シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.10 調査

「全員揃ったようなので、始めます」

 

 ゲヘナの4人組との邂逅から一夜明け、ミズキは、対策委員会のメンバーと先生とともに、部室のテーブルを囲んでいた。

 進行役のアヤネは、手元の資料をモニターへ投影する。

 

「まず、昨日私たちへ襲撃……未遂をしたのは、便利屋68という部活……企業です」

 

 モニターへ映し出された資料を見ながら、ミズキは昨日の出来事を思い出す。

 昼食後に突如発生した襲撃のアラートに、ヘルメット団の新しい攻撃かと見れば、お昼に柴石ラーメン店で意気投合した4人組が映っており、対策委員会に戦慄が走った。

 しかも傭兵を大量に雇っており、このまま激突すれば、危険な状況にも見えた。

 しかし蓋を開けてみれば、対策委員会が接敵していざ戦闘開始。のタイミングで、傭兵たちの契約期間が終わったらしく、踵を返されてしまった。

 残された便利屋68は、今日はあくまで宣戦布告のために来た。という苦し紛れの言い訳とともに、去っていった。

 というのが、昨日の顛末だ。

 

「部活……じゃなくて企業、なの?」

 

 珍しく歯切れの悪いアヤネへ、セリカが疑問をぶつける。

 普通であれば、部活もしくは委員会の体裁を取るはずだが、アヤネの説明は部活または企業。という言い回しだったのだ。

 

「はい、申請書類のデータも確認できたので、書類上では企業、になります。……最も、ゲヘナ学園の万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の承認は降りていないので、非公認の企業、ではありますが」

 

 説明を続けるアヤネを見ながら、ミズキは資料へ目を落とす。

 昨日の1件の後、シャーレの権限で軽く調査した結果をまとめてもらったもののため、内容は頭に入っている。

 便利屋68は、その名の通り、カネさえ払えば何でも請け負うサービス業の企業、らしい。

 そしてそのリーダーを努めているのが、柴関ラーメン店で対策委員会と意気投合していた2年生の陸八魔アル。

 その他に、意気投合した生徒たちが対策委員会のメンバーだと最初に気がついた3年生の鬼方カヨコ。

 2番目に気がついた2年生の浅黄ムツキ。

 最初に柴石ラーメン店へ入って、メニューを確認していた1年生の伊草ハルカの、計4人からなる企業だ。

 

――昨日の出来事だけを見れば、そこまで脅威には見えない。けど……。

 

 標的である対策委員会のメンバーと接触しても気が付かない、大金をはたいて用意したであろう傭兵への支払額の都合で戦闘まで雇いきれなかった、など、リーダーの能力はそこまで高くないように見える。

 むしろ、メンバーの方がリーダーより優秀な節すら見える。

 それでも彼女がリーダーになっているのは、彼女たちなりの考えがあるのだろう。

 しかし、それだけで脅威がない、とは断言できない。

 まず、彼女たちは4人でカタカタヘルメット団を1夜で壊滅させていること。

 その日は対策委員会がセリカ救出作戦を実施しており消耗していた、ということを差し引いても、かなりの戦力を保有していると考えられるだろう。

 次に、彼女たちが所属するゲヘナ学園では、指名手配されていることだ。

 何かと話題となっているゲヘナ学園の学区で、指名手配を受けるということは、ゲヘナの治安維持組織である風紀委員会から逃げ切れるだけの実力がある、と言っても差し支えないだろう。

 風紀委員会も決して弱い組織ではないのだが、如何せん風紀委員長の実力が突出しすぎているため、層の薄さを上手くつけるだけの能力もあるのだろう。

 そして最も気になるのが、便利屋68の背後にいる、黒幕だろう。

 便利屋68に依頼を切り替えてまで、アビドス高校を狙う理由を考えていると。

 

「……以上が、便利屋68に対して現状わかっていることになります」

 

 アヤネがこちらをチラリを見てきて、内容の不備がないかを目で聞いてくる。

 小さく頷いて、説明に不備がないことをフォローし、資料のページを捲る。

 

「それでは、次にセリカちゃんを襲った、ヘルメット団の黒幕についてです」

 

 モニターに新しい資料が投影される。

 先日のヘルメット団との戦闘で回収した、兵器の破片のレポートが映される。

 

「ヘルメット団の使用していた兵器ですが、今のキヴォトスでは取引されていない型番でした」

「絶版になったものを、ヘルメット団が所有……そんなことあるのでしょうか?」

 

 ノノミの疑問も最もだろう。

 普通に考えれば、特殊なコネクションでも持っていなければ、流通していないものを手に入れることはできないはずだ。

 ましてやヘルメット団は、ただの生徒の集団で、そんなコネクションがあるとは思えない。

 しかし、キヴォトスなら、それを可能にする場所が存在する。

 

「ブラックマーケット……ね」

「はい。連邦生徒会の手が届いていないブラックマーケットであれば、今は流通していない武器であっても、入手できる可能性はあります」

 

 投影資料が進み、ブラックマーケットの内容が表示される。

 かなり丁寧にまとめられた資料で、この短時間でよく調査できたものだと、ミズキは感心する。

 便利屋68の方はともかく、ヘルメット団の武器の破片とブラックマーケットに関しては、ほぼアヤネだけで調べたのだから、尚更だ。

 

「それに、便利屋68もブラックマーケットで何度か揉め事を起こしているみたいです。……なにかしらの関連性があると思います」

「流石アヤネちゃん。おじさんもそう言う風に見えてきちゃうね〜」

 

 ブラックマーケットを調査すれば、自ずと関連性が出てくる可能性がある。

 そう思って立ち上がったのだろうホシノへ、先生が待ったをかける。

 

――流石に、ブラックマーケットへ生徒を送るのは、難しい……かな?

 

 先生視点だと、生徒を無法地帯たるブラックマーケットへ送るのは、気が引けるのだろう。

 しかし、先生の口から出てきたのは。

 

「もう1つ気になってるんだけど……、どうして借金の支払いが()()()()なの?」

 

 アビドスが抱える借金のあり方の話だった。

 突拍子な内容に、その場にいる全員は一瞬止まるが、会計担当のセリカが弾かれたように動き出す。

 

「えっと、それは確か……」

 

 棚から分厚いファイルを引っ張り出し、あれでもない、これでもないと探し始める。

 ファイリングはアヤネが手伝っているのだろうか、しっかり整理されているように見えるが、おそらく過去2, 3年程度前の資料では確認できない内容のはずだ。

 もっと奥に保管されているであろうファイルでないと確認できず、それを取り出すのに時間がかかるだろうと予想したのか、先生は話を続ける。

 

「いくら闇金融が貸元、だとしても、現金払いにしないといけない理由が、あると思うんだ」

「……単に、口座間のお金の移動を目につけられたくない、から?」

 

 シロコの発言に、先生は頷いて続ける。

 

「シロコの言う通り、足がつきたくないから、なのも理由だと思う。ただね、なにか引っかかるんだ……」

「なるほど……」

 

 考え込み始めたシロコの側へ、セリカが探してきたファイルを置く。

 先生は1番上に置かれたファイルを取り出して捲り始め、あるページで捲るのを止める。

 

「これだ。貸元は……カイザーローンか」

「カイザーローン……あぁ、ならありえなくはない、かなぁ」

 

 カイザーローンの黒い噂はいくつか耳にしている。

 しかし、グレーゾーンを上手くついたアコギな運営をしているので、連邦生徒会も手を入れられないのが実情らしい。

 最も、今の連邦生徒会にそれだけの余力があるかと問われると、首を横に振らざるを得ないのだが。

 

「……先生はさ、ヘルメット団や便利屋68を雇ったのがカイザーローンって、考えている感じ?」

「……確証はない、ね。もしカイザーローンが裏にいるなら、お金を貸しているアビドスを攻撃していることになる。取り立て目的だとしても、アビドスに返済の意志がある以上、辻褄が合わない」

 

 ホシノの問いかけに答えた先生は、ゆっくりと対策委員会のメンバーへ目線を向ける。

 

「……本当は、こういう危険なところへ君たちを行かせるのは、良しとはできないんだ」

 

 そして、先生の視線がミズキへと向く。

 

「当然、いくらシャーレのエージェントと言っても、ミズキも、ね」

「……」

 

 先生の言葉に、思うところがないわけではない。

 シャーレのエージェントと言っても、そのような役職は、厳密には設定されていない。

 シャーレ設立の際の先生の発言によって、急遽作られた立ち位置だ。

 そして、その要件を満たす自分は、ある種では生徒という枠組みに当てはまらないはずだ。

 それでも、先生は自分のことも等しく生徒として見ており、他の生徒達と同様、危険な面へ足を踏み入れてほしくないのだろう。

 

――それは、いくらなんでも夢物語が過ぎる……んじゃないかな……。

 

 そう思わずにはいられないが、ここで水を指すのも良くない。

 黙って先生の話に耳を傾け続ける。

 

「……でも、皆の意志は固い。そうだよね?」

 

 対策委員会のメンバーが次々と頷き、ミズキへ視線を向けてくる。

 

「ミズキは……どうだい?」

「……この子達が決めたのなら、私はどうこう言えません。それに、アビドスにとって大きな前進になる可能性があるなら、私も協力してあげたい、です」

 

 ミズキの回答を受け、先生はパンと手を叩く。

 

「わかった。何かあったときの責任は私が取るから、皆気をつけて行ってきて」

 

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