シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.25 真実

「改めて、過日の風紀委員会の非礼、お詫び申し上げるわ」

 

 翌日、改めてアビドスを訪れてきたヒナは、対策委員会のメンバー全員へ頭を下げる。

 その様子をミズキは黙って見つつ、先生の様子を伺う。

 先生も先生でなにか考えているのか、何も言わずにヒナの謝罪をじっと見ていた。

 

「それと……損害を受けた店舗の修繕費や店主の治療費は、ここに請求してくれれば、追って振り込ませてもらうわ」

 

 そう言いながら渡したメモを、ホシノは受け取る。

 昨日の様子を知っているシロコたちは、ヒナの様子の代わりぐらいに、互いに顔を見合わせていた。

 

「風紀委員長ちゃんはお硬いね~。もう少し肩の力抜いてもよさそうなのに」

「小鳥遊、ホシノ……。随分変わったようね」

 

 ヒナからのメモを受け取ったホシノがかけた言葉に、ヒナは視線だけを向ける。

 

「およ? おじさん、ゲヘナには行ったことないんだけど。もしかして、有名人?」

「昔、情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握していたから」

 

 それに、とヒナは言葉を続ける。

 

「特にあなたのことは忘れるはずがない。(あの1件)を経てもなお、アビドスにいるとは思わなかったけど」

「ふーん……」

 

 ヒナの言葉で、ホシノの雰囲気がほんの僅か変化する。

 しかし、これ以上追求する気はないのか、ヒナは早々に言葉を切り上げた。

 頭を上げ、今度は先生とミズキの方を見る。

 

「シャーレへの正式な賠償も、追って連絡するわ。後、あそこの店長の入院先も教えてもらえると」

「それぐらいなら良いけど、賠償とかはヒナが気にする必要はないよ。昨日も言ったけど、アコの考えもわかるからね」

 

 事前に対策委員会と話を通して、ヒナへ伝えることの了承をもらっていた先生は、ヒナの端末へ大将の入院先の情報を送信する。

 端末を見て位置情報を確認したヒナは、端末をしまうと、先生とミズキの方へ近づく。

 

「それと、この件は直接伝えたほうが良さそうだから」

「? 一体何を……?」

 

 生唾を飲み込んだミズキを一瞥し、ヒナは口を開く。

 

「カイザーコーポレーション、あそこがアビドスの砂漠で何かを企んでる」

「カイザーコーポレーションが、ね……」

 

 先生の言葉に、ヒナはうなずくと、チラリと視線を対策委員会の方へ向ける。

 

「廃校予定のアビドスに教える義理はないけど、一応ね」

「……なら、それを対策委員会の皆にも教えてよ。その件でヒナが掴んでいることを」

 

 それでシャーレへの賠償みたいなお話は終わり。と続けられ、ヒナは小さくため息を付く。

 

「先生はこう言っているけど……あなたはそれでいいの?」

 

 あの時現場にいて、風紀委員会に銃口を向けられ、戦闘行為を受けたのはミズキだ。

 ただ、シャーレにおける先生とミズキの関係を考えると、先生がそう言っている以上、ミズキが不満を言うわけには行かない。

 その状況を知っていて、それでも聞いてきたというのは、何かしら測るものがあるのだろうか。

 

「ええ、それで生徒たちを……アビドスが前に進めるなら、それがシャーレですから」

「……わかったわ」

 

 ミズキの答えを聞いたヒナは、再び踵を返すと、対策委員会のメンバーと話し始める。

 ミズキと先生も、会議用の長テーブルを囲み、ヒナの話に耳を傾ける。

 

「アビドスの砂漠……ちょうどこの辺り、カイザーコーポレーションのPMCが展開しているの」

「カイザーPMC……民間軍事会社ですね」

 

 砂漠の気候は、昼は暑く夜は寒いという、ヘイローのある生徒でも酷な環境だ。

 そこでヘイローのない一般人が展開しようとするなら、普通の人たちには無理で、軍事会社レベルの話まで発展するのだろう。

 とはいえ、相手が民間軍事会社となると、今までのように、スムーズに事は進まないだろう。

 なにせ、相手は本職の戦闘員。

 これまで相対した、そこら辺の不良学生や学生の治安維持部隊とは一線を画しているし、単純な戦力であれば、あのブラックマーケットのマーケットガードより上かもしれない。

 

「そ、そんなのが私たちの自治区内に……?」

「正確には、《元》アビドス自治区ね」

 

 棘のあるヒナのツッコミに、セリカは反射的に噛みつきそうになる。

 が、アヤネとノノミが必死に静止し、事なきを得る。

 

「それで、そんなところでカイザーは一体何をしているの?」

「そこまではまだ掴めてないわ。強いて言えば……」

 

 シロコの質問にヒナは言葉を区切り、続ける。

 

「何かを探している、そんな感じね」

「何か……私たちが見落としていた資源とかでしょうか」

 

 そう言ってデータをあさり始めるアヤネを見て、ヒナは目線を動かす。

 

「それは、私やあなた達より、2年前あそこにいた本人なら知っていると思うけど」

 

 その言葉に、その場にいた全員の視線がホシノへ集中する。

 当の本人は、少し思い出すかのように目を閉じるが、ゆっくり首を横に振る。

 

「あそこにあったのはちょっとしたオアシスぐらいで、アヤネちゃんが思っているようなものはないはずだよ~」

 

 この中で1番アビドスに詳しいホシノがそう言うのなら、これまで見落としていたような資源や金目のものがあるとは思えない。

 となると、カイザーグループはなぜアビドス砂漠へPMCを展開しているのだろうか。

 

「これが、今の私……風紀委員会が掴んでいるすべて。先生、これで満足かしら?」

「うん、ありがとうヒナ」

 

 立ち上がったヒナは、少しだけ柔らかい表情を浮かべ、対策委員会へ一礼し、部屋を後にしようとする。

 せめて校門まででもと、立ち上がったアヤネをヒナは静止する。

 いわく、今日の自分はあくまで謝罪に訪れたのだから、客人として見送る必要はない、と。

 それだけ言い残し、ヒナは部屋から出ていった。

 

 

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