実験体系TS少女ちゃんは有意義に死にたい   作:七目

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 目を開く。

 

 

 

………知らない天井だ。多分、病院のだろう。

 

 

 

 どうやら私はまた生き残ったらしい。

 

そのことに安堵しつつも、少し残念に思うのはどうしてだろうか。

 

 

 

 とりあえず、いつものように体の調子を確かめる。

 

 

 

視界欠損。右目がない。右腕は感覚がないが……よかった、ちゃんとついてる。あとは体が動かないし、倦怠感も酷いが……。

 

 

 

 とりあえず、治そう。

 

 

 

 魔力を励起する。実験によって植え付けられた力を行使する。

 

 

 

魔術書(システム)起動(アクティベート)。術式転写………完了。《秘蹟・聖者の加護(レナトゥス)》」

 

 

 

 それは魔法少女たちが持つ、理外の力。その模倣。

 

現実を侵食する概念を前に、当たり前の法則なぞ何の意味も成さない。

 

 

 

 あらゆる条理を捻じ曲げて、体が再生し始める……はずだった。

 

 

 

 すぐに視界の欠落が治った。けれど、中々動けるようにはなれない。首を曲げるのが精々で。いやまあ、場所によってはぴくぴくと痙攣させる程度は出来るけども。

 

 

 

………やっぱり、重傷なのかな?

 

 

 

 どうも、痛覚がないせいで体の状態を把握するのが苦手だ。

 

 

 

 この治りの遅さ。骨も筋肉も臓器も、何もかもがぼろぼろになってしまっているのか。それとも呪いの類でも受けてしまったか。

 

 少なくとも骨が根本から折れているとか、神経が焼き切れたとか、その程度の怪我ではなさそうで。

 

 

 

 何であれ。《解析》すれば分かるだろう。

 

 

 

 私の中に刻み込まれた魔術書にアクセスする。そうして《解析》の術式を構築しようとしたが………うん、やっぱり魔力回路まで壊れてる。ずたぼろだ。

 

 これでは秘蹟のような例外を除いて、魔術を使えない。

 

 

 

 困った。

 

 

 

 治るまで、何もできない。

 

 今みたいな状況には慣れているけど、回復までの見込みが立たないのは初めてだし。

 

 

 

………時間、かかるだろうなぁ。

 

 

 

 暇なのは嫌いだから、困る。どうしようか。とりあえず、一人しりとりでもしようか。初めはしりとりの「り」からで………つぎはりんごごりららっぱが定番で。つぎは「ぱ」。ぱは、えっと……。ぱなそに───あっ、固有名詞はどうしよう? んー、一人だから気にしなくてもいっか。

 

 

 

 そんなことを考えていたら、遠くから騒がしい足音が聞こえてきた。絶対、走ってる。病院なのに。

 

 

 

 聞き覚えのある足音だ。多分、知人。

 

 

 

 その考えを裏付けるように足音はどんどん近付いてきて、がたんっ! と勢いよく扉が開かれた。

 

 

 

「ナナ! 起きたんですか!?」

 

 

 

 それと同時に聞こえてくる、大きな声。

 

 

 

 首を曲げて、そちらを見る。勝気そうな顔立ちの少女───灯鈴だ。ただ、今は泣きそうな顔をしている。

 

 

 

「ぉ……ぃ、ょ」

 

 

 

 何でそんな顔をしているのかなぁなんて思いながら返事をしようとしたら、声が出なかった。喉もダメになっていたようだ。

 

 

 

「───……………っ!」

 

 

 

 会話もできないのはかなり困る。《秘蹟・聖者の加護レナトゥス》の効果を集中させて、急いで喋るのに必要な器官を治してゆく。

 

 

 

 それにしても、灯鈴はどうしたのだろう。

 

 

 

 ふらふらと近付いてきたかと思えば、手を握って泣き出してしまった。

 

 

 

 いや、分からないことはない。心配してくれているから、泣いているのだと思う。きっと、私の状態が彼女の想像よりも酷かったから、泣いてしまったのだと思う。

 

 

 

………いや、やっぱり分からない。

 

 

 

 私は生きている。生きているなら、じきに完全回復できる。実際、今までもそうだった。これからも同じだ。それは、彼女だって分かっているはずだ。

 

 だから、そんなに悲しそうに泣くような理由はないはずだ。

 

 

 

 ないはずなんだけど…………もしかしたら、怪我をする前に何かしてしまったのかもしれない。

 

 だとしたら私に知る術はないし、できることだってありはしない。

 

 

 

 嫌になる。

 

 

 

 こんな少女があんまりにも辛そうにしてぽろぽろと涙を零すところを見ていると、むしゃくしゃしてどうしようもなくなってしまう。

 

 

 

──────………。

 

 

 

 ああ、ままならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、あー………。しゃべれる……? しゃべれた」

 

 

 

 あれから時が経つことしばらく。私は声を取り戻した。灯鈴も既に泣き止んでいる。が、未だにベッド脇に俯いて座り込んだままだ。感情の整理が付けられていないのだと思う。

 

 本当に何事なのだろう? もしも原因が過去の私にあるのなら、一体何をしてしまったのだろう?

 

 

 

 いや、声に反応してか、遂に顔を上げた。腫れて赤くなった目が向けられる。

 

 

 

「ナナさん。災獣なんかとは戦わず、普通に生きて、幸せになる道はないんですか?」

 

 

 

 その瞳に込められているのは懇願だろうか。

 

 

 

 でも、

 

 

 

「ごめんなさい。それは、無理」

 

 

 

 前世の「俺」だったら、何もかもに絶望し切って無気力に生きていたあの男ならば、そんな生き方をこそ望んだかもしれない。

 

 

 

 けど、

 

 

 

「普通に生きて、普通に死ぬ。真っ当な人としての人生。悪くはないと思う。けど、私はそんな人生、許せない」

 

 

 

 何の因果か転生して、培養槽の中で産まれた命。人ではない、実験体07番としての日々。炎の中で見た、家族たちの死に姿。

 

 

 

 私は既に、「私」になった。私はいろんなものを抱えてしまった。

 

 

 

 だから、

 

 

 

「私は、死ぬのは恐くない。本当に恐ろしいのは意味もなく生きて、意義も無く死ぬこと。意味のない生は死と変わりないし、意義のない死は存在しないのと同じだから。だから私は───」

 

 

 

「───有意義に死にたい、ですか……?」

 

 

 

「うん、ごめんなさい」

 

 

 

「……っ! どうして謝るんですか……」

 

 

 

「それは………」

 

 

 

 どうやら私は、また灯鈴を傷付けてしまったらしい。でも、それで生き方を変えれるわけではない。だから何も言えない。

 

 

 

 彼女はまた押し黙った。表情は見えない。俯いてしまったから、髪に隠れている。不意に、どうしてかその長い濡羽色の髪が床で汚れてしまわないか心配になった。

 

 

 

 また、場を沈黙が支配する。今回のは短かった。灯鈴が何やらぼそっと呟いたかと思えば、顔を上げた。力強い眼をしている。決然とした意志が、瞳から感じ取れる。

 

 

 

「まず、ありがとうございました。私が今生きていられるのは、ナナさんのおかげです。また死んじゃうところでした。本当にありがとうございます」

 

 

 

「………? どういたしまして」

 

 

 

「それともう一度……いえ、これからもよろしくお願いしますね。不甲斐ない魔法少女ではありますが、

 

 

 

「うん、よろしく?」

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