村紗水蜜に取り憑き、凶暴化させていた黒い水。
十中八九、八景龍の仕業だろうが、アレが本体には思えない。
勇儀ならなにか知ってるかも知れないと、霊夢は当初の予定通り地底へと降り立った。
「やっと着いたわね……しかし熱いわ、なんなのよこの熱気は」
てっきり地底は水浸しでまともに機能していないかと思っていた霊夢だったが、予想と反して地底内には浸水の影響が無いようだった。辺りには打ち上げられた魚がビタビタと悶えていたので恐らくは何らかの方法で海水を蒸発させたのだろう。
「おぉ、霊夢じゃないか。やっぱりあの妖怪の事だろ?あいにく地底にはもういないよ」
「ヤマメ…どうやって地底から海水を消したの?」
明る過ぎる洞窟の明るい土蜘蛛、黒谷ヤマメ。
蒸発した海水で出来た塩で焼けたサンマを頬張る少女。
「それは勇儀の指示で、お空が。なんでも一晩中好きなだけ核融合させてるらしいねぇ」
「それ大丈夫なの?」
随分と荒々しい対処法だが、確かに効果的か。
海水を蒸発させ続ける程の熱を出し続けるなんて確かにお空くらいしかできないだろう。
「それ私も食べたい」
「放射能まで食らうとは…流石霊夢」
「誰が妖怪巫女よ」
さすがの霊夢も放射能で焼いたサンマはまずいのでは…と思ったが、まぁ霊夢だし大丈夫だろうとサンマ…放射能サンマを差し出す。味に関してはまぁ、放射能は無味無臭、大丈夫だろう。
健康に関しては…多分霊夢だから大丈夫だと思う。
「例の妖怪…八景龍海魔についてなにか知らない?」
「さぁねぇ。突然現れたんだ、あいつ。サシでは勇儀でさえも危うい強さだった……さとりの指示でお空が熱線で攻撃して、そこを勇儀がぶん殴り、オマケでちょっとあたしが病気をプレゼントしてやった。あれで倒せ無かったのは驚いたけど」
存外八景龍とやらを封じるのにこの地底は本当に最適だったらしい。思ったよりもダメージを負ってくれている事を願うばかりである。
「勇儀、霊夢がきたよ」
ヤマメに連れられて来たのはかなりボロボロの……もはや枠組みしか残ってない建物。戦闘の余波で消し飛んだ勇儀の自宅である。
「勇儀、八景龍について教えてちょうだい」
「ドアから入ってくれ」
「……八景龍について教えてちょうだい」
改めてドアをノックしてから入る。
この家ドアしかないのに……と内心ではツッコミながら、一応言う通りにしておく。
そこには2体のミイラとお燐がいた。
「遅かったじゃないか霊夢。久々に手傷を負ったよ」
満身創痍な怪力乱神、星熊勇儀。
上半身を大きく開けた着物から、念入りな包帯の後が見える。
霊夢の姿を確認するや薄く笑い盃に酒を注ぐ。
「まァ呑め、少し昔語りをしようじゃないか」
「頂くわ…でも傷は大丈夫なの?」
「なに、大したことはないさ、さとりの奴手当てが大袈裟なんだよ……まずは語ろう、八景龍という怪物の正体を」
「そうね、地霊殿当主として、聞かせてもらいましょう」
もっと満身創痍な反則探偵、古明地さとり。
わざとらしいほどに包帯塗れのミイラ姿は、逆に心配する気が失せてくるから不思議だ。
「あぁ、お燐、その辺に寝かせてくれる?」
「あ、はい。……さとり様自分で歩けますよね?」
「言ったろ、大袈裟なんだ」
常識的な火車、火焔猫燐。
ミイラを床に寝かせ、椅子に座る。
「……で、聞きたいやつはこれで全部?さっさと話してくれる?」
「あぁ、じゃあ話そうか………」
あれは1000年ほど前の事。
紫と胡散臭い車椅子に私達鬼の四天王に天狗、他にも実力派の妖怪が集められた。その代の博麗の巫女もいた事から、相当なヤバい事態だというのは想像に難くなかった。
説明も間もなく、幻想郷の結界に強引に穴を開け海水を流し込みながら奴が…八景龍海魔が現れた。
奴は青い髪に黄色い目をした、蛇のような女だった。
「私は八景龍海魔、幻想郷は誰でも受け入れてくれるんだろう?」
「お前のような害獣は別よ、消えなさい!」
まず最初に奴がやった事は、黒い水による攻撃だった。
湖の中にいた河童達は纏めて餌食になり、取り憑かれて敵に回った。奴には他人の精神に取り憑く力があった。
対処法は取り憑かれる前に妖力や神力を放出して弾くしかない。
この時点でどんな実力者でも、力の無駄遣いを強いられる。
戦いづらいことこの上ない。
さらに厄介なことがある。
「スキマにはこんな使い方もあるのよ!」
「弾幕はどうした八雲紫」
紫の「境界を操る程度の能力」。
普段は相手の弾幕を避けたり、移動したり、便利な椅子程度に使っているが、あの時の紫は違う使い方をした。
八景龍海魔の腕をスキマで挟み込み〝捩じ切った〟のだ。
あまりに残虐な命を仕留める為の技だった。
だが、八景龍は平然と再生して見せただけでなく、口から業火を吐いてこちらの戦力を何人も倒してみせた。
高い再生能力と、自ら出した海水を少しばかり蒸発させるほどの業火を吐き、人の精神に取り憑く能力もある、奴は規格外の脅威そのものだった。
一人、また一人と倒れていく惨状に紫はとうとう倒す事を諦め、スキマによる防御に専念していた。
「勇儀、萃香…囮をお願いできるかしら」
紫は後退し、その代の博麗の巫女となにか話をしていた。
その場にいる誰もが満身創痍だったが、八景龍もそれは同じだ。
再生自体はそれなりに体力を使うようだったし、パワーやスピード自体は鬼の方が上だったのでなんとか勝てると踏んでいたんだが、如何せん決定打がない。
八景龍の強さは多彩な能力ではなく、どれほど攻撃を加えても対して効きやしないのに、傷を負わせたと思ったら再生しやがる所にあるだろう。
それでいてあちらの攻撃は掠っただけでも結構な痛手になる。
持久戦となれば、八景龍が勝っていたかもしれない。
「二人とも下がって!」
「なにっ…!こ、こんなビンなんぞに!」
八景龍の背中に数本の針が刺さると、紫のスキマが奴の手脚を切り飛ばし、その一瞬の隙をついて博麗の巫女が封印してみせた。
小瓶に詰められて厳重に結界を張られ、この地底の底に封じ込められたのは奇跡に近いだろう。
数百の妖怪の犠牲を払って、封印するのが精一杯だったのだ。
「……というのが、あの日起きた全てだ」
「黒い水、ね。さっき見たわ」
「と言うことは、さっさ勇儀さんとお空の与えたダメージは、無駄ってことですか?」
「いや、そうでも無いだろう。少なくともお空の与えた火傷は治りが悪かった…今すぐ追えば手負いの状態でやれるかもな」
勇儀と紫、霊夢にとっては文句無しにトップクラスの強者だ。
その二人をもってして倒せないと言わしめる怪物に思いを馳せる。
「……あんたから見て、私はソイツを倒せると思う?」
「夢想天生なら、或いは」
「…そう」
博麗霊夢の究極奥義、夢想天生。
それを必要とされるという事は言外に正面から闘えば負けると言われているような気がした。
・他者を操り味方にする黒い水
・異常な再生能力
・超火力の業火
・高い防御力
……今挙げられた能力だけでも一つ一つが程度の能力と言ってもいい強力な力だ。しかも、まだ隠し玉が無いとは言い切れないのが恐ろしいのだ。
「勇儀、あんたまだ闘える?」
「問題ない、今度は逃さないつもりだよ」
「他の奴らも集めたい、操られる事に条件はありそう?」
「そうだね、恐らくは。神力……当代の博麗の巫女もあの黒い水に触れたが、操られなかった。巫女や神なんかの神聖な力を持つ奴は操れないのかも知れない」
「なるほどね、だからお空も操られなかった……お空はあの水に触れたけど、お構いなしに反撃していたもの。そして、お空に神聖な力を与えたのは…」
「早苗の所の……あんま頼りたくないなぁ」
ゲンナリとした霊夢の顔を見て微笑ましげに笑うさとりに訝しげな目を向けながら、霊夢はまた行動を始める為に立ち上がる。
「さとり、あんたんとこのお空、いつでも動かせるよう言っといて」
「ええ……ねぇ霊夢、ちょっといいかしら」
「…ンッ…なによ、忙しいんだけど」
さとりは横たわったまま、霊夢のそばに寄る。
地面をスイーッと移動してくるミイラというシュールな絵面に思わず吹き出しそうになりながら、霊夢は足を止める。
「あの妖怪、八景龍海魔の心を読みました」
「教えてちょうだい」
なにか奴を倒すヒントになるかも知れない。
霊夢はどんな情報が飛び出してくるかと詰め寄るとさとりは霊夢だけに聞こえるように耳元で囁いた。
「……まぁ、覚えとくわ。勇儀、できるだけ休んで治しときなさい」
「あぁ。……さとり、なんて言ったんだい?」
「それは…秘密です」
霊夢は飛び立つ。次の目的地は妖怪の山。
運が良ければ魔理沙と合流できるかも、と霊夢の足取りは軽かった。さとりの情報を魔理沙にも話すべきだろうか?
霊夢はふとさっきの言葉について考えるが、必要ないと首を横にふるとさらに速く空を進む。
怪物の本心はまだ、博麗の巫女だけが知っていれば良い。
やっと出てきたオリキャラ(過去回想)
誤字報告もいただきましてありがとうございます