シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.19 風紀委員会

――一体誰が……っ。

 

 咄嗟に先生と大将を伏せさせ、2人を守るように前へ出ていたミズキは、未だ立ち込める煙の中で犯人像を考える。

 1番考えられるのは、今日の道中で何度も対応した、あの爆弾の設置犯だ。

 そうなると便利屋68が候補に上がってしまうが、彼女たちはまだ店内にいた。

 自爆テロや対策委員会との戦闘の最終手段としてならともかく、今の彼女たちにそれをする理由はない。

 それに。と、少しずつ晴れてきた煙から、爆発で滅茶苦茶となった店内の様子を比較する。

 ミズキたちがいたところの被害と、便利屋68がいたところの被害に、明らかな差があるのだ。

 便利屋68を狙った攻撃、それも爆発を伴うものとなれば、砲撃辺りが妥当だろう。

 

――そうなるとヘルメット団の仕業になるけど……。

 

 クルセイダー巡航戦車がまた提供されたとすれば、その砲撃で今の状況を実現できるだろう。

 しかし、あの威力を考えれば、店舗ごと全員吹き飛ばされているだろう。

 だとすれば、別の兵器が提供されたのか、あるいは。

 

――そういうこと、かぁ……。

 

 煙が収まってきたことで店舗の外に集団の影が見え、そちらを見たミズキは納得する。

 となると、あれの対処は先生にも確認しなければならない。

 視線を集団から後ろにいる先生たちへ向け、様子を確認する。

 先生本人は無傷だったが、大将は左腕を手で抑えていた。

 恐らく、砲撃による破片が当たったのだろう。

 

「……先生、大将を連れてシェルターまで避難してください」

「そうだね。……それと、シャーレの名前を出してもいいけど、極力穏便に済ませること」

 

 先生の指示に了解、とだけ答え、ミズキは視線を集団へ戻す。

 後ろで先生たちがシェルターへ退避していくのを感じながら、ミズキは集団へゆっくり歩み始める。

 煙から抜け出したことで、目の前の集団の正体がより鮮明となる。

 

――……あの腕章、ゲヘナの風紀委員会? なんでアビドスに……。

 

 新しい勢力とは予想していたが、蓋を開けてみればゲヘナの風紀委員会だった。

 ゲヘナ学園の治安維持組織が、なぜアビドスの学区へ赴いているのか。

 その理由を考えていると、1つの可能性が浮かんだ。

 便利屋68。確か4人ともゲヘナ生だったはずだ。

 彼女たちを追って、アビドス自治区まで来たのであれば、説明はつく。

 しかし、治安組織と聞いている風紀委員会にしては、少々荒っぽいやり方に見える。

 ここがゲヘナ学区であれば、まだ考慮できる部分もあるが、ここは少なくともゲヘナ学区ではない。

 それはすなわち。

 

――あぁ、そういう……。これ、早くケリつけないと……。

 

 アビドス側からみた時に、別学区の治安維持組織が自分たちの学区へ攻撃した、と捉えられかねない。

 この土地の今の所有者は、あの地籍図からは厳密にはアビドスではないとはいえ、自分たちの学区が攻撃されたと対策委員会は認識しているだろう。

 そして、そんな行為に対して、彼女たちが手をこまねいてみているとは思えない。

 それにあの爆発なら、モニタリングからアラートが飛んでいるだろうから、ミズキや先生の連絡を問わず、そう遠くないうちにここへ駆けつけてくるだろう。

 今後のことを考えると、今ここで対策委員会と風紀委員会が衝突するような事態は避けたい。

 だから先生も、シャーレの名前を出してまで迅速かつ穏便に解決するよう、指示したのだろう。

 

「そこの民間人、止まれっ!」

 

 拡声器越しの声が響き、ミズキは足を止めてそちらを向く。

 扇状の陣形でこちらを取り囲んで銃口を向けてきている風紀委員たち、その中心に声の発信元が構えていた。

 遠目からでも目立つキヴォトスでは珍しい褐色肌に、ツインテールに結ばれた銀色の長髪、左腕には風紀委員会の腕章をつけている少女――銀鏡イオリ――だ。

 

「ゲヘナの風紀委員会……ね。ここはアビドス学区だけど、そこは認識しているの?」

 

 地籍図のデータが前の集金記録と同様、アナログで管理されているのであれば、ゲヘナ学園側の組織が情報を持っていない可能性もある。

 あえて今の土地の所有者の情報を伏せて尋ねると、イオリは左右の様子を見るが、頭を振る。

 

「こんな、誰もいないところを学区だって言われて、信じる奴がいるか?」

 

 時間帯を踏まえても、店舗が半壊するような爆発にも関わらず、悲鳴1つ上がらない。

 加えて、放棄されて久しく見える廃墟も散見する上、砂嵐による砂害の爪痕もそのまま残っている。

 イオリの言う通り、外から見れば、学区と言われても信じられないだろう。

 

「それは違う。確かに人はいないし、放棄された廃墟だってある。でも、ここはアビドスが管理しているアビドス学区よ」

 

 しかし、ここには店を営んでいる人たちもいるし、そのお店へ足を運ぶ生徒もそのお店で働いている生徒もいる。

 それを知っているからこそ、ミズキは明確に反論する。

 聞き分けが良ければ、一旦こちらの話を聞いてくれるとは思うが、向けられた銃口が降りることはない。

 

「一理あるな。……だが、こちらもこちらの仕事を遂行しなければならない」

 

 隣りにいる風紀委員へ拡声器を渡すと、肩に担いでいたライフル――クラックショット――の銃口をこちらへ向けてくる。

 この調子では埒が明かないと、ミズキは小さくため息をつき、ポケットからスマートフォンを取り出す。

 画面を数度タップし、イオリの方へ向け、もう1度タップしてシャーレのエンブレムをホログラムで表示させる。

 

「っ、そのエンブレムは……」

 

 イオリの反応は微妙であったが、彼女の隣にいる風紀委員は明らかな動揺を見せる。

 直接の面識はないものの、先生から聞いたことのある特徴の生徒だった。

 

「……どうやら、あなたよりそっちの彼女の方が、これについてはよっぽど知っていそうね。だよね、火宮チナツ、さん?」

 

 視線をイオリから隣の生徒へ向け、問いかける。

 ウェーブのかかった桑色の髪に、フリルがふんだんにあしらわれたブラウス、赤色のタイツと手袋がアクセントの彼女――火宮チナツ――は、ため息を付くと1歩前に出て、イオリが構えているライフルに手を乗せる。

 

「イオリ、一旦武器を下ろしてください」

「……わかった」

 

 渋々ではあるものの、イオリが銃を下ろすと、扇状に展開していた風紀委員たちも次々と銃を下ろしていく。

 自由と混沌でよく知られているゲヘナとはいえ、治安一舞台の統率はしっかりしていると感心しつつ、ミズキは改めて目的を尋ねる。

 周りの風紀委員たちが互いの顔を見合わせる中、イオリは1枚の紙を取り出し、こちらへ見せてくる。

 

「便利屋68、コイツらを追ってきた」

 

 指名手配を表すWANTEDと大きく書かれた手配書には、確かに便利屋68のメンバーの顔写真が描かれていた。

 確かに4人とも、ミズキが知っている便利屋68のメンバーで相違はない。

 

――しかし……そこまで脅威、あるかなぁ……。

 

 ゲヘナの風紀委員会が指名手配するぐらいなのだから、便利屋68はゲヘナで相当なことをやっていたのだろう。

 しかし、実際に相対した彼女たちを見ると、はたして指名手配されるほどの事をなしたのか、疑問に感じてしまう。

 彼女たちには悪いが、これまでの出来事を振り返っても、風紀委員会を相手に逃げおおせるとは思えない。

 

――さて……どうしたものか。

 

 自分が所属しているシャーレは、アビドスを支援している。

 そのアビドスとは敵対関係と言ってよい便利屋68を、風紀委員会へ渡す事自体は、アビドスにとってメリットだろう。

 しかし、シャーレはあくまで生徒の味方の立ち位置であるべきだし、便利屋68も見方が変われば同じ生徒である。

 このまま、風紀委員会の言う通りに便利屋68を引き渡すのは、恐らく間違っているだろう。

 上手い具合に言いくるめて、対策委員会が到着する前に引き上げてもらうのが、最良だろう。

 そう考えて口を開こうとした瞬間、何かが横切るのが見えたかと思えば、新たな爆発が起こった。

 

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