天の川は赤き奔流に揉まれ入り   作:環希

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 説明回にして準備回。そしてウソ科学回。
 …端折る部分と綴る部分の仕分けが難しい!



冗談で済むうちに

 ビル街に担保された高台から大量の榴弾が降り注ぐ。アサルトブーストで駆ける、その軌跡は炎を縫い繋ぐように。

 TURNER(アサルトライフル)はいつにも増して雄弁で、勢いそのままに差し込めば足早に沈黙を織りなしていく。

 その緊張が齎す高揚感たるや。反響に見出す発見たるや。心地よさに口角が吊り上がるもの――だのに。

 

「っは──!は、は……ぁ」

 

 息苦しさが、その全てを台無しにしていた。

 足場を求めふらつく機体はなんとか廃ビルの影に押しやったものの。警告音は未だひっきりなしだというのに、垂れた頭を持ち上げられない。

 ここのところ毎回、言いようのない不快感が僕を訪ねてくるようになっていた。決まって高速航行(アサルトブースト)のさなか、十数秒のうちに。

 頼んでもいないのにやってくるそれを誤魔化そうにも、ACを動かしている真っ只中とあっては融通も利かず。我慢を重ねた果て、回らない思考で身を隠しては息をつき……

 

(──っうぅ、また……!)

 

 十中八九、拳骨をもらう(榴弾で咎められる)

 駄目だとわかっていても耐えようがないのだからたまらない。ぼろぼろの装甲を抱えつ立て直し、咎めの出処を見やる。

 砲口だけを覗かせたMTが、初めて墜とされたその時さながらに居並んでいた。

 

 

 背を穿たれたような衝撃だった。銃声が頭の中でこだまする。

 冗談ではない、こんなのはただの回想でしかない。……そう突っぱねようにも、手先が凍りついたように冷えきって動かない。

 ──やがて重ね置かれた榴弾に、コアが圧し潰されて燃え上がる。またしても僕は、同じ失敗に消し飛ばされるというのか。

 

 誰

 

 

 

───────────────

 

─────────‐

 

‐──‐ ‐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪PROGRAM ABORTED≫

 

 

 

おつかれ(NICE JOKE)、アマノ〉

 声に惹かれて、僕は()()へと帰ってきた。バイザーを持ち上げて視界を開く。

 

〈また派手に爆発四散させられたな。災難なこった〉

「……ごめんなさい…また、ぼくは…っ」

〈大丈夫だアマノ。ここはヘリの機内(私たちの家)で、今やってるのはただのトレーニングプログラム(練習問題)。じっくり()()()いけばいい〉

 

 このやり取りも何度目かになっていた。傍に置いていたタオルを手に取り、顔を埋める。ほの温かな柔らかさが心地よい。

 

 

 今の僕は傭兵として実力不足だ。雇用主であるルークさんが、依頼の最中に僕の行き先を慎重に吟味せざるを得ないのだから、相当に足を引っ張っている。その自覚もあった。

 これは共通認識でもあったわけで、一休みした翌日に戦闘データを交えて具体的な指摘があった。

 

 ……ところで、AC(アーマードコア)MT(マッスルトレーサー)ほか陸戦兵器の多くと較べ、入・出力両面で高い性能と汎用性を誇る。その象徴たる特長のひとつが、[人型でありながら自由に空を飛べる*1]という点だ。

 この性能ゆえに陸戦兵器でありながら航空機顔負けの高速航行を行ったり、あらゆる地上兵器からの火線を空中へ去なすことができる。

 これがかつて

[AC乗りである(イコール)他の陸戦兵器乗りと一線を画すだけの優位性を備えている]

と言われていた要因のひとつにあたるのだけれども……

 

「──アサルトブーストはおろか、岩場を飛び越えることさえ仕事中に一度もやっていない。現場で敵機にナメられ(数で押せば勝てると看破され)ていたのはそのせいだろう。

 実際ここまで緩慢じゃ、言葉通りにMTと大差ないと思うんだが……どうだ?」

 

 ……そう。僕はその優位性を全く活用していなかったのである。

 まさかの上手・下手以前の問題。証拠もセットで突きつけられたものだから、目を逸らすこともできやしない。

 

 

 そんな現状を見かねてなのだろう。

 ルークさんはここしばらく、中古屋稼業の合間を縫って僕向けの特訓を管理していた。

 各種ブースターの使用感の確認に始まり、シチュエーションの体験。更には戦闘中の手段選択……と。いま僕はそれらを乗り越えて、実戦を想定した機動訓練に入っている。

 

 見込んだ以上に進歩が早い とはこの人の言だ。通常は一日や二日のうちに取り扱い説明を受けた程度で、それらを組み合わせて動かそう とは出来ないのだそう。

 実際、使い方を学ぶ度に…自分の落ち度が咎められる度に、一連の技術が僕のなかへ浸透していく感触は悪くなかった。

 ただ──

 

〈しかし、毎度お前はアサルトブーストとだけ相性が最悪だな。ひどいバイタルの乱れようだ。

 コックピット━機体間の緩衝率調整も総じて効果なし ってのは予想していたことではあるんだが……どうしたものか〉

「……あの。ルークさんがそこまで悩まずとも……僕が慣れてしまえば」

〈馬鹿を言うんじゃない、機体の乗り心地が悪いなんてのはれっきとした整備不良だ!専門家をこういう時にサボらせるんじゃないよ〉

「…………。」

 

 正直なところ、負い目は募るばかりだった。

 この人がACの専門家であることは確かだ。僕が()()した機体はここで整備することを念頭に置いた値段設定であるとも聞いているから、あの振る舞いもその念頭に従えば正しいのだろう。

 しかしそれ以前に、この人は僕の雇用主である。それも、傭兵を雇って使う というだけの。

 太陽系(主要経済圏)の中流以上にあるとかいう()()()()雇用関係とはわけが違う。本来であればここまで面倒を見る必要などないはずだ。

 

 そして第一、僕は僕自身に傭兵としての価値があると豪語してこの人に買わせたのだ。であれば、その価値を示し続けるのがまずもっての筋というもの。

 ところが蓋を開けてみれば、そのまま使うには()()が全くもって足りず。のみならず()()()まで見つかる始末。

 そうして今この人は余分に時間(私財)を費やしてその強化と改善に努めている。

 ……無力感が後悔を餌に殖えていた。

 

 "嘘吐き(ライアー)"は言うのだろうか――もとより想定していたことだ と。

 相対したその場で繰り出された前評は何ら違いなく。現状も思惑通りでしかないのかもしれない。

 ……それが却って許せなかった。

 実利で以て と取引を持ち掛けた僕が、利外の勘定によって生かされている。

 "嘘吐き"からそう口にしたわけではないにせよ、その可能性が大いにあると思うと……

 

 

 やり直せるものなら、やり直したい──

 

 

 

〈あーアマノ、ちょっといいか?〉

 打ち沈んでいた思考が一気に引き上げられる。慌てて何ごとかと問えば――

 

〈近く客が来ることになった。『依頼したACの分解点検について、進捗を見たい』とさ。

 ……機体調整のほう、急がないとだな。当人が来たら、しばらく私はそっちにかかりきりになるだろうから〉

「えと、わかりました…――当日ですが、僕は自室に戻ったほうが」

〈いや、そのままハンガーで訓練してくれて構わない。お互い疚しいこともないしな〉

「……傭兵として人を撃ってきたことは、疚しいことに入らないんです?」

 

 話すうち、平時は空きのハンガーに佇む機体が目に入る。大豊のパーツを軸とした重そうな機体だ。

 装甲の半数を外されていてもなお恰幅がいい。……あの構成だと、火砲を寄り合わせた支援機の類になるのだろうか?

 

〈――まあ件の客(ヤツ)がこの話題にどういうかはさておいて……目当て以外の物も見て回りたがる手合いでな。客前で気絶しないよう()()も程々にな?〉

「気絶って。……──ええ、きをつけます」

 一瞬「僕をなんだと思っているんだ」と言い返したくなったのは内緒だ。

 まあそもそも、こまめに休めと言われていながらしょっちゅう踏み倒しているのは僕なのだから、この扱いも自業自得には違いないのだけれども……心持ちに少しばかりの苦みを覚えた。

 

 タオルの端を弄びながら、先のプログラムでの経過を咀嚼していく。

 考えるべきことも、学ぶべきこともまだまだ山積みだった。

 

 

 

 

 

 

 当たり前ではあるのだけれども、闇雲に無理を押してもいいことはない。

 つい最近まで、高速航行(アサルトブースト)の負荷を慣れでどうにかしよう などと考えていた僕が言えた義理ではないけれども……訓練の度に十数回えづきそうになりながら、回避出来てしかるべき脅威にぶつかっているのが現状なわけで。

 この光景が冗談で済むうちに、違う手段を試すべきなのだ。

 

 

 (この───ッ!)

 噴炎を撒き散らし、雷を描くように突き進んでいく。MTが放った榴弾が自機の真横ギリギリを抜けて落ちていく。

 続けざまに振り抜いた金棒が、敵機を巻き込んで跳ね飛ばす。…ビルの屋上から自由落下となれば、撃破は確認しなくてもいいだろう。

 

 高速航行の代わりを担ったのは、近接推力と緊急回避(クイックブースト)推力だ。

 思い返してみると、近接推力…金棒を振りかぶる時のソレは13000強と、随分高出力だ。緊急回避にいたっては、瞬間的とはいえ推力20000……いずれも高速航行中のソレ(推力9000弱)を大きく上回る。

 この二つの推力を交互に使うことで、慣性も含めてそれなりの距離を高速で移動することが出来る。

 

 もちろん、これだけ連続で高出力を扱う以上燃費は悪いし、敵機──要は自機が「近づいて殴る相手」と認識する対象──が索敵圏内(400m以内)にいなければ近接推力はほとんど機能しない。場と敵を選ぶやり方だと言える。

 とはいえ、安定的ではないからと使わないのは怠慢だ。

 そう思って解き始めた件の()()()()は――

 

 

 

───────────────

 

─────────‐

 

‐──‐ ‐

 

 

 

≪PROGRAM COMPLETED≫

 

 

 

 思いのほか、簡単に終わってしまった。

 いったい今までの苦労は何だったというのか。達成感も何もあったものじゃない。

 パイロットスーツを緩めて手足を放り出す。バイザーも今日はもういらない。

 ……結局ぶっ続けで訓練していたせいでクタクタだ。ルークさんに見つかったら文句を言われるかもしれない。

 ひとまずグレネード持ちのMTは嫌というほど叩き飛ばした。おかげでここのところは身体が硬直するほどの恐怖を感じなくなっている。現場でどうなるかはまた別かもしれないけれども…油断しなければ、きっと大丈夫だ。

 

 ただ、もう一つ不可解な問題が残っている。

 そもそも僕が高速航行(アサルトブースト)を使わないようにしたのは、使うとその影響をマトモに受けて具合が悪くなるから。そういう経験を経た、はずだ。

 でも、だとすると単純な(負荷)で上回る近接推力や緊急回避推力の行使で、身体には特におかしな変化がなかったのはなぜだろう。

 

 モニタを片手間に起こして、プログラムデータを垂れ流させる。

 …三人称(機体追従)視点があるのはVRの強みかもしれない。時折視点をくるくると変えながら機体の動きを見比べるのは、いろいろと見ごたえもあってちょっと楽しい。

 

 (――ぁ、……)

 機体が頭から突っ込まんばかりの姿勢をとったところで映像を止めた。高速航行(アサルトブースト)を使い始めた場面だ。…眺めていると、そのまま使い続けた時の不快感が思い出される。

 

 ……もしかして、この前傾姿勢が嫌だった のだろうか?

 

 コックピット区画と機体は、被弾衝撃等の影響を最小限に抑えるために原則強くは固定されていない。機体そのものが真っ逆さまにひっくり返って転がるを繰り返すでもしない限り、中への衝撃は直立 もとい直座姿勢からそれほど大きくは変わらないようにコックピット区画の向きを調整されるのだという。

 おかげで身体への負荷は分散してかかることがほとんどとなり、結果グレイアウト等の異常リスクを最小限に抑えているのだとか。

 こうした安全面での技術進歩が、かつては撃墜されたなら即ち死とされていたACやMTにおいて、搭乗者の生存率を高めている理由にもなっているのだろう。

 

 ……ただ、当然ながら人体を模したACは人体そのものである人間が動かしているモノ。

 正面切っての頭突き姿勢で突っ込んでいるのに、体正面にまんべんなく負荷が巡るのはどう考えてもおかしい。本来であれば頭から押さえつけられる形の負荷になるはずだ。むろん()としては正しいのだろうけれども……

 

 そろそろ考えるのも億劫になってきた。とりあえずこのことは相談してみればいいだろう。

 欠伸を噛み殺しながらもようやく席を立つと、ルークさんが誰かと話しているのが見えた。――そういえば、お客さんを迎えているところなんだった。

 

「……おつかれさまです、ルークさん」

「ん、おつかれ……、っておい、ひどい面構えだな?最後に横になったのはいつだ?」

「ええと……前に寝坊していた時の睡眠時間と同じくらい??」

 

 大きくため息をつくルークさんの横で、吹き出し笑う声が響く。…とりあえずお客さまの受けはとれたらしい。

 

「――ぁ、それでルークさん。ちょっとおもいつひぎゃ…っ」

「ひとまず今日の命令だ……アマノ。シャワーを浴びて、寝ろ!」

 

 文句だけで済まず、口元を掴まれて門前払いを食らうとは。……この調子では本当に出直すしかなさそうだ。

 仕方なく一礼だけ済ませておく。パイロットスーツは寝間着ではないと釘を刺されつつ、とぼとぼとガレージブロックを後にした。

 

 誰かの笑う声に見送られたことは、ちょっとした救いかもしれない。

 

 

 

*1
現行ACは大方の構築で頻繁に、さしたる制限もなく10秒以上滞空し あるいは空中で500m以上を移動できるだけの性能がある。陸戦兵器としては極めて異例といえよう




 

「にしても、アマノ…アマノかぁ。生きてたんだねえ?」
「なんだお前、知ってるのか?」
「あー、なんだろ。知ってたっていうか、覚えちゃったっていうか…――」
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