「くっ……」
ヘリコプターの爆風を受け、半ば叩きつけられる形で高速道路を転がる。
ヘリコプターのパイロットは爆風のせいか、気絶してしまっていた。
周囲を見渡すと、近くに瓦礫の遮蔽物が出来上がっていたため、立ち上がってパイロットを遮蔽物の陰へ放り込む。
「ミズキ、大丈夫?」
「はい、ですが……」
先生からの通信に返答しながら、思考を巡らせる。
落下地点が二足歩行型戦車を挟んで対策委員会やヒフミと反対側だったため、形としては挟み撃ちへ持ち込んだと言える。
しかし、肝心の火力問題がまだ残っている。
ミズキの武装を加えたとしても、あの二足歩行型戦車の装甲を抜けるかは怪しい。
もちろん、今の目的はあの二足歩行型戦車の撃破ではなく、ブラックマーケットからの脱出なので、全力で離脱するのも1つの手だ。
しかし、主力兵器まで投入してきたマーケットガードのメンツ的にも、しつこく追跡してくることは容易に想像できる。
やはりこの辺りで、二足歩行型戦車をどうにかしなければならないだろう。
「っ!」
そんな事を考えていると、こちらへ向けられたガトリング砲の銃口がまた回転を始める。
直後、ヘリコプターを撃墜できるほどの密度の弾丸がミズキへ降り注ぐ。
とっさに地面を蹴り、後方宙返りで銃弾を避けながら、アサルトライフルを取り出す。
着地後、アサルトライフルの銃口を二足歩行型戦車へ向け、引き金を引くが。
「ふははっ、そんな鉄砲程度で、どうにかなると思うかっ!」
アサルトライフルから放たれた弾丸は、尽く二足歩行型戦車の装甲に弾かれる。
スピーカー越しに聞こえた隊員の勝ち誇ったような声を無視し、ミズキは走りながらアサルトライフルの引き金を引き続ける。
次々と二足歩行型戦車の装甲に弾丸が弾かれていくが、ミズキは構わず引き金を引き続けながら、弾かれる弾丸の挙動を注視する。
「くそっ、いい加減しつこいぞっ!」
無言で銃弾を撃ち込み続けるミズキにしびれを切らしたのか、先程とは打って変わった乱暴な口調が聞こえた。
いくら効かないとはいえ、撃ち込まれ続ければ無視できないのだろう。
リロードを追えて遮蔽物から飛び出したミズキへ、ガトリング砲の銃撃が襲いかかる。
しかし、ミズキは縦横無尽に動き回り、ガトリング砲の弾丸を避け続ける。
片腕だけでは制圧できないと判断したのか、もう片方の腕もミズキの方へ向けようとすると。
「ん、一斉砲撃」
「や、やっちゃいます!」
シロコたち対策委員会からの集中砲火を受けることになる。
しかし、双方向からの一斉砲撃でも、二足歩行型戦車の装甲を抜けるほどの火力を生み出せない。
そんな中でも、ミズキは突破口を見致すために、弾かれる弾丸を見続ける。
「……先生」
「うん、《そこ》だね」
そして、ついに突破口を見つける。
先生もほぼ同時に見つけたのか、少しだけ笑みをこぼすと、先生経由で他のメンバーへ作戦を伝える。
「いきますっ!」
最初にノノミのミニガンで弾幕を張り、二足歩行型戦車の動きを止める。
続けてシロコとセリカが両側からアサルトライフルで撃ち込み、二足歩行型戦車のヘイトを分散させる。
動きが止まったタイミングで、ミズキはノノミの弾幕を縫って正面から二足歩行型戦車へ接近する。
「くそっ、ナメるなぁ!」
飛び上がったタイミングで、二足歩行型戦車の両肩からミサイルハッチが開き、ミサイルが複数飛んでくる。
全弾こちらへ飛んでくるのを見て、ミズキはくるりと空中で半回転して、ミサイルから背を向ける。
回避を諦めたのかと思われたが、直後、ミズキの背後を銃弾が横切る。
先生の指示の元、ヒフミの銃撃が、適切にミサイルへ命中し、次々と爆発を引き起こす。
実力面に不透明な部分があって少し不安要素があったものの、先生の指揮の元、ヒフミは十二分な役割を果たしてくれた。
そして、ここまでは仕込みの段階で、決めてもらうのは。
「うへ、ここまでお膳立てされちゃったら、おじさんも頑張らないとね〜」
バレーボールのレシーブの要領で腕を組んだミズキを踏み台にして、ホシノが二足歩行型戦車の上へ跳ぶ。
最接近して火力をぶつけるなら、1番破壊力があるのは彼女のショットガンだ。
それに、小柄ながらも前衛を1手に引き受けられる彼女の身体能力を踏まえた配置だ。
そして予想通り、ホシノは受禅にその身体能力を発揮し、先生経由で伝えた二足歩行型戦車の弱点部分へ銃口を突きつける。
そのままショットガンに込められていた銃弾をすべて撃ち込み、離れる。
「ばっ、馬鹿な……」
撃ち込んだところから煙が上がったかと思うと、爆発を起こし、二足歩行型戦車の片腕が地面へ落ちる。
二足歩行型戦車の乗組員たちも、まさか対策委員会の装備で破壊できるとは思ってもいなかったのだろう、明らかな動揺を見せる。
その隙に、ミズキはハンドサインを送り、全員へ撤退を促す。
あくまで今の目的は、二足歩行型戦車の撃破ではなく、マーケットガードの包囲網を突破してブラックマーケットから脱出すること。
それに、主力兵器である二足歩行型戦車を破壊された以上、追跡する士気は維持できないだろう。
対策委員会のメンバーとヒフミが離脱を始め、ミズキも殿を務める形で離脱しようとしたところで。
「くそっ、このままナメられてたまるか……。せめて貴様だけでも……っ!」
二足歩行型戦車が、残った腕のガトリング砲と、これまで使用していなかった頭部の主砲を向けてくる。
ミズキは小さくため息を付くと、二足歩行型戦車へと向き合い直す。
そして、シロコたちが止まったのを背後で感じ、後手でサインを送る。
――必ず追いつくから、先に行って。
後で色々言われそうだな。と思いながら、シロコたちの気配が遠ざかっていくのを感じつつ、目の前の二足歩行型戦車を見据える。
先程の攻防で、ホシノの密接ショットガンクラスの火力であれば、肩関節部分の破壊は可能だとわかっている。
しかし、相手もその弱点をわかっているだろうし、ミズキ1人でもう1度できるかと問われると厳しい。
かといってあの執念深さを見るに、二足歩行型戦車を行動不能にでもしなければ、どこまでも追いかけてくるだろう。
「……仕方がない、ね。ミズキ、
「先生……了解っ!」
先生からの通信に、ミズキは少しだけ口角を上げる。
そして構えていたアサルトライフルを降ろし、代わりに新しい銃を取り出す。
トンプソン・コンテンダー――One for One――と名付けられた、グリップ部分にシャーレのエンブレムが刻まれたシングルショットのピストルだ。
左手でグリップを握り、銃口を二足歩行型戦車へ向けるが、二足歩行型戦車は止まることなく接近してくる。
当然だろう、ただのピストル1丁で、二足歩行型戦車を止められるはずはない。
このOne for Oneが、《ただのピストルであれば》、の話だが。
「……シュートっ」
引き金を引くと、放たれた弾丸は、まるで光線のようにまっすぐ二足歩行型戦車の胴体へ向かう。
そしてそのまま光線は胴体を貫通し、エンジン部分などを破壊された二足歩行型戦車は、動きを停止した。
「なん……だと……」
ありえないものを見たかのように、二足歩行型戦車の隊員たちがうろたえる。
その様子を尻目にしながら、ミズキはトリガー・ガードを引き込んで銃身の末端を引き出し、新しい弾丸を装填する。
「どうする? 次は本体ごと撃ち抜くけど?」
淡々と告げると、しばしした後、二足歩行型戦車からマーケットガードの隊員たちが両手を上げながら出てくる。
これ以上戦うのは無意味のため、ミズキも銃口を降ろして踵を返すと、対策委員会たちの後を追い始めた。