東方海魔伝   作:嘘しか言わん狐

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平和な病室

妙な浮遊感と薬品の臭いで目を覚ます。

隣を見ればまだ気絶したままの八景龍海魔に、勝手に動きすぎるのでベッドに拘束された霧雨魔理沙の姿があった。

 

「よう霊夢、起きたか。あいにく今はヤブ医者に禁酒を言い渡されててな。そろそろ飯でも食いたいんだが」

 

「おはよう魔理沙、咲夜の作ったご飯が食べたいわ」

 

「それが咲夜の奴さっさと紅魔館には帰っちまった。それより聞いてくれよ!レミリアの奴、せっかく呼び出したはいいものの、一面海だから流水判定なって結局闘いに来れなかったらしいぜ」

 

「マジで?……まぁ咲夜がいたからいいけど、吸血鬼ってほんとう弱点多いのね」

 

気絶したままの海魔を挟んで二人が笑い合う。

話題はアレだが平和な世間話だ。

 

「で?永遠亭って無くなったんじゃなかったの?」

 

「あぁ、こいつの船の中に丸々入ってたってよ。今は元あった場所まで戻してるんだ」

 

「ああ、だから揺れてんだ…」

 

永遠亭が飲み込まれて無くなったとだけ聞いたので、てっきり粉々にされたのかとおもっていた。

 

「回診でーす。あ、起きてる」

 

「おはよう鈴仙、今日はうどんがいいわ」

 

「おはようれ…うどんげ。今日はうどんがいいな!」

 

「蕎麦出そうか?」

 

霊夢は本当にうどんの気分だったのだが、魔理沙のせいで煽ったみたいになってしまった。おのれ魔理沙、蕎麦が出てきたらどうしてくれる。

 

「鈴仙私病み上がりだから蕎麦は嫌よ、うどんにして」

 

「分かってるわよそんな権限ないし、蕎麦がいやな理屈は分からないけど」

 

「卵も乗っけて」

 

「決める権限ないんだって」

 

後で永琳にねだるか…霊夢はだらりと横になる。

 

「おいおい拗ねちまったじゃないか、おいうどん耳食わせてやれよ」

 

「カエンタケ食ってろ」

 

「大好物だぜ」

 

「ふふっ」

 

霧雨魔理沙はカエンタケが大好物らしい。

なぜ触れるのも危険な毒キノコを食べて平気なのだろうか。

魔理沙は本当に人間なのだろうか。

 

「そんな事より、こいつまだ寝てんの?あんなに何度も復活してたくせに」

 

「海が無いだけでこう起きないものなのね。お師匠が色々調べてるけど、やっぱりサンプルが足りないって」

 

「…なぁそういや……輝夜帰ってきたのか?」

 

「え…?あ……!忘れてた!!」

 

「院内では静かにしてね優曇華」

 

すっかり忘れてた!と鈴仙が叫ぶと、永琳が何事かと顔を出す。

さっきまでなにか薬でも創ってたのだろう、白衣を着ているが青い液体で汚れている。

 

「すみませんお師匠…で、でも輝夜さん、帰ってこないので…」

 

「………あ」

 

永琳は忘れていた。

そういえば確かに輝夜を見ていない。

最後に確認したのは……

 

 

『来なさいよ妹紅っ!』

 

 

『輝夜っ!燃え尽きろ!』

 

 

「……あの闘いの時、二人してどっか飛んでって…そのまま…」

 

「バカかあいつら」

 

黒い水で洗脳された妹紅と一対一の闘いを繰り広げていた輝夜。

恐らくだが、今も戦っている。本当に意味もなく戦ってる。

 

「仮にも自分の主を忘れるとかある?」

 

「いえ…どうせ不死身だし、いいかなって…」

 

「い、忙しかったし…けが人だらけで…」

 

というか、海魔が気絶してもまだ洗脳継続してるんだ…と内心戦慄している霊夢をよそに、永琳は小さな瓶を取り出す。

 

「それは?」

 

「川の水にミネラルと塩を加えたもの。ほぼ人工の海水みたいなものね。もしかしたら海水…もしくは塩水がないと回復しない可能性があってね、一応ミネラルも混ぜておいたけど…」

 

「ふーん、リヴァイアサンってそういう性質なんだ」

 

「いや知らないけど。これで起きたら八景龍で実け…あ、いや輝夜を探す目処でもないか聞いてみようと思って」

 

「「実験…」」

 

平然と人体実験をしようとするマッドサイエンティストに軽く引く霊夢と魔理沙をよそに、海魔の顔に人工海水を垂らすと、勢いよく起き上がる海魔。

 

「……負けた」

 

「おはよう海魔」

 

「お前大人しくしとけよ、霊夢に負けたんだから」

 

「あぁ…負けたら大人しくすんのがルールなんだろ、じゃあ大人しくしとく。それでいいか霊夢」

 

「ええ。それでいいわ」

 

海魔はベッドにあぐらをかいて座る。

その姿は妙に迫力が無く、こじんまりしていた。

 

「こうしてみると…こいつ小さいな」

 

「お前だって小さいだろ」

 

「おう、お前のほうが小さいだろ」

 

小柄な魔理沙と比較しても更に小さい。

戦ってた時はあんなにデカく感じたのに、と付け加えると海魔はギロリと魔理沙を睨んだ。

 

「そうだこの兎の名前分かる?」

 

「うどんだろ、マリサが言ってんの聞こえたぞ」

 

「優曇華院。私は鈴仙・優曇華院・イナバよ、よろしく」

 

「冷製うどんかよろしくな」

 

「鈴仙・優曇華院・イナバよ!」

 

「あいつは冷製うどんだぜ」

 

「やっぱり冷製うどんか、私には分かったぞ」

 

「「いえーい」」

 

「こいつら殺そうよ」

 

鈴仙は訂正することを諦めた。

バカに何度訂正してもバカはバカである。

 

「よしじゃあこの半分やろうの名前を言ってみろよ」

 

黄色いちょっとかしこいバカが永琳を指差す。

 

「確か…や…やごー…ころえりー…」

 

青くてちっちゃいバカは、そもそも永琳と殆ど話してないので分からなくても無理はない。むしろ苗字が分かった事を褒めたほうがいいだろう。

 

「この赤いのは?」

 

「博麗霊夢」

 

おおーっと感嘆の声をあげる魔理沙と、ちょっと広角の上がってる霊夢を見て、永琳は目の前の少女への警戒を下げた。

 

(ただの生意気な子供じゃない。紫が言うほど恐ろしくは見えないわね)

 

「あんた、海なくても暮らせるの?」

 

「無理だ…でも海なら自前で出せる。スペースさえあればそこで暮らす」

 

「博麗神社の裏辺りじゃ足りない?釣りしたいんだけど」

 

「ていうか海を出すのは分かるんだが、なんで魚も出てくるんだ?」

 

「魚は海だからな」

 

要領を得ない解答だが、出来たんだからそういうものだとしか説明できない。

 

「魚だけポンと出せないのか?」

 

「それじゃ釣りできないじゃない。海を直接出して欲しいのよ」

 

「魚だけ出すのもできるっちゃできるが…いる?」

 

「病室で生物だすな」

 

海魔の手からヌルリと飛び出してきたのは真アジ。

魔理沙はミニ八卦炉で小さな火を起こして焼いた。

 

「病室で火だすな、ていうか魔理沙拘束どうやって外した!?」

 

「八景龍が取ってくれたぞ、ブチって」

 

海魔がズタズタの拘束具を見せてフンと息をつく。

 

「おい霊夢、魔理沙を助けたぞ、偉いか?」

 

「えらいえらいそれより永琳、どっかいいとこ知らない?」

 

「まずは紫と相談したら?どうせ近くにいるんじゃないの?」

 

「多分いないんじゃない?あの場所で戦ったせいで結界がちょっと壊れてそうだし」

 

博麗神社境内の森は、博麗大結界にそって作られている。

キーとなるのは博麗の巫女と、博麗神社周辺の木々であり、ちょうど海魔が発見され闘った場所もそこである。

ただでさえ浸水で木々にダメージが入っているのに、マスタースパークやら煉獄海魔電だのぶち込まれては余波だけで相当数の木々が完全に使い物にならなくなってしまった。

 

つまりは今、幻想郷と外の世界のセキュリティは驚くほどガバガバである。

 

「ならばその開けた森に私の海を張り巡らし、そこに再び結界を張ればいいのではないか?」

 

海魔のそんな提案に霊夢は驚く。

なるほど無理ではない………無理ではないマトモな案をまさかマトモではない海魔に提案されるとは思わなかった。

 

 

「紫、聞こえ…」

 

「……続けなさい」

 

八雲紫、忙しそうにしながらしっかりと霊夢の声は聞いていたらしい。過保護が過ぎると隠岐奈に言われてしまいそうだ。

 

「私は結界には詳しくないが、わざわざ森の木々なんて媒体を必要としているんだ、恐らくそこに流れる自然の生命エネルギーを利用して永久的な電池としてるんだろ」

 

「…正解よ」

 

「つまりたっぷりと生命エネルギーが満ちた自然物ならば別に木じゃなくてもいいんだろ。海なら広くて木よりもエネルギーたっぷりだし、囲うように成形するのも簡単だろ」

 

「海で囲うことは出来ないわ。外の世界を沈没させることになる。………でも、一箇所なら……」

 

「紫、あの辺りを復興させるのではなくて海にしようってことでしょ?海魔のように海で囲むのは現実的じゃないけど…あの辺だけマングローブみたいなのでも植えれば良さそうじゃない?」

 

「そうね、ええ、悪くないわ八景龍海魔。あの場所はあなたにあげましょう。博麗神社とも近い…霊夢も喜ぶ、なぜかね」

 

紫は再びブツブツと何かを呟きながら巨大な巻物に何かを書く。

 

「……それでも結界は以前ほど完璧ではないけど……八景龍海魔には番犬にでもなってもらいましょう」

 

一部だけ違う木と海水で補うにしても以前よりも取りこぼしは増える。だが悪意を持った外敵だろうと、果たして八景龍海魔に勝てるものが外界にそうそういるだろうか?

 

摩多羅隠岐奈のいうように、少しの危険を与えるべきだ。

紫の場合は嫌いな奴を危険地帯に押し込んでいるだけだが、効果的だと判断した。

 

「定期的に海水を吸収、必要以上に海域を広げないように」

 

「はいはい」

 

「はいは一度よ、八景龍。それじゃ霊夢、後は…入院頑張りなさい」

 

「はいはい」

 

「はいは一回、さよなら」

 

「「ばいばい」」

 

こいつらバカにしてるな…と紫は無言でスキマの中に潜っていった。不服そうな顔で海魔を睨むと、舌を出してきた。

海魔と紫が仲良くなるにはまだ相当かかりそうだ。

 

「よし、新しい仲間を祝して飲むか!」

 

「いいわね、ちょっと永琳酒無いの?」

 

「消毒液ならあるけどオススメはしないわ」

 

「いらねぇよ!殺す気か!」

 

「カエンタケ食えるんなら多分大丈夫でしょ」

 

以前と変わったことといえば、新しい住人が増えた事だ。

幻想郷は今日も明日も平和である。

 

「あはは!消毒液飲むとかソ連かよ!」

 

「てめぇ八景龍海魔なぁに笑ってんだ!」

 

「バカにされてんのよチビに」

 

闘いの傷跡は大小あれど、幻想郷は全てを受け入れるだろう。

少なくとも博麗の巫女がいる限り守られ続ける。

異変解決とはそういう物だからだ。

 

「それはそれは残酷な話ですわ……あぁ、胃が痛い…」

 

ちょっと結界の破損が酷くて胃痛に悩まされる賢者にとっては、まさしく残酷な話ではあるのだが。

 

 

「既に……入り込んでいる……?」

 

 

幻想郷に新たな脅威が近づいていないとも、言い切れないのだから。




拙い駄文をここまで読んでくださった方にありがとうございます。物語で一番難しいのは書き出しと終わりだと聞きますが、アレって本当なんだなぁ〜とか思ったりして。
もっと沢山書いて、読んで、勉強しなくてはなりませんね。

次回東方海魔伝 『僕の父はベジータです!謎の青年の告白!』
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