第1話
幻想郷の素敵な巫女、博麗霊夢。
数々の異変を解決に導いてきた幻想郷の守り人にして、普段はマイペースな彼女でも、取り乱す事は勿論ある。
「まさか幻想郷で生のイカが手に入るなんてね、今日は朝からお刺身にしちゃいましょ」
霊夢は今、海の上にいるのだが取り乱す事は無かったようだ。
「霊夢、イカなんて捌けたのか?」
「こんなもんどこ切ったって同じでしょ」
大海原の魔法使い、霧雨魔理沙。
イカを天日干しにしようと博麗神社の天井に並べる魔法使い。
「酒のアテには丁度いいが、何日かかるんだろうな」
「そんな事より今食うものよ、ほら、食べましょ」
「そうだな、オーシャンビューなんて初めてだ」
霊夢が適当に捌いたイカの刺身を、醤油やイカスミを絡めて頂く、幻想郷では考えられない事だ。
そう、本来であれば幻想郷には海は無い。海産物などたまに紫が仕入れてきたり、そのへんの川に流れ着く程度。
今、高所に位置する博麗神社がぽつんと取り残されているが、この幻想郷は今海によって水没している。
「んん~!なんだ、生のイカも中々いけるじゃないか!」
「うん、美味しいわね!他の魚も釣りましょ魔理沙」
「ああ、所であの狛犬はどうした?」
「潜らせてる。海に」
博麗神社のペット、高麗野あうん。
現在は霊夢の命により海産物を素潜りで集めさせられている。
「ふーん、そう。しかし、なんで突然海が出来たんだろうな」
「知らないわよ、そういうの調査するのは紫の仕事でしょ」
「解決するのは貴女の仕事だと思うんだけど?」
「「うわびっくりした!」」
霊夢の隣にいつの間にか座っていた胡散臭そうな少女。
幻想郷の大賢者、八雲紫。
霊夢の皿からイカを摘み、口に運ぶと面倒くさそうにため息を吐く。
「…で?原因は分かったの?」
「ええ、ある妖怪の仕業よ。……お酒ないの?」
魔理沙が霊夢の閉まっておいた清酒を開け、自分と紫の前にコップを差し出す。
「ソイツは誰なんだよ、強いのか?」
「私のコップは?」
「かなりね、私でも手に負えない程に、強大な妖怪よ。今から1000年ほど前……私と隠岐奈、鬼の四天王に、妖怪の山の勢力全員を相手取っておきながら、ついに倒しきれなかった程の…」
「そんな奴ほんとにいるの?」
疑うような目を向ける霊夢に、それも無理もないと酒を呷る。
不思議と今までのような掴み所のない胡散臭さが消え失せ、苦々しく歯噛みする。
「先代にも教えていなかったから知らなくても無理はないわね。アイツは誰も封印を解けないよう何重にも封印と結界を重ねて、地下深くに封じ込めた…ハズだったわ…」
「地下深く?勇儀のところか?」
魔理沙が脳裏に浮かべたのは鬼の四天王の一角、星熊勇儀のいる旧地獄。あそこは色々と厄ネタが多い。
「ええ、ただし旧地獄よりさらに下の方だけど」
「だから勇儀はあそこにいたのか?」
「さぁ?別に私はなにも言ってないわよ。単に居心地がいいんじゃない?」
「あ、そう…」
「なんでもいいけど、誰なのよソイツは」
イカをツマミに酒を楽しむ場を邪魔された霊夢が不機嫌そうに睨むと、紫は珍しく重い口を開く。
「八景龍海魔…少なくともそう名乗ったわ」
「ハッケイリュウ…カイマ…」
「で?ソイツを倒せばいいわけ?私としてはこのまんまでもぜんっぜんいいんだけど!美味しいもの食べれるし」
霊夢が酒瓶を音を鳴らして置いて立ち上がる。
口にはイカを詰め込みながら、だが。
「そうね、でもまずはどこにいるのかを探さないと。このままでは幻想郷は水没し、陸地に住むものは殆ど死滅してしまうわ」
「もう手遅れじゃねぇの?この博麗神社まで海まみれだ」
「そうでも無いわ。博麗神社と下の人里は、私が境界をいじったから今は別の空間になってる…というか、わかりやすく言うと水抜きしたから。と言っても、それだって無限じゃないから……えーと、計算では1週間以内に幻想郷は水没するわ」
結構余裕あるな……と内心呟く霊夢と魔理沙は早速と言わんばかりに空に浮かび始める。
「よし、二手に分かれようぜ、いつもみたいにな」
「ん、気をつけなさいよ……紫、ちょっと行ってくるわ」
「霊夢、危なくなったら言いなさい、いいわね?」
魔理沙は箒で魔法の森を目指し、霊夢は地底へと向かう。
果たして二人に待ち受けるのはどんな冒険なのだろうか……
「あ、紫、屋根の上に魔理沙のイカがあるから食べないでね」
何故屋根の上に……?
大賢者は何も言わずに酒を飲んだ。
処女作です、オリキャラが出ますが、主人公は霊夢です