「みんな、ただいま」
アビドス高校へ戻るや否や、所用があると言って1人出かけていた先生が戻ってくる。
部室でホシノ救出のために情報を収集したり作戦を考えていたりしていたミズキたちは、作業を止めて先生の方を向く。
「何か、掴んできた顔だね」
先生の表情を見たシロコの言葉に、先生は頷くと、ホワイトボードの方へ進んでいく。
そして、ホワイトボードに貼ってあるアビドス周辺地図のある地点へ、ピンマグネットを置いた。
「アビドス砂漠で展開しているカイザーPMCの基地……その中心部の建物内のある実験室、そこにホシノがいる」
先生の言葉に、ミズキたちもピンマグネットが置かれた位置を見る。
これまでの調査で確認された、カイザーPMCアビドス砂漠基地のエリア、その中心部分だ。
「……随分、核心に迫った情報ですね。一体どうやって……」
カイザーPMCの基地の何処かにいる、や、基地エリアのある区画の何処かにいる、ならばまだわかる。
ところが、先生が出してきたのは、ほぼピンポイントの情報だ。
このレベルだと、外部からハックしたとしても得られる可能性は少なく、内部に協力者でもいなければほぼ手に入れられない情報だろう。
しかし、ミズキの質問に先生は、曖昧な回答だけを返してきた。
少し腑に落ちない部分はあるものの、今はそれを詮索するよりもホシノ救出の方が優先だと、ミズキは意識を切り替える。
「では、ホシノ先輩の位置もわかりましたし、救出作戦を詰めていきましょうか」
「でも、ミズキがいても、流石に今の私たちだけじゃ、多分勝てない」
こういう彼我の戦力差の見極めに鋭いシロコの指摘が入る。
彼女の言葉に賛同し、ミズキも言葉を続ける。
「……シロコから言ってくれたからハッキリ言うけど、今回はちょっと戦力差を無視できない。一応、ホシノさん救出が目的だからカイザーPMCを殲滅する必要はないけど、戦闘自体は避けられないし、そうなるとどうしても数の差で押し切ってくる相手への対策が必要ね」
アビドス防衛戦の時と違い、今度はカイザーPMCも総力戦を仕掛けてくるだろう。
そうなれば、ミズキを入れて前線4人しかいない対策委員会で対応するのは、何かしらの策がない限り無理だろう。
何処かから協力者を、とみんなが考えていると。
「便利屋68に頼むのは?」
セリカが手を挙げる。
便利屋68であれば、共闘経験があるので対策委員会と連携を取りやすいだろう。
ただ、今日の1件はあくまでシャーレとの協業と過日の風紀委員会との1件での恩返し、というのが便利屋68側の主張だ。
貸し借りの関係でない今の状態で、アビドスを離れた彼女たちがもう1度手を貸してくれるかは怪しいところだ。
実際、ミズキの懸念は他の対策委員会のメンバーも同様に思っているようで、セリカと議論を交わしていた。
「……まだ手はある。私に任せて」
議論が並行線になりつつあるとこで、先生が割り込んでくる。
そしてミズキの方へ目線を向けてくる。
「またちょっと出かけるから、その間にアビドスの地図の更新作業を、アヤネとやっておいて」
「……了解、です」
そう告げると、先生はまた部室から出ていった。
残されたミズキたちは、先生の指示通りに作業を進めていく。
ミズキの権限でアクセスできるデータベースの情報を洗い出し、アヤネがデータを纏めて地図を更新していく。
シロコたちは、ホシノ救出作戦に向けて、物資補給や整備のために校内や市街地を駆け回る。
作業は夜更け過ぎまで続き、最後のデータ更新を終えたミズキへ、アヤネが頭を下げる。
それに対し、ミズキは軽く手を振ると、時計をちらりと見る。
「後はやっておくから、アヤネは休みなよ」
「はい、ではお疲れ様でした」
一礼したアヤネは、そのまま対策委員会の部屋から出ていく。
部屋に1人残ったミズキが1つ伸びをすると、狙ったかのように先生からの通信が入る。
「ミズキ、データはまとまった?」
「はい、アヤネにはもう渡しています」
「オッケー。なら、こっちにも回して」
先生の指示通り、まとめたデータを先生へ共有する。
しばらくして、先生から受取のサインが返ってきたのを確認し、ミズキは口を開く。
「それで……見つかったんですか?」
「うん。ゲヘナの風紀委員会……厳密にはヒナたち4人だけど、協力してくれるって」
もう1ルート用意はしているけど、そっちは代理人次第かな、と先生は続ける。
ミズキは、傍においてあったお茶を1口含み、思考を巡らせる。
「……よく、ゲヘナの風紀委員会が、アビドスに手を貸す気になりましたね?」
「まぁ、ちょっとね。……それでだけど」
こちらの疑問に対して、誤魔化されてた感は否めない。
しかし、ここで詮索するのは不毛だろうと、ミズキは追求を辞める。
そして、メモを引っ張り出して、先生から今回の風紀委員会の動きをメモする。
まず大前提として、いくらシャーレ側からの要請とは言え、今回シャーレの指揮下にはいないことになっている風紀委員会は、アビドス領に立ち入ることはできない。
そのため、アビドス領外近辺で展開してもらい、カイザーPMCの一部と交戦する予定にしてもらっている。
メモを取り終えたミズキは、アビドスの地図を引っ張り出し、行軍ルートを頭の中でシミュレーションし始める。
「……基地周辺まではそれでなんとかなりそうですね。ただ……」
頭の中でシミュレーションを終え、結果を伝える。
「うん。そこからは戦闘を避けられない、かな」
先生も同じような考えだったのか、ミズキが言おうとしたことを先に伝えてくる。
アビドス領外でしか展開できない風紀委員会だけでは、どこに動かしても、基地周辺に展開しているカイザーPMCの部隊までを動かせない。
基地への突入まで、戦闘は極力最小限に抑えたかったが、かなり難しそうだ。
「ところで、便利屋68からは?」
「一応送っては見ました……。ただ、「考えておくわ」としか」
ミズキからの報告を聞いた先生は、なるほど、と返してくる。
流石にアビドスを去った直後に協力してくれるほど、便利屋68も動いてはくれないだろう。
実際、便利屋68視点だと、これ以上アビドスへ協力する理由はない。
「……ともかく、ある程度目処も立ったし、作戦は早朝だから、ミズキも休んでね」
「了解です。では、おやすみなさい」
先生との通信を終え、ミズキは目を閉じて深く息を吐く。
明日……時刻はすでに0時を超えているので、今日の作戦で、アビドスの運命が決まるだろう。
100%上手くいく保証はないが、生徒たちの未来を導くのがシャーレの責務だし、それを達成するために死に物狂いであたるだけだ。
ミズキは立ち上がると、部室の電気を消し、部屋を後にした。