ストライクウィッチーズ 黒き槍騎兵   作:ブンブク

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最近、何かと忙しかった事もあり更新が止まっていました。


第8話 音速の向こう側

早朝の501基地上空、2つの航跡が絡み合いながら空を描いていた。

 

「この零式の動きに付いてくるとは流石だな!」

 

(さすがは扶桑の零式。小回りにおいては、メッサーに分が悪い……。)

 

黒塗りのBf109を履いた結城と零式ニニ型甲を履いた坂本が模擬空戦を展開していた。今回の模擬空戦で結城はいつも主武装として使用しているMG151/20を使用せず、愛銃であるモーゼルシュネルファイヤーを2挺持ちにして使用している。

高速を生かした一撃離脱で戦う結城に対し、坂本は扶桑のお家芸である格闘戦で一進一退の攻防を見せる。坂本が履く零式艦上戦闘脚は扶桑海軍の主力艦上戦闘脚であり、扶桑組の宮藤も同じ型を使用している。旋回時での機動力や航続距離は501部隊で使用するユニットの中でもトップクラスの性能を誇る。

坂本の零式と結城のBf109が旋回しながらの巴戦になる。横の動きでのドッグファイトになると軽量な零式が有利だ。軽快な運動性能で坂本は結城の後ろにつく。

 

「貰った!」

 

狙いを付けて訓練用の九九式二号二型改13ミリ機関銃の引き金を引く。

結城は、ヒラリと滑るように右にバンクして弾を避ける。

 

「それを避けるか……!」

 

ここで結城は、急降下して逃げに転じる。坂本も続いて追撃するも途中で追撃を諦める。旋回性能と航続距離を重視した故の零式ならではの弱点である。

身体を引き起こし、上昇して宙返り。今度は結城が坂本の後ろにつく。

訓練用のモーゼルの引き金を引くが、そこは歴戦のベテラン。機体を横滑りして弾を避けていく。

お互い引けを取らないこの戦いは、起床ラッパが鳴るまで続いた。

 

「すまないな結城、朝から私の訓練に付き合ってもらって」

 

「いえ、“扶桑のサムライ”こと坂本少佐と模擬空戦出来て光栄です。欲を言えば少佐に勝ちたかったとこですけど」

 

ウィッチーズの実戦指導教官を担っている結城。こうして時間がある時は501部隊のウィッチ達の模擬空戦に付き合ってもらっている。

ちなみに、今回の坂本との模擬空戦では決着が付かず引き分けに終わっている。

 

「わっはっはっ!!言ってくれるじゃないかっ!だが、そう簡単に負けるつもりはないぞ。」

 

結城の言葉に坂本は、豪快に高笑いする。まさに豪放磊落を絵に描いたような人物である。こういう人間こそが部隊から1番慕われるものだとそう思う結城であった。

 

 

 

 

 

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「えっ!?海に行くんですか?」

 

朝、シャーリーとルッキーニを除く501の皆はブリーフィングルームに集まっていた。

 

「ああ、明日の午前からだ。場所は本島東側の海岸」

 

「やったーっ!海だ!海水浴だーっ!」

 

坂本の言葉を聞いて宮藤は喜ぶ。しかし、周りの反応が無いことに気付く。

 

「…………あれっ?皆さん、海嫌いなんですか?」

 

「芳佳ちゃん……訓練よ、訓練。」

 

リーネが宮藤の服の裾を掴んでこれが訓練である事を小声で伝える。

 

「その通り!我々は戦闘中に何が起ころうとも即時対応しなくてはならない。たとえ海上で飛行不能となってもだ。そこで海に落ちた時の訓練が必要となるわけだ。」

 

「なるほど……。」

 

海水浴に行けると思ってたら訓練だという事で宮藤はがっくりと肩を落とす。

 

「なんだ宮藤!訓練が嫌いなのか!?」

 

「いえ、そうじゃないですけど……。」

 

「ふふっ、集合はここ。時間は1000時よ。いい?」

 

『了解』

 

ミーナの説明に全員が返事をする。

 

「分かったわね、宮藤さん」

 

「はいっ!」

 

「では、以上の内容をシャーリーさんとルッキーニさんに伝達して下さい。シャーリーさんは朝からハンガーに居るわ。ルッキーニさんは…………基地の何処かで寝てると思うから探してみて」

 

「分かりました。」

 

ミーナの言葉に宮藤は固く返事する。

 

「そうそう宮藤さん、別に1日中ずっと訓練じゃないのよ」

 

「え?」

 

「つまり、訓練の合間にはたっぷり遊べるってこと」

 

ミーナの説明を聞いて、宮藤の表情がパァッと明るくなる。

 

(まあ、遊べる体力があればの話だけどな……。)

 

と結城は内心思うが、あえて口に出さない事にした。その後は解散して、宮藤はリーネを連れてシャーリーが居る格納庫へと向かっていった。

今日は、訓練も無いので基地周辺の風景でも描こうと結城は一度部屋に戻り、スケッチブックを手に基地内を探索する。途中、格納庫の近くを通りかかった時に轟音が響き渡る。

 

(確か、イェーガー大尉がハンガーに居ると言ってたな。)

 

朝のブリーフィングでミーナが言ってたの思い出し、この轟音が魔導エンジンの排気音だと分かった。そう思いながらハンガーの方に足を運ぶ。

 

 

 

 

 

「静かにしてくださ―――――いっ!!」

 

 

 

 

 

格納庫に到着するなり、宮藤の声が格納庫全体に響き渡る。

 

「宮藤……うるさい」

 

「え……?あっ!ごめんなさい……。」

 

結城に言われて宮藤は慌てて謝る。

 

「も〜うるさいなぁ〜」

 

そこへ別の所から声が聞こえる。全員が声がする方向へと目をやると、ハンガーの鉄筋の上で寝起きで目をこすっているルッキーニの姿があった。

 

「ルッキーニちゃん!?」

 

「ふぁ~……せっかく良い気持ちで寝てたのに、芳佳の大声で起きちゃったじゃない」

 

そう言ってルッキーニは鉄筋から飛び降りる。

 

「ルッキーニちゃん、あの大きな音平気なの?」

 

「うん!だっていつもの事だし」

 

リーネの問いにルッキーニは当然のごとく答える。

 

「ほう……?朝っぱらから昼寝とは、随分といいご身分だなフランチェスカ・ルッキーニ少尉?」

 

ギロリと鋭い眼光を放ちながら結城はそう言った。

 

「ヒィッ!?ゆ、結城大尉…………。」

 

リーネの後ろに結城がいる事に気付いたルッキーニは小さく悲鳴を上げて、まるで猫のごとくシャーリーのP−51が固定されているユニットの発進台の陰に隠れる。ルッキーニのあまりの慌てっぷりに結城は小さく笑う。

 

「……冗談だ。そんなにビビる事じゃ無いだろ」

 

「結城さんの冗談は冗談に聞こえないですよ……。」

 

困った顔をしながらリーネが言った。

 

「そういえば結城、前からずっと気になっていたんだけどお前のユニットって中佐とハルトマンが使っているユニットとは全く異なる仕様だよな。」

 

何か思い出したようにシャーリーが結城に話しかける。シャーリーは、結城が使用しているBf109がミーナやハルトマンが使っているユニットとは違うモデルだという事に気になっていた。

 

「ああ、俺が使うBf109は前の部隊で使っていた専用機でな。自分好みにカスタマイズして仕上げてあるんだ。」

 

「へえ、そうなのか……だったらさ結城、お前の速さ見せてくれよ!」

 

「……?」

 

シャーリーの言葉の意味が解らず、結城は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

―――滑走路

 

 

 

 

 

「準備はいいか?」

 

「ああ、いつでも」

 

滑走路には、愛機Bf109改 “ブラック・スペシャル”を履いた結城が立っており、結城のすぐそばには宮藤とリーネとシャーリー、そして速度計を持ったルッキーニがいた。

聞いたところ、シャーリーは結城の履いているBf109改の性能が気になるとのことだ。ユニットに魔法力を流して魔導エンジンを始動させる。

 

「結城・ヴェルナー、これより高速度試験を開始する。」

 

エンジンの回転数を上げて滑走路を滑走して飛び立った後、空に向かって一気に急上昇していった。

 

「凄〜い!まるで打ち上げ花火みたい!」

 

「スゲェ加速だな。もう見えなくなっちまった……。」

 

すごい速さで上昇していく様に宮藤とシャーリーは感嘆する。

バルコニーでは坂本、ミーナ、ペリーヌの3人がその様子を観測していた。

 

「……高度1000mまで40秒。シャーリーさんの50秒より10秒早い上昇速度です。少佐」

 

「うむ、お手並み拝見だ。」

 

上空では、結城がBf109改の加速と上昇力に物を言わせて一気に駆け上がる。高度6000mに到達して水平飛行に移る。

 

「現在、高度6000……これより高速度試験に入る。魔導エンジン出力最大!」

 

エンジンの出力を最大にすると同時に固有魔法「増幅」を発動させる。これにより出力を向上させ、一時的なブースト効果を発生させる。

結城の言葉に応えるようにチューンナップされたDB605Aが唸りを上げて加速していく。

 

「速度600……650……700……凄い!一気に750キロまで加速したよ!」

 

「なんて瞬発力だ……。」

 

速度計を見たルッキーニが興奮した様子で伝える。シャーリーは結城が履いているBf109改の加速性能に脱帽していた。

 

(悔しいけど、あの加速性能は私のP-51ではとても出せないや……。)

 

悔しいが、どこか清々しい気持ちだ。今度、機会があったら結城のユニットを整備してみたいな。とシャーリーは思うのであった。

 

「加速が止まりました。」

 

一方、バルコニーで計測していたペリーヌは加速が止まった事を坂本達に伝える。

 

「どこまでいった?」

 

「750キロです。高度6000mまでの上昇時間は4分30秒です。」

 

「さすがは“レッド9”専用機だ。あの加速と上昇力は目を見張るモノがあるな。」

 

「ええ、そうね。…………でもやっぱりレシプロではこれが限界なのかしら?」

 

「“音速”はまだまだ遠いか…………。」

 

その後、高速度試験を終えた結城は滑走路に向かって降りていき宮藤たちの前に着陸していった。

 

 

 

 

 

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「これ、なんですか?」

 

「“グラマラス・シャーリー新記録”ってバイクの記録ですか?」

 

試験飛行を終えた一同はその後、ハンガーに戻ってきた。シャーリーが自身の愛機であるP−51Dの整備をしている横で宮藤とリーネは、アルバムのとあるページを見ていた。それは新聞の切り抜き記事が貼られており、内容からしてバイクの最速記録による記事であった。

 

「シャーリーは、パイロットになる前はバイク乗りだったんだって!」

 

「ボンネヴィル・フラッツって知ってるかい?」

 

「ぼん…………?」

 

「リベリオンの真ん中にある見渡す限り、すべて塩で出来た平原さ。」

 

「そんな所があるんですか。」

 

「ああ」

 

「そこはあたしらスピードマニアの聖地なんだ―――」

 

思い出を語るようにシャーリーは話し始めた。軍に志願する前、自身で改造したバイクで最速記録に挑戦したあの日の事は今でも覚えている。

 

「…………バイクで世界最速記録を樹立した日に耳にしたんだ。“魔導エンジンを操って空を舞う、世界最速のウィッチ”の話を―――その日にあたしは軍に志願して入隊。で、今ここでこうやってるってわけ」

 

「それで任務のない日にスピードの限界に挑戦しているんですね」

 

シャーリーの話を聞いて宮藤が口を開いた。

 

「最速かぁ……すごいなあ。でもそれってどこまで行けば満足するんですか?」

 

「そうだなあ……いつか音速―――マッハを超えるのが目標さ!」

 

「音速って……?」

 

「音が伝わる速度の事だ。時速に換算すると1224km/hぐらいだ。」

 

音速について結城が軽く説明する。

それを聞いて、宮藤とリーネはシャーリーが掲げる目標に驚く。

 

「そんな速度を出すなんて本当に可能なんですか?」

 

「さぁね……でも、夢を追わなくなったらおしまいさ。」

 

そう言ってシャーリーは首にかけていたゴーグルを手に取りウィンクした。

 

「何だか壮大な夢ですね、結城さん……って何描いてるんですか?」

 

椅子に腰掛けて何かを描いているのに気付いた宮藤とリーネが興味深げに尋ねた。

 

「ああ、格納庫内の風景を軽く描いてみたんだ。」

 

結城は特に隠す事なく答える。

ちょうど描き終えた絵には、格納庫内を背景にシャーリーがユニットを整備する姿が描かれていた。

 

「へーえ、中々上手いもんだな。戦争が終わったら画家にでもなったらどうだ?」

 

「画家か……それも悪くないな。」

 

ふむ、と顎に手を当てて結城はそう言った。戦争が終わった後の第2の人生として検討しようか。そう思いながら結城はスケッチブックを閉じて立ち上がる。

 

「さて、俺は先に戻るとするか。……ああ、2人とも中佐からの報告忘れないようにな。」

 

格納庫を出る直前で結城は宮藤たちに中佐からの報告を伝える。

 

「ん?報告?」

 

シャーリーは、何の事かと聞き返す。

 

「あーっ!忘れてた!!」

 

宮藤とリーネは、すっかりと忘れていたらしく思い出したように声を出した。       

その後、宮藤たちはシャーリーとルッキーニに明日の海上訓練と集合時間を伝える。

 

「そっか、それは楽しみだな!」

 

「え?」

 

「何がです?」

 

「2人の水着姿。もしかしたら結城に描かれたりしてな♪」

 

「え〜っ!?」

 

リーネの質問にシャーリーは悪戯っぽく答える。冗談で言ったつもりだったが、2人はそれを真に受けてしまい、頬を赤らめる。そんな会話のやりとりをしながら3人は格納庫を後にする。

 

「ふぁ〜。……あれ、みんなは?」

 

シャーリーの愛機 P-51Dを固定している発進ユニットの上で寝ていたルッキーニが欠伸をしながら目を覚ます。格納庫内には誰も居なくて寝起きの表情で左右を見渡す。

 

「……あっ!」

 

目の前にあるストライカーユニットに目をやるとP-51Dの主翼に掛けてあるゴーグルを見つける。ルッキーニは目を輝かせて軽い足取りでユニットに駆け寄る。

 

「ティッティティ〜ン!」

 

ガシャァンッ!!

 

「………………。」

 

全身にかけていや〜な冷や汗が彼女を襲う。ルッキーニが主翼に掛けてあるゴーグルを取った瞬間、シャーリーのストライカーユニットがバランスを崩し転倒してしまう。さらにシャーリーのストライカーは整備中で内部構造が剥き出しだった為、転倒した衝撃で各々の部品が散乱してしまい漏れ出たオイルが床一面に広がっていた。

 

「にゃぎゃあああああ〜〜〜!!」

 

両手で頭を押さえ悲鳴を上げるルッキーニ。

 

「どどど、どうしよ……どうしよう!あれ?この部品どこだっけ……?こっち?こっちだっけか…………?」

 

ユニットを壊した事をシャーリーが知ったら絶対に怒られる。そう思ったルッキーニは慌ててストライカーを起こし、元に戻そうとする。当然、彼女にメカニックの知識など無い。とりあえず内部の部品は適当に組み合わせて外見だけ元通りにする。

 

「ふー!これで元通り!……だよね?」

 

顔と服をオイルまみれになりながらルッキーニはそう呟いた。しかし、その適当に修理したストライカーが後に大変な騒動を引き起こす事になるとはこの時は誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

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翌日、本島東側の海岸

 

 

 

 

 

「やっほーうっ!」

 

海岸に着くなり、シャーリーとルッキーニが海に向かって勢いよく飛び込む。大きな水柱を上げる先にはバルクホルンが見事なクロールで泳いでおり、後ろではハルトマンが犬かきをして泳いでいた。

 

「ヒリヒリする……。」

 

「腹減ったナ〜」

 

一方でサーニャとエイラは、浜辺で海を見つめながら座っていた。北国出身の2人にとってブリタニアの暑さは苦手のようだ。

 

「なんで、こんなの履くんですか!?」

 

サーニャとエイラが声のした方向に目をやると宮藤、リーネ、結城の3人が訓練用のストライカーユニットを履いていた。

 

「何度も言わすな!万が一海上に落ちた時の訓練だ!」

 

「他の人達もちゃんと訓練したのよ。後は貴方達だけ」

 

「2人はまだしも、なにも俺までやる必要無いだろ……。」

 

これから宮藤、リーネ、結城の3人は、海上に不時着した時に備えて、ストライカーを履いたまま海に飛び込むのだ。ミーナの言う通り、この訓練は他の隊員もやっている。結城は、何で自分までこの訓練をやるのかと不満を口にする。

 

「つべこべ言わず、さっさと飛び込めっ!!」

 

坂本の怒鳴り声がとともに宮藤とリーネは海に飛び込み、遅れて結城も海に飛び込んだ。しかし、ユニットの重さで3人とも海の中へ沈んでいく。

 

「…………浮いてこないな」

 

「ええ……」

 

坂本は、持っている懐中時計を見て時間を確認する。

海に飛び込んで1分近く経ったくらいでまず結城が海面に上がり、岩場にしがみつく。

 

「ふぅっ……危ないとこだった……。」

 

海水を少し飲み込んでしまい、軽く咳き込む。

 

「結城さん、上がってこれそう?」

 

「ああ、中佐。大丈夫で―――!?」

 

結城が海から上がろうとした瞬間、何かに足を引っ張られ結城は海中に引きずり込まる。自分の足を確認すると、リーネと宮藤が結城の両足を離さないように掴んでいた。

 

(お、お前等―――――っ!)

 

抵抗むなしく、3人とも海の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

「よーし、皆休憩だ!」

 

坂本の掛け声で全員が休憩に入る。他の隊員たちは余力が残っていて海で遊んでいるが、宮藤とリーネは海からユニットを担いでいる時には完全に疲れ果てており、力尽きるようにそのまま砂浜に倒れ込んでいた。 

 

「あの様子じゃあ、しばらくは無理そうだな……。」

 

砂浜の上でへたり込む2人の姿を見て結城はそう呟く。そんな光景を傍目に結城は砂浜から少し離れた岩場の上で釣りをしていた。

 

「結城」

 

声をかけられて振り返ると水着を着たバルクホルンが立っていた。

 

「バルクホルンか、どうした?」

 

「少し話でもと思ってな……隣いいか?」

 

結城は小さく頷き、バルクホルンは隣に座り込む。

 

「……で、話って?」

 

少し間をとって結城が話しかける。

 

「お前が前にいた部隊について知りたくてな……。」

 

「……その様子だと中佐から聞いたようだな。俺がレッド9のメンバーだったという事に」

 

結城の言葉にバルクホルンは頷く。

バルクホルン自身、レッド9について耳にしていた。“航空歩兵の戦闘爆撃構想”を基に設立した実験部隊が存在すると……バルクホルンは慎重に言葉を選びながら聞いてみた。

 

「結城がいた部隊……レッド9はどんな所だったんだ?」

 

「…………一言で言うなら地獄そのものさ。俺がいたところはネウロイの激戦区で今日明日の命も分からない日々ばかりだった。飛行型ネウロイの相手したり、爆弾抱えて陸戦ネウロイに爆撃したりと何回落とされて死にかけた事か…………それに比べたらここなんか天国そのものさ。」

 

激戦区―――それがどれほどのものかバルクホルンは理解した。この隣に座っている青年は501に来るまでに多くの修羅場をくぐり抜けたのだろう。

 

 

「前の部隊にいた仲間達は今どうしているんだ?」

 

バルクホルンの言葉に結城はしばし無言になる。触れてはいけない話だったかとバルクホルンは焦るが、間を置いて結城は話し始める。

 

「……バルクホルンは、レッド9の解散理由についてどう聞いている?」

 

「確か、航空歩兵の戦闘爆撃における非効率と損耗率の高さだと聞いているが……」

 

「表向きはな」

 

「表向き?」

 

結城の発言にバルクホルンは首を傾げるも結城は続けて話す。

 

「1年前のアフリカでのネウロイの大規模侵攻の際、俺がいた部隊は敵の足止めとして殿戦を務めた。結果、部隊は壊滅……レッド9は解散した。」

 

「壊滅……じゃあ他の仲間は……。」

 

「全員死んだよ。あの部隊で生き残ったのは俺1人だけさ」

 

「………………。」

 

レッド9の本当の解散理由を聞かされてバルクホルンはどう答えればいいのか分からなかった。

 

「その……すまない……。」

 

ただ、核心に触れて欲しくない話題を軽々しく聞いたと思いバルクホルンはすぐに謝った。

 

「気にしないでくれ。遅かれ早かれ話す事になっていただろうしな。それに―――」

 

何か気配を感じて結城は話すのを止め、空を見上げて太陽を凝視する。

 

「……結城、どうかしたか?」

 

「……敵だ。」

 

そう言うと結城は立ち上がり、基地の方へと走り出す。その直後、ネウロイ侵攻を知らせる警報が鳴り始める。

それに反応して他の隊員たちも動き始める。

 

「敵は1機!レーダー網を掻い潜って侵入した模様!」

 

「また予定より2日早いわっ!」

 

坂本の報告を聞いてミーナは不満を吐露する。

 

「誰が行く!?」

 

「既にシャーリーさん達が動いているわ!」

 

坂本とミーナが敵の情報を得ていた頃、結城とシャーリーは既に格納庫に着いておりストライカーを履いて魔導エンジンを始動していた。

 

「結城・ヴェルナー出撃する!」

 

「イェーガー機、出る!」

 

結城はMG42をシャーリーはBARと愛用のゴーグルを装備して出撃する。

 

「結城さん!シャーリーさん!……うわぁ!」

 

「どけっ!!」

 

結城とシャーリーは、滑走路にいる宮藤の頭上を上空スレスレで通り過ぎて離陸していき、宮藤は前のめりに倒れて顔を滑走路にぶつけてしまう。

 

「芳佳ちゃん、私達も出よう!」

 

「うん!」

 

宮藤とリーネも自分達のストライカーを履いて出撃する。

先に出撃したシャーリー達は、上空で地上との連絡を待っていた。

 

『シャーリーさん、結城さん聞こえる?』

 

「中佐!」

 

ミーナからの通信にシャーリーが応答する。

 

『敵は1機、超高速型よ。既に内陸に入られているわ』

 

「敵の進路は分かるか?」

 

結城がミーナに聞く。坂本が地図を広げてネウロイの進行方向に向けて定規で線を引き、目標となる場所に印を付ける。

 

「方角はここから西北西。目標はこのまま進むと―――」

 

(ロンドン……!)

 

ネウロイの目標が首都ロンドンだと分かり、ミーナと坂本は険しい表情を見せる。

 

「ロンドンか……イェーガー大尉、先に行け!最高速度ならお前のP-51が断然速い。先行して敵の迎撃にあたってくれ!」

 

「……! 了解っ!」

 

結城はシャーリーに単騎で先行するよう指示を出す。結城のBf109改は加速、上昇力を重視した改造を施しているため、速度を重視したシャーリーのP-51と比べたら最高速度では一歩劣る。

シャーリーはゴーグルをかけて最高速度まで一気にスピードを上げていった。慌てて上がって来た宮藤とリーネはP-51から発せられるプロペラ乱流に巻き込まれて体勢を崩してしまう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、地上ではミーナや坂本をはじめとしたウィッチーズのメンバーが格納庫前に設置された簡易指揮所に集まっていた。今回は完全に奇襲だったので出撃出来たのは結城、シャーリー、宮藤、リーネの4人のみ。残りの者はネウロイ撃墜の報を待つしかなかった。

 

「あぁっ!シャーリー行っちゃった……。まさか“あのまま”なのかな?」

 

そこへ遅れて基地から戻ってきたルッキーニが気になる発言をする。

 

「何が“あのまま”なんだ?」

 

すかさず坂本が聞き返す。

 

「えっとね、昨夜あたしシャーリーのストライカーをね…………ひっ!?」

 

ただならぬ気配を感じてルッキーニの言葉が途切れる。

 

「あの……えと……何でもないです。」

 

ルッキーニがゆっくりと後ろを振り返ると目が笑っていない黒いオーラを出したミーナが立っていた。

 

「続けなさい。フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」

 

満面の笑みで問い詰められ、ルッキーニは顔を青ざめる。言い逃れ出来ないと悟った彼女は観念して白状した。シャーリーのストライカーを壊したこと。そして、それを隠す為に適当に部品を付けて直したことを説明した。

 

「なんで、そんな大事な事を今まで黙ってたんだ!!」(カールスラント語)

 

「ごめんなさ〜い!!」

 

ミーナからの通信を聞いた結城は無線で本部に怒鳴りつける。無線の向こうではルッキーニが泣きながら謝る声が聞こえていた。

 

『さっきから呼び掛けているんだけど、応答がないの!』

 

「了解っ!……2人とも、急ぐぞっ!」

 

そう言って、結城は魔導エンジンの出力を最大にしてスピードを上げる。宮藤とリーネもその後に続く。

ルッキーニの話を聞く限り、シャーリーのストライカーは内部回路がめちゃくちゃで奇跡的に動いているという状態だ。このまま飛び続ければ、ユニットが空中分解するか魔導エンジンが爆発するかのどちらかだ。

 

(間に合ってくれ―――っ!)

 

最悪な事態にならない事を祈って結城は自身の固有魔法を発動させて全速で追いかけるが、結城達とシャーリーとの距離は全く縮まらない。

 

(何だ?全然加速が止まらない……今日は、エンジンの調子が良いのか?)

 

一方、自身のユニットが重大な整備不良を抱えている事も露知らず、シャーリーは不思議な感覚に見舞われていた。

 

(この感じ……似てる……似てる……あの時と!)

 

彼女の脳裏にある記憶が蘇る。ボンネヴィル・フラッツでバイクの世界最速記録を樹立したあの日の感覚を…………今なら行けるかもしれない。

 

「いっけええええええええっ!!」

 

固有魔法「超加速」を発動させて、一気に加速していく。その加速は止まることなく彼女はついに音速の壁を突破する。

 

 

 

ズズズ―――ンッ!!

 

 

 

「きゃあっ!」

 

「な、なに!?この音は?」

 

音速突破の際に発生する衝撃波(ソニックブーム)で地響きに近い音が響き渡り、宮藤とリーネは驚きを見せる。

 

「衝撃波(ソニックブーム)だ。イェーガー大尉のやつ、音速を超えやがった……。」

 

シャーリーがゆっくりと目を開くと、自分が音の無くなった空間を飛んでいることに驚く。

 

(これは……?あたし……マッハを超えたの!?これが超音速の世界?)

 

「凄い!凄いぞ!やった!やったんだ!!」

 

音速を突破してシャーリーは、バレルロールしながら喜びを爆発させる。そこへインカムから結城の声が届く。

 

『聞こえるかイェーガー大尉!返事しろ!』

 

「結城!やったぞ!あたし、音速を超えたんだ!」

 

『喜んでいる場合か!バカ!前見ろ!前!』

 

「……へ?」

 

結城の言葉で聞いてシャーリーは正面に目を向ける。追い掛けていたはずのネウロイが眼前に迫っていて、こっちに向かって突っ込んで来ていた。実際には、シャーリーの方が速度がありすぎてそう見えただけだが…………。

 

「えええええぇぇぇ〜〜〜!?」

 

シャーリーは、すぐにシールドを展開させて急停止をかけるが、当然止まりきれず追突する形でネウロイの尾部部分に突っ込んで弾丸のようにネウロイを貫通する。その際にコアも破壊した事でネウロイはそのまま爆発四散する。

 

「……ネウロイ撃墜を確認。ついでにイェーガー大尉が音速を超えた。」

 

半ば呆れた表情をしながらも結城は本部にネウロイ撃墜の報告をする。

 

『シャーリーさんは!?』

 

3人が周囲を見渡すと、白煙の中から飛行機雲を引いて上昇していくシャーリーの姿が確認出来た。

 

「いましたっ!シャーリーさんは無事です!」

 

シャーリーの無事を確認して宮藤とリーネは安堵する。しかし、結城はシャーリーの様子がおかしい事に気付く。

 

「……2人とも、何時でもいけるように準備しとけ」

 

「え?それってどういう―――――」

 

と宮藤がそう言いかけたところだった。シャーリーの上昇が止まり、履いていたユニットが脱げて彼女は海に向かって落下を始める。

 

「あわわわわわ!」

 

「全然無事じゃな〜いっ!」

 

3人は、海に落ちていくシャーリーを追い掛けて急降下していく。海面ギリギリのところで宮藤とリーネはシャーリーをキャッチする。一方の結城は、シャーリーのユニットを回収する事に成功した。

 

「ふぅ……。滑り込みセーフだ―――っんな!?」

 

「えええ〜っ!!な、何で!?」

 

合流した結城はシャーリーの姿に目を見開き、宮藤は驚きの声を上げる。

今のシャーリーはゴーグル以外何も身に着けておらず、生まれたままの姿であったのだ。宮藤はシャーリーの豊満な胸を両手で鷲掴みにしていた。

 

「ああ……おっきい……。」

 

さらに宮藤はシャーリーの胸を揉みしだきながら心地よさそうな声を出す。

その顔はまさに至福な笑顔であった。

 

「きゃ〜っ!!芳佳ちゃん何やってるの!?それに結城さんも見ないでくださいっ!!」

 

「見てない……。あとリーネ、とりあえずこれを大尉に被せておけ……。」

 

結城は、着用していた黒のロングコートを脱いでリーネに手渡す。

「ありがとうございます。」とリーネはそう言ってロングコートをシャーリーに被せる。

 

『おいっ!状況を報告しろ!』

 

「少佐、ネウロイ撃墜確認……イェーガー大尉を確保しました。これより帰投します。」

 

結城は、少しばつが悪い表情をしながら簡潔に報告して3人とともに基地に帰投するのであった。

 




今回の話で初めて10000文字以上行ってました。勢いというのは怖いものです(笑)
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