東方海魔伝   作:嘘しか言わん狐

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魔法の森の戦闘

見知った魔法の森に満ちる海水、見知った親友達に満ちる知らない気配。四方八方から襲われる異様な弾幕に一手遅れた。

霧雨魔理沙は糸に囚われ力無く吊るされていた。

 

「魔理沙、諦めて私達と行きましょう?」

 

人形を操る魔法使い、アリス・マーガトロイド。

普段からは考えられない酷薄な笑みを浮かべて魔理沙の身体を糸でキツく締め上げる。

 

 

時は霊夢が地底に到着した頃へ遡る。

 

八景龍海魔は魔法の森へと赴いていた。

実際には地底の脅威から逃げてきたというのが正しいのだが…

 

「地底にあんな奴を配置しておくとは…八雲紫、よほど私が嫌いらしい…」

 

焼け爛れた右腕を眺めて不機嫌そうに顔を歪める青髪の少女こそ、八景龍海魔その人だった。

なお別に八雲紫がお空を配置したわけではない。

 

「発熱、倦怠感…めまい…回復力の低下……あ、あのちっぽけな蜘蛛の毒か……!それにあの八咫烏…!信じられない火力だ…」

 

実際にはヤマメに移された病気というのはなんてことの無い風邪だったのだが、回復力が落ちる経験は初めてのことだった。

つまりはこの女、霊夢と同じ風邪を引かないタイプだった。

 

「八雲紫め、傷が治ったら同じ目に合わせてやる」

 

流石にとばっちりである。

ボロボロの身体を木々と海中に隠しながら、八景龍は仮眠を取ろうとゆっくりと目を閉じ……

 

「知らない妖怪だ…もしかしてこいつがハッケイリュウカイマか?霊夢には悪いが私が先に戦わせてもらおうか」

 

箒に跨りこちらを見下ろす金髪の魔女、霧雨魔理沙がそこにいた。手にはミニ八卦炉を構え、戦闘は避けられない。

 

「動くと撃つ!つまり、撃つと動くだぜ、私は今!動く!」

 

色とりどりの弾幕が展開され、魔理沙と八景龍海魔の戦闘が始まる。魔理沙は高らかにそのスペルカードを叫ぶ。

 

魔符「スターダストレヴァリエ」

 

星が舞い襲いかかる、魔理沙にとってマスタースパークに比肩する程の十八番、お気に入りのスペルカードだ。

これを避けるようなら次のスペルカードを撃つまで。

魔理沙の戦い方はあくまでも、弾幕ごっこだった。

 

八景龍はそれを華麗に躱…したりはせず、そのまま弾幕をその身に受けながら突っ込んでくると、乱雑に蹴りを突き出し魔理沙を吹き飛ばした。

 

「っ……おいおい、ルール知らないのかこいつ!」

 

蹴りを受ける一瞬身体を後ろに反らしたから致命傷では無いが、普通は即死するような一撃、次に当てれば命はないと魔理沙の経験が告げる。

 

すぐにでも突っ込んでくるだろう八景龍に向かって、ならばとミニ八卦炉をかざす。

 

「マスタースパークッ!!!」

 

避けないのなら好都合、全力のマスタースパークをお見舞いしてやればいい。

 

「あの時のっ…!」

 

想起するのは霊烏路空に浴びせられた異常な火力の熱線。

避けようとするも遅く、マスタースパークの熱に飲み込まれる八景龍を確認、魔理沙はさらに火力を高めていく。

 

「ぅゔおぉぉっ!!」

 

マスタースパークの火力は弱っている八景龍には相当に効いた。

なんとか藻掻いて脱出しようとするが、身体が少しずつ崩れていくまま、海面にたたきつけられた。

 

魔理沙が全力手加減なしのマスタースパークを撃ち終えたころ、八景龍はゆっくりと宙に浮かび魔理沙を見る。

激しい力で荒れる波に隠れて、黒い水が走るのに魔理沙は気付かなかった。

 

「見事な一撃だった、危うく死ぬかと思った」

 

「うげ…い、痛くないのかおまえ?」

 

四肢が焼けちぎれた八景龍は素早く身体を再生させると、火球を吐き出す。弾幕ごっこで慣れている魔理沙にとっては避けやすいものだったが、木々を溶かすように抉っていくのを見てゾッと血の気が引くような感覚に襲われる。

あんな物が直撃していたら……

 

「恋符「ノンディレクショナルレーザー!」」

 

「…綺麗な技だ、楽しいなぁ」

 

五色のレーザーを自分を中心に回転させながら放ち、広範囲を焼き払う。さっきのマスタースパークは結構効いてたハズだ、改めてもう一度当てるために、どうにか隙を見つけたい。

 

八景龍の拳を躱してヒップアタックで弾き飛ばすと、魔理沙はすかさず爆発するビンを投げつけて追撃する。

爆発の中から黒い水が飛んでくるのを魔法の炎で焼き払い、逆に八景龍の吐き出す炎を水魔法で掻き消す。

 

遠距離戦なら問題ない、闘える。

魔理沙は徹底して近寄らせないように立ち回り、八景龍を翻弄してみせた。

 

「うっ…!」

 

何度目かの攻防、炎を水魔法で消すも、右腕に痛みが走る。

 

「木…!?」

 

炎の中に空洞を作り、それに隠すように木片を放ったのだ。

突き刺さった木片の痛みに思わずミニ八卦炉を落としそうになるが、魔理沙は逆に八景龍に突っ込んだ。

 

「向かってくるか!」

 

手傷を負ってやけになったとでも思ったのか、八景龍は待ち構えるように火球を吐き出す。

 

小さな火球を受けながらも、それを貫くようにスペルカードを叫ぶ。

 

「ブレイジングスター!」

 

極太のレーザーと共に突撃し、八景龍に密着すると胸にミニ八卦炉を押し付け、逃げる隙も与えずにマスタースパークを撃つ。

 

「し、しまっ…!」

 

「からのマスタースパーク!!」

 

今度こそ倒す、と一層力を込めついにはもう一本のレーザーで押し込む。

 

「ダメ押しの…ダブルスパーク…!」

 

「ぐぅ…!こんなもの……!」

 

苦し紛れの手刀が魔理沙の肩を裂いた。

痺れるような痛みを覚えながら、全力をもってして八景龍を海面に叩き落とすと荒い呼吸のまま見下ろす。

 

「はぁ…はぁ……お、終わったのか…?」

 

魔理沙は海面に降り立つと、警戒しながらダメ押しに弾幕を放つが、当たったような感触もない。

 

一旦、紫の元に戻ろうと箒に跨り、来た道を引き返す。

 

「け、結構ボロボロになっちゃったけど、まぁこの魔理沙さんにとっては楽勝だったな!霊夢が聞いたら悔しがるぞ〜!」

 

悠々と飛び立ち役十分、魔理沙の視界を色とりどりの弾幕が埋め尽くすのをギリギリで回避していく。

 

「アリス…!?」

 

てっきり八景龍がまた襲いかかってきたのかと思ったら、襲撃者はまさかのアリス。一瞬油断した魔理沙は後ろから現れた河城にとりに気づかなかったのだ。

 

頭に衝撃が走り意識が飛ぶ。

海に落ちたことで意識が覚醒した事で、一瞬反応できずに糸に囚われてしまった。アリスの人形操作の糸。

アリスの意思で自在に動くそれは、その気になれば人体を切断することなど容易いだろう。

 

霧雨魔理沙は糸に囚われ力無く吊るされていた。

 

「魔理沙、諦めて私達と行きましょう?」

 

アリス・マーガトロイド。そして河城にとり。

にとりはともかく、アリスがそう簡単に言いくるめられるわけがない。恐らくは洗脳かなにかだろう。

 

だとすれば八景龍はまだ死んでいない。

かなり全力でやったんだけどな…と悔しがりながらも、魔理沙はアリスとにとりを見やる。

 

完全に万事休す、脱出できる見込みも無い。

まぁ、やれるだけ抵抗してやるが。

 

魔理沙はニヤリと笑うとアリスの糸に身を委ね、堂々とした態度を見せる。

 

「…お前ら、操られてるのか?」

 

「違うね!私達は盟友に素晴らしい力を頂いたんだよ!」

 

稀代の発明河童、河城にとり。

いつもなら開発した道具を使って多彩な攻撃をしてくるのに普通にスパナで殴ってきたあたり、おそらく正気ではない。

 

「じゃあ洗脳か?お前騙されてるぞにとり。河童は淡水に住んでるのに幻想郷を海だけにされて生きてられるのか?」

 

「えっ……?」

 

にとりはフリーズした。言われてみればそんな気がしてきた。

 

「魔理沙、貴女は水魔法のほうが強いんだから…ほら、もっと強くなれるわよ」

 

「アリスは水魔法使わないだろ、むしろアリスの強みは繊細な人形操作と爆薬による攻撃。海水は人形にも爆薬にも悪い。なんでお前はそんな奴についてくんだ?」

 

「えっ……?」

 

アリスはフリーズした。言われてみればそんな気がしてきた。

 

「ほら見ろ、お前ら洗脳されてんだ、おかしいだろう?私と一緒に八景龍をぶっ飛ばそうぜ、アリスほどの強者だ、不意打ちされたんだろ?そんなんで操られていいのか、悔しくないのかアリス!私はお前ならこんな洗脳ごときで負ける器じゃないってわかってるんだぜ」

 

「……そうだわ、私……あの黒い…うっ…」

 

魔理沙はここまで、適当な事を言ってるだけである。

ワンチャン解けたらいいなぁくらいの無駄な抵抗である。

…が、アリスはおのれのプライドが刺激され、ドンドンと吐き気がこみ上げてきた。

 

「アリス、お前は私が知る中で最も凄い魔法使いだよ。お前が本気だったら私じゃ勝てなかった、それくらいに強い。アリス、お前がその気になれば誰だって操り人形だ。そのお前が逆に操られてどうする?なぁアリス、お前は最強の魔法使いだよ」

 

「そうよね!さっすが魔理沙は見る目あっ…うぷっ…」

 

今、アリスは魔理沙が全力で煽てたことでプライドを増幅させ、八景龍の呪縛をほどいたのだ。自力で。

内心魔理沙も(こいつマジで?単純すぎない?)と思っているが、頑張って口に出さないよう飲み込んだ。

妖怪は本来精神的な存在、妖怪による洗脳って意外と根性でなんとかなるのかも、と魔理沙は無理矢理自分を納得させようとした。納得はできなかった。

 

「うぅぅ……やば、もう無理…ごめんなさいにとりちょっと…」

 

「は?」

 

アリスは盛大に黒い水を吐き出した。にとりの帽子の中に。

そのへんでゲロを吐くのはアリスのプライドに反するという上品でエチケットの完璧なアリスに対して、にとりは呆然と立ちすくみ魔理沙は私の帽子じゃなくてよかった…とにとりを憐れんだ。

 

「はぁ…はぁ……ありがとう魔理沙、おかげで目が覚めたわ…!ありがとうにとり、返すわ」

 

「………うん」

 

「返さないで……あ、違う許さん!お前ら!八景龍様に言いつけてやる!バ~カ!」

 

「あっまて!」

 

淡水に住むにとりだが、この大海原を異様にすいすい泳いで去ってしまった。ボロボロの魔理沙と、精神的に清々しい気分のアリスが取り残された。

 

「…とりあえず、博麗神社に行こうぜ、アリスだけでもまともになってくれて良かったよ……」

 

「ええ魔理沙、行きましょう。この最強最高究極の魔法使いアリス・マーガトロイドが着いてるわ」

 

こいつ洗脳とか催眠とか無くても褒められたらホイホイついて行きそうだな。

魔理沙は失礼な事を思いながら、博麗神社へと戻る。

 

だが後に魔理沙は後悔するだろう。

にとりが八景龍に付いた事が最悪の結果を招く事になるのは、まだ誰も知らない。

 




難産でした。アリスさんは根性使いで合ってますよね
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