シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.30 窮地

 ビルの屋上から屋上へと、パルクールアクションを繰り広げながら進んでいたミズキは、ようやく視界にカイザーPMC理事の姿を捉えた。

 一気に距離を詰めるために加速しようとするが、理事と相対する形でシロコたちがいるのも目に入り、止めた。

 

――間に、合わなかった……か。

 

 近くのビルの屋上へ着地し、様子を見ながら出るタイミングを伺う。

 先程よりも距離が離れているのに加え、先程なぜか理事に気が付かれたのを踏まえて、より慎重に隠れているせいか、会話は途切れ途切れにしか聞こえてこない。

 しかし、理事が言っていたすべての条件が何であるかを考えると、何を言っているのかは理解できる。

 自分たちがあと1手早くたどり着いていれば、と後悔で歯ぎしりしたくなる気持ちを抑え、ミズキは理事とシロコたちの様子を伺い続ける。

 

「……ほぉ、まさか本気で借金返済するつもりだったと? あんな馬鹿げた額を? てっきり諦める時の言い訳程度だと思っていたが」

「っ……」

 

 聞こえてくる理事の心無い言葉、当事者ではないミズキでさえも苛立ちを覚える。

 彼女たちに巨額の借金を返す気がなければ、当の昔にアビドスを去っているだろうし、今年1年生のアヤネもセリカもわざわざアビドス高校へ進学しないだろう。

 それでも彼女たちはアビドスへ残り、借金返済の道を選んだ。

 それなのに、そんな風に言われてしまえば、黙っているわけには行かない。

 しかし、あくまで主体は生徒であるアビドスの対策委員会の彼女たちで、決して自分ではない。

 もし彼女たちが動かなければ、代わりに動く、その意思を何度も頭で復唱しながら、ミズキは様子を見続ける。

 

「……それ以上言うなら、撃つよ」

 

 比較的好戦的な性格のシロコとセリカは、流石黙ってないと言わんばかりに、銃口を理事へ向ける。

 当然理事を守るように、親衛隊のPMC隊員たちもシロコたちへ銃口を向ける。

 

「……今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?」

 

 その一方で、比較的冷静なノノミとアヤネが待ったをかける。

 彼女たちの言い分は、ここでカイザーPMCを退けたとしても、正式な契約で売買されたアビドスの土地は戻ってこないし、借金がなくなるわけでもない。

 加えて、精神的支柱とも言えるホシノも不在となってしまったため、正式な生徒が1人も在籍していない、非公認の委員会である対策委員会だけでは、もはやどうすることもできない。

 

――頃合い、かな……。

 

 これからすべきことのために1つ伸びをし、ミズキは数歩下がって助走のための距離を取る。

 そして一気に駆け出すと、屋上のフェンスを軽々と飛び越え、理事たちとシロコたちの間へ着地する。

 

「だったらさ、諦めちゃうの?」

 

 そう言いながら敵陣の真ん中に着地したミズキを、対策委員会もカイザー理事もPMCの隊員たちも一斉に見る。

 直後、一斉にPMC隊員たちから銃口を向けられるが、ミズキは臆さずに真っ直ぐ対策委員会のみんなを見据える。

 

「みんな、アビドスに返せないほどの借金があると知っても、アビドスに残り続けた。それは一体なんで?」

「撃てっ! こいつを黙らせろぉ!」

 

 理事の怒声とともに、ミズキめがけて銃弾の雨が降り注ぐ。

 その雨を身体を捻り、時には一瞬で構えた愛銃から発射された弾丸で撃ち落としながらも、ミズキは言葉を続ける。

 

「自分たちの学校を、自分たちの手でなんとかしたい。そう思っていたからじゃないの? その熱意があったからこそ、シャーレは、先生はここに来ることを決めたのっ!」

「貴様らっ、たかが小娘1人に何を手こずってしている! 早く始末しろっ!」

 

 理事の怒声に比例して、ミズキへ襲いかかってくる銃弾の密度が高くなっていく。

 しかし、無数にも見える雨は、1つとしてミズキを捉えることはない。

 集中砲火を受けながらも、的確に自分へ当たる銃弾を銃弾で弾き、逆にPMC隊員へ的確に銃弾を撃ち込みながらも語りかけるミズキに、別方向から声が割り込んでくる。

 

「あんたに……アビドスの生徒でもないのに、何がわかるってのよっ!」

「セリカ……っ」

 

 堰を切ったように、感情むき出しでミズキへ言葉を浴びせてくるセリカに、ミズキは足を止め、彼女の方を見る。

 銃弾飛び交う中で足を止める、というのは致命的な行為ではあったが、予想外からの言葉に、PMCの隊員たちも動きが止まっていた。

 

「……間違い、じゃないかな……。どこまで寄り添っても、あくまで私はシャーレ所属。セリカたちアビドスの所属ではないから」

 

 ノノミとシロコになだめられながらも、睨み続けてくるセリカへ、ミズキは言葉を続ける。

 

「でも、ほとんどの生徒たちが諦めて去っていったのに、みんなは真っ当に返そうとした。その思いは本物だと思うし……」

「早く止めろぉ!」

 

 再び理事の怒声が響き渡り、自身の背後から銃声が鳴り響く。

 銃弾の軌道も見えず、避ければ眼の前にいるセリカたちに命中してしまう、そんな確実に命中するはずだった銃弾を。

 

「こんな奴らが踏みにじっていいものじゃないっ!」

 

 そう叫びながら反転したミズキによって撃ち出された銃弾で弾かれた。

 

「なっ……あいつ、何者なんだ……っ」

「後ろからの銃弾を、銃弾で弾いた……だと?」

 

 ミズキが見せた芸当に、PMC隊員たちの間にも明らかな動揺が走る。

 その隙を見逃さず、ミズキは理事の周囲で護衛している隊員たちへ照準を合わせ、引き金を引く。

 

「うおっ! 小生意気な小娘が……やれっ!」

 

 護衛の隊員が倒れたのを見て身の危険を悟ったのか、隊員たちの間へ逃げ込みつつも、理事が指示を出す。

 その命令に従い、再び次々と繰り出される銃弾に対し、ミズキは銃弾で応戦せずに、近くの遮蔽物へ逃げ込む。

 そのままリロードを挟み、遮蔽物から少しだけ身を出し、応戦を始める。

 

――対策委員会は……まだ、時間かかりそうね……。

 

 先生も説得しているとは思うが、こればかりは彼女たち自身の意志の問題だ。

 今はPMCの隊員たちの注意がこちらを向いているが、いつ彼女たちの方に向けられるかはわからない。

 いくらヘイローのあるキヴォトスの学生とは言え、臨戦態勢に入っていない状態で流れ弾を受けたら、流石に無傷とはいかない。

 

――それにしても、流石はPMCと言ったところ……かしら。このままやってても埒が明かないかも……。

 

 奇襲や予想外の道芸で一瞬混乱させることはできても、そこはプロと言うべきか、すぐに体勢を立て直してくる。

 加えて数だけは多く、流石にミズキ単独で戦線を維持し続けるのは難しく、少しずつ押され始めてきている。

 ちょうどリロードのタイミングとなり、ミズキからの弾幕がなくなった瞬間。

 

「やばっ……」

 

 足元へ転がってきた、パイナップルのような形のものを視界の端に捉えた瞬間、ミズキは横っ飛びで遮蔽物から飛び出す。

 直後、ミズキが先程までいたところで爆発が起こり、遮蔽物だったものの破片が辺りへ飛び散る。

 転がりながら爆発から回避したミズキへ、周囲のPMC隊員たちが一斉に銃口を向ける。

 流石にこの囲まれた状態では、近くの遮蔽物へ逃げ込む前に、弾丸を打ち込まれてしまう。

 弾丸で弾丸を弾こうにも、リロードのタイミングで押し出されたため、リロードもまだ終わっていない。

 普通なら、これで詰ませた、と思うだろう。

 

「なっ、突っ込んできたっ!?」

 

 しかし、ミズキは普通の相手ではない。

 近くにいたPMC隊員のうち、構えが僅かにゆるい隊員を見抜き、高速で突撃する。

 その行動が予想外だったのか、反応の遅れた隊員の右手首へ手刀を振り下ろして、銃をはたき落とすと、首元を左手で掴む。

 そのまま右足でPMC隊員の足を払い、他のPMC隊員たちの射線へ割り込ませる。

 いくらPMC隊員といえども、味方ごと撃つことはできず、僅かな隙が生じる。

 その間にリロードを済ませたミズキは、割り込ませたPMC隊員の身体がジウ面へ倒れ込んだ瞬間、再び引き金を引く。

 

「くそっ、いつまで手間取っている!」

 

 仮にも戦闘のプロであるPMCの隊員が束になってかかっているというのに、キヴォトス生という点を差し引いても、たった1人の生徒を抑えられない。

 その事実に、PMC理事の苛立ちは更に増していく。

 護衛のため、戦闘へは参加せずに彼の傍で待機している隊員たちにも、冷や汗が流れ始める。

 

「別展開している小隊も呼べ! 数の暴力でとっとと制圧しろっ!」

「はっ! 了解であります!」

 

 理事に怒鳴り散らされた隊員は、無線機を取り出して別部隊と連絡を取り始める。

 理事の命令を端的に伝え、無線を切った瞬間、あちこちで同時に爆発が起こった。

 

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