「……それで? どうだったの?」
対策委員会の部室へ戻り、全員から先の1件に対する小言をいただいた後、ミズキはそう切り出す。
「ん、これ」
シロコがクリアファイルに入れられた書類を机の上へ置く。
そのクリアファイルを手に取って書類を取り出し、目を通す。
「これかな、アビドスにて788万円を集金」
「日時や金額も一致していますし、間違いなく私たちの学校へ来た現金輸送車ですね」
ブラックマーケットの闇銀行で見た現金輸送車は、アビドスへ集金に来ていたもので確定した。
後は、アビドスで集金されたお金がどんな動きをしていた、かだ。
「……集金直後に、カタカタヘルメット団のところで任務補助金の提供……?」
書類を全員が見られるように、机の中央へ戻し、ミズキはある記録を指出す。
そこには、これまでアビドスと小競り合いしていたカタカタヘルメット団へ、任務補助金として500万円提供している記録が記載されていた。
そしてアビドスの集金よりも前に、集金記録はない。
「それってつまり……」
「皆が返済したお金を、そのままヘルメット団へ流していた、ことになるね」
ノノミの言葉を引き継ぐ形で、先生がこの記録の意味することを指す。
思い沈黙が場を支配するが、アヤネがおずおずと口を開く。
「カタカタヘルメット団の背後に……カイザーローンが?」
「……でもさ、なんかおかしくない? 私たちはちゃんと返済しているのに、なんでカタカタヘルメット団へカイザーローンは支援しているの?」
カタカタヘルメット団が、あれだけの武器や兵器を用意できていたからくりも明るみに出た。
しかし、セリカの疑問も最もだ。
アビドスへお金を貸している側のカイザーローンが、わざわざアビドスへヘルメット団を仕向ける意図は見えない。
アビドスの返済が滞っており、督促のためにヘルメット団を雇った、などであれば筋は通る。
しかし、アビドスは借金返済には前向きに対応している以上、その線はないだろう。
それに、仮にヘルメット団を仕向けた結果、アビドスが借金返済できなくなれば、困るのはカイザーローンの方のはずだ。
「……カイザーローンの目的は、アビドスからの返済金ではない……?」
アビドスが持っている何かを手に入れることが目的であれば、まだ意図としては納得できる。
しかし、お金以外でアビドスが持っているものはと聞いても、誰も答えられない。
アビドス生として過ごしている彼女たちすら知らない何かを、カイザーローン側が知っているのか、それともカイザーローンの裏にもまだ黒幕がいるのか。
いずれにせよ、現状の情報だけでは推測すらできない。
「ただ、わかったこともあるね。これは、カイザーローンだけの仕業じゃない」
「先生の言う通りだろうねー。多分、カイザーコーポレーションも関わっているんだろうねぇ〜」
カイザーグループ傘下の1企業の一存でできる内容ではない以上、親会社のカイザーコーポレーションも、何かしらの形で関わっているはずだ。
もしそうであれば、この書類は、カイザーコーポレーションが反社会勢力とのつながりがあるという、決定的な証拠となりえるだろう。
「……私、トリニティへ戻ったら、このことをティーパーティーへ報告します。そうすればトリニティ側からも調査できると思いますし、アビドスへの支援も……」
トリニティ総合学園の生徒会――ティーパーティー――とのパイプをヒフミが持っていることに、少し驚く。
超派閥性な学園という話のため、派閥外の生徒は学内統治の場へ参加するのも難しいと聞くが、彼女も何かしらの派閥に所属しているのだろうか。
とはいえヒフミの話によれば、ティーパーティーもここ最近のカイザーコーポレーションの動向は注視しているらしく、この情報があればカイザーコーポレーションへ強く出られるかもしれない。とのことだ。
「あー……それなんだけどさ、ヒフミちゃん」
しかし、ホシノが若干申し訳無さそうに、口を挟んでくる。
「多分、ティーパーティー側はこのことを……ううん、アビドスの現状含めて全部知ってると思うんだよね」
ホシノの言う通り、キヴォトス3大学園の1角の生徒会が、これらの情報を知らない可能性は、かなり低いだろう。
流石にアナログデータだけで管理されていた、細かな集金提供の金額までは握っていなくても、アビドスの現状程度なら把握しているはずだ。
「それって……知っているのに、皆さんのことを……?」
「……ヒフミちゃん、純粋で良い子だからね。そう思うのは当然だと思うよ」
でもさ、とホシノは続ける。
「世の中って、そこまで甘くはないから、ね」
どこか遠くを眺めるホシノの雰囲気は、まるで以前痛い目を見たかのような、実体験を思い返しているようなものだった。
その様子にヒフミはもちろん、普段のホシノとは違う様子に対策委員会のメンバーも黙り込んでいた。
ミズキと先生は、何か思うところがあるような表情を浮かべていたが、同じく口をつぐみ続けることにしていた。
「それにトリニティを……ティーパーティーを悪く言うつもりはないんだけどさ、変にトリニティから支援を受けると、かえって混乱しちゃうんと思うんだ」
ホシノの言葉に、しばし沈黙の刻が流れる。
ティーパーティーがアビドスの事情を知っていて今まで支援してこなかったのは、あちら側にはアビドスとのコネクションも、アビドスへ支援する理由もないからだろう。
しかし今は、ヒフミというコネクションが存在するし、支援を受けることだけで言えば、ハードルは決して高くない。
にも関わらず、ホシノがそのような考えを持っている理由は。
「……トリニティ側のアプローチに対して、アビドスはコントロールするだけの余力がない。ホシノさんはそう考えている、と」
「そうそう、そんな感じ。私も政治には明るくないし、ティーパーティーはガチガチの政治屋集団だからねー」
ホシノが在籍中ならともかく、ホシノ卒業後は不安が残るなら、その不安要素を最初から受け入れない方が良い、そう判断したのだろう。
「うぅ……政治って、難しいですね……」
こればかりは、場数を踏んで経験を積まないと難しい部分があるだろう。
当人は、政治には明るくないとは言っていたが、最低限の政治の場へ足を踏み入れなければ、学園自体が潰されかねない立場のホシノ。
超巨大学園であるがゆえに、良くも悪くも中枢にいなければ政治とは無縁であろうトリニティ生のヒフミとの差なのだろう。
――確かに一理あるけど……いくらなんでも若干悲観的、すぎないかなぁ……。
とは言うものの、ホシノの他人からの好意に対する懐疑的なスタンスは、異様に思えてしまう。
別に彼女が入学してからアビドスの借金が爆発的に膨れ上がったわけでもないはずなのに、だ。
しかし、今それを追求するのは無意味だし、仮に事情を知ったところで、どうこうできるものでもないだろう。
アビドスの返済金の流れは把握できたものの、カイザーローンやその裏にいるであろうカイザーコーポレーションの思惑は結局不明なまま、会議は終わることとなった。
「あ、そうだ。この資料のコピー、取っておかないと」
ヒフミを見送り、ひとまず今日は解散となった後、ミズキは集金記録がまとめられた書類をコピーしようとしていた。
原本は対策委員会で保管してもらうとしても、ここに記載された情報から、何か新しい糸口が見つかるかもしれないからだ。
「……あれ、これは……?」
集金記録の書類を取り出そうとして、別の書類も一緒に取り出していたみたいだ。
そう言えば、先の1件でシロコが銀行員へ書類を請求した際、とにかく色々詰め込まれたみたいなので、紛れ込んだのだろう。
札束などの金目のものは道中で破棄したと聞いているし、同じ書類だから集金記録と同じ箇所にまとめられ、破棄されなかったのだろう。
「これは……地籍図? なんでそんなものが……」
あの闇銀行は、違法行為のための資金提供等に手を染めている噂があるのはヒフミから聞いていたし、おそらくその一環なのだろう。
特に疑問には思わず、地籍図へ目を通したミズキは、戦慄する。
「これ……想像以上に不味くない?」
アビドスが置かれている状況。
それは、ミズキや先生、当事者の対策委員会が認識している以上に、深刻なものとなっていた。