ブラックマーケットの1件の翌日、ミズキと先生は柴石ラーメンへ向かっていた。
今回は普段の食事目的ではなく、昨日見つけた地籍図の内容について、大将に確認するためだ。
あの地籍図は、ちょうど柴石ラーメンの店舗がある区画のもので、その真偽を確かめる必要があると判断したからだ。
「……なんでこんなところにも、爆弾が?」
しかし、柴石ラーメンへ向かう道中、巧妙に隠された爆弾を発見し解除する、という作業を繰り返させられていた。
爆弾の信管を抜いて無力化しながら、犯人像を考察する。
まず考えられるのは、アビドスと敵対しているヘルメット団。
昨日の集金記録から、アビドスの返済金がそのまま任務補助金として横流しされているのは確認済みなので、そのお金で爆弾を仕入れて設置した線だ。
――ただ、それにしては……隠し方とか上手いんだよね……。
しかし、その仮説に置いて引っかかるのは、爆弾の隠し位置だ。
よほど手慣れなのか、それともセンスが高いのかはわからないが、設置した人物は相当精通した腕の持ち主には違いない。
そうなると、ヘルメット団にそんな人材が存在していたのか、という疑問が生まれてしまう。
仮にそんな人材がいるのであれば、ミズキたちがアビドスへ赴く前から、対策委員会相手に活躍を続けているはずだ。
もちろん、ホシノなどによって無力化され続けていた可能性も否めないが、対策委員会の話によれば、これまで爆発物による襲撃はなかったとのこだ。
そうなると、特別なことはなく、単にそう言う人材がいなかったとして、ヘルメット団説は低いだろう。
「……あの生徒たち、便利屋68は?」
「うーん……爆発物を扱う人はいましたから、可能性はあると思います。けど、いささか多い気が……」
そんな会話を交わしながら、柴関ラーメンの店舗までたどり着く。
「準備中」と札が降ろされて居るが、仕込み中なのだろう、店内では忙しなく動いている人影が見える。
開店準備中の大将に時間もらうのは気が引けるが、閉店まで悠長に待っているほど余裕はない。
「大将、今ってちょっとお時間いただけ……あっ」
遠慮がちに店内へ入りながら大将を呼ぼうとするが、視界に別の人物たちが入ったため、言葉を止める。
「っ、アビドスと一緒にいた……」
便利屋68のメンバーたちだった。
開店前の店内にいるのも気にはなるが、彼女たちもカイザーグループに雇われてアビドスを狙っている。
そう言う部分もあるからか、こちらの存在に気がついたカヨコが、ホルスターへ手をかけるのも致し方がないだろう。
店内なので銃撃戦へもつれ込むのは避けたいが、こちらも先生を撃たれるわけにはいかないため、半歩前へ出て先生を隠すように立ち、いつでも抜けるような体勢を取る。
一触即発の雰囲気になりかけたところを、先生が待ったをかける。
「今は君たちを追って来たわけじゃない。君たちから危害を加えないなら、こちらも手を出すつもりはないよ」
「……カヨコ」
先生の言葉である程度納得した表情を見せていたが、社長のアルの言葉もあってか、カヨコはホルスターから手を離す。
その様子を見て、ミズキも臨戦態勢を解く。
そのまま会釈だけし、ミズキと先生は店内の奥の方へ進んでいく。
「おおっ、ミズキちゃんに先生も。いらっしゃい」
仕込み中だった大将が、こちらに気がつくと顔を上げて手招きしてくる。
ミズキと先生も挨拶を返すと、大将に案内されるまま、カウンター席へ向かう。
途中でセルフサービス式の水をコップへ入れて先生に渡し、ミズキが話を切り出そうとする。
「すまんがちょっと待ってくれ」
ラーメンどんぶりへラーメンを盛り付けていた大将に止められる。
よく見ると、大将のそばにあるどんぶりは4つあり、おそらく便利屋68たちへ提供するものなのだろう。
開店前だと言うのに、サービス精神旺盛だなぁ、と感心しながら、配膳へ向かった大将を待つ。
「それで……話があるんだろ?」
配膳から戻ってきた大将にそう聞かれ、ミズキから話を切り出す。
ミズキの話を黙って聞いていた大将は、ミズキが話終えても天井を見上げてしばし黙っていたが、やがてコクリと頷く。
「ミズキちゃんの言う通り、そんな話はあったな」
「それで……取引先はやはりカイザーコーポレーション、でしたか?」
ミズキの質問に、大将は記憶を探るように再び天井を見上げていたが、今度は首を横に振った。
「多分そんな名前だったと思うが……ちゃんとは覚えていない、な。カイザー自体、色々子会社があるからな」
申し訳無さそうにする大将へ、ミズキはそんなことないと、首を横に振る。
少なくとも、カイザー系列の企業が大将へコンタクトを取っていた、ということは確定した。
それはつまり、この地籍図は正規のものであることに繋がる。
――カイザーローン以外にも、あの手この手でアビドスを狙っている……。でも、一体何が目的で……?
この交渉も昨日のカイザーローンと同じく、系列の子会社が独断で実施した、というのはないだろう。
ほぼ間違いなく、カイザーコーポレーション本社が裏で手を引いているはずだ。
「……ちなみに、この件は、対策委員会は知っているんですか?」
「多分知らない、と思うな。この話が来たのは今の委員長、ホシノちゃんが入学するよりも前だったはずだし」
大将の言っていることは、ほぼ間違いないだろう。
仮に対策委員会がこのことを知っているなら、今とは違ったアプローチを取っているだろうし、何より大将に嘘を付くメリットがない。
コップの水を少し口に含み、得られた情報から仮説を頭の中で立てながらゆっくりと飲み込む。
カイザーグループが、何らかの理由でアビドスの土地を購入しているのは、ほぼ確実。
しかし、そこにある思惑は何なのか。
アビドスからの借金返済に対する担保……ということはないだろう。
それなら、購入ではなく差し押さえれば、済む話だ。
――お金はどうでも良くて……、アビドスの土地がほしい、から?
普通であれば、学区の自治領をおいそれと学外の1企業へ売却するようなことは起こり得ない。
しかし、法外な貸付をさせてアビドスが返済不能に陥れば、差し押さえの名目でカイザーグループはアビドスの土地を手に入れられる。
そのために、ヘルメット団然り便利屋68をアビドスへけしかけている、であれば話は通ってくる。
すると問題は、カイザーがなぜアビドスの土地を欲しがるか、だ。
砂漠化の被害を受け続けているアビドスの土地が、アビドスがカイザーグループへ借金している金額よりも高くつくとは考えにくい。
何かお金となる特産物か何かがあるとしても、過去のアビドスが先に見つけているだろうし、カイザーグループがアビドス再開発へ乗り出すとも思えない。
しばらく考え込んでいたが、結局答えは出ないまま、コップの水だけがなくなってしまった。
「……色々教えてもらって、ありがとうございます」
「いいさ、こういうことぐらいしか、できることはないからな」
見ると、先生が大将へお礼を言って立ち上がっていた。
今はこれ以上考えてもどうにもならないし、対策委員会へと持ち帰り、彼女たちと今後の対応を協議した方が良いだろう。
ミズキも立ち上がって、大将へお礼を言おうとして。
「っ伏せてっ!」
そう叫んだ直後、爆発音と爆風が襲いかかった。