたきた。振り向くとリーネが立っており、宮藤の元にやってきた。
2人は並んで、滑走路の先に座る。
「ここ、私のお気に入りの場所なの。」
「そうなんだ!綺麗な場所だよね」
そう言って、2人は話し込んでいく。
「今日も怒られちゃった。もっと頑張らないと」
「宮藤さんが羨ましいな…………。」
「何が?」
下を向きながらリーネは“羨ましい”と言うが、宮藤はリーネの言葉に疑問を持つ。
「諦めないで頑張れるとこ」
「同じこと通知表に書いてあったよ」
アハハ……と宮藤は笑いながら言うが、リーネの表情は未だに暗い。
「私なんて、なんの取り柄もないし……ここに居て良いのかしら……?」
「リネットさん、あんなに上手なのに?」
「訓練だけなの……実戦じゃ全然ダメで……。」
「でも、訓練で出来るなら―――」
「訓練もなしでいきなり飛べた宮藤さんとは違うの!!」
爆発したかのようリーネが叫ぶ。宮藤はそんなリーネに驚いてしまう。
「……っ!ごめんなさい」
リーネは、しまったと表情をして宮藤に謝り、基地に向かって走り出す。
「リネットさん!」
宮藤が呼ぶが、リーネはそのまま走り去ってしまった。宮藤はそんなリーネを呆然と見つめるしかなかった。
その光景をミーナは、滑走路の隅で見ていたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「監視所から報告が入ったわ。敵 グリッド東114地区に侵入。高度はいつもよりも高いわ。今回はフォーメーションを変えます」
「バルクホルン、ハルトマンが前衛!シャーリーとルッキーニが後衛!ペリーヌは私とペアを組め!」
「残りの人は私と基地で待機です。」
「了解っ!」
翌朝。ネウロイの侵攻を知らせる警報が501基地に鳴り響く。坂本達6人のウィッチは、すぐさまユニットを履いてネウロイ迎撃のために空に上がった。その様子を宮藤とリーネは滑走路から見ていた。
「行っちゃったね」
「そうですね……。」
「今出来る事ってなんだろう?」
「足手まといな私に出来る事なんて…………。」
そう言って、リーネは基地に向かって走り出してしまう。入れ替わる形でミーナが宮藤の元にやってくる。
「宮藤さん、ちょっと良いかしら?」
「あ、はい」
「リーネさんは、このブリタニアが祖国なの」
ミーナの説明を宮藤は黙って聞く。
「ヨーロッパ大陸がネウロイに落ちているのは知っているわよね?」
「はい、リネットさんから」
宮藤は、501に入隊してすぐにリーネからヨーロッパの情勢について聞かされていた。
「欧州最後の砦、そして故郷であるブリタニアを守る。リーネさんはそのプレッシャーから実戦になるとダメになるの」
「リネットさん……。」
ミーナの言葉に宮藤は、リーネの事を思った。
ヨーロッパ大陸がネウロイの手に落ちて自身の故郷が欧州最後の砦、そして祖国を守る使命によるプレッシャー、しかも部隊のメンバーは名だたるエース級のベテランばかり…………場数も踏んでいない10代の少女には荷が重すぎるものである。
「宮藤さんはどうして、ウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」
「はい、困っている人達の力になりたくて――――」
それを聞いて、ミーナが優しく微笑む。
「リーネさんが入隊した時も同じ事を言っていたわ。その気持ちを忘れないで、そうすればきっと皆の力になれるわ。」
ミーナはそう言うと基地内へと戻って行った。1人残った宮藤は決意を秘めた表情で空を見上げていた。
その頃、出撃した坂本達がネウロイを発見、交戦状態に入っていた。しかし、敵は特に反撃する事なく呆気なく撃墜された。
「手応えがなさすぎる……?」
ペリーヌは、いつものネウロイとは違う事に違和感を覚える。
「おかしい……コアが見当たらない」
「まさか、陽動ですの!?」
「……っ!だとしたら基地が危ない!」
ペリーヌの言葉に坂本はハッとする。もしそうだとすると撃墜したネウロイは“囮”で本体は今、手薄の501基地に向かっているはずだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リネットさん……。」
宮藤は、リーネの部屋の前に立っていた。部屋の中にいるであろうリーネに自分の想いを伝えるために
「私、魔法も下手っぴで叱られていてばかりだし、ちゃんと飛べないし銃も満足に使えないしネウロイとだって、本当は戦いたくない…………。
でも、私はウィッチーズにいたい。私の魔法でも誰かを救えるのなら―――何か出来る事があるならやりたいの。そして皆を守れたらって…………。」
“守る”その言葉にリーネはハッとする。
自分が501に入隊した時に誓った事でウィッチを志す原点となる言葉であった。
「だから私は頑張る。だからリネットさんも…………」
その時、ネウロイの接近を知らせる警報が基地内に響き渡る。
ブリーフィングルームでは、待機していたミーナとエイラと結城の3人が居た。
「出られるのは私とエイラさんと結城さんだけね。サーニャさんは?」
「夜間哨戒で魔力を使い果たしている。ムリダナ」
「そう……なら3人で行きましょう。」
「待ってくださいっ!」
出撃しようとした時、別の声が聞こえてきた。ブリーフィングルームの入り口で宮藤が息を切らして立っていた。
「私も行きます!」
出撃の進言をする宮藤だが、ミーナと結城が真剣な表情で制する。
「まだ、貴方が実戦に出すには早すぎるわ。」
「魔法力をコントロール出来ない、まともに空を飛べないような奴が戦場に出たところで死ぬのがオチだ。」
「足手まといにならないように頑張ります!」
それでも宮藤は引かない。
「銃も満足に扱えないくせに何言っている。第一、敵に向けて銃を撃てない奴が戦場にいても邪魔なだけだ。」
「撃てます!守るためなら!!」
その言葉と表情に結城は一瞬驚く。普段の彼女とは違う強い信念を彼は感じ取った。
「私も行きます!……2人合わせば1人分ぐらいにはなります!!」
そして、リーネも自ら出撃すると言った。これにはミーナも驚いた。普段は引っ込み思案な彼女から想像出来ないくらい堂々としている。彼女達の覚悟を感じたか結城がミーナに進言する。
「中佐、2人を出撃させましょう。今は説得する猶予もない。それに戦力は1人でも多いに越したことはないでしょう。」
ミーナは、少し考えた後に決断した。
「…………90秒で支度しなさい。」
『はいっ!』
そしてミーナたち5人は、それぞれユニットを履いて空に上がった。
結城はMG151/20とモーゼルシュネルフォイヤー、ミーナとエイラはカールスラントのMG42、宮藤は九九式13ミリ機関銃、リーネはボーイズ対装甲ライフルを装備している。
「敵は、3時の方向から基地に向かって来るわ!私とエイラさんと結城さんが先行するから宮藤さんとリーネさんはここでバックアップをお願いね!」
「「はいっ!」」
ミーナはそう言うと結城、エイラと共に先行する。3人を見送った後、リーネが宮藤に話し掛けた。
「―――宮藤さん、本当は私怖かったんです…………。」
「私は今でも怖いよ。でも……うまく言えないんだけど、何もしないでじっとしているほうが怖かったの」
「何もしないほうが……。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、先行した3人たちはネウロイと交戦を始めていた。
3人とも各々の火器を使ってネウロイに攻撃を仕掛けるが、敵はあまりの高速で思うように当たらない。
「―――速い……!」
エイラが呟く。結城は自身が持っているMG151/20をネウロイに向けて撃つ。
「―――超低空で思うように連射出来ない!」
しかし、高速で海面スレスレを飛んでるせいでネウロイに有効打を与えることが出来ない。
「一撃離脱じゃ無理ね。速度を合わせて!」
「ん!」
「了解!」
結城たちは、ネウロイの速度に合わせてさらに攻撃を続ける。すると、ネウロイは後部を切り離し、さらに加速した。
「加速したっ!」
ミーナとエイラは左右に、結城は上昇して回避して体制を立て直すが、急加速で3人を引き離しにかかる。
「速すぎる!不味いわ!!」
ミーナの言葉に結城はさらに追撃を続ける。降下による位置エネルギーでさらに速度が上がり、ネウロイを射程内に捉える。
「クソネウロイが!!落ちやがれ!!」
結城は固有魔法“増幅”を使ってネウロイに攻撃する。固有魔法で威力が倍増したMG151/20の20ミリが火を噴く。
肉を抉るように装甲を削り取り、確実にネウロイにダメージを与えていく。しかし、あと一歩のところでネウロイが再び加速して結城との距離が離れていく。
「シャイセッ!中佐、ネウロイさらに加速。これ以上の追撃は不可能!」
後方ではリーネが狙撃をするも、高速で飛行するネウロイに当てられないでいた。
「ダメ!全然当てられない!」
「大丈夫!訓練であんなに上手だったんだから!」
次第に焦りの色を見せるリーネを宮藤は大丈夫と励ます。
「私、飛ぶので精一杯で……!射撃を魔法でコントロール出来ないんです!」
「じゃあ、私が支えて上げる!これなら撃つのに集中出来るでしょう?」
そう言って宮藤がリーネを肩車する。リーネが射撃に集中出来るよう宮藤が2人分の飛行を請け負う。宮藤の行動にリーネは頬を赤くするが、これで射撃に魔力を送りこめる。
『リーネさん、宮藤さん!敵がそちらに向かってるわ!貴方達だけが頼りなの、お願い!!』
「「はいっ!」」
インカムからミーナの通信が入り、2人は返事をしてリーネは自身の武器 ボーイズMk.Ⅰを構える。
(敵が避ける未来位置を予測して、そこに撃ち込めば……!)
「宮藤さん、私と一緒に撃って!」
「うん、分かった!」
左右に動くネウロイの動きが止まった瞬間、リーネは合図をする。
「今です!!」
リーネのボーイズMk.Ⅰと宮藤の13ミリ機関銃が同時に火を噴く。
ネウロイは回避するために上昇するが、リーネが放った13.9ミリ弾がネウロイのコアを撃ち抜き、そして破片となって砕け散る。
「やった!やったよ宮藤さん!私、初めて皆の役に立てた!!宮藤さんのおかげだよ!!ありがとう!!」
リーネは興奮のあまり宮藤に抱き着く。それによりバランスを崩した2人はそのまま海に落ちていく。
「あはははははははは!!」
海に落ちた2人は、海面から顔を出して笑い合った。
「“芳佳”でいいよ。私たち友達でしょう?」
「じゃあ、私も“リーネ”で!」
「うん、リーネちゃん!」
「はい!芳佳ちゃん!」
程なくして宮藤とリーネの元に先行していた結城たちが合流する。
「協同撃墜の初戦果。2人とも良くやったわ。」
新人2人の初戦果にミーナは、海面で笑い合う2人を見て穏やかな表情になるのであった。
今回の戦闘は宮藤、リーネ回ということもあり、主人公の出番はちょいと少なめです。