「ここがブラックマーケット……」
足がつかないよう、公共交通機関をいくつか乗り継ぎ、ブラックマーケットの入り口付近までたどり着く。
そこからでもわかる盛況ぶりに、対策委員会の皆は、驚きを隠せないでいた。
「あんまりキョロキョロしない方が良いよ。良いカモって思われるから。……特に、セリカ」
「なっ、キョロキョロしてないしっ!」
今まさになりそうなところをたしなめ、ミズキが先導してブラックマーケットの区画内へ入っていく。
やはり物珍しさが勝っているのか、歩みが遅いことに気が付き、ミズキも速度を落としていく。
唯一ホシノだけが、他のメンバーと比較して速度が落ちていないことに気が付き、そっと耳打ちする。
「やっぱり皆、学区外へはあまり……」
「そだねー。うちは事情が事情だから、あまり他学区の情報とか入ってこないからね」
情報処理担当のアヤネと、唯一の最上級生の自分ぐらいだろう。と付け加えたホシノは、距離が離れつつある対策委員会のメンバーの元へ戻っていく。
立ち止まって合流し直したところで、先生から無線が入る。
「傾向的に武器エリアはもう少し奥にあるみたい……だけど目的のものを扱っているかは直接見ないとわからなさそうだね」
「了解です。なら……」
不意に銃声が鳴り響き、反射的に身構える。
キヴォトスでは日常的杉的に求められないが、それでも僅かばかり動きが変わる。
その傾向を捉え、目線を路地の方へ向ける。
「つ、ついてこないでくださいー!」
「そうはいくか!」
向かいの大通りから路地へ逃げるように入ったセーラー服の少女と、彼女を追いかける形の改造セーラー服の少女たちの姿が見えた。
追いかけている方は、チンピラの類だろうが、追いかけられている方の制服には、見覚えがあった。
「あの制服は……」
「多分、アヤネの予想通り。あれは、トリニティのだね」
キヴォトス3大校の1つで、歴史と伝統を慮るお嬢様学園で、ここ
そんな学園の生徒が、なぜブラックマーケットに来ているのかはわからない。
ただ、今の状況を見るに、大方誘拐されそうになってチンピラたちから逃げているのだろう。
「ミズキちゃんミズキちゃん」
ホシノに手招きされ、耳打ちされる。
その内容に承諾すると、ホシノはシロコたちにも耳打ちし、配置へつかせる。
そして、ホシノ自身も配置についたところで。
「わわわっ、そこ、どいてくださいー!」
路地裏を駆け抜けてきた少女が、再び大通りへ出てこちらへ向かっているのが見えた。
彼女に手の動きを見せ、2つの意味合いを送る。
その意味合いを理解してくれたのか、彼女はミズキにぶつからないように少しだけ移動し、そのまますれ違う。
追いかけられている状況下で、すれ違いざまに小さく会釈できるあたり、トリニティの育ちの良さがうかがえる。
背後で、彼女がホシノの隣で止まったのを感じて、彼女を隠すように動いたところで。
「どけ! アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある」
追いついてきた改造セーラー服の少女たちの1人が、ミズキを睨んでくる。
と言っても、彼女たちの言う用事など、容易に想像できる。
大方、トリニティ生なら他学区の生徒よりお金を持っているから、有り金を全部奪うか身代金誘拐だろう。
「そいつ、トリニティのお嬢様だろ? だから拉致って身代金をたんまりいただこうってわけさ!」
「どうだ、興味ないか? 手伝うなら分前を……」
あまりにも予想通りすぎる動機に、一瞬頭痛がする。
やれやれと言わんばかりに首を横に振りつつ、指で合図を送る。
直後、目の前の2人乗チンピラが、地面へと倒れ込む。
「悪人は懲らしめないと、ですね☆」
「うん」
予めチンピラたちの資格へ移動してもらっていた、ノノミとシロコのペアが、一撃で制圧したからだ。
彼女たちの練度は知っているが、あくまでそれは銃撃戦の話し。
白兵戦でも、ここまででできるのは、正直予想外だった。
「それでヒフミちゃんは、なんでこんな危ない場所に来たの?」
ブラックマーケットの中で比較的落ち着けそうな場所へ移動し、助けたトリニティ生――阿慈谷
ブラックマーケットと1番縁遠いはずのトリニティ総合学園の生徒が、こんなところにいるのは、それなりの理由があるのだろう。
「あ、あはは……実は、探しものがありまして……」
ヒフミの話を聞く限り、トリニティ生がこんなところに来たのは頷ける。
一般の市場では流通がない品物でも、ブラックマーケットであれば流通している可能性があるし、当たってみる価値はあるだろう。
なら、ヒフミの探しものが何かと、シロコたちが次々と予想を出してくる。
しかし、どれも物騒なもので、彼女たちは何を想像しているのだろうか。
戦車はともかくとして、違法火器や化学兵器は、彼女に何をさせる気なのだろうか。
このままだと、話がとんでもない方向へ脱線しそうなため、ヒフミへ話すように促す。
「実はこの、ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみなんです」
スマートフォンの画面を見せてくれたので見てみると、ペロロ様と思われる鳥のキャラクターの口へ、アイスクリームがこれでもとかと詰め込まれている、なんとも前衛的なデザインのぬいぐるみだった。
シロコやセリカはよくわからないと言った表情を浮かべる一方で、ノノミは知っているのか会話へ加わると、あっという間にトークに花が咲き始めた。
その様子を見ながら、改めてヒフミが単身ブラックマーケットへ乗り込んできた理由を考える。
ヒフミの話によれば、件のペロロ様ぬいぐるみは限定品なので、表の市場では流通していないらしく、ブラックマーケットならあるという噂を聞いて来た。とのことだ。
とはいえ、こんな場所に1人で訪れるのは、シャーレの立場としては、それとなく言った方が良いのだろうか。
そんな事を考えていると、逆にここへ来た理由を尋ねられた。
「ヒフミちゃんと似たようなわけで、ちょっと、探しものがあるんだー」
「そう。今は生産されていなけど、ここにあるって聞いた」
ホシノとシロコの返答に、少なくとも先のチンピラたちと同じ理由ではないからか、少し安心した表情を見せてくる。
ひとまずは、双方の目標を早く達成して、ブラックマーケットから離脱した方が良いだろう。
仮に先の件で言うにしても、こんな危険な場所ではなく、もっと安全なところで言っても問題ないだろう。
そうなれば、あとは行動を開始するだけ、というところで。
「皆さん、四方から武装勢力が近づいてきています!」
「武装勢力……? さっきのチンピラの仲間かな?」
アヤネからの無線が入る。
シロコの言う通り、先程ヒフミを追い回していたチンピラたちの仲間の可能性もある。
しかし、それにしては伝えられた勢力情報が大きすぎる。
「……一旦ここから離れましょう。もしかしたらさっきの騒ぎを聞きつけた、マーケットガードかもしれません」
「マーケットガード……。あぁ、思い出した。ここ
単語から記憶を引き出し、確認を取る。
記憶が確かなら、ブラックマーケットが連邦生徒会の手も及んでいない非合法地区な関係で、専用の治安維持組織があったはずだ。
その戦力は各学区の治安維持組織と遜色ないレベルで、下手をすればブラックマーケット地区から脱出するのも困難となってしまうだろう。
仮に追いかけられながら脱出に成功したとしても、当面の間は警戒される以上、ブラックマーケットへ再度行くことはできなくなる。
そうなれば、せっかく手に入った手がかりを追跡することが絶望的となってしまう。
「……わかった。ここのことについては、私たちよりヒフミちゃんの方が詳しそうだし」
「ありがとうございます。なら、こっちの路地から離れましょう」
ホシノの判断を最終決定として、ここから離脱を決めた対策委員会のメンバーたちとミズキは、ヒフミに先導される形で、この場から離れていった。