八景龍海魔は弱っていた。
1000年間の封印によるブランク、復活早々に幻想郷でも指折りの強者星熊勇儀との戦闘、横入りしてきた霊烏路空の熱線による甚大なダメージ、黒谷ヤマメに感染させられたちょっとした病による再生能力への異常。
挙句は霊烏路空には劣るが人間とは思えない火力を持った霧雨魔理沙との戦闘。
八景龍海魔はまともに再生する事もできずに海を漂っていた。
だが何もしていないわけではない。
海は生命、八景龍は海そのものと言ってもいい存在だ。
海を産み出しながら、海から力を蓄えるというのが彼女の能力。
『海を創る程度の能力』
……強いて幻想郷の命名法則に則るなら、少しばかり安直だがこう言うべきか。
海がある限り八景龍は強くなり続ける。その海を自分で創り出せる永久機関、それが1000年前の八景龍の強さの秘密だった。
それがどうだ、今の有様は。
星熊勇儀、霊烏路空どころか、たかが人間の魔理沙にすら敗北し、恐れ、無様にも海中に隠れている。
(懐かしいな…この状況)
1000年などほんの最近、思い出すのは何億年と数えるのも億劫なほど遥か昔の記憶。
原初の怪物であったあの日、私達を恐れた神々に殺された同胞達の亡骸と海に身を隠し、ただ一人生命を繋いだ過去と、無様にも逃げ隠れている今を重ねて自嘲気味に笑った。
『幻想郷は全てを受け入れる』
そんな話を聞いて乗り込んだ1000年前のあの日。
受け入れてもらえないのならと放った黒い水はあの巫女とやらに掻き消された。挙句は1000年間の孤独を味合わされた。
(耐え難い苦痛、私はただ……)
「八景龍様発見!八景龍様発見!回収を!」
河童の声が聞こえる。
洗脳した相手だし、大丈夫だろう…海水諸共吸い込まれる感覚に、クジラの捕食を思い起こしながら八景龍は目覚める。
「……ここは?」
「我々河童の創り上げた移動要塞だよ、名前はまだ無い…そうだ、八景龍様がつけてくださいよ〜」
そう言って前に出るのは、河城にとり。
記憶を探れば河童達の中でも有数のメカニックだそうだ。
「いい船だ、私の居城に相応しい。海魔殿と名付けよう」
巨大要塞、海魔殿。
自らの船に自分の名前を付けるあたり安直である。
河童達の筆頭にとりからの贈り物に途端に上機嫌になり、俄然やる気に満ち溢れてきた。
「にとり、病院かなにか…薬のある場所を知ってるか?」
「はい!薬なら永遠亭が一番だよ!」
「ではそこを襲いに行こう…それと…あれはなんだ?」
「あれ?あぁ、あれは八景龍様の為に造った新型で、あらゆる熱やダメージを90%軽減する鎧と言ったほうがいいかな、この船と同じで海水を動力源にしてて、ちょっとやそっとじゃ傷一つつかない最高の頑健性がある。素材はタングステン少々に、銅合金とレニウム、まぁ色々使ってるんで重量はかなりのものだけど八景龍様なら余裕だと思う…ただ熱に耐えるんじゃなく、内部も冷却するために海水発電の余波で出た水蒸気をさらに冷やす機構を…」
「い、いやもういいよ、わかった、ありがとう」
「まぁそう遠慮しなくていい、つまり常に冷却を続けており、冷気による凍結攻撃なんかも……」
にとりの説明は、永遠亭につくまで続いた。
八景龍は知恵熱を出して横になりながら、永遠亭の襲撃を開始する。
とはいえ、まだ万全ではない。直接闘うのは霊烏路空や魔理沙のように高熱を放つ天敵がいないとも限らないので取りやめる。
もう海魔殿のハッチを開けて直接永遠亭を貰ってく事にした。
「オーライオーライ!アンカー引っ張れ〜!地盤ごと貰っちまえ!」
「にとり!大変だ!兎が攻撃を!」
「にとり〜!指示くれ〜!」
「焼き払え〜!!」
にとりは海魔殿の下部ハッチを開けて地面に円形に杭を撃ち込むと、力任せに永遠亭を引っこ抜く。
途中襲いかかってきた地上の兎達を河童達が火炎放射で迎撃し、迷いの竹林に火が付いたあたりでとうとう地面ごともぎ取られた永遠亭。
とりあえず風邪薬と解熱剤、効きそうなのを手当たり次第に飲んだ。その後は海魔殿の海水発電室で海を出しながら体力回復に努める。
まだダメージは大きいが、薬が効いてきたのか傷が癒えていくのを感じる。
「全て海に沈めてくれる……きっと楽しいぞ、八雲紫」
八雲紫との決戦は、おそらく相当な激戦になるだろう。
それまでに完全になるまで治しておかねば。
潜伏するのは得意だ。何億年と続けてきた。
完璧な力を取り戻すまで潜り続けてやればいいだけのこと。
八景龍海魔は力を取り戻しつつあった。
次回予告
オッスオラ霊夢よ
お酒を飲み過ぎるとちょっと夜中起きちゃったり
トイレ近くなったりするわよね?つまりそういう事よ
次回東方海魔伝 『霊夢、布団を濡らす』