朝、寝床が濡れている。
……いや、別に漏らしたとかそういうわけでない。
昨日までは平気だったのに、今朝はもう博麗神社まで浸水していたのだ。
「一刻も早く八景龍を見つけないと…」
人里の結界が破れたら、悠長に滅亡まで後4日…とか言ってる暇じゃ無くなる。普通にゲームオーバーだ。
残念ながら弾幕シューティングゲームではないのでコンティニューも無い。
「海中に隠れてんじゃねぇか?」
「ですが闇雲に探しても無理ですよ、海しか無いですもん」
「貴女巫女なんだからなんかないの?ダウジングとか」
「それはどっかのネズミでしょ、無いわよそんなの」
天井に登ってひとまず作戦会議だ。
下で紫達が作戦を立てているが、まず見つけなきゃ意味がない。
「…手分けしてみるか?」
「なら二人一組にしましょう。魔理沙は怪我人だもの」
「私は平気だって、永琳に直してもらったし」
「なら私が魔理沙についていくわ」
「では私は霊夢さんと」
というわけで、チーム分けは『霊夢・早苗』ペアに、『魔理沙・アリス』ペアとなった。その後も順当にチーム分けは進み、『咲夜・鈴仙』ペア、夜間捜索隊に『レミリア・フラン』と決まった。
「皆、よく聞いて。弾幕ごっこのつもりで戦っちゃだめよ、相手は殺す気でくるわ、手段を選ばずやりなさい」
「ええ、それと妖夢のことなんだけど昨日から戻らないの。もしかしたらあの黒い水に憑かれてるかもしれないわ。一応妖夢を見かけたら警戒したほうがいいわ」
「妖夢か、厄介だな…」
「文やはたては?見ないけど…」
「あいつらは紫の使いで調査に飛び回ってるわ」
「確保できてないのは、にとり達河童、行方不明の妖夢、連絡が取れない妹紅、依神姉妹…は神格あるから心配ないとして、幽香がいない」
「えっ、あれと戦いたくないんだけど」
仮に洗脳されてる場合、元来の凶暴性に拍車が掛かって死にかねない。主に普段イタズラしてヘイトを溜めている魔理沙が。
「嘆いていてもしょうがないか、行こうぜアリス」
「ええ、そうね」
嫌でもやらなきゃならない時もある。
魔理沙はぱしりと頬を叩くと箒に跨り飛び立った。
「私達も行きましょうか、虱潰しに探しましょう」
「そうですね、咲夜さん、鈴仙さんとお願いします」
「そうですわね、鈴仙の雑務が終わり次第出発するわ」
3チームそれぞれが別々に飛び立つと、人の気配を探す。
あわよくば八景龍を、そうでなくとも操られているやつがいれば解除をと捜索を開始する。
そして霧雨魔理沙。
今週はどうにもついていないらしい。
「嘘だろ……」
ポツリと呟いた絶望の声が大海の波に消えていく。
血走った目で海上に立つ緑髪の怪物、傘をコチラへ向けて憎悪に歪んだ表情は、まさに般若といったところか。
「よりにもよって幽香かよ!!」
「魔ァァァ理ィィィ沙ァァァッ!!!」
傘が一瞬光り、海が、天が割れた。
「あなたの仕業ね…?この薄汚い水ッ!!許さない…許さない…!魔理沙だけは必ず…殺すッッ!!!」
花を失ったフラワーマスター、風見幽香。
多分洗脳されている…と思う。
もはやアリスなど眼中になく、魔理沙だけを狙っているようだが、多分洗脳されてるはずだ。
再びのレーザーを全力で飛び躱すとガムシャラに弾幕を放つ。
不規則に、緩急もなく、めちゃくちゃに撃ち出す弾幕。
それはもはやスペルカードではなく生へしがみつく者の全力の咆哮である。
この攻防がニ度繰り返された頃、アリスは、ようやく現状を理解した。それ程に一瞬の事だった。
心底生命の危機を感じる。アリスもなりふり構わず糸を繰る。
「嘘っ……!千切れっ…!」
一瞬動きを阻害できただけ、糸を引き千切られてしまった。
しかし弾幕勝負ではその一瞬が命取り、魔理沙が霊夢から預かった針を投げつけ、それが着弾する……
「え!?」
「小賢しいわね魔理沙ァ…!」
事はなく、幽香の細く美しいニ指が封魔針を挟み込んでいた。
そのまま指を返し、ヒョイと投げ返す。
「痛ッ!?」
庇うために差し出した左手に突き刺さった針を力任せに引き抜きながら、魔理沙は幽香から目を離さない。
目を離せば死ぬ。熊とかと同じ扱いである。
どう動く?何をしてくる?すぐに対処しなくては。
魔理沙は冷静に息を整え、ミニ八卦炉を幽香に向けた。
「魔理沙!」
アリスが無数の上海人形を操り、幽香の視線を遮る。
「うっとおしい!」
傘を振るった一閃、それだけで数百の上海人形が斬り裂かれる。
直後に幽香は上海人形から離れ、魔理沙へ突撃する。
上海人形は行動不能時爆発する。その中に無数の封魔針を仕込み、強引に突き刺してくるだろう。
アリスならそうする、と幽香には分かっていた。
「しまっ…うぐっ!?」
一瞬、視界が真っ白になる。
ついで腹部に燃えるような痛み、腹を蹴られ体制を崩した魔理沙が口から血を吐き出しながら落下するのを、アリスは声にならない悲鳴をあげて手を伸ばした。
奇しくも、八景龍に蹴られたのと同じ場所。
永琳に治療を受けたとはいえ、本来なら絶対安静にするべきだったのだ。
ここから助かる方法はあるだろうか?
内臓は二度目の破裂、口から血がダラダラ出てくる。
目が霞む。意識が朦朧とするし、死の一文字がちらつく。
「まだだっ…」
ふざけるな。なぜ今回に限ってはイタズラもしてないのに殺されなきゃいけないんだ。
たかだか内臓の一つや二つ、一度や二度潰れた程度でこの魔理沙がなぜ死ななくちゃいけないんだ?
「この霧雨魔理沙を…舐めんなよ!」
左手に力は入らないが、右手だけでもいい。
最高最強のマスタースパークをお見舞いするだけだ。
弾幕とはシンプルであるほどよい。
「恋符『限界突破マスタースパーク』ッ!!」
世界が閃光に包まれ、海水が蒸発し、轟と放たれる光はそれ自体が高純度の熱閃。本来、手加減なしのマスタースパークのような大技を受け止めることなど不可能だ。
同じ質量をぶつけなければ、だが。
「こっちは本場よ!」
幽香の傘から同じだけの熱閃が放たれ、中心でぶつかり合うと魔理沙の腕にグンッと重い衝撃が走る。
だが、それは幽香も同じはずだ。あとは勝敗を分けるのは個々の強さだけだろう。
「ばかね、パワーなら私が上…ッ!?」
「今よ魔理沙!!」
「でかしたアリス!うぉぉぉぉぉおおっ!!!」
糸が幽香の傘を絡め取ると、一瞬力がブレる。
今度は小細工は無し、持てる全てをぶつけるのだ。
「うあぁぁぁぁあっっ!!!」
「馬鹿な…ッ」
驚くほどに静かだった。
自分のマスタースパークの轟音で鼓膜でも破れたのかと思うほどに、静かだった。
(アリス…ちゃんと刺してくれたな)
視界の端に映る幽香は黒い水を吐き出して、アリスがコチラに走ってくるのが見え、魔理沙は安心して目を閉じた。
ーーー霧雨魔理沙、妖怪の山付近にて辛くも勝利。
次回予告
魔理沙、また負傷する
霊夢、また早苗と組む
咲夜、時は止まる
…の3本だぜ!