シャーレのエージェント   作:すのー

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Log.34 ホシノ救出作戦 - 1

「先生、そろそろ砂漠地帯へ入るから、この車両だとこれ以上進むのは無理かも」

 

 片耳に装着しているインカムでミズキが報告する。

 インカム越しに、先生が対策委員会のメンバーへ今回の作戦を説明しているのを聞きながら、ミズキは周囲を警戒しつつ車両を走らせる。

 

――流石に市街地には展開してきてない……か。基地で迎撃するつもりなら、こちらにとってもありがたいけど……。

 

 対策委員会の出鼻を挫くために、1部隊でも送り込んでくるかと思われたが、向こうにはその気がないようだ。

 逆に固まってくれるなら、それはそれで基地周辺まで不要な戦闘を減らせるため、こちらにとっても好都合だ。

 そんな事を考えながら、昨日のカイザーPMC襲撃の跡が残る市街地を通り抜け、砂漠地帯が見えてきたところで、ミズキは緩やかにブレーキを掛ける。

 そして、砂漠地帯との境界付近の路肩に停車させると、運転席から降りてくる。

 それに続く形で、シロコたちと先生も後方から降りてくる。

 

「さて、ここまでは戦闘もなく順調だったけど……」

「はい、相手は基地本部で総力を上げて迎え撃つつもりかと思います」

 

 タブレットを操作して周囲のモニター結果を伝えるアヤネに対し、セリカがこぼす。

 

「あの理事なら、砂漠へ到着される前に叩き潰して来るかと思ったけど……ああ見えて案外冷静ね」

「まぁ、仕方ないと思う。昨日あれだけ爆弾でやられていたし」

 

 昨日の戦闘では、便利屋68が仕掛けた爆弾にカイザーPMCは相当手こずらされていた。

 便利屋68が引き続き対策委員会と手を組んでいる、という可能性を考えた時に、あえてアウェイで戦い意味はない。

 昨日の様子なら、セリカの言う通り総力を上げて攻め込んできそうではあったが、流石に一夜経て激昂具合は落ち着いたのだろう。

 

「なら好都合じゃない。向こうが展開してくる前に、一気に目標座標まで言っちゃいましょ!」

「はいっ! ……でも、やっぱりこのポイントが、気になりますね……」

 

 そうノノミが指差したのは、今回の進行ルートの中で1番開けたエリアだ。

 開けた、と言っても砂漠の中では高低差の激しいエリアで、防衛側にとっては絶好の待ち伏せポイントとなる。

 ここに大軍をもって迎撃されれば、突破するのにかなり消耗をさせられるだろう。

 加えて、高低差が比較的少ないところは、カイザーPMCの別部隊が展開しているようで、下手をすればこの部隊も合流してくるリスクをはらんでいる。

 一応、別部隊に対しては風紀委員会が受け持つように調整しているものの、上手くいくかは微妙なところだ。

 

「後はみんなの頑張り次第だけど……、大丈夫、うまくいく」

 

 先生の言葉に、対策委員会のメンバーはほぼ同時に頷く。

 その様子に先生はニコリとすると、ミズキの方へ目線を向ける。

 

「ミズキ、ここからは君の仕事だ。彼女たちを導く、それが……」

「シャーレの……エージェントの仕事……ですよね。了解です」

 

 そう返答し、ミズキは対策委員会のメンバーを1人1人見つめる。

 各々装備を構え、いつでも出撃できる状態だ。

 準備に関する憂いはなく、後は彼女たちをホシノのところへ送り届けるだけだ。

 

「よしっ、行こうっ!」

 

 ミズキ号令の下、対策委員会はアビドス砂漠へと足を踏み入れた。

 

---

 

「みなさん、大丈夫ですか?」

 

 行軍の最中、アヤネから通信が入る。

 

「ん」

「全っ然大丈夫!」

 

 シロコ、セリカの応答の様子を聞く限り、アヤネ側もひとまず安心できるだろう。

 実際、ここまで数度戦闘はあったものの、いずれも斥候部隊との戦闘で、懸念された中規模や大規模部隊との戦闘は避けられている。

 これも彼女や先生のサポートのおかげだ。

 

「目標地点まではもう少しだけど……っ!」

 

 先生の様子が突如変わり、ミズキはとっさに周囲を警戒する。

 進行方向、目標地点の前方から、こちらへ向かってくる大規模部隊がかすかに見えた。

 

「っ敵前方2km、もうすぐ接敵します!」

 

 アヤネの言葉に、シロコたちは武器を構える。

 

「……先生、風紀委員会は?」

「別地点で交戦中。そっちには回せない」

 

 風紀委員会からの支援を受けられないとなれば、あの大規模部隊はミズキたちだけで突破するしかない。

 できれば、戦力を温存したままカイザーPMC基地へ突入したかったが、そうも言っていられない。

 戦闘に向け、ミズキたちが準備を進めていると。

 

「し、支援砲撃?」

 

 不意にカイザーPMCの大部隊付近で、爆発が繰り広がる。

 よく見てみると、上空から砲撃の跡がかすかに残っていた。

 

「アヤネ、これは……」

「えっと……L118ですっ! トリニティの牽引式榴弾砲です!」

 

 トリニティが偶然こんなところへ砲撃部隊を展開しており、偶然榴弾砲を発射するはずがない。

 必ず何か理由があるはず、とミズキは考え。

 

「まさか、先生……」

「うん、彼女がやってくれた……みたいだね」

 

 昨日の夜、先生が言っていたことを思い出す。

 風紀委員会の他に協力要請をしているが、代理人次第だと。

 もし、先生の言っていた代理人が彼女なら、すべて説明がつく。

 そして、そんなミズキの予想を裏付けるように、通信が入る。

 

「あっ、ヒフ……」

「ち、違います! ファウストです!」

 

 予想通り、額に「5」と手書きされた、目の部分だけ切り抜かれたたい焼きの紙袋を被った、ファウスト(阿慈谷ヒフミ)だった。

 まぁ、ファウストと自ら名乗るのはどうかと思うが。

 

「その……このL118は皆さんご存知かもですが、トリニティの牽引式榴弾砲です。……で、ですが! トリニティ総合学園とは一切関係ありません!」

 

 なるほどと、ミズキは納得する。

 トリニティ総合学園としては支援できないが、ヒフミ個人が支援した、という形にしたのだろう。

 これなら後に言われたとしても、トリニティ総合学園はファウストと名乗るよくわからない人物が勝手にやった。として知らぬ存ぜぬとしらを切るつもりなのだろう。

 実際、ファウストがヒフミだと知っているのは、アビドスの5人とシャーレのミズキと先生しかいないのだから。

 

――でも確か、L118の管轄はティーパーティーだったと思うけど……。ヒフミはよく貸し出してもらえたね……?

 

 ティーパーティーがただの1生徒に代名詞とも言える部隊を貸し出すはずがないため、実はヒフミとティーパーティーにはつながりがあるのかもしれない。

 とは言え、今はそんなことより目の前の作戦を遂行しなければならない。

 

「す、すみません……。これぐらいしかできず……」

 

 通信越しに申し訳無さそうに頭を下げるヒフミ。

 巻き込まれたとはいえ、ブラックマーケットの1件では共闘し、挙げ句アビドスの現状を聞いてどうにかできないかと考えてくれたほどだ。

 今のアビドスの危機に対し、直接的な支援ができないのを、申し訳なく思っているのだろうか。

 

「ううん、すごく助かった」

「ありがとうございます、ファウストちゃん!」

 

 しかし、その支援砲撃の成果は目覚ましい。

 不意の砲撃により、前方のカイザーPCM部隊は混乱しているし、ミズキたちなら突破できる程度に戦力も削がれている。

 こちらとしては、十二分な支援砲撃だ。

 

「あはは……み、皆さん、が、頑張ってください!」

 

 最後にそう言うと、ヒフミからの通信が切れる。

 二次砲撃も期待したかったが、おそらく一撃離脱を条件にした貸し出しなのだろう。

 

「よし、せっかくの火力支援だし、この機会を逃すわけには行かないね」

「そうだね。火力支援の直後に突入、定石通り」

 

 火力支援で指揮系統を混乱させ、その隙に一気に叩く。

 特にこちら側の戦力が少ない以上、この戦法は有用なはずだ。

 そして、少数とはいえこちらの戦力は精鋭揃い、ここで止まるわけには行かない。

 

「一点集中で、一気に突破する! みんな、行くよ!」

 

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