「……なるほど。事情はわかったよ」
事情を説明したところで、シロコは納得した表情を見せ、ミズキへ向けていた銃口を下げた。
ミズキとしても、生徒と無用な銃撃戦をしなくて済んだし、話の分かる相手でよかったと、胸を撫で下ろす。
それに、問答した結果、シロコがシャーレへ手紙を送ってきたアビドス高等学校の生徒だということもわかった。
差出人である奥空アヤネについても、彼女の後輩とのことで、一気に情報が進展した。
後は、シロコにお願いしてアビドス高等学校へ案内してもらえば、すべて解決だろう。
そう思っていると、後ろから背中とトントンされたことにミズキは気がつく。
「ミズキ……ごめ、限界……」
「うわわっ、先生、しっかり……っ!」
明らかに顔色が悪く、今にもリバースしそうな先生を急いで塀へもたれかからせる。
せめて水でもと、ミズキが辺りを見渡すと。
「ん、これ。エナジードリンク。水じゃないけど、少しはマシになると思う」
シロコがスクイズボトルを差し出してくれていることに気がつく。
話によれば、ライディング用に持参している、とのことだ。
となれば、直接口をつけるのはどうかと思い、ミズキはコップを探そうとして。
「っ!」
先生がシロコから半ばひったくるようにスクイズボトルを掴むと、そのまま飲み始めた。
唐突なことにシロコやミズキも一瞬ビクッとしたが、シロコが少しだけ頬を染めながら気にしていない素振りをしていたので、ミズキもこれ以上言及しないことにした。
「ふうっ……生き返った……。ありがとね、シロコ」
一息でほとんど全部飲み干した先生は、シロコへお礼を言いながら、スクイズボトルを返す。
シロコは何とも言えない表情を浮かべながらもスクイズボトルを受け取り、バッグへと仕舞う。
「じゃあ、これからアビドスへ案内するね。……と言っても、すぐそこだからそんな大層なことじゃないけど」
「えっ、そんな近いの?」
シロコの言葉に、ミズキは思わず聞き返してしまう。
今自分たちがいる地点からは、見渡しても校舎のような建物は見当たらない。
「ん、近いよ。たったの42.195キロだから」
「……それは、すぐそこって言わないんじゃないかな……?」
先生が至極真っ当な指摘を指摘を入れる。
普通の感覚なら、フルマラソンの距離をすぐそことは言わないのだろう。
しかし、それはあくまでキヴォトスの外のヘイローのない先生の感覚。
キヴォトスの生徒のシロコにとっては、それが普通の感覚なので、先生の言葉に首を傾げていた。
「まぁ仕方ない、ですね。先生、またおぶるので……」
歩いて行ったら日が暮れてしまう以上、シロコのロードバイクと並走するしか手がない。
となると、ミズキがまた先生をおぶることになるのだが、先生はあからさまに嫌そうな表情を見せてくる。
「シロコ……背負って乗れない?」
「本気で言ってます?」
ジト目で先生を見る。
どう見ても1人用のロードバイクにまたがったシロコが、先生を背負った状態で走るのは、難しいだろう。
しかも、それを出会って数分も経っていない生徒へ頼むのは、いかがなものか。
シロコの方へ目線を向け、嫌なら断っても問題ないよ、と言おうとするが。
「……まぁ、さっきの先生の様子を見るに、その方がマシ、かな」
言外にミズキよりも丁寧に先生を運べる、と言われ、ミズキは一瞬ムッとなるが、すぐにその感情を消す。
そんなことで腹を立てるのも馬鹿らしいし、アビドスについて最初にしたことが、先生の大リバースなど、今後の先生の活動に支障をきたしかねない。
「じゃあ……シロコさん、お願いします」
「ん、任された。……それと、呼び捨てでいいよ。同い年だろうし、私も『ミズキ』って呼ぶから」
そう言うとシロコは、先生の元へ近づくが、いざ背負おうとしたろころで、何故か距離を取り直した。
「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……その……」
先ほどとは打って変わった、歯切れの悪い言葉に、ミズキは察する。
シロコがロードバイクでどれぐらいの距離を走るのかはわからないが、スクイズボトルを持参するぐらいなのだから、それなりの長距離だろう。
となれば、汗だってそれなりにかいてしまうだろう。
その状態で密着されたら、年頃の生徒なら気になってしまうだろう。
「いや、気にしないで。むしろ、いい匂いだし」
「はっ?」
「えっ?」
先生の爆弾発言に、ミズキとシロコは思わず同時に声を出してしまう。
ミズキは先生をヤバい人を見るかのようにジト目になり、シロコは先生の言葉の意味を考えるように、思案顔となる。
「うーん……先生の言っている意味がよくわからないけど……、気にならないなら、まぁいいか」
しばらくして、ようやく折り合いがついたのだろう、シロコは改めて先生へ近づき、背負う。
そして、ロードバイクへ乗ると、ミズキへ目配せしてくる。
「ミズキ、ついてきてね。先生はしっかり捕まってて」
「うん、了解」
ミズキが合図を出すと、ロードバイクに乗ったシロコが軽快に走り始める。
その後を追うように、ミズキも走り始める。
先ほどまでよりもスピードを落としているのは、ミズキたちを案内するためなのか、後ろでしがみついている先生が振り落とされないようにするためなのか、その両方なのか。
いずれにせよ、シロコの心配りに感謝しつつ、ミズキはシロコの後を追いかける。
そうしてしばらく走っていると、視界の先に、他の建物より1回りほど大きい建物が見えてきた。
「ん、あれが私たちの学校」
「あれが……」
遠目からの印象では、きちんと手入れが行き届いているように見える。
とても生徒数が少ないだとか、地元の暴力組織の対応が追いついていないようには見えない。
しかし、建物に近づけば近づくほど、今アビドスが置かれている惨状が露わとなってくる。
「……ここまで、砂が?」
アビドス高等学校の正門の近くには、砂かきでよけたと思われる砂山がいくつか形成されていた。
周囲を見ても、学校が砂漠の近くに立地しているわけではなく、砂漠の砂がここまで来たとは考えにくい。
となると、定期的に見舞われているという砂嵐の影響が、ここまで及んでしまっているのだろうか。
先に正門をくぐったシロコが停止するのを見て、ミズキもスピードを落とす。
「ありがとう、シロコ」
「ん、どういたしまして。駐輪場に停めてくるから待ってて」
先生が降りてお礼を言うと、シロコはロードバイクを駐輪場へ止めに行く。
その様子を見ながら、ミズキは先生の隣に立つ。
「……先生、アビドスのこの現状、どう思いますか?」
「……いくら砂嵐が酷いからって、ここまでになるとは思えないね。何か……自然災害だけで説明できない何かが、ある。そんな気がする」
とはいえ、憶測の域を出ない現状では、これ以上の議論はあまり意味をなさないだろう。
そんな事を考えていると、ミズキはある違和感を覚える。
「手紙には、『地域の暴力組織に校舎が狙われている』ってありましたよね。一体ここを狙う意図は……?」
例えば水や食料などの資源が豊富にあり、砂嵐の影響も受けない。
そんな立地であれば、狙われるのにも納得がいく。
しかし、正門を見た限りでは飛砂はあるため、その線はない。
この校舎の地下深くに何かが眠っている、という可能性も、あまりないだろう。
アビドス自身歴史ある学区であるし、そういう調査は昔から何度も行われているはずだ。
それで見つからないということは、その手の類のものはないのだろう。
「今は、あれこれ考えても埒が明かないね。まずは……」
そこで言葉を切った先生は、目線をこちらへ戻ってくるシロコへ向ける。
「