東方海魔伝   作:嘘しか言わん狐

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地底への道

紫と鬼を同時に相手取って、封印するしかできなかった強敵、八景龍海魔の痕跡を追いながら、霊夢は思考を加速させる。

そんな化け物じみた妖怪だ、スペルカードルールに乗ってくれるかも怪しい。いざとなれば夢想天生があるとはいえ、私ですら危ういかも知れない……

そもそも、妖怪とだけ言われたけどどんなやつよ!

名前しかわかんないのに探しようがないじゃない!

 

霊夢の考えることはもっともだし、魔理沙もそう思っている頃だろう。紫はイカを食ってる。

 

「八景龍……海魔……タコの妖怪かなにかかしら。八本足と八景龍で似てるし」

 

バテレンではタコは海の悪魔とも呼ばれるらしいし、などとブツブツ呟く霊夢を見て、雑魚妖怪達は息を潜める。

異変解決の際に関係無い雑魚妖怪をシバいていく悪名高き巫女はトップスピードで地底へ急いでいた。

 

「やぁ霊夢、どうしたんだそんなに急いで」

 

「馬鹿船長…?見てわからない?異変解決よ」

 

「そうかそうか、異変解決か」

 

水害の申し子、村紗水蜜。

傷だらけの身体でニヤリと不気味な笑みを浮かべると、霊夢に向かって手を向けた。

 

「ここは海、水難の独壇場だ、博麗の巫女!」

 

「なっ…!?」

 

一瞬で海中に引きずり込まれる霊夢。

容赦なく溺れさせにかかってくるとは流石に思わなかったようで、息を少し漏らしてしまった。

 

(あの馬鹿船長……操られている…?人を操れる妖怪ならそうと教えて欲しいものだわ紫…!)

 

「悪いね博麗の巫女!呪われた水に沈むがいい!」

 

明らかに以前とは比べ物にならないパワーで海中に引き込まれる感覚、この海のせいだと言うのだろうか?

それともこれも八景龍に操られたせいか?

霊夢は高速で思考を続ける。

 

(骨の折れる……)

 

水に沈む、というのは重力の問題だ。

今回の海に、村紗の妖力があわさった強力な引きずり込むための重力を突破する方法を霊夢は持っている。

 

(空を飛ぶ程度の能力…上に向かって飛べばいい…でも、あの馬鹿船長が操られている原因を探らないと……他の奴も操られているかも知れない)

 

空を飛ぶ程度の能力。幻想郷では一見当たり前のような没能力に思えるが、霊夢のそれは少し違う。

重力からの解放だ。ゆえに霊夢にはこの村紗の攻撃は意味のないものだ。重力によって引きずり込む能力と、重力を無効化する能力、どちらが優勢かは誰でもわかるはずだ。

 

(なにかおかしな所は……?)

 

「このままトドメを刺してやるわ!転覆「沈没アンカー」!」

 

村紗のスペルカードが発動し、霊夢に向かって特大のアンカーが放たれる…瞬間、霊夢は高速で村紗に突撃する。

霊夢の御札を躱した村紗が正面を向き直ると、すでに霊夢はそこにいなかった。

 

「速い…前と違う」

 

スペルカードルールは手加減のためのもの。

村紗が格段にパワーを上げたように、霊夢の本領は速さ。

重力に縛られない高速移動こそ、博麗の巫女の真の力だった。

 

「くっ…!」

 

村紗の顎を蹴り上げる霊夢のサマーソルトキックが炸裂する。

お返しと言わんばかりに村紗がアンカーを直接振り回す。

 

「そんな簡単じゃないか」

 

強い衝撃でも与えれば正気に戻るかと思ったが、あてが外れた。

今の村紗を野放しにはできない。とは言え、友人を割るわけにもいかない。なんとか正気に戻す方法を探らなければならない。

 

前に人に憑依する怨霊もいたが、どうも毛色が違う。

どちらかといえば乗っ取りではなく同化に近い。

体内に異物が混じったような、凶暴化による洗脳。

であれば、その異物を取り除けばいい。

 

(試してみる価値はあるかな)

 

霊夢は封魔針を一本取り出し、指先で撫でる。

 

 

しっかりと村紗を見据えてお祓い棒を振り抜くと、村紗の頭に直撃し、一瞬だけと意識を遠ざける。

 

「っ…お…うぇ…っ??」

 

その隙に封魔針を胸に深く突き刺すと、村紗は口を抑えて蹲る。

今の針は、村紗の中の異物を拒絶する弾くタイプの封魔針。

元々は普通の封魔針だが、咄嗟に神力を込めて封じる力を弾く力へと変えたのだ。

 

「うぷっ……うぇえぇぇえっ!!」

 

「うわっ…」

 

口から黒い水を吐き出す村紗に対し、やや引いている霊夢だが、すぐにその黒い水へと攻撃を仕掛ける。

 

「実体は無いか……」

 

「はぁ…はぁ…うえぇ…気持ち悪……」

 

霊夢は村紗に目を向ける。先程までの不気味な気配は消え失せ、見知った馬鹿船長へと戻っているのを確認してそっと息を吐く。

 

「あれ?霊夢?なにし…なんだこの海!楽園か?」

 

「馬鹿船長、よく聞きなさい。あんたは乗っ取られてたのよ。他にも乗っ取られてるやつがいるかも知れない。この針を渡しておくから、見つけ次第どこでもいいから刺しておいて」

 

「えっ、なんであたしがそんな事…」

 

「いいから、刺してきなさい、片っ端から。あんた今のこの状況じゃ有能なんだから働きなさい」

 

「え、えぇ〜?なんだい忙しないなぁ…」

 

「いいから!白蓮にあること無いこというわよ」

 

「んな理不尽な……まぁいいよ、久しぶりに海を好き勝手に彷徨歩くのも楽しそうだ」

 

村紗水蜜を撃破、懐柔した霊夢は、再び地底へと向かう。

肉体的にはダメージは無いが、精神的にドッと疲れた。

ただ倒せばいい相手では無く、傷つけないように闘うのは精神的にかなり消耗する。

これからは見つけ次第針を刺してしまえばいいのでずっと楽だが……

 

(本当に…骨が折れる……)

 

霊夢は疲れた様子で海に飛び込むと、適当な魚を捕らえる。

サバだ。その辺で焼いて腹を満たせば、またすぐに飛び立つ。

霊夢の地底への道のりは、まだ半ばである。




まだ名前しか出てこないオリキャラ
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