シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.27 転換

 ノノミの質問に全員考え込むが、シロコが先に手を挙げる。

 

「……実は裏でつながっていた、とか?」

 

 砂漠化の進行でにっちもさっちも行かなくなったところに、忍び寄ってきたカイザー。

 そこで、土地区画の売却に協力すれば、カイザーが転校時に斡旋してくれる、などの密約があったのだろう。

 わざわざ管理している土地を手放すなんて、普通なら考えられないし、そういう発想となるのも頷ける。

 しかし、流石にアヤネとホシノが苦笑いしつつ反論する。

 

「流石にそれは多分違うかと……」

「私もアヤネちゃんと同意見。推測だけど、前の生徒会の人たちも学校のことを思って、色々頑張っていたんだと思うよ」

 

 その反論に、今度はセリカが異を唱える。

 

「なら、なおさらなんでカイザーなんかへ売ったり……」

 

 当時の生徒会が本当に学校のことを思っていたとするなら、土地を売るなんて考えられないのだろう。

 

「……これもあくまで推測だけど、生徒会も最初は膨れた借金の返済の足しにしよう、って考えていたんじゃないかな」

 

 アヤネから地籍図の資料を受け取り、最初の方の契約書と並べてテーブルへ置き、ミズキは言葉を続ける。

 

「ほら、最初の方の契約だと、この辺りの特に砂害がひどくて放置された区画が主でしょ? 恐らく、生徒会側も復興の見通しも立たなくて使い道のない土地でも買ってもらえるなら、って感じだったのかな」

「……あっ、そゆことか」

 

 なにか連想できたらしく、ホシノが声を上げる。

 それにはあえてまだ触れず、ミズキは話し続ける。

 

「でも、いくら色を付けてもらっても、所詮廃墟の区画。売却額はたかが知れているし、借金返済の足しにはならなかったんだろうね……」

「借金……カイザーローン……、あっ!」

 

 言葉をループさせて思考を巡らせていたアヤネも、何かに気がついたようだ。

 目線を他の人へ向けると、シロコとノノミも言葉に出していないだけで、気がついていそうだ。

 その様子を見ながら、1番最後に答えへたどり着いたであろうセリカの下へ行き、マーカーを手渡す。

 セリカは立ち上がると、ホワイトボードへ書き込み始め、最後に別の色のマーカーでその内容を丸で囲む。

 

「カイザーローンが私たちに巨額の借金を背負わせて、返済の足しにでもってカイザーコンストラクションが私たちの土地を売らせたってことねっ!」

「いや~セリカちゃんも賢くなっちゃって、ママは嬉しくて泣いちゃいそう」

「ホシノ先輩、ティッシュありますよ~」

 

 自力で答えにたどり着けたセリカへ、ミズキは拍手を送る。

 その後ろでは、なぜか後方母親のスタンスを見せるホシノに、そのホシノの顔を優しくティッシュで拭くノノミ。という別の光景があったが、ミズキは無視を決め込む。

 

「……これで、ミズキさんが言った3つの問題のうち、2つはわかりました」

 

 ようやく全員落ち着いたところで、アヤネが進行を戻し、ホワイトボードを指差す。

 1つ目の問題である、『カイザーはどうやってアビドスの土地を購入できたのか』は、当時のアビドス生徒会と正式に取引を結んだから。

 2つ目の問題である、『なぜアビドス生徒会はカイザーへ土地を売ったのか』は、憶測の域ではあるものの、当時のアビドス生徒会に借金返済の足しにしようとする意図があったから。

 土地売却の取引自体は合法で、表面上の目的はアビドス生徒会にとっての利益だったからこそ、当時のアビドス生徒会もそこまで注意深く考えていなかったのだろう。

 しかし、借金先も土地の売却先も同じカイザー系列だったのが、大きな問題だった。

 土地売却を合法的どころか色つけて進めたことで、カイザーは後ろめたいことがなく、ゆっくりアビドスの土地を保有できる状況を整備してきたのだろう。

 アビドスが借金返済できなくなれば、カイザーローンが校舎含めたアビドスの土地を差し押さえて、保有できる。

 仮に借金返済を進めていくなら、返済の足しになるように土地売却の選択肢を取らせるよう誘導して、カイザーコンストラクションが土地を少しずつ保有していく。

 

「最後の問題ですが……これは、アビドスの土地をカイザーが狙う理由、でしょうか?」

「まぁそうだね。……でも、これはもう答えが出ているよ」

 

 そう答えたミズキは、対策委員会の様子を眺める。

 ホシノだけがなんとなく勘付いていそうな様子であったが、ミズキはだんまりを決め込み、静観する。

 しかし少し待ってみたが、地籍図と契約書を交互に見ながら首を傾げているし、ホシノもホシノでミズキと同じような思惑だったのか、助け舟を出してこない。

 

「……さっき、ヒナ風紀委員長が言っていたことは?」

「えっと確か……アビドスの砂漠でカイザーがなにかしてるって……、あっ」

 

 最初に復唱したノノミが気がつくと、他の3人も続けて気がついた表情を浮かべる。

 ミズキは満足げな表情を浮かべ、ホワイトボードのマーカーを握り、書き込んでいく。

 

「そう、カイザーはアビドスの土地を購入しつつ、アビドス砂漠で何かをしている。そこまでアビドスの土地に執着するなら、それに見合った何かがあるはず」

「……つまり、カイザーがアビドスで何を探しているか、が問題ってこと?」

 

 シロコの言葉に、ミズキは書き込みを続けながら頷く。

 そしてホワイトボードへの書き込みが終わったところで。

 

「……とはいえ、あの風紀委員長ちゃんもその情報までは掴んでいないからね〜。結構厄介な問題だよ?」

 

 ホシノから指摘が入る。

 ヒナ自身も話していた通り、彼女もカイザーがアビドス砂漠で何かを探している、までは把握しているものの、肝心の何を探しているのか、まではわかっていない。

 

「石油とか金脈とか?」

「いえ、そういうお金になりそうな地下資源はない、との調査結果がすでにあります」

 

 セリカの回答をやんわりと否定しつつ、アヤネが資料を投影する。

 少し古い情報ではあるものの、信頼できる調査元が複数合同して調査した結果の資料であった。

 となると、カイザーの独自調査で実はあった、というのも考えにくいし、調査以降で劇的に地下資源が生まれるとは考えにくい。

 答えの見えない問題に、会議が停滞しかけたところで。

 

「アビドスの砂漠はうちの自治区なんだから、実際に行って確かめればいいじゃん!」

 

 セリカの直球の発言に、一同は思わずセリカの方を見てしまう。

 言われてみれば、アビドスの砂漠というかなり過酷な土地だから、あくまでゲヘナの治安維持組織である風紀委員会の情報網を持ってしても掴めなかった、というのはあり得る。

 セリカの直球の発言に、一同は思わずセリカの方を見てしまう。

 言われてみれば、アビドスの砂漠というかなり過酷な土地だから、あくまでゲヘナの治安維持組織である風紀委員会の情報網を持ってしても掴めなかった、というのはあり得る。

 ただ、何故か妙な引っ掛かりを感じてしまう。

 

――行かされている……気がする。

 

 おそらくヒナ自身には、そのような意図はないのだろう。

 しかし、土地所有者がカイザーとなってしまっているアビドス砂漠へ、アビドスの対策委員会側から乗り込むのはリスクが大きすぎる。

 横目で先生を見ると、セリカの元へ集まっている対策委員会のメンバーを尻目に、テーブルへ置かれたファイルから何かを探していた。

 

「……ちょっと待って。今、アビドスの砂漠に行くのは、罠かもしれない」

 

 目的の資料を見つけたのか、先生はセリカたちへ1枚の書類を差し出す。

 ミズキも一緒に覗き込むと、アビドス砂漠地帯の土地の売買契約書だった。

 

「ん? すでにカイザーへ売却済み、そこには特に驚きもないよ」

「……あっ、まさか」

 

 書類の内容はシロコが指摘した通り、アビドス生徒会がカイザーコンストラクションへ砂漠地帯の土地を売却したものだ。

 それ自体は目新しいものでもなく、地籍図と照らし合わせれば、今アビドスが所有している土地は(この学校周辺ぐらいしか)残っていないことも、明らかだ。

 にも関わらず、なぜ先生がこの書類をこのタイミングで出してきたのか。

 

「……アビドスが正式な契約でカイザーコンストラクションへ売却した土地、そんなところにアビドスが行けば、アビドスの借金先であるカイザーローンが黙っていない……ってことですか?」

「うん、これまで巧妙な罠を仕込んできたカイザーなら、一気にアビドスを潰せる、またとないチャンスだからね」

 

 先生の考えは、恐らく間違っていない。

 アビドスがカイザーに売却した土地へ、アビドスが行けば、カイザー側からの批判は免れないだろう。

 下手をすれば、報復としてカイザーローンからの返済利子を引き上げるなどの、誘致へ追いやられてしまう可能性すらある。

 先生の言葉に、それまでの雰囲気が一転してしまう。

 立っていた皆も自分の席へと戻ってしまい、痛々しい沈黙が場を支配する。

 

「これ以上煮詰まってもいい考えは出ないし、今日は一旦終わりにしようよ」

 

 委員長命令ね、というホシノの一言で、本日の対策委員会の定例会は終わりを告げた。

 

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