天の川は赤き奔流に揉まれ入り   作:環希

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 序章も序章だというのに、もう感想をいただけるだなんて…!
 読んでいただいた方へ、本当にありがとうございます!



コーラル調査網分断

 

 ……痛みはない。ちゃんと動く。

 

 暗く小さな空間で、しきりに手もとの感触を確かめる。

 結んで、開いて。擦り合わせ……いよいよだ と、自分に言い聞かせるように。

 

〈――いけるか、アマノ〉

 雇用主の声を聞く。答えるかわりに操縦桿を握った。

 

≪生体信号受容を確認 パイロットデータの認証――完了≫

 新しい身体の、その目に生気が灯り。続けてふわりと持ち上がる感触…

 ふいに、くつくつと笑い声が届く。

 

〈ずいぶんと気を張っているじゃないか。なぁ?〉

「……わかり、ますか」

〈そりゃな。ACからは認証ついでに、バイタル情報も送るよう設定してある。

 初っ端から胸中荒れに荒れて(心臓バクバクとく)りゃ、およそ誰だって察しはつくさ〉

 

 そんなところから見られていたとは。

 いまにも灼けそうな顔を手で覆うと、ひやりとする感触が心地よい。

 

「おかしいですよね。これまでだってちゃんと仕事として請けて、やってきたことなのに」

〈かくも環境変化は偉大ってな?

 好きなだけ緊張しておけ。見ている分にはかわいらしくていい〉

「そ――ッんな、からかってますよねそれ!?」

〈どぉ~だかなぁ?ほら、言ってる間に到着だ。構えた構えた!〉

 

 ひどい不意打ちである。

 気付けば視界には光が差している。すぐに降下だ、考えに耽る間はない。

 湿りきった手もとを拭って、構えなおす。無重力に身を委ね――

 

 

 

≪メインシステム 戦闘モード起動≫(〈さあ、仕事の時間だ〉)

 

 

 

〈大豊のMT部隊を可能な限り撃滅する。行ってこい!〉

 

 音も静かに滑り出す。今回はアーキバス系列、シュナイダー社からの公示依頼だ。

 少し高い位置に着陸したおかげで、敵の位置はある程度覚えられた。岩陰を伝いつつ接近していく。

 

〈今回は1区画制圧を依頼達成の最低要件とし、更に追加制圧した区画数および撃破数に応じて追加報酬が支払われる。

 要は、"稼ぎたい分だけあちこちに出向いて暴れてくれ" ということだ〉

「最初で取り逃すと、報酬への影響が大きそうですね」

〈そうだな。だが、その機体は火砲の瞬間的な出力に乏しい。

 なあに、最悪失敗しても減点のない依頼だ。まずは慣らしと思って、一機ずつ。確実に潰せ〉

「了解!」

 

 指示を頭の中で咀嚼しつつ、TURNER(アサルトライフル)を構える。

 2脚MTが三機。通り過ぎていった超大型(ベース)ヘリに気を取られてか、陰にいるこちらには気づいていない。距離は200――

 ふっと息を吐き切ってから飛び出し、トリガーを引く。いかにもな銃火の音を立て続けに、眼前の一機へと突き刺した。

 

《てッ、敵襲!ACが一機!》

《ACだと!?馬鹿な…()()()()S()G()といい、こんなところに何故…!》

 

 思いのほか混乱を生んだようで、さらに二機目までは何ら抵抗もなく沈黙する。

 さすがに三機目は機銃を向けようとするものの…こちらの横機動に追いついていない。撃ち続けただけで同じ結果に終わった。

 

 

 リロードの感触を確かめつつ、次のMT小隊へ足を向ける。

 数こそ同じだが、さすがに存在を知られた後だ。陣形を組んでこちらを警戒している。

 いくらか接近して、もう一度撃ってみる。手前のMTが持つ盾に阻まれ跳び返ってきた。

 反撃の弾幕は別の岩陰を遮蔽に凌ぐことに。…こういうところで解放戦線の強みがありがたいものだなあ と、場違いに感心したのは内緒だ。

 

《――このAC乗り…早く増援を!隣接区画からでもいい、回せないのか!?》

《さっき資材を任せて送り返したばかりだ!呼び戻しても戦力にならんぞ!》

 

 苦りきった声を漏らしつつ敵機がゆっくりと詰め寄ってくる。しばらく応援は来なさそうで、緊張が少し解れた。

 広域回線ではなく、周波数の割り出しが済んでいるがための通信傍受だ。このあたりも含めて本当に、雇用主にはよく助けられている。

 

 とはいえ、手間取るとまずい。

 スキャンを用いてみた限り、他にこちらへ接近する機体は見られないが…数が増えるのも時間の問題だ。

 装填し直したTURNERを手に…ふとブリーフィングで見た縮図が思い浮かぶ。そういえば、ここから右に飛び出すと作戦領域外だった。

 アーキバス系列社(特に本社)が、一度決めた盤面に対する逸脱を嫌うことは事前に聞いていた。

 右から抜けて背後を撃つのが簡単だけれども…それだと報酬に瑕がつくかもしれない。

 

〈盾が面倒か〉

「…ええ。この状況だと、かなり」

〈ならいよいよ、実戦投入(テスト)にあつらえ向きだな。──その距離なら一度に踏み込める〉

 

 目を丸くした。ふと、左手に視線を落とす(カメラアイを向ける)無骨な金棒(実験兵器)がどっしりとした威容を放っていた。

 これだけの重量物を手に、この間合い(距離160)は届くのだろうか…?

 いや、迷う道理はない。専門家の構築は信じると決めた、だったらやるだけだ!

 

「ッぐ――んのぉ!!」

《な――》

 

 派手な火花とともに、MTの盾がひしゃげ飛んだ。返し刀よろしく置いてけぼりの持ち主に横薙ぎを見舞い―― 

 顔面の凹んだ敵機が、後続の一機を下敷きに転げていく。

 

 ……近くに残る()機と顔を見合わせる。

 この光景はさすがに、あんまりかも―― 

 

〈仕事を続けろ。感傷は後だ〉

 いけない、まだ任務中だ。銃弾を並べてお見合いを破談に。

 

 

《くそ!アーキバスめ、見境なしか…!

 やむを得ん、この区画は放棄する!後退せよ!》

 

 地面でもがく生き残りを黙らせた頃、残る部隊がこの場を離れ始めた。

 二手に分かれてはいたものの、背を向けているせいで動力機関が剥き出しだ。引き続き滑るようにして詰めながらもふたつ・みっつと撃ち込んでいく。

 兵器は急所を潰せば脆いのが常だ。一機は殴りつけて、あっという間に残骸がひと山。

 もう一部隊にはだいぶ距離を稼がれはしたけれども…こちらも僕を見向きもしない。

 多少意識して狙い撃つだけで転げ落ちてしまった。

 

〈敵部隊の全機撃墜を確認。この区画の周辺設備は撤去不要とのことだ。

 まったく、大豊も毎度雑な人選をする…()()()()十把一絡げだったな〉

 

 そう、この場での仕事は終わった。なんとも呆気ないままに。

 まだ少し緊張のあった両腕を緩めて、シートにもたれかかる。

 

 

 

 ……おかしいな と、率直(場違い)に思った。

 ひと仕事を終えた という実感はある。そして、ただそれだけだった。

 

 ()()()()()であることはわかる。

 傭兵稼業とは、しょせん血に浴するだけの行為だ。いちいち気にしていたらそのうち身が持たなくなるだろう。

 

 ただ……これは僕が望んで選んだ道だ。

 万感の思いを込めてひとつの結末(おわり)を押しのけ、僕自身の渇望を以て()()()()()()のだ。

 そのためにACを買い求め、嘘吐きによろしく伝えて今に至っている。

 ひとしきり思い返して、すとん と合点がいった。

 

 僕はいまこの瞬間に、[ 感想 ]がほしかったのだ。

 笑うでもいい。泣くでもいい。

 どこか一つだけでも、この結末(くぎり)に僕の心を揺り動かす何かが欲しかったのだ と。

 

 ひどく寂しくなった。

 それが何一つ得られなかったことに。……そして、そんなものを求めていたという事実に――

 

〈――アマノ?〉

「ゎひゃいぃ!!何かありましたか、ルークさん!?」

 

 また声が上擦ってしまった。

 一瞬の間が開いて、いや とだけ返す雇用主の…呆れとも安堵ともとれる息遣いに首を傾げつつ、次の命令を待った。

 

〈……その様子ならもう一区画くらいはやれるかね。

 マーカー情報を更新する。そこで係留し、次の襲撃先へ向かうぞ〉

 

 

 

 

 

 

 結果として、その日はぼろ儲けだった。

 計3区画回って基本報酬が3万と、MTおよび設備破壊報酬が6万。さらに金棒の使用検証データ分で1万が添えられている。

 これらが総支出1万以内で得られた結果だというのだから、個人的には大金星といえた。

 

 もちろん、額面通りに成果を喜んでいいのかといわれると…考えるところは多い。

 まずもってこの結果は雇用主の広範支援(ルークさんの手腕)ありきであること。

 あの人の手元にいる契約であるとはいえ、声かけがなければ支出はもっと大きかったはずだ。

 

 特に僕自身が、銃火器に頼りがちなことに言われるまで気づかなかった点が重い。

 格闘戦に持ち込めばもっと早く済んだであろう場面が、思い返すとそれなりにあったのだ。

 このあたりは、シミュレータ上ででもしばらく練習して改善していこう。

 

 ほかには選定された襲撃先での心配事が少なかったり、区画ごとの移動手段が最強最悪であった(移動中に手出しされる心配がなかった)り…

 そういった部分も含めて、僕一人では不自由なことが多いのだと痛感する。

 

 

 

 そんな反省会をコックピットに座したままやっていると、COMが着信を知らせてきた。

 メッセージではなく通信だった。

 

〈登録番号Ra31 識別名:アマノ 貴方の傭兵活動再開が確認されました

 オールマインドは 貴方の帰還を歓迎します〉

 

 正直びっくりした。傭兵支援システムが個人に対して祝辞のたぐいを、直接伝えてくるとは思っていなかったのだ。

 お礼で応じるべきかな などと悩んで

 

〈――しかしながら〉

 その矢先、声色が暗く、重たくなる

 

〈やむを得ない事情があったとはいえ 第三者による販売製品を用いた傭兵活動の継続は多大なリスクが伴うもの

 できうる限り早急にオールマインドにて販売中の純正製品への換装 並びに品質保証サポートの導入を行うことを強く推奨いたします〉

 

 唖然とするこちらをよそに、画面には複数のグラフや画像が並べ立てられていく。

 併行して送られる資料(データ)には、()()()()()()()()()()事例がこれでもかとばかりに記されていた。

 

〈正規手段による品質保証の付随しない製品を用いた傭兵活動は その後短期間での破綻による終末を迎えるケースが後を絶たず

 此処ルビコンにおいて貴方がた傭兵の希少な生命 その多くが真価を発揮することなく喪われているのが現状です

 

 我々としても大変心苦しいのですが オールマインドにて提供中の各種支援が得られていない現状

 貴方の傭兵活動における安全を保証することが困難であることを 改めてご理解ください〉

 

 ………

 これは…つまるところ。怒られた と考えるべきなのだろうか。

 説明の姿勢があまりにも本気で、さすがに申し訳なさを覚える。グラフの比率が微妙におかしく見えた点を指摘したくなくなる程度には。

 

〈オールマインドは "全ての"傭兵のためにあります ――お忘れなきように〉

 通信はここで締めくくられた。

 

 …結局何も言い返せなかった。

 反論がしたいと思ったか と問われると、そうではない。

 傭兵支援システムの()()は正しい。保証のない中古品よりも、メーカー保証の万全な新品を用いたほうが安心安全 というのは、ACにおいても共通のことといえる。

 

 ただ…何となく、胸のうちにもやつく感触が残ってしまった。

 うまく説明はできないのだけれども、何かをはぐらかされたままに()()()()()で埋め立てられたような……

 …ため息がいやに響く。

 

 

 

 ………え?ため息??

 

「まァーったく…急に接触してきたと思ったらコレか。随分と高尚な()()()()ですこと!」

 

 声の主はルークさんだった。

 ほとほとうんざりだ と、思いっきり顔に書いてしまっている。

 

「そもそも足元をみて見捨てたのは手前だというに、わざわざ顧客を一人救ったこの私を前にして!礼どころか苦情(クレーム)をブチ撒けるとは、なッ!

 

 スパーン! と、派手な音とともに革手袋が叩きつけられる。

 なぜだか、もやついた胸中がほどけていった気がした。

 今回はこの人もこの人で盛大に鬱屈した感情を吹き散らしているというのに、どうしてこうも気分を晴らしてくれるのだろう。不思議だ…

 

「二度目の初仕事、お疲れ様。変わりないか?」

「…ぇ、ええ。身体はむしろ好調だと思います」

 

 赤い瞳がこちらを見上げてくる。さっきまでのお怒りが嘘のようにケロっとしている。

 あまり首を曲げさせ続けるのも具合が悪い。ACから降り、さほど傷も多くない装甲をひとつ撫でてから視線を合わせにいく。

 

「そのうち本格的な塗装と、エンブレムも欲しくなりそうだな。機体名は考えたか?」

「ん、ん……まだ、なんとも。それよりも今は、できるだけ依頼を受けて少しでも稼がないと」

「それなんだが、しばらくは依頼を受けないことにする。別にやることができたからね」

「受けない??…その、やること というのは」

「その話はまた後で。今は食事と休息を摂るのが先だ」

 

 不可解な言い分を受けて捻りたくなる頭に、ぽんぽん と手が重なる。髪伝いにすらわかるほどにしなやかで、温かみのある手だった。

 中古の寄せ集めに過ぎないと言いながらも、何ら不具合や不快感もなく動かせる機体をこの手が組み上げ手懐けているのだと考えると…"嘘吐き"(ライアー)とは魔法の類すら使えてしまうのだろうか とさえ思えてしまう。

 

 空っぽだった胸のうちが、安堵で満たされていく。

 ようやく生きた心地がした。

 

 

 





 それにしても、先人方の創作は偉大です。
 今回のオマ公の言い分ですが、大金剛氏の[何かを運ぶ傭兵稼業]における言及を参考にさせていただいております。
 自己解釈も交えて綴ったものと思いますが、どうかな…うまくできてるかな?


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