初投稿です。ルビコンの恵みをおいしくいただいてたら、なんだか我慢できなくなりました。
拙い文になるかと思いますが、お付き合いいただけたならそれ以上の喜びはありません。
ベイラム系列企業 大豊からの公示依頼を受けて、ルビコン解放戦線が拠点化した市街地を襲撃していたときのこと。
高台に隠れていたMT部隊から奇襲を受けて、僕は機体ごと吹っ飛ばされ─
不甲斐ないことに、そこから先は思い出せない。
…ため息がいやに響く。
おかしなことに、僕自身はほぼ五体満足のまま、今は
片腕が途中から思いっきり腫れ上がっているし、それすら除いたって身体中悲鳴をあげるような痛みが不愉快だけれども。
─
これが今のところ、僕の人生で最悪の事実だ。
〈間もなく指定座標へ到着いたします〉
再装填されたため息を撃ち出すより先に、聞き慣れた合成音声が響く。
…憂鬱に浸るのはここまでにしないと。
目下のところ、僕には新たな仕事道具が必要だ。それがなければ戦うことも出来ず、生き延びることすらままならない。
ㅤISB2262 惑星ルビコン3。
ㅤ惑星封鎖機構によって隔絶された辺境惑星のうちですら、コミュニティネットワークは一定の需要をもって形成され。
その一角では、今なお続く闘争から脱落した者達が、その鬱憤の陳列に明け暮れている。
ただの掃き溜めだ。
もう過ぎ去った日の自慢に、やたらと継ぎ足される「たられば」…役に立たないことを延々と綴っては大挙してこき下ろされ、やがて煙が立ち燃え上がり…
終いには、
<機体さえあればお前らなんか踏み潰してあの頃に戻れるのに>
である。
ばかばかしい、と口元だけで零しつつ眺めていたなかで…ふいに、嗤いが零れた。
何のことはない。僕だって同じだ。
この星へ密航し、戦いに明け暮れ…結果墜とされて。
僕は
そんな、掃き溜めのなかに残された
<
それが、僕のなかで火をつけた。
輸送機の窓越しに見下ろす光景は、ソレにつき動かされた結果…なのだけれど。
正直なところ今、後悔を覚えている。
廃ビルの影に隠れて佇む…というには、あまりにも恰幅の良すぎる
傍には赤と黒で塗装したACがこちらを見上げているという構図だ。
一体なんの冗談だろう。
ACだって全長10mはあるはずなのに、立ち並ぶ姿はさながら雄牛と兎。
ここまでサイズ比をとち狂わせてくる大型機体なんて他で見たことがあるのか?
いや確かにあった。惑星封鎖機構の
血の気も思いっきり引いたが、それ以上にわけがわからない。
封鎖機構と独立傭兵が足並み揃えて待ち合わせ?…ばかな。利益相反が過ぎる。
もしくは封鎖機構がACを…それもおかしい。あの組織は独自の機体を多数擁していると聞く。組織外の企業製品に期待する動機がないはず。
じゃあどうして と考えて、全身が硬直する。
─あの
まさか…「オレ、外道ヘリコプター。今後トモヨロシク」とか言って道行くものを粉砕する規格外のバケモノを、こともあろうに個人で鹵獲運用しながらのびのびと生きているだなんて。
ありえない。どう考えてもありえない。だのに。
ここに限って言うなら、
恐怖に慄きながらも、いま一度ACに注目する。
ぱっと見はアーキバス社系列の中量2脚…それだけを切り取るなら寧ろスラリとしているのだけれども。
いかにも重火器なガトリング砲を両の手に、肩付けしているのはやたらゴツい…榴弾砲?
まずい。
〈オールマインド傘下の独立傭兵だな。─登録番号は〉
盛大に転けた。全身から悲鳴を上げる。
…落ち着かないのは許して欲しい。なにしろ睨まれたら死が見える存在ランキングの堂々1位と2位(個人調べ)がすぐ目の前にいるのに、それらから穏やかでもなんでもない声音で問いかけられたのだから。
慌てて答えようにも、あいにくと後部座席にその手の機器が見つからず。
自動操縦真っ只中の操縦席で通信機を拾い上げてから…ふと、首を傾げた。
場違いに若い声…歳からして自分といくつ違うだろうか。
一般に大柄なメカを丸ごと用立てるといった大仕事を想像するなら、役割を担うのは概ね老獪な人物だろう。さすがに子供と見紛うような誰某がそれをやっているなどとは
〈聞こえないのか?〉
それどころではありませんでした。
慌ててふたつみっつと頭を下げ、登録された番号と識別名を伝える。いくらか声が上擦ったかもしれない。
改めて窓辺から見下ろすと、赤黒いACはいくばくか硬直しているように見えて。視線を下ろす姿にどうしてか笑えてしまったのは内緒だ。
ややあって、気だるげな声が返ってくる。
〈─…独立傭兵アマノ。
着陸後、別に指示があるまで待機しろ。輸送機のブラインドも下ろしてもらう〉
▲
▼
かくして今、僕は
往路に使った輸送機のよく軋む座席とは違った、柔らかくも芯をもって受けとめるソファの座り心地が有り難い。
置いてけぼりを食らっていた湯気立つマグ(この空間の主はこれらを「好きに扱え」と言っていた)もまた、フィーカに特有の豊かな香りを以てこちらを迎え入れてくれた。エスプレッソを思わせる濃厚な口当たりも甘美だ。
…さっきまで恐怖でガチガチだったのが噓のように緩んでしまった。
気を取り直して、同じく置かれていた
〈─さて、傭兵。
まずは…汚染市街での被撃墜の件は災難だったな〉
「……はい」
ちょうど声をかけてきた。
ちなみに今、件の空間の主の姿は見えない。恐らくPDAを介してこちらを見ているのだろう。
─災難、と評されたものの。実のところは僕の油断に対する妥当な…ともすれば
ルビコン解放戦線の兵士たちは総じて勇猛で、同時に一定の心得もある。
相手が
その彼らが、あの時は初めから後退を旨としてことに当たっていたことを。今思えば疑うべきだったのだろう。
〈ふーん。…で?必要なものは何だ〉
「…ACの
〈MELANDERか。…それだけでいいのか?〉
「ほかのパーツは一通りあるんです。機体さえあれば、僕は……」
そこで耐えられなくなった。詰まりに詰まったものを咳き込んで追い出す。
同じだ。まるで同じ
負けて吹き飛んで、それでも燃え残ってから何をしたといえば。ただ
〈──予算は〉
「っ……30、万…」
そう、これが現実。
傭兵支援システムはこの手持ち資金を見て、きっぱりと断っていた。持ち合わせのない者までをも支援することはできないと。
この手持ちではBAWSの旧型機でさえ手が届かない。稼ぐ手段まで喪っている以上、手詰まりだ。
熱の萎む感触がした。全身から力が抜け落ちる。
「はは…。むり、ですよね。これ…」
〈──成程。確かに…オールマインドが匙を投げるわけだな〉
「ごめいわくをおかけしました。ぼくは、これ で──」
立ち上がろうとして、代わりに背もたれに身を押し付けた。視界が急激に暗くなる。
置くつもりだったPDAも手もとから転げ落ち。砂が崩れるように感覚が離れていく。
もう、いいかな。なんて
▲
▼
くらい
ここは…ああ、
ぼくはふきとばされて、それからにげて
にげて、にげてにげてにげてにげてにげて
それから
おちる
おちる
おちる
そこからは、あとはくりかえし
おわるまで、そこでくりかえし
〈──貴様は、…!生きていたのか〉
だれ?
…ああ。そういえば、いたね
くりかえしのそのまえに、いた。
〈…─、俺に出来ることはもうない〉
そうだよね
むりだよね
やっぱり、だめなんだ
〈……だが〉
なに?
〈願わくば、貴様とはまた─…。〉
………
そうだった。
ぼくは
僕はそのために
だからこそ、
行こう。行かなくては─
▲
▼
「──あ」
この手はどこに向かっているのか。
目覚めたその場所を確認する。……場所は変わらず、
まいったな、人前で眠りこけるだなんて。
おまけに僕はソファで完全に横になっていた。この場の主に相当な迷惑をかけていることは疑いようもない。どう言ったものか…
「──なんだ、また小言か?折ェ角お前の言うようにアポを取ってやってるっていうのに、まだ上から注文を付けようとは…」
場の主の声だ。いやに若い音色が、へそを曲げた調子そのままに響く。
つかつかと軽やかな足取りで、その姿を僕の目に曝け出す。
「アーキバスの医療技術があれば些事にも満たないだろうが。そういう文句は適所ってものを──、……」
その赤い目と視線を結んでからは、微動だにしなくなった。時間が丸ごと凍りついたかのようだ。
誰かと通信していたようで、携帯端末から何かが聞こえる。しばらく忘れていた呼吸の代わりに生返事をこぼしてから
「悪い、今回の話は全面的にナシだ。忘れてくれ。埋め合わせは後日な!」
〈─んなぁ!?きさ〉
切った。
…この人、どういう教育を受けたらこの振る舞いができるのだろう。
こんな会話の打ち切り方は
首を傾げてみるが…場の主であろうこの人はそんな心配もよそに、ばつが悪そうな表情で頭を掻いている。無造作に伸びた髪が行ったりきたり。
「あー……起き抜けの調子はどうだ、傭兵」
「えっ?…ぁ。良好、です」
実は喉がカラカラで、いまいち全身の感覚が鈍いのは内緒だ。ただ、気分そのものは悪くない。
そうか と返すその人は、まだ幾分かの申し訳なさを帯びたまま僕の片腕を確かめ始める。
―針か何かを刺していたのだろうか。痛みは感じないが、少し血が残っている。
痕に施される手短な医療処置をなされるがままに受けつつ、疑問を一つ。
「あの…僕はどのくらい、眠っていたんでしょう?」
「──、37時間ってところか」
「っさん、じゅ…!?」
くつくつと反応を面白がるように笑ってくれた。顔に出たものがよかったのだろうか。
「お前余程切羽詰まっていたのな?腕1本折ってるってのによくやるよ」
「っ〜…じっとしていたら、底なしに沈んでいくような気がして…」
面目ない と言ってみたものの、胸のうちは安堵の温かみで満たされていた。
そもそもこれまで諸々の迷惑をかけているのは僕だというのに、悪い事をしたみたいな振る舞いを相手にされても困るのだ。心の底から。
腕の痕にしたって、大方点滴をもらっていたところを寝ぼけついでに引き抜いたかしたのだろう。…たぶん、この人はひどくいい人だ。
ひとしきり笑いあって、それからこの人は小気味良い音色とともに両手を合わせる。
「笑える話をごちそうさま。さて、本題に戻ろうか。
傭兵。お前からの要件は、MELANDER相当の中量2脚フレームを30万コームで…間違いないな?」
「……はい」
「ついてきな」
「─?へ、ぁ」
言うが早いか、軽い足取りが僕の来た道を辿る。
慌ててついて行き、数刻。
まさに今繰り返された要件そのまま…いや、それ以上の機体がそこにあった。
赤と黒のアーキバス系列AC(実は他社との混成であることに気づいたのは後の話)と並び立つ、面ひとつを取っても鏡のように磨かれた装甲《ボディ》。
艶消しされた
腹の底から湧く熱気にたまらず、裏手まで走り出す。
背に取り付けられたブースターは
「ベイラムのカタログモデルを基礎としたカスタム機だ。
フレームと
ライフルと
「引き渡し条件?」
「ああ。左手のがソレだ」
左手のソレ。
金棒である。どこからどう見ても殴るための鈍器でしかない。
「あの…これでどんな条件を?」
「どんなって、こいつでぶん殴る実地検証のテスターさ。いいかい?」
得意げに話すさまを見つめる。
曰く、昨今はベイラムの
しかしながら、その昨今というものが盛大な惑星開拓時代であるからして。実際の戦場で
「わかるね?アレで敵をぶん殴る度に金の生る木の種は蒔かれる。お前は恩返しついでに、いつも通り敵を張っ倒してくれればいい」
「じゃあ、ブースターがファーロン製でないのは…」
「
なるほど、そういうものかと肯いた。仮にも専門家による筋道立った構築なら、任せるに限る。
…ただ。
「ごめんなさい。その条件では、吞めません」
返ってきたのは訝しげな相槌。視線をまっすぐに定めて続ける。
「製品の価値について僕は素人です。けれども…この機体が
傭兵支援システムだったら、たぶん100万近くは請求してくる。…さっきの"条件"だけでは、それだけの価値は作れない」
沈黙を招いた。
余計な口を叩いているというのはわかる。繰り返すようだけれど、相手はこの道の専門家で、僕は素人でしかない。
提示された"条件"にしたって、どれだけの価値を創出するかは使い手次第なのだろう。僕が扱ったらできない というだけで、この人なら違う結果が生まれうる。
それでも。
僕がそう断ったのは、これらの条件がこの機体を
僕はこの機体を
情でも縁でもなく、ただ利害の一致という結論を以て、目的を達成しなくてはならない。
それができなければ…僕は結局、
それだけは、僕には容認できなかった。
「安くしろと言われたことはごまんとあるが…高くしろ とはな」
髪を手櫛で梳きながら専門家がそう口にする。
少考を挟んだのち、その赤い目がこちらを貫かんばかりに睨んだ。
「
その上で、現状のお前に見合う物をと提示したわけだが…
「―はい」
「お前の予算は30万と聞いた。ここから吊り上げたところでお前には即時に付き合うだけの支払い能力はない と。違いないな」
「金銭のみに限るなら。でも、僕には
そうだ。僕は傭兵。それ以上でもそれ以下でもない。
殺して、金を稼ぐ。利益をもたらす。僕の価値はそこにある。
これもまた、この辺境惑星における共通項であるはずだ。
「なるほど、
獰猛な笑みかけに怯みそうな背筋へ力を込める。ここで引き下がったら
返された言も至極真っ当な評だ。これは負け犬に成り下がった事実を背負う僕の、最大の我が儘なのだから。
「
クソの役にも立たないクソ脆弱なクソ虫ごときに、いま一度、
「――はい。」
これで機嫌を損ねて殺されても…さすがに怖いけれども、だとしたらそれまでだ。ただ掃き溜めの底で繰り返し続くよりは、ずっといい。
▲
▼
「――面白い」
沈黙を破ったのは、その声が含む重圧に似つかわしくないほど愉快げだった。
「見どころのある
私は、
この人が、雇用主に。
つまりは、命令一つでいかなる困難も遂行しなくてはならない。
この上なく重い対価だ。…そして。僕が唯一、対等以上に支払えうる対価である。
そうだ。否やはない。
僕はいま一度、傭兵となる。
「よろしくお願いします、ルークさん」
「AC一式で30万コーム??」と思った方へ。
用意されたACは
ただ実際、そういった感覚も正しいと思うのですが。
今回解説するにはちょっと場面が合わない気がしたので割愛します。
この点は自己解釈を交えつつ別の機会に投稿しようかと。