シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.29 急行

 アビドス市街地へ急行しながら、ミズキは先生からの連絡の内容を元に今の状況の仮説を立てる。

 まずホシノがいなくなった理由。これは、先日の風紀委員会との騒動の際、彼女の登場が遅くなったことにも関係しているのだろう。

 例えば、ゲヘナへの転校が決まったので、そのゲヘナの治安維持組織の風紀委員会と揉め事は起こしたくないから、が考えられる。

 しかしヒナが言っていた、普通の人なら転校をするであろう何かがあった上で、ホシノはアビドス残留を決めた以上、その線はおそらくない。

 となると、ホシノはあの日別の理由で遅れたことになる。

 そこで引っかかるのは、シロコから聞いたホシノの退部届の話だ。

 あの話は先生が預かって、先生が直接ホシノと話すことになっていたはずで、機能の会議の後に1対1で話したはずだ。

 そこで先生が慰留に失敗し、ホシノが退学したという可能性だ。

 しかし、それならそれで先生からの連絡が、ホシノが消えた。とはならず、ホシノが退学した。になるはずだ。

 事実、先生の話によれば、ホシノは先生が渡した退部届を破り捨てた上、今日みんなに話をする、と言っていたらしい。

 そういう意味でも、ホシノが消えたのは予想外の出来事だったとのことだ。

 

――ホシノさんがいなくなって、その理由が先生含めて誰もわからない……。そうなると……ホシノさんしか知らないなにかがある……?

 

 ホシノの戦力は控えめに見ても、そこらへんの1小隊などの枠に収まる程度ではない。

 各学区の頂点と言っても、過言ではないだろう。

 となれば、傭兵などを希望すれば引く手数多となるのは目に見えており、その対応でいなくなったのだろうか。

 それならそれで、少なくとも対策委員会のメンバーには事情を伝えるだろうから、今みたいな自体にはならないはずだ。

 

――それに、なぜこのタイミングでカイザーが攻勢を……?

 

 もう1つ報告を受けたのが、ホシノ失踪に連動して、カイザーPMCからの総攻撃を受けている、というものだ。

 カイザー系列のカイザーローンから借金をしている身であるアビドスではあるが、借金返済は前向きに対応している以上、返済不履行のためPMCをけしかけた、という理由は通用しない。

 アビドスが不法にカイザーの土地を侵害した、であれは一応通るが、それならなにもこのタイミングである必要はない。

 先生やミズキが来る前の段階で、それを理由に攻め込めば、アビドスの全土地をとっくにカイザーは掌握できていただろう。

 となると、カイザーはこれまでそれをするための口実を持っていなかった、と考えられる。

 

――ホシノさんがいなくなったのと、カイザー侵攻、この2つには必ずなにか繋がりがあるはず……まさか。

 

 シャーレで見かけた記憶のある、アビドスの生徒名簿を頭で復元する。

 ミズキの記憶が正しければ、アビドス高校の《正式な生徒》は、今は1人しか記載されていなかったはずだ。

 正式な生徒が0人となったことで、アビドス高校は生徒不在で廃校、あとはアビドス高校以外で最大の土地所有者であるカイザーが回収に回ってきた、ならすべてつながる。

 ミズキは1つ舌打ちして、市街地へ向かう速度を早めるが。

 

――校舎まで攻め込まれているって言ってたけど、まだこんなところにも……。

 

 カイザーPMCの1中隊が視界に入り、気が付かれないように迂回を余儀なくされる。

 幸い彼らの注意はアビドス高校で抵抗を続けている対策委員会の動向に向いており、周囲にそこまで気を配っていない様子であった。

 ここでこの1中隊を叩けば、浮足立たせられるかもしれないと、ミズキは物陰に隠れて様子を伺う。

 

「ふむ、思ったより抵抗されているみたいだな」

「はっ、申し訳ございません、理事」

 

 その中で、戦場に似つかない一張羅を羽織ったひときわ恰幅の良い男性型のロボと、彼を理事と呼び頭を下げている隊長格の男性型のロボの会話が聞こえた。

 彼らに気が付かれないよう、聞き耳を立てる。

 

「なに、構わん。いくら彼奴らが抵抗したところで、すべての条件は満たしているのだからな」

 

 理事の言う条件がなにかはわからないが、ホシノが絡んでいるのは間違いないだろう。

 ただ、いくらこの土地で何かを探しているとは言え、9億円もの借金を帳消しにしてまでホシノ退学を勧告させるだろうか。

 もしかすると、カイザーすらも操る黒幕がいるのではないか。

 そんな事を考えていると。

 

「……どうやら、コソコソと嗅ぎ回っているネズミがいるようだ。早急に駆除したまえ」

「はっ、了解であります!」

 

 そんな会話が聞こえてきた。

 向こうからは死角になっているはずの位置にいるはずなのに、見抜かれたのだろうか。

 一瞬、自分以外にも聞き耳を立てている人物がいて、そちらの方を指摘したのかとも思ったが、周囲の足音が徐々にこちらへ近づいてくるのが聞こえ、そうではないと痛感させられる。

 

――隠密行動、なまったかなぁ……。

 

 ため息を付いても仕方がない、と切り替え、打開策を寝る。

 本来、シャーレのエージェントであるミズキから能動的に戦闘行為を仕掛けるのは先生に禁止されている。

 ただし、それはあくまで対生徒の話であって、PMCのような相手ではその制限はない。

 ザッと見た限り、周囲に逃げ遅れた市民はいないようなため、ここで戦闘を敢行すること自体は問題ないだろう。

 しかし、単騎でPMCの1中隊を相手にどう立ち回るかの問題が残っている。

 相手はプロの戦闘員な上、複数隊展開してきているのは想像に固くない。

 いくら先生の指揮があるとしても、ホシノ抜きの対策委員会でどこまで渡り合えるかは不明である以上、ここで無駄な足止めを受けるわけにもいかない。

 

「そこに隠れているやつ、抵抗は無駄だ。大人しく両手を上げて出てこい」

 

 間合いを詰め切ったのか、拡声器越しに隊長と思われる声が聞こえる。

 やるしかないと決心し、懐から何かを取り出し、逆手で放り投げる。

 

「っ、退避ぃ!」

 

 隊長の叫び声が聞こえた直後、周囲が煙に覆われる。

 右往左往でもしてくれれば御の字だったが、そこはプロと言うべきか。

 煙越しに見える影は、互いをカバーしながらこちらへ銃口を向けてきていた。

 ここで下手に飛び出せば、蜂の巣にされるのは目に見えている。

 ならば、と、ミズキは着ているブレザーを脱ぎ、もう1度放り投げる。

 

「そこかっ、掃射っ!」

 

 予想通り隊長の叫び声が響くと、隊員たちが一斉に動く影へと照準を合わせ、トリガーを引く。

 瞬く間に弾丸の幕が形成され、放り投げたブレザーへ命中していく。

 予想通りな動きに、ミズキは内心ほくそ笑みながら、近くのビルの雨樋を伝って屋上へ登る。

 そのまま、アビドス高校のある方角へ、屋上沿いに走り始めた。

 

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