シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.20 敵の敵は

「これは……っ」

 

 何かが横切った方角を向くと、今度はボストンバッグが飛んできているのが見えた。

 ミズキと風紀委員たちのちょうど真ん中辺りへ落ちたそれは、突如爆発する。

 後少し動き出すのが遅ければ、ミズキも巻き込まれていただろう。

 爆発による煙が収まると。

 

「くそっ、これが狙いだったのかっ!」

 

 これまで下ろされていたはずの銃口が、こちらへ向けられていた。

 後は引き金が引かれれば、一斉砲撃の餌食となってしまうだろう。

 先程はイオリをたしなめていたチナツも、こうなっては止めようがないのか、呆れ顔で懐から武器を取り出して構えていた。

 そしてこの状況を生み出した元凶はというと。

 

「死んでください死んでください死んでくださいっ」

「うわぁハルカちゃん、さっすがー」

 

 元気に風紀委員へ愛銃――ブローアウェイ――を撃ち込んでいた。

 焚き付けている浅黄ムツキも、ボストンバックを投げ込んだ犯人ではあるが、風紀委員たちのタゲは撃ち込み続けているハルカへと向く。

 流石に集中砲火を浴びさせるわけにもいかず、ミズキは血相を変えてハルカを止めにかかる。

 

「ぐっ、とま……っ」

 

 腰を掴んで踏ん張っているはずなのに、その小柄な体格からは想像できないほどのパワーでハルカは動き続ける。

 もっと力を込めれば抑え込めるだろうが、危害へと繋がりかねず、二の足を踏んでしまう。

 

「掃射っ!」

 

 そこへイオリの号令が響き渡り、こちらへ銃口を向けていた風紀委員たちが一斉に砲撃してくる。

 いくらキヴォトスの生徒がヘイロー持ちで頑丈であるとはいえ、ライフルの一斉砲撃をまともに受ければ、無傷とはいかない。

 一生徒であれば離脱も考えられるが、ミズキは一生徒の前にシャーレのエージェントであり、むやみに生徒を怪我させるわけには行かない立場にある。

 

「えっ……ひゃっ!」

 

 幸い、持ち上げるのは容易なので、ハルカの身体を少しだけ持ち上げて立ち位置を入れ替える。

 急に持ち上げられたことで動揺したハルカに内心謝りつつ、可能な限り優しく押し出して、砲撃の着弾範囲から離れさせる。

 ちょうど着弾範囲から離れてくれた直後、風紀委員たちの砲撃が、一斉にミズキへ襲いかかる。

 銃弾を弾こうにも、まだ武器を構えていないので、避ける他ない。

 致命的なものだけを見極めて、被弾を最小限へ抑える。

 

「次弾、掃射っ!」

 

 制圧においては、相手が無力化していない限り砲撃を続ける。

 そのスタンスは一定の評価をしたいが、今はミズキがその的にされているのが問題だ。

 このまま一斉掃射を続けられれば、流石に不味い状況へ追いやられてしまう。

 しかも、初弾時のミズキの対応を踏まえてか、今度はさらに広範囲へ着弾するような一斉掃射だ。

 せめて弾除けになればと、身体をハルカの方へ動かし始めた瞬間。

 

「なっ……ぐえっ!」

 

 目の前で新たな爆発が起こったかと思えば、突然誰かに首根っこを掴まれ、変な声を上げてしまう。

 そのまま後ろへ引きずられると、引きずった人物と目が合う。

 

「ったく……意外と無茶するんだね……」

「鬼方、カヨコ……さん?」

 

 よく見るともう片方の手はハルカの首根っこを掴んでおり、1人で2人引っ張ったことになる。

 いくら抵抗のない形とはいえ、実は相当力もあるのだろうか。

 

「わ、私のせいですよね……。ごめんなさいごめんなさい死んで詫びます」

「ハルカ、落ち着いて。そこまでする必要ないから」

 

 首根っこを掴まれて状況を見る余裕が出たからなのか、先程とは一点、暗い表情を見せたハルカがブツブツと自罰的な言葉を発し始める。

 それを慣れたように対応しながら、カヨコがこちらへ近づいてくる。

 先程の柴関ラーメンの1件もあったため、ミズキは思わず身構えてしまう。

 あの時は先生の仲裁で事なきを得たものの、今の根っこの部分はアビドスを支援しているシャーレと恐らくカイザーグループに雇われた便利屋68との関係だ。

 この混乱に乗じて、シャーレがアビドスの支援ができないように動く可能性もあるし、風紀委員会と便利屋68の両方から狙われたら、流石に武装無しで対処するのは無理な話となってしまう。

 しかし、ミズキの予想とは裏腹に、カヨコは敵意を見せることなく、小さく手招きしていた。

 

「聞いて。風紀委員会はああ言っていたけど、恐らく本命は便利屋68(私たち)じゃない」

 

 そう耳打ちされ、ミズキは思考を巡らせる。

 わざわざ手配書を持参してまでアビドスへきた風紀委員会が、便利屋68以外に何かを狙っている、というのは一見信じられない。

 仮に砲撃直後に対策委員会と敵対したとしても、あの手配書を見せて便利屋68を捕まえに来たと主張すれば、一定の説得力はあるだろう。

 

――なら、アビドス併合のために……? いやでも、今までそんな兆候はなかったし、それにゲヘナの、風紀委員会にそんな動機がある……?

 

 便利屋68捕獲が本命ではないとするなら、風紀委員会にはアビドスへ来る別の目的があるはずだ。

 可能性を浮かんでは潰してを繰り返し、ようやく1つの潰せない可能性へ至る。

 

「シャーレ……先生が狙い?」

「多分ね。恐らくあの現場担当たち(イオリとチナツ)には、私たちを捕まえるような命令が出ているんだろうけど、うちの風紀委員長なら、こんな回りくどいことはしない」

 

 便利屋68を捕らえるのに、わざわざ1個中隊を引き連れるようなことはしないらしい。

 カヨコの言葉を信じるなら、同様の考えで、全生徒5人のアビドスを落とす、というのもありえないだろう。

 かといって、わざわざアビドスに出向いてまでカイザーグループと敵対行為をするとは思えない。

 現在アビドスにいて、風紀委員会が便利屋68以上に脅威と考える対象となると、消去法でシャーレになってしまう。

 そして、先生と自分の影響度を踏まえれば、先生が狙い、という結論にたどり着く。

 

「……なるほど、大体わかりました」

「そう、だから……」

 

 なんとなくその先に続きそうな言葉が連想できたので、ミズキは首を小さく横に振る。

 流石に怪我もしていない段階で、生徒を囮にして撤退など、シャーレのエージェントの面目丸つぶれだ。

 その意図を汲み取ってくれたのか、はたまた説得は無理だと思ったのか、カヨコは小さくため息を付くと、パーカーのポケットからスモークグレネードを1つ取り出す。

 

「なら、カウント3で動くよ。ハルカもそれで行けるね?」

「わ、わかりましたっ!」

「了解」

 

 それだけを交わし、カヨコはスモークグレネードのピンを抜いて、3人の足元へ落とす。

 地面へ落ちる寸前に煙が巻き起こり、先程の爆発の煙に上書きされる形で、3人の姿が煙の中へ消える。

 

「煙をよく見ろっ! 出てきたところを狙うんだ!」

 

 スモークグレネードの煙による目眩ましに動揺する風紀委員たちを一喝し、視線を煙へ集中させてくる。

 彼女の言い分は正しく、夜間ならともかく明るいところの煙なら、移動すればその動きで煙が動き、どこから出てくるか見えるだろう。

 

――でも、あんな大声で言う必要、ないと思うけどなぁ……。

 

 当然、近くにいるミズキたちもその指示がはっきり聞こえる。

 普通なら、ハンドサインなり無線なりで伝達すると思うが。

 その辺りも気になるが、今最優先の事項はそれではない。

 アサルトライフルのセーフティを外し、煙から出るタイミングを伺う。

 煙が晴れるまで粘っては駄目だし、変なタイミングで飛び出しても駄目、その状況がミズキの集中力を研ぎ澄ましていく。

 少しずつ晴れていく煙越しに、風紀委員たちの動きに注視する。

 そして、見えたタイミングを逃さず、ミズキは地面を蹴って飛び上がり、煙から飛び出した。

 

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