シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.13 あれ

「……思ったより、複雑な状況になっているね」

 

 アヤネの誘導で物陰へ移動し、事の顛末を見届けた後、先生からの通信が入る。

 武装集団の正体は、ブラックマーケットの治安部隊であるマーケットガードであった。

 ただ、彼らはこちらを探しているのではなく、先程まで見ていた闇銀行が入っているビルへ、現金輸送車を護衛していた。

 そこまでであれば、大した問題ではなかったが、問題はその護衛対象の現金輸送車にあった。

 

「……まさか、うちへ集金に来ていた現金輸送車を、こんなところで見るなんてねぇ〜」

 

 アビドスが今日支払った利息金を載せた現金輸送車だったのだ。

 別途アヤネが、車体情報を照会して裏取りしたので、見間違いということもない。

 ただ、現金輸送車の走行ルートは、今は珍しい完全アナログ式で管理しているようで、ネットワーク越しに照会するのはできないとのことだった。

 ネットワークからアクセスできない以上、いつかのセリカ捜索時のように、先生の権限でセントラルタワー経由での捜索も不可能だろう。

 

「現金払いしか受け付けない返済方法、アナログデータだけで管理されている現金輸送車の走行ルート……そうなると」

「……私たちの返済金が、ブラックマーケットへ横流しにされていた、ってこと!?」

 

 そんな疑惑が生まれてしまう。

 もちろん、あの現金輸送車がアビドスからの返済金を受け取ってから1度カイザーローンで全額下ろした後、別箇所で回収したお金をブラックマーケットへ持ってきた可能性もある。

 しかし、今日回収に来た現金輸送車が、同日中にブラックマーケットの闇銀行に向かった現場を見た以上、疑惑を晴らすのは難しい。

 だが、今こちらが持っている情報は、ただの状況証拠でしかない。

 

「……それを追求しようとするには、証拠がなさすぎますね……」

 

 アビドスの返済金がブラックマーケットの闇銀行へ運ばれた、という確固たる証拠がない。

 アヤネの言う通り、今の状況で問い詰めたとしても、のらりくらりと言い逃れられるのが関の山だろう。

 どうにもならない状況に、しばし沈黙の刻が流れる。

 

「……さっき見えた、闇銀行員とカイザーローンでやり取りされていた書類、あれならどうでしょうか?」

「書類……あぁ、集金確認の書類、ね。確かにそれなら書かれているはずだろうね」

 

 ヒフミの提案は、割と的を得ている。

 電子的なデータがないだけで、カイザーローンと闇銀行の間には、何かしら契約の書類があるはずだ。

 そして、先程見えた集金確認として手渡していた書類、あれなら返済金がどのように扱われていたかを突き止められるだろう。

 しかし、すでに現金輸送車は闇銀行の駐車場から出ていっており、書類を受け取った銀行員も戻ってしまっているため、すぐその書類を手に入れるのはできない。

 さらにあそこの闇銀行は、ブラックマーケットでも有数のセキュリティ強度を誇っているらしく、マーケットガードの監視もある状況だ。

 

――この状況で、書類を回収する……。かなり難しいね……。

 

 これまで得られた情報を、頭で整理し直す。

 まず立ち塞がるであろうマーケットガードは、装備こそ一線を画しているものの、基本的にヘイローを持たない人員のため、個々の戦力は微々たるものだろう。

 正面突破ではなく各個撃破に努めれば、そこまで脅威にはならない見込みだ。

 それ以上に問題なのが、あの闇銀行だろう。

 ヒフミの話によれば、魑魅魍魎のブラックマーケットでも有数のセキュリティ強度を誇っているらしい。

 さらに内部構造は現状不明であり、目的の書類がどこに保管されているかも不明だ。

 今持っている情報だけで、闇銀行へ侵入して目的の書類を回収するのは、高難易度の任務になるだろう。

 別ルートで調査を進めて、後日単独で対応する必要があるだろうと、ミズキが考えていると。

 

「……ホシノ先輩、ここは()()しか……」

 

 なにやらシロコとホシノが、不穏な動きを見せていた。

 抽象的な言葉のはずなのに、対策委員会のメンバーは、何を指しているのか理解している様子だ。

 一方、今日が初対面のヒフミは、当然何を指しているのか理解できず、困惑していた。

 

――……よし、逃げよう。

 

 それなりに対策委員会のメンバーと交流のあるミズキは、何を指しているのか大方察せていた。

 予想通りなら、立場上加担するのはよろしくない。

 そう考えて、こっそりその場から離れようとするが。

 

「ミズキちゃーん? ここで逃げるのはずるいんじゃないかなー?」

 

 ホシノの目をかいくぐることはできず、首根っこを押さえられる。

 見ることしかできないミズキの前で、シロコがスクールバッグから何かを取り出す。

 よく見ると、額部分に「2」と刺繍された、青色の目出し帽だった。

 

「銀行を、襲う」

 

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