シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.2 アビドスへ

 綺麗な銀藍色の髪をたなびかせながら、ミズキは住宅街の屋根と屋根を翔ける。

 目線の先には、ロードバイクを走らせている生徒の姿が見え、彼女を追いかけている格好となっている。

 

「ミ、ズキ……っ、ちょっと……スピード、落として……」

「それは……無理かと。あのロードバイク、思ったより速いですから見失っちゃいますよ。それに、今見失ったら、本当にたどり着けなくなっちゃいますよ……っと」

 

 問題は、ミズキが先生を背負って飛んでいることだろう。

 なぜ碧空ミズキたちがこんなことをしているのか、それは少し前までに遡る。

 

「……」

「迷い、ましたね……」

 

 意気揚々とアビドスへ向かったは良いものの、ミズキと先生は目的地であるアビドス高等学校へたどり着けていなかった。

 想像以上にアビドスの荒廃が進んでおり、住宅街なら誰かいるだろうと思っていたものの、今のところ住んでいるような人とすれ違うことすらない。

 

「思ってた以上に、深刻ですね……」

 

 そう零さざるを得なかった。

 一旦シャーレへ撤退しようにも、あいにく職員も出払っている上に、輸送用のヘリも整備中の始末だ。

 とはいえ、ここで手をこまねいていては、行き倒れ御一行様の仲間入りとなってしまう。

 シャーレの先生が着任後すぐに遭難して行き倒れとなった、なんてのは避けなければならないし、そうならないようにするのが、シャーレのエージェントたる自分の役割のはずだ。

 

「……んっ?」

 

 ふと、今まで聞こえなかった音が聞こえ、耳を澄ます。

 徐々にこちらの近くへ近づいてくるような音の正体を探るため、ミズキは近くの空き家の屋根の上へ登る。

 懐から双眼鏡を取り出し、周囲を見渡す。

 

「……あれ、か……」

 

 ここから数ブロック離れたところで、ロードバイクに乗った生徒が通過するのを見て、ミズキは双眼鏡から目を離し、先生の元へ戻る。

 

「先生、向こうの方に生徒の姿が見えました。もしかしたら、アビドスの生徒かも……」

「本当かい? なら早速……」

 

 ミズキの報告を聞いて、動き出そうとした先生の首根っこを捕まえる。

 ヘイローのない先生が走ったところで、ロードバイクに乗ったキヴォトスの生徒に追いつけるわけがない。

 あの生徒がどれぐらいの脚力を持っているかはわからないが、下手をすれば車を使ったとしても、追いつかない可能性さえある。

 事情を説明したミズキは、先生へ背中を向け、先生をおぶる。

 

「ちょっと飛ばさないと追いつけなさそうなので……先生、舌、噛まないようにしてくださいね?」

「えっ? うっ……ぉぉおっ!?」

 

 ロードバイクに乗った生徒との距離を考えると、先生からの返答を待っている余裕はない。

 ミズキは先生からの答えを待たずに地面を蹴り、近くの空き家の屋根へ着地する。

 そして、先程見たロードバイクに乗った生徒の進行方向を向くと、屋根から屋根へと飛び移り始めた。

 

 

 

 

――思ったより速い……っ。日常的に乗っているのかな……?

 

 そうして始まった追いかけっこであるが、立体的に動いているはずのミズキは、ロードバイクとの差をなかなか縮められずにいた。

 距離は離れていたが、すぐに追いつけるだろうと見ていたミズキは、ロードバイクの生徒の評価を改める。

 彼女の自宅や学校までの距離はわからないが、ここまで誰もいないところを毎日登下校しているとすれば、鍛えられるのも納得だろう。

 加えて、背中から叩いて何か言ってくる先生をおぶっているのも、ミズキの足枷となっていた。

 とはいえ、このままハイペースで動き続ければ、先生の三半規管が耐えきれなくなって、ミズキの背中へリバースしてしまう可能性も出てくる。

 それを防ぐには速度を落とすしかないが、それでロードバイクの生徒を見失ったら、本末転倒だ。

 先導して案内してもらうためにも、ロードバイクの生徒に自分たちを認識して貰う必要がある。

 ロードバイクとの距離を詰めるために速度を上げ、ロードバイクで走りながらでも声が聞こえるであろう距離まで詰めたところで。

 

「ねぇ、ちょっと君っ!」

「っ!?」

 

 ありったけの声を張り上げる。

 ロードバイクの生徒も、まさか人のいないこんなところで、上から声をかけられるとは思わなかったのだろう。

 一瞬身体を震わせたかと思うと、ロードバイクの車体が揺れる。

 それでも、体勢を立て直してブレーキをかけるあたり、乗り慣れている様子がうかがえる。

 そのまま、ロードバイクの車体をスライドさせ、どこかで見たような挙動で停止する。

 ミズキは、スピードを落としてその近くへ着地しようとするが、ロードバイクの生徒が背中に背負っていたアサルトライフルへ手を伸ばしていることに気がつく。

 

――あっ、ちょっとまずいかも。

 

 明らかに警戒されている。

 人がいなくなって久しいであろう場所で、急に声をかけられたのだから、仕方ないだろう。

 とはいえ、先生を背負っている今、撃たれるわけには行かない。

 ヘイローのある自分なら多少撃たれても問題ないが、ヘイローのない先生だとそうはいかない。

 

「ちょちょちょっ、ストップストップ! 怪しいものじゃないからっ!」

 

 また声を張り上げてアサルトライフルを握った生徒を静止し、ミズキは近くへ着地する。

 そして、今にもこちらへ銃口を向けてきそうな生徒を見る。

 銀色のセミロングの髪、髪と同じ色の狼耳、そして一見すると普通の水色の瞳に見えるが、よく見ると瞳孔の色が左右で異なるオッドアイが特徴の生徒――砂狼シロコ――は。

 

「……空から、人が降ってきた」

 

 率直な感想をこぼした。

 

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