博麗霊夢が目覚めないまま八景龍海魔との戦闘が始まった。
一方で、迷いを断ち切ったまま意識を失った霊夢は、不思議な体験をしていた。
海なんてない博麗神社、夏の終わり少し秋付く頃の幻想郷。
そんな見慣れた美しい景色がそこにあった。
「ずず……こりゃ夢ね、典型的な夢」
なんかお茶飲みたいな〜と思ったら、お茶とお茶菓子が出てきた。明晰夢かなにかだろう。霊夢はそう結論づけ、縁側で寛いでいた。
「夢では無いぞ〜稀代の天才巫女よ」
「うわっ!びっくりした!何よおばあちゃん!誰!?」
霊夢の背後にいつの間にか立っていたのは薄汚れた巫女服を纏ったずんぐりむっくりした老婆だった。
まったく知らない存在の介入に焦る霊夢を見て愉快そうに喉を鳴らす老婆は霊夢の隣に座ってお茶を取り出す。
「ここはねェ…歴代の博麗の巫女のォ〜無意識が集まった場所じゃよ、博麗霊夢」
「……歴代の博麗の巫女…?」
「それでねェ…あたしゃぁ~1000年前の博麗の巫女なんだなァ〜あの八景龍海魔を封印した、とんでもない巫女なんじゃ」
無意識を夢想した巫女、1000年前の博麗の巫女。
とても強そうには見えない本当のババアの登場に…紫って少女だったんだな、と霊夢は認識を改めた。
「で?何しに来たのよ」
「来たのはお主じゃて、ここはねェ…あの世とこの世の境界にある、無意識空間でなぁ…」
「は?あの世?」
「安心せぇ、死んだわけでは無いわい。ここは無意識が集まった場所、無想の境地に辿り着いた巫女がなァ〜死後も無意識に回避行動をとった結果としてなァ、あの世にいけんくなってしまったから、無意識空間を創ったんじゃな〜このあたしが。無意識空間には死神も入れん、無意識に選んだ安全圏に挟まってしもうたからなァ〜ここを無意識空間と呼ぶことにしたんじゃよ」
「突然無意識を連呼しないで、頭痛くなってくる」
なに?無意識空間って?
なに?無想の境地って、さっき私がやったあれ?
死後も回避行動を取るって何……?
霊夢は久しぶりに混乱し、頭を抱えた。
「要件だけ話してくれない?」
「そうじゃなァ〜要件ってーとなァ。あれなんじゃよなァアレアレ!お前さんにいくつか質問があってなァ〜」
「質問?」
老巫女の目が鋭くなるのがわかる。
急にヒリヒリと緊迫感に襲われ、この老婆が本当に只者では無いことがわかる。
「お前八景龍海魔を殺せるか?」
何をいまさら、霊夢は立ち上がりお祓い棒を構える。
「八景龍海魔を殺す気は無い。封印する気も無い。そのことにもう一切の迷いも無いわ」
「……白楼剣め、要らぬことをしてくれるわい。では霊夢よ、殺さずしてどう無力化する」
「あいつは寂しいだけよ。考えたことある?一族郎党皆殺しでたった一人生き残って、怨みも怒りもしたうえで幻想郷に手を伸ばしたのはなぜか分かる?…ただ受け入れてほしいだけよ」
霊夢はずっと考えていた。
さとりの語った八景龍の本心を考えていた。
『あの子は寂しいだけで悪意がないんです。紫さんの事は怨んでるようですが、それ以外は…ただ寂しいだけの子供です』
「さとりが言うんだ、間違いないわよ。あいつはとんでもない悪じゃない。ただ善悪の区別が付かない独りぼっちの子供…とりあえず力で黙らせたら、寺子屋にでも通わせるわ」
「それが本心だとしても…奴は幻想郷に攻撃を…」
「こっちから話も聞かずに仕掛けといてよく言うわ」
老巫女は黙り込んで考え込む。
しばらく、数分程考えた後、お茶を一口啜り息を吐く。
「そうか、まぁええわい、どうせあたしゃぁもう1000年も前の博麗の巫女、口出しはできん。そこでじゃ、霊夢、お主に提案がある」
「なによ、さっさと言いなさいよ」
「パワーアップ、したくない?」
歴代の博麗の巫女はいずれも身体能力に優れ、人間としては怪力な部類であった。それは霊夢も例外ではなく、ちょいちょい重いものを軽々と持ち上げていたりする。
そんな怪力を掛け合わせ倍増する究極奥義を見いだしたのだ…と老巫女は霊夢に告げた。
そのパワーアップと言うのが…
「長い…」
「ここにいる全ての博麗の巫女のパワーを!受け取れい!ハーーーッ!!うおおおーーっ!!」
「「「「「「博麗の究極奥義ぃ!」」」」」」
「「「「「「「我が全てのパワーをォ!受け取れェい!」」」」」」」
「凄いうるさい…」
「「「「「「天与博麗ッ!!!」」」」」」
無数の博麗の巫女が円陣を組んで、中心にいる霊夢に真っ赤な闘気を流し込むと、爆発的な閃光が霊夢を包む。
メラメラと焔のように揺らめく紅い闘気が溢れ出すような凄まじいパワー、歴代博麗の巫女のパワーを全て霊夢に注ぎ込んで産まれた、まさしくスーパー霊夢となった霊夢。
「凄い…パワーを感じる」
「一応言っとくがのぉ当然デメリットもある!じゃがまぁ大したもんではない、多分八景龍だろうと倒せるじゃろう!」
何者にも負けはしないという高揚感に笑みを浮かべながら、霊夢はついに目覚める。
闘いはもう始まっているようで、夜空に花火の様に弾幕が花開いている。
「…一応、礼は言っとくわ、天与博麗」
紅い闘気を吹き出しながら霊夢は飛ぶ。
いつもより速い、あっという間についてしまった。
妙な鎧を着た八景龍海魔の巨大なエネルギーが魔理沙を狙っているのを捉え、その大きな焔弾を片手で弾いた霊夢が、ゆっくりと八景龍に向き直る。
「はぁ…はぁ…お、遅かった…な…霊夢…」
「お待たせ魔理沙。後は私一人でやるわ」
その背中に迷いも恐怖もなく、霊夢がどこか遠くに行ってしまったようで寂しくもあるが、魔理沙は不思議と安心していた。
なんだ、結構元気そうじゃないかアイツ。
「お前が博麗の巫女か」
「あんたが八景龍海魔」
「お前も私を封じるのか」
「いいえ、違う」
霊夢は思ったより小柄な八景龍から目線を外し、周りの戦場を見渡した。
紫や勇義、萃香…あと華扇もかなりボロボロになっている。
前線で闘っていたのだろう、鬼の力は頼りになる。
後衛の永琳、神奈子、諏訪子は対してダメージを食らっていないのをみると、とことん八景龍は近接を得意としているようだ。
あそこで鈴仙と早苗が闘ってるのは、わかさぎ姫?
あいつあんなに強かったの?
「ほう、では私を殺すのか?」
「違う、あんたに教えに来た」
「なにを?八雲紫の弱みでも教えてくれるのか」
「幻想郷のルールって奴よ」
「は?ルール?」
霊夢は静かにお祓い棒を構えると、紅い闘気を放出する。
それをみて八景龍もいつでも動けるよう脚に力を込める。
「幻想郷ではこうやって異変を起こせば、巫女が解決にやってくる。巫女が騒ぎを起こした奴をこらしめれば、その騒ぎを起こした奴らも一緒に酒飲む仲って奴よ」
「…?」
「幻想郷は全てを受け入れる。だけどそっちも受け入れて欲しければルールに従いなさい」
「騒ぎを起こすってのは、コレでいいのかな?」
そう言うと八景龍は魔理沙の内臓を破裂させた鋭い蹴りを放つ、しかし霊夢はそれを海面に落ちるように回避すると、そのまま八景龍の顎に痛烈な蹴りを入れた。
「ッ…!?な…?」
「だから教えてあげる。この幻想郷は、あんたを受け入れると」
八景龍海魔が、膝をついた。
鬼の豪腕を受けて余裕の笑みを浮かべた八景龍が霊夢のたった一撃の蹴りで、膝をついた。
「バカなっ…!?」
二度目の格闘、八景龍の右腕の手刀を指先で弾き、霊夢のお祓い棒が八景龍の無敵の鎧を砕いてみせる。
その場にいる誰もが霊夢の異変に気付く。
今までの霊夢ではない……と。
ついに復活した霊夢、新たなる奥義『天与博麗』の圧倒的力!
しかし老巫女のいう代償の正体とは一体…?
次回東方海魔伝 『魔理沙の強化はよ』
来週も限界突破100%フルパワーマスタースパーク!